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第三章 フドゥー伯爵家

第六十八話 捕虜回収

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 補給艦の中でも最後尾にいる小型の船を選んで、荷車ごと甲板に乗り込んだ。

「到着」

「――何やつっ!?」

「我々はあなた方を討伐するために依頼された商会の者です。この船は現時点をもって、我々【シボラ商会】が占拠させていただきます」

「ふざけるなっ」

「グリム、結界」

「ホォー」

 荷車からバラムとフルカスにカーティルが降り、私兵団に押されるように神父様も降りて来たため、荷車はしばらく結界の中に封じ込めておく。
 ジェイドたちには大量の麻袋を渡し、内職を命じておく。

 簡単な工作だからすぐに終わるだろう。

「まずは補給艦から処理をしたいから、他の補給艦の幹部を連れてきて。フルカスとカーティルは捜すの得意でしょ?」

「御意」

「はっ」

 船の間をポンポンッと移動する姿を見送りつつ、攻撃してきた兵士を次から次に隣の船に転移させる。
 短距離転移は視認できさえすればいいから、【千里眼】で隣の船の甲板を見ながら転移魔法を使えばいい。

「何だっ! アイツに近づくと消されるぞっ!」

「バラムはあそこの三人を裸に剥いて、これを着せてあげて。あと首輪ね」

「我がやるのか?」

「この船の安全が確保できたら、捕獲に行っていいからさ」

「ふむ。仕方ない」

 乗り込んだ直後に鑑定した結果、補給艦第四班長と副長に副官という首脳陣だった。

「技師は?」

 貫頭衣を着せて首輪をつけた後、技師の存在について質問した。

 補給艦は帝国軍だけで構成されているが、教会の分も運んでいるらしく、全艦の技師の人数が正確に判明した。
 まずは帝国軍は戦艦に不備があると困るということで、戦艦の知識がある特別な技師を各艦一人ずつ配置しているそうだ。
 超大型魔導戦艦だけは二人らしいけど。

 対して、補給艦及び兵員輸送用の魔導船は、四隻に一人という少数の配置らしい。
 魔導船は武王国にもあるらしいから、魔導船の技師六人は引き渡しに応じてもいいかも。当然、戦艦の技師は絶対に渡さない。

『フルカス、技師も連れて来てねー』

『御意』

 補給艦は全部で八隻だから、技師は二人だけ。
 この船にはいないそうだから、フルカスたちに頼めば連れてきてくれるだろう。

 三人の捕縛が終わったから、バラムに神父様と荷車の護衛を頼み、俺は船を徘徊して一人残らず甲板に転移させた。
 甲板ではバラムが【雷声】で待機させているはずだから、あとでまとめて転移させればいい。

『超大型魔導船に違法奴隷らしき者が五人いましたが?』

『……連れてきて』

『御意』

 フルカスの報告を受けた後、甲板に戻って兵員を他の補給艦に分散させて転移させていく。
 同時に捕虜には奴隷のことを聞き、教会の超大型魔導戦艦にも五人いると聞いた。

「バラム、捕虜の他に違法奴隷もねー。いってらっしゃい」

「うむ。任せよ。神父殿、行くぞ」

「あぁ……」

 首根っこを掴まれるという雑な運搬法で運ばれる神父様と、船伝いに西側の船団に向かっていくバラムの二人を見送る俺と私兵団たち。

 俺たちは自然と神々に祈りを捧げていた。
 何故だろうか……。

「グリム、解除してー」

「ホォー」

「はい、出てきてー。内職して作った製品を使うときが来ましたよー」

 私兵団には貫頭衣を大量に作ってもらっていた。

「補給艦が片づいたら、僕も出るから役割分担をして彼らの衣服もちゃんと用意してあげるんだよ? 専属護衛として副会長やシスターも守ること。命さえあれば、僕が必ず治すから心配しなくて結構。それじゃあ、作戦開始」

「「「「「おうっ」」」」」

 次々に運ばれてくる拘束された捕虜たちに首輪をつけ、全裸にしていく私兵団たち。
 俺が最上位の御主人様だったとしても、はめた人物の命令も簡単な指示なら強制できるため、『全裸になれ』とか『貫頭衣を着ろ』とか言えば大丈夫だ。

 俺は違法奴隷らしき人物たちを離れた場所に移動させ、グリムに生活魔法で綺麗にさせる。
 復讐されたら堪らないから、この場所で解放することはしない。魔力の書き換えだけ行い、帝国軍の指揮下からの解放だけに留めた。

「次は、帝国軍の戦闘員を送るから、少し気を引き締めておいてねー。あと、この印の場所に送るから常に空けておいてねー」

 カラースライムの染料で作ったインクで、甲板に印を書く。
 スライムの素材を使用した理由は、魔力の判別がしやすいから。人の中に魔物の魔力があれば、座標のズレを修正できる。
 新鮮な素材で短時間しか使えないけどね。
 ちなみに、図柄はユミルの肉球だ。

「グァァァ」

 今まで大人しくしていたユミルが動いたからか、ようやく本物だと認識したらしい。
 ユミルは毛がべたつくから、海があまり好きではないらしい。
 ダンジョン内でのテンションと比べれば雲泥の差だ。

「お風呂でモフモフにしてあげるからね」

「グァ♪」

「じゃあ行ってくるねー」

 ◇

 とりあえず、砲撃は続けてもらいたいから、兵員輸送用の魔導船から狙っていこう。
 兵員輸送用の魔導船は全て小型に分類されるらしく、本拠地として占拠した補給艦と同型船である。兵員が補給艦より多いこと以外は違いがない。
 さらに、三人の首脳陣を捕縛するだけでよく、さきほどのように船員を転移させなくて済むから楽だ。

