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第二章 シボラ商会

第二十五話 商会長

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「メイベル、お待たせー!」

「あっ! カルム!」

「それではまた」

「はい」

 メイベルは待っていた間シスターと話していたようだが、俺が合流するとすぐにシスターが離れていった。

「何か話してたの?」

「うん。国はどことか……カルムのこととか」

「僕のこと?」

「うん。ほら、審理のときの発端とか」

「ふーん……」

「どうかした?」

「ううん。何でもないよー! さぁ帰ろうっ! 今日は御馳走だからね!」

 二年前に召喚した塩だれをやっと使えるのだ。
 あれは美味さが隔絶しすぎて、とても「僕が作ったんだー!」なんて言えなかった。
 個人的に塩味に堪えかねると、夜中にコッソリ肉を焼いて塩だれで食していたのだ。

 それが今日からは堂々と使えると思うと……。
 感動で前が見えなくなりそうだ。
 まぁ元々見えないんだけどね。

「あっ! 帰る前に商人ギルドに寄ってもいい?」

「うん! いいよー!」

 辺境の各ギルドは男爵家ができたときに一つに統合されて、領内全体で一ヶ所だけとなった。
 そもそも村が一つしかないから仕方がないわけだが、領内に一つであることで監視の目が届かず、ニコライ商会と長く癒着してきた。

 しかし、ニコライ商会正常化により風向きが変わり、外部の商人という目が監視の役割をこなし、少しずつ良くなってきたと村人たちが話している。
 ギルドとしては収益が減り面白くはないだろう。
 そして当然だが、ニコライ商会正常化のきっかけである僕は各ギルドから嫌われている。

 ギルドは、冒険者・魔導師・薬師・職人・商人の五大ギルドが経済を回し、その下に漁師ギルドや農業ギルドなどの小さなギルドがある。
 小さなギルドは地方に地方にあることが多いが、人手が少ない辺境にはない。

 この村には魔導師ギルド以外の四つのギルドがあり、そのうち冒険者ギルドと商人ギルドからはすごく嫌われている。
 職人ギルドと薬師ギルドは、ガンツさんやエルードさんという大物の庇護下にあるおかげで、そこまであからさまな態度ではない。

 商人ギルドから嫌われている理由は分かるが、冒険者ギルドから嫌われている理由がさっぱり分からない。

 ゆえに、各ギルドがある東区には全くと言っていいほど近寄っていない。

「こっちは初めて来るねー!」

「ニコライ商会系列の店が多いから……まぁしょうがないよねー!」

 メイベルは物珍しげにキョロキョロと辺りを見回していた。
 店員も商売をしているからか、俺を見て驚くも、すぐさま顔を作って店員に徹する。

「ここが商人ギルドだよ」

「へぇーー! 秤の看板なんだねー!」

「分かりやすいでしょ」

 何故か全開になっている扉を潜り、入口近くの机にある申込用紙に記入する。

 記入項目は――。

 【名前】カルム
 【年齢】5歳
 【性別】男性
 【種族】
 【技能】言語 計算
 【備考】商会名:シボラ商会

 これだけだ。
 種族と技能は任意だから記入はしなくても良い。
 普通の人は記入するけど、ハーフエルフとかは差別を記入してかけない。
 でも問題が起こったときに嘘をついていたとバレたら、身を守るための行為でも心証を悪くして不利なる。
 だから、書かない者も少なくない。

 先祖返りを虐げる者もいるからね。

 技能欄はできることやアピールになる技術を書くのだが、俺が基礎教育の結晶以外を持っていたら異常だから記入しない。
 基礎教育も始まっていないのに結晶化しているのは、貴族ということを理由にすればまだ誤魔化せる。

 それにこの後、読み書きと計算の試験があるのだが、結晶化していれば免除だ。記入するしかない。

「登録をお願いします。あと結晶化証明を持ってきたので、確認をお願いします」

 商人ギルドに行くことを決めたから、教会に戻って神父様に言語と計算の結晶化証明を発行してもらった。値段は大銀貨一枚――一万スピラだ。

「……畏まりました」

 子どもが登録に来ることなど滅多にないから注目を集めているが、ニコライ商会の敵と認識したのか、一部の恨みがある者以外は視線を逸らしていた。

「なんで証明書が必要なの?」

「本当はこの後に試験があるんだけど、結晶化証明に記載されていることは神々が承認したことだから、人が採点する試験よりも信用度が高いんだ。少し高いけど、あれがあれば試験を受けなくてもいいんだよ」

「そうなんだー!」

 人が採点するってことは、忖度される可能性が少なからずあるってことだからね。
 不正のオンパレードだ。

「こちら確認しましたので、ご返却します」

 すり替えられていないか確認しておく。

「……はい、確かに」

「では、入会金・年会費・税金を払っていただきます。税金は売り上げによって計算しますので、後払いでも結構です。しかし最低支払額がありますので、御注意ください」

 結構というか……そうするしかなくね?
 売り上げ見込みを知りたいのか?
 申込用紙に何も書かなかったから商品を知りたいのかも……?

