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プロローグ
転移からの転生
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「えっと……どちら様ですか?」
目の前に真っ赤な髪にほんのり橙が混じった、褐色のゴツいおっさんが……。
しかも、満面の笑みを浮かべている。
「おっ! 俺か?
俺はこの世界『グレモルン』の火神をやってる、ボルガニスっていう者だ。よろしくな!」
「はい! よろしくお願いします!」
まさかこんな厳つくゴツいおっさんが神だとは思わなかった。
◇◇◇
不可思議な状況になる少し前、俺は【神聖リュミリット教国】という場所で、勇者見習いをしていた。何故見習いなのかと言うと、勇者のパシリ要因だからである。
そもそも、こんなことをしなければならない原因とは、ラノベの召喚ものによくある、勇者召喚に巻き込まれたことである。
勇者は、独善的な正義感を持った少年と、その少年を神か何かとでも思っている少女。さらに、自分の力に根拠のない自信を持っている少年の、仲良し三人組である。
そんな中、三十歳のおっさんで病人な俺は、不要な存在。
そこに、「救いをやろう」と言って、パシリに使い出したのが、この勇者達である。
仕事内容は、レベル上げで使っている、ダンジョン攻略中の荷物持ちや食料の用意などである。
そんな仕事を、生きていくため熟していたのだが、同行している阿呆の狂信者が、訳が分からんことを言いだしたのだ。
「そろそろ、仕上げをしましょう。儀式を行えば、貴方達にも主神リイヴィス様の祝福が、受けられるでしょう。方法は、簡単です。生贄を三人で殺すだけなのです。ここは、ダンジョンです。場所としては、最適でしょう。
これだけで、多くの人を救えるのですよ。さあ、どうぞ」
コイツは何を言っている?
主神リイヴィスは生命神で、本当の主神は、創造神のクレア様である。
だが、勇者達には効果抜群な言葉であった。
独善的な正義感を持った勇者は、パシリの犠牲で多くの人を救えると思えば、是非もないだろう。そして、勇者こそが神だと思っている少女は、褒めてもらいたいがために、殺すだろう。もう一人は、祝福により強さが手に入るならと、思っているに違いない。
無防備な俺に、確実に死ぬだろう攻撃をそれぞれ行ったのだ。薄れる意識の中、目にした光景はそれはもう酷いものだった。
俺以外の全員が、薄気味悪い笑みを顔に浮かべていたのである。
そして、意識が戻って来ると、目の前には不可思議な状況になっていたのだった。
◇◇◇
「ところでお前死んだけど、どうする?」
「どうするとは……天国に行くのではないのですか?」
天国があるかは知らないが、さすがの召喚ものでも異世界で死んだら終わりだろう。
「終わりじゃないと、言ったら?」
ニヤニヤ笑いながら、心を読んで話しかけてきた。
「どうなるんですか?」
もしかしたらがあるかもしれない。
惨めな思いから抜け出して、やりたいことが出来るかもしれない。そのためなら、なんでもやってやる。
「まず、この世界に異世界からの客は今回が初めてなんだが、原因はわかっている。しかし、神が直接手を出せないのが残念なところだな。そこでさっき、なんでもやると思っただろ?
もう言わなくても分かるだろうが、その原因の除去というか解放が、当面の目標だな」
なんとなく分かったが、原因を解放するっていいのか?
悪化とかしないかが気がかりだ。
「あの……もちろん是非はなく、やらせていただきたいのですが、解放とは何を?」
「解放するのは、この世界の創造神だ」
――はっ……?
なんて言った?
この人というか神様。
創造神が下界にいて捕まってる状況って何だ?
「まぁ混乱するのは分かる。捕まえた当人たちは監禁はしてない。仕事をしてもらってるだけって言ってたし。ただ、あの創造神はドジっ娘なんだよなぁ。
そのための補佐が二柱いるんだけど、今回の犯人は、その二柱なんだ。仕事に関しては、ちゃんと回ってるから大丈夫なのが幸いだったんだが、今回の召喚はやりすぎだった。
ということで、とりあえず俺らで体を創ったから今までの経験や記憶そのまま移して頑張ってくれや。あと、この世界は創造神がワクワクするような冒険をしてほしいって思って、張り切って創ったからよ、楽しんでやってくれ。
詳しいことは、下界に案内を用意したから、よろしくな。それじゃあ行って来い!」
えっ?
いきなり?
話が終わったら意識が遠退いていく。
でも、一言だけ……。
「ありがとうございました」
「……行ったな。
いきなりだったけど、うまくいったな。これで、しばらく暇つぶしが出来る。すぐ死なないように、案内もつけたし、まぁ大丈夫だろ。さて、戦神たちにも教えてやらんとなっ!」
実のところ、創造神の解放はついでで、日々変わらない日常に飽きていた。火神の管理担当部署は、食文化の発展と鍛冶技術なのだが、どれだけ経ってもどんぐりの背比べで変わり映えしない。
そこに来て、今回の異世界召喚。
創造神にバレたら、折檻が待っているのは間違いない。
だが、自分がやったわけではないし、救済したわけだから大丈夫だと信じてることにした。
そして、同じく暇をしている適当コンビの相方の戦神を巻き込んで、さらに、適当で雑なフォローに水神が、創造神を心の底から心配している魔神が、それぞれ行動をしたことが今回の全容である。
火神の暇つぶしのための転生だったのだが、この転生が多くの騒動を巻き起こすことになるとは、このとき、まだ誰も知らなかった。
だが、確実に世界は動き出したのだった。
奇しくも神々の様々な思惑に巻き込まれた元30歳の病人のおっさんの運命はいかに……。
目の前に真っ赤な髪にほんのり橙が混じった、褐色のゴツいおっさんが……。
しかも、満面の笑みを浮かべている。
「おっ! 俺か?
