無能と呼ばれる二世皇帝の妻になったら、毎日暗殺を仕掛けられて大変です【改訂版】

佐伯 鮪

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第一章

部屋

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 中へ入ってみると、かなり広々としていた。少し寒々しいくらいだ。一階部分では三部屋くらいあるのを、二階部分ではぶち抜いているような格好だ。

「夫人のお荷物は、こちらに置かせていただきますね!」

 部屋の中に小上こあがりのようなところがあり、りんは荷物をそこへ優しく置いた。

「これからここでの過ごし方をお話しますが、その前に何かありますか?」

 らんからの投げかけに、詩音はこれ幸いと食いつく。

「はい。ちょっと確認したいことがあるので、荷物の整理をしてもいいですか? 終わったら声をかけるので、それまで座って待ってて貰えますか?」

 詩音の発言に、二人は面食らったような顔を向ける。何かおかしなことを言っただろうか?と不安に思うも、二人はそれ以上何も言って来ない。不思議に思いながらも、荷物の置かれた小上がりの方へ向かった。
 荷物と言ったって、そう多くはない。さっき着替えた元々着てた服や靴、それから鞄。
 前回ここへ来た時は鞄はなかったが、今回はあの時――星を見上げた時――肩にかけてたためか、一緒に移動してきたのだった。

 詩音の目的は鞄だった。中には、化粧道具や仕事用の手帳などが入っている。詩音は手帳を取り出すと、後ろの方の空いているページに、先程喬から聞いた部屋割りと夫人たちの名前を書き付けた。

(えっと、真ん中が、レイ皇太后……左が、シン夫人ににリ貴人、カク美人……。それから、キョウさん。カンガン。後宮と本殿を繋ぐ人。お団子頭で元気そうなのがリン、お下げ髪で大人しそうなのがラン。忘れないうちに、メモしとかないとね)

 ここでも、いつもの仕事の癖が出てしまう。営業でも秘書でも、人の顔と情報を覚えるのは何よりも大事だと言っていい。忘れると相手にとって失礼となるだけでなく、結果として自分側が損をすることだってあるから、ここだけはいつも徹底していた。

 書きつけて、気付く。
 このレイ皇太后は、遥星の母親、ということで良いのだろうか。皇帝が複数の妻を持つような世界で、それを間違えたらおそらく致命傷になる。
 鞄も一緒にここに来て良かった、と心底思った。メモをすることで情報が整理され、必要なことがわかる。


「すみません、お待たせしました。鈴さん、蘭さん。説明、お願いできますか?」

 その声を合図に、鈴と蘭が詩音の傍に駆け寄ってくる。

「「はい、橘夫人!」」

 二人は元気よく返事をした。
 彼女たちの説明によると、こうだ。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・

 この部屋と、後宮の中は移動は自由。好きに歩き回って大丈夫。
 何か欲しいものがあれば、二人に言いつけて持ってきて貰う。

 同じ階は廊下で繋がっている。
 食事は基本的には部屋で取るが、時々集まって食べることもある。

 部屋の端の方には、彼女達用の寝床や荷物置き場もある。
 昼夜交代で番をするので、どちらか片方は眠っていることも多いとのこと。

 皇帝及びその兄がこちらに来ることもあるし、向こうに呼ばれることもある。
 もっとも、皇帝である遥星は今まで(実質)妻がいなかったので、来たことはないとのこと。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・


 まぁ、概ね想像からは外れていない。窮屈そうではあるけど、こんなものか。

「それと、その、『橘夫人』という呼び方、どうにかなりませんか? できれば名前、『詩音』と呼んでいただけないでしょうか?」

 二人は一旦顔を見合わせ、それから声を合わせてこう言った。

「「わかりました、詩音さま!」」

 蘭が続けて言う。

「私たちのことも、 『りん』と『らん』と呼び捨てで結構です。
 それから、敬語を使われると調子が狂うので……私たち相手には、普通の言葉でお願いします」

 どうやら、先ほど彼女たちが面食らっていたのは、詩音の言葉遣いに対してだったようだ。

「あ、はい、………うん、わかった。よろしくね、鈴、蘭」

 良い子そうな子達で、良かった。どうみても子供だが、一体いつ頃から働いているのだろうか。

「それから、レイ皇太后は、今の皇帝陛下のお母さまに当たる方なのかな? 陛下にはお兄様がいらっしゃるのよね? そのお母さまも、同じ方?」
「そうですよー!怜皇太后は、陛下の兄君である佑星さまと、遥星さまのお二人の母君です!」

――そう、それ。
 お兄さんがいるのに、何であの人が皇帝なんだろう?
 この子達に、聞いてもいいのかな?


「このあと、挨拶に回るんですよね?だとしたら、早くお支度をしましょう!日が暮れる前の方が良いと思います」

 鈴のアドバイスに、日が暮れかけていることに気づく。
 詩音は四人の夫人たちへ挨拶回りをするべく、二人に手伝って貰って衣装を整えた。
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