 たしか、各ギルドの登録費は一律銀貨五枚。
 ギルド証の有効期限がなくなる年会費が、最低大銀貨一枚。税金は最低で大銀貨二枚。
 この金額が不変なのは冒険者だけで、商売をする商人・職人・薬師はランクが上がるごとに年会費と税金が増える。
 もちろん、払えなければクビだ。

 何もしなくても年間三万はかかり、毎年払い続けるわけだ。

 ちなみに、魔導師ギルドは貴族が多いから、お金がどうとかという細かいところは気にしていない者の集まりだ。
 寄付金とかポンと出すから、ギルドも税金がいくらでとかは言わないらしい。

「うーん……」

「お止めになりますか?」

「ううん。毎年払うのが面倒だし、いくらか預ける予定だったから口座を作ろうかなって考えてたんだ。ほら、ニコライ商会も支払いが楽になるでしょ? とりあえず、今回の支払いは三万五千スピラでしょ? それとは別で金貨を十枚預けとくね」

「……はい。畏まりました」

 ずっと睨んでいたヤツが、悩んでいる俺を見てドヤっていたんだよね。
 でもニコライ商会の名前を出したら、また睨み始めた。

 待ってる間に冊子を読んでいて欲しいと言われ、中をペラペラとめくる。
 いつもの速読をすると面倒な言いがかりを付けられそうだったから、メイベルと一緒にゆっくり読んだ。

 内容は国の法律に従うこと、違法行為はしないこと、違法取引はしないことだけだった。
 あとは自由に商売して利益を上げてくれみたいなことが書かれていただけ。

「結構普通だね。もっと難しいのかと思った」

「他にも子どもの見習い商人がいるからね。そういえば、メイベルも今度登録しないとね」

「そういえばそうだったね。商会に入れてくれるの?」

「もちろんだよー! 副商会長だねー!」

「楽しみ!」

 受付のカウンターで楽しく話していたのだが、面白く思わない者がほとんどだったらしく、殺気がバンバン送られてきた。

「お待たせしました。こちらに血を一滴ください」

「はい」

 ――ヤバいっ! 非常事態発生っ!

『グリムっ! 物理無効の俺がどうやって血を出すの!?』

『――どう……どうやって?』

『俺が聞いてるんだけど!?』

『針を刺してみてはー?』

『さっきからやってるっ! ――そうだっ! グリムは天禀じゃん! 神力を持ってるかもしれないじゃん! 俺の指を攻撃してみてっ!』

『ほ、本気でやってみますー!』

『痛……くない……けど、血が出たっ!』

『治る前に早くー!』

 超回復で治る前に、専用の魔導具にグリグリと擦りつける。

「結構ですよ」

『助かったーーー! ありがとう!』

『いやー! 焦りましたーー!』

 内心でホッとしていると、受付嬢がギルド証を持ってきた。

「こちらが専用のギルド証になっています。世界各地の商人ギルドで取引ができます。引き出すときや預け入れのときなど、取引の際に提示してください。本人しか使用できませんが、紛失の際は早めにご報告ください。大銀貨五枚で再発行いたします」

 と言って渡されたのは、印鑑みたいな円柱状のギルド証だ。
 上部に開いた穴に紐を通して首から提げるのが一般的らしい。紋晶貨を模していることと、本当に印鑑みたいな機能を持っていることも冊子に書いてあった。
 そのための血液を使った魔力登録を行ったわけだ。

「お世話になりました」

 一礼をして家路につく。

 ◇

「母上、ただいま戻りましたー!」

「母上様、戻りましたー!」

 東区から正反対の西区まで祭りの空気を味わいながら帰り、家で報告を待つママンの下へ真っ直ぐに帰った。

「あら、おかえりなさい。どうだった?」

「バッチリ天禀を獲得しましたっ! 紹介します! 召喚獣のグリムくんです!」

『何故グリムくんなのですー?』

『猫をかぶっているから』

 メイベルは狩りの時にいつも見ていたから、軽く驚いているだけだ。

「まぁ可愛いフクロウね!」

 具体的な天禀は親子にも明かさないのが普通だ。
 教えるよう強要する親が多いけど、ママンはそういうタイプじゃないみたい。
 まぁ召喚獣って言っているから、【召喚】と思ってくれるといいな。

「わたしもいただきました。……でも、魔量は少ないみたいで……」

「そう……」

「そう……」

 真相を知っている俺はどう言ったらいいか分からず、ママンの真似をしてみた。
 だが、これがいけなかったようで疑惑の眼差しを向けられるはめに……。

「……カルム? 何か隠してない?」

「な、何故ですっ!?」

「……どうして私の真似をするの?」

「慰める言葉が分からず……」

「私の目を見なさい」

「……目が開きません」

「「…………」」

 ジトッとした視線を向けられた俺は逃げることを決めた。

「ば、晩ご飯! 楽しみにしててくださいっ!」

 ――三十六計逃げるに如かず!

「「あっ! 逃げたっ!!!」」

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