俺はこの世界『グレモルン』の火神をやってる、ボルガニスっていう者だ。よろしくな!」
「はい! よろしくお願いします!」
まさかこんな厳つくゴツいおっさんが神だとは思わなかった。
◇◇◇
不可思議な状況になる少し前、俺は【神聖リュミリット教国】という場所で、勇者見習いをしていた。何故見習いなのかと言うと、勇者のパシリ要因だからである。
そもそも、こんなことをしなければならない原因とは、ラノベの召喚ものによくある、勇者召喚に巻き込まれたことである。
勇者は、独善的な正義感を持った少年と、その少年を神か何かとでも思っている少女。さらに、自分の力に根拠のない自信を持っている少年の、仲良し三人組である。
そんな中、三十歳のおっさんで病人な俺は、不要な存在。
そこに、「救いをやろう」と言って、パシリに使い出したのが、この勇者達である。
仕事内容は、レベル上げで使っている、ダンジョン攻略中の荷物持ちや食料の用意などである。
そんな仕事を、生きていくため熟していたのだが、同行している阿呆の狂信者が、訳が分からんことを言いだしたのだ。
「そろそろ、仕上げをしましょう。儀式を行えば、貴方達にも主神リイヴィス様の祝福が、受けられるでしょう。方法は、簡単です。生贄を三人で殺すだけなのです。ここは、ダンジョンです。場所としては、最適でしょう。
これだけで、多くの人を救えるのですよ。さあ、どうぞ」
コイツは何を言っている?
主神リイヴィスは生命神で、本当の主神は、創造神のクレア様である。
だが、勇者達には効果抜群な言葉であった。
独善的な正義感を持った勇者は、パシリの犠牲で多くの人を救えると思えば、是非もないだろう。そして、勇者こそが神だと思っている少女は、褒めてもらいたいがために、殺すだろう。もう一人は、祝福により強さが手に入るならと、思っているに違いない。
無防備な俺に、確実に死ぬだろう攻撃をそれぞれ行ったのだ。薄れる意識の中、目にした光景はそれはもう酷いものだった。
俺以外の全員が、薄気味悪い笑みを顔に浮かべていたのである。
そして、意識が戻って来ると、目の前には不可思議な状況になっていたのだった。
◇◇◇
「ところでお前死んだけど、どうする?」
「どうするとは……天国に行くのではないのですか?」
天国があるかは知らないが、さすがの召喚ものでも異世界で死んだら終わりだろう。
「終わりじゃないと、言ったら?」
ニヤニヤ笑いながら、心を読んで話しかけてきた。
「どうなるんですか?」
もしかしたらがあるかもしれない。
惨めな思いから抜け出して、やりたいことが出来るかもしれない。そのためなら、なんでもやってやる。
「まず、この世界に異世界からの客は今回が初めてなんだが、原因はわかっている。しかし、神が直接手を出せないのが残念なところだな。そこでさっき、なんでもやると思っただろ?
もう言わなくても分かるだろうが、その原因の除去というか解放が、当面の目標だな」
なんとなく分かったが、原因を解放するっていいのか?
悪化とかしないかが気がかりだ。
「あの……もちろん是非はなく、やらせていただきたいのですが、解放とは何を?」
「解放するのは、この世界の創造神だ」
――はっ……?
なんて言った?
この人というか神様。
創造神が下界にいて捕まってる状況って何だ?
「まぁ混乱するのは分かる。捕まえた当人たちは監禁はしてない。仕事をしてもらってるだけって言ってたし。ただ、あの創造神はドジっ娘なんだよなぁ。
そのための補佐が二柱いるんだけど、今回の犯人は、その二柱なんだ。仕事に関しては、ちゃんと回ってるから大丈夫なのが幸いだったんだが、今回の召喚はやりすぎだった。
ということで、とりあえず俺らで体を創ったから今までの経験や記憶そのまま移して頑張ってくれや。あと、この世界は創造神がワクワクするような冒険をしてほしいって思って、張り切って創ったからよ、楽しんでやってくれ。
詳しいことは、下界に案内を用意したから、よろしくな。それじゃあ行って来い!」
えっ?
いきなり?
話が終わったら意識が遠退いていく。
でも、一言だけ……。
「ありがとうございました」
「……行ったな。
いきなりだったけど、うまくいったな。これで、しばらく暇つぶしが出来る。すぐ死なないように、案内もつけたし、まぁ大丈夫だろ。さて、戦神たちにも教えてやらんとなっ!」
実のところ、創造神の解放はついでで、日々変わらない日常に飽きていた。火神の管理担当部署は、食文化の発展と鍛冶技術なのだが、どれだけ経ってもどんぐりの背比べで変わり映えしない。
そこに来て、今回の異世界召喚。
創造神にバレたら、折檻が待っているのは間違いない。
だが、自分がやったわけではないし、救済したわけだから大丈夫だと信じてることにした。
そして、同じく暇をしている適当コンビの相方の戦神を巻き込んで、さらに、適当で雑なフォローに水神が、創造神を心の底から心配している魔神が、それぞれ行動をしたことが今回の全容である。
火神の暇つぶしのための転生だったのだが、この転生が多くの騒動を巻き起こすことになるとは、このとき、まだ誰も知らなかった。
だが、確実に世界は動き出したのだった。
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