 まぁ少し多いけどね。
 十六隻分の首脳陣と、四人の技師を捕縛すれば放置でいい。

「――子ども?」

「こんにちは。そして、さようなら」

 船尾楼の作戦会議室のような場所に首脳陣が集まっていたため、【毒撃眼】で麻痺させ、まとめて転移させた。
 この船には技師はいなかったため、次の船に移動する。

 途中フルカスとカーティルと合流し、捕虜と技師を転移させる。

 数度繰り返すことで兵員輸送用の魔導船の処理は終了し、次はいよいよ戦艦の処理を行う。

「戦艦は一隻ずつ行こう。砲撃が止まれば不審に思われるからね。砲撃の指示を出しているヤツを隷属下において、砲撃任務を続けさせよう」

「御意」

「はっ」

 それに小分けに転移させられるしね。
 私兵団もその方が安全だろう。

「できるだけ隠れて行こう」

 俺は【隠蔽】で姿を消し、グリムは【不可視】を使用している。フルカスとカーティルはいつぞやのブランコを使って、グリムの【不可視】の効果を受けている。
 座席は一つだから、二人とも座らずに掴まっているだけだが……。

 まずは、東側に配置されている八隻の小型魔導戦艦から処理していこう。

 今まで通り三人の首脳に技師が加わるだけで、転移の人数的には変わらない。
 あとは、砲兵長に【邪眼】を使って砲撃を続けさせればいいだけ。

 四隻の中型魔導戦艦も同様の手順でよく、フルカスとカーティルもいるから簡単に終わらせられた。
 フルカスとカーティルが制圧と拘束をしている間に、姿を消して砲兵長に近づき、【邪眼】の隷属を使用して僚艦に同調して砲撃を続けさせる。

 フルカスとカーティルに合流する前に技師を拉致って行き、首脳陣と一緒に転移させればいいだけ。
 完全な流れ作業だ。

 片舷斉射を続ける中型と小型魔導戦艦の後方というか南から、魔導収束砲を打ち続ける超大型魔導戦艦と大型魔導戦艦の処理は多少面倒が増える。
 超大型魔導戦艦は副官と技師が一人ずつ増え、違法奴隷も六人いるそうだ。

 大型魔導戦艦は副官が一人増え、違法奴隷が五人と少しはマシかなと思うも、二隻いるから人数的にはあまり変わらないけど余計に面倒に思える。

『我の方は終わったぞ』

『じゃあ魔法陣の構築をよろしく』

『了解だ』

 俺たちも面倒だが、さっさと終わらせるか。
 魔導収束砲を撃っている超大型魔導戦艦と大型魔導戦艦は、多少砲撃が止まっても問題がないだろうから、【邪眼】を使わずにサクッと転移させてしまおう。

「ユミル、船が逃げようとしたら壊さないように邪魔してね」

「グァ」

「ありがとう」

 モフモフエネルギーを補充して、グリムたちブランコチームと分かれて船内に向かう。
 今までの戦艦よりも広い分捜索が大変だが、場所の目星はついているし、鑑定した後は【毒撃眼】で麻痺させて転移させるだけ。
 さらにお偉いさんの寝室に行き、奴隷の確保をする。

 姿を消したまま魔力の書き換えを行い、生活魔法で綺麗にしてから転移させる。
 一部裸の者もいたが、声を出される前に転移させたいため受け入れ側に任せることに。

 この作業を三回行い、俺たちも本拠地に戻る。
 船に戻ってすぐに麻痺させた者を【魔導眼】の解除で治し、引き渡し交渉でテーブルに載せてもいい者と引き渡さない者を分ける。

 奴隷も捕虜も全員新しい貫頭衣に着替え、引き渡さない五十五人の背中にはユミルの肉球スタンプがつけられている。
 自分で手にインクをつけて、背中を向ける奴隷と捕虜に手を押し当てていく姿に、メイベルたち女性陣はメロメロになっていた。

 ユミルの肉球スタンプをもらった幸運の持ち主たちは誰かというと、まずは当然違法奴隷たちだ。
 ほぼ違法奴隷のハンズィール子爵の奴隷を、深く考えずに受け取っていた人たちだよ? どうなるか目に見えている。
 次に帝国軍の特任魔導技師十六人は絶対に譲らないし、教会所属の特任魔導技師七人も譲るつもりはない。教会の魔導技師は残り二人だったから、一緒に引き取ってあげることにした。
 最後に、教会の超大型魔導戦艦と大型魔導戦艦の護衛として派遣された四人の聖騎士だ。

 怪物村にいる神官騎士の部隊長になってもらおうかな。
 神官騎士は百人もいて管理が面倒くさそうだし、今回大活躍したジェイドくんの仕事を楽にしてあげようと思う。

 あとは一掃作戦が片づけば、魔導戦艦二十二隻と魔導船三十二隻が手に入る。
 各種装備や残りわずかな補給物資とともに。

 なお、仕分け作業のときにした簡単な聴取によれば、今回の侵略作戦は総勢二五,二〇〇人を投じた大作戦だったらしい。
 教会からも八,二〇〇人借り受けたらしく、上陸前に拘束されるとは思いもしなかったらしい。

 ちなみに、捕虜と奴隷の総数は偶然二〇〇人だ。
 申し訳ないことだが、残りの二五,〇〇〇人は連れて行くことができない。
 再び相まみえることがあれば、そのときは仲良くできるといいな。
 伯爵領を破壊してくれた感謝の気持ちを伝えたいからね。

「終わったーー! 回頭準備、始めっ! この海域を離脱するっ」

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