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第七章 氷雪の試練と友情
第百四十七話 至福と苦痛
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長期間の休載にも関わらず待っていてくださった読者様方には心から感謝を申し上げます。
氷雪のダンジョンの話がうまくまとまらず書き直しを考えていたのですが、辺境伯領の章を作ることで大筋を変えずに済みましたので投稿を再開しました。
変更が間に合わず今年のファンタジー大賞に応募できませんでしたが、別の新作をエントリーしましたので、合わせてお読みいただければ幸いです。
『召喚勇者~』も読んでくださっている方にも迷惑をかけていますが、話のまとめ方と次章への持って行き方に躓き、現在は修正中です。もうしばらく待っていただければ幸いです。
『前話までのあらすじ』
氷雪のダンジョンを攻略中、セルに対してデブと暴言を吐く悪魔が現れる。この悪魔にモフリン教の教祖であるボムと神子のソモルンが神罰を下し、閻魔様のもとへと向かう準備をする。
以下本文です。
↓↓↓
==================
怪獣への変身は舞台前の衣装合わせほどのトラブルは起きず、あっという間に着替え終わった。着替え終わったあとは閻魔大王様を待たせているため、急いで移動しなければならないのだが、傷心のセルの背に乗っていいものかと悩む。
でもいつも通り伏せた状態で乗るのを待っていてくれているので、俺もいつも通り背中に乗って頭を撫でた。
「頼むぞ!」
「……うん」
やっぱり元気がない。いつもなら「任せて!」っと元気よく返事してくれるのに。ムードメーカーに元気がないとお通夜みたいになるんだな。
その後麒麟さんの先導で先に進む。道中では棺桶の車輪の音がガラガラとうるさかったことと、途中の坂道でソリに首を絞められたフェンリルが苦しがったことしか問題は起きず、意外にも早く再会のときがやってきた。
そして再会を知らせる合図は仁王立ちしている閻魔大王様を、先頭で真っ先に見てしまった麒麟さんの悲鳴だった。
「ラース……」
「ボム……」
お互いが自然に視線を交わして、これから起こるであろうことを思い覚悟を決めていた。ちなみに、ソモルンはボムのお腹のポケットの中に避難している。逃げ足はセルに次ぐ速さである。
「お待たせしました。セルを傷つけた重罪人を連行しました」
俺はセルから降りて地獄の閻魔大王と化してるブルーム様の前に、悪魔入りの棺桶を移動して蓋を開けた。
「うむ。ご苦労」
それだけ言うと悪魔を引きずり出して、ヘリオスととも部屋の隅に向かって行った。とにかくこれでお役御免かな? なんて思っていると、俺たちの目の前に天使が舞い降りた。
『姉ちゃん!』
そう、カルラだ。今回は前回ほど離れてはいなかったが、それでもとても寂しかった。ゆえに、俺とボムは我先にと飛び出した。しかしカルラが一番に目指したのは傷心のセルの元だ。
「……カルラ。元気だった?」
『姉ちゃんがいなくて寂しかったの。姉ちゃんをいじめたヤツから姉ちゃんを守れなかったの』
「主たちが懲らしめてくれたから大丈夫よ」
涙ぐむカルラをフワフワモチモチの頬で優しく撫でてあげる姿を見て、一応しっかりお姉さんしているんだなと感心してしまった。
「おい。さっさと先に進むぞ!」
俺が感心していると、いつの間にか戻ってきてセルを撫でていたプルーム様が移動を促してきた。でも折檻が終わるにしては早すぎな気もしないでもない。
「もういいのですか?」
「いや。折檻は延期になった」
はぁ? 珍しいこともあるものだ。プルーム様が途中で折檻をやめたことなど一度くらいしかない。確かその一度のときは水神様の介入があったときだ。……まさか。
「いいから行くぞ」
「は……はい」
セルはプルーム様に構われているため、俺は麒麟さんに乗せてもらうことにした。神獣や竜王、さらに管理神がいれば落ち着かないだろうからと思ったからだ。
「麒麟さん、プルーム様以外は基本的に上下なく平等だから畏まる必要はないよ。まぁチビッ子たちは子どもだからいろいろ優先されるけどね。一応俺もギリギリ未成年だから子どもなんだけどね」
『オモシロイジョウダンダ』
「ラース、冗談の腕が上がったのか?」
信じてくれない麒麟さんと、知っているのに冗談だと思い込む巨デブの熊さん。この熊さんは現在ニールとバロンの質問攻めにあっている。
理由は簡単。『カーディナル・ボム』がチビッ子たちの心に響いたからだ。そしてソモルンも可愛い弟たちのために力説するのだが、たまに感じるプルーム様の視線に怯えて再びポケットに潜っていた。
でも、何でカーディナルのことを知っているんだ? と思わずにはいられなかった。
『オカシイ』
ソモルンのモグラのような行動を見ていると、麒麟さんが辺りを見渡したあと首を傾げる。
「どうかした?」
『ココニボスデアル【暴嵐竜】ト【流水竜】ガイルハズ』
「それって老竜の?」
『ソウダ。コノダンジョンユイイツノダンジョンサンダ』
「えっ? つまり老竜二体以外はスカウト組ってことか?」
『ソノトオリ』
マジか……。あの蛇を外から連れてきたのかよ。しかも典型的な悪魔なんてどこにいたんだよ。
それにしても十大ダンジョンは、ボスに属性竜の老竜を使うこと多いのか? 生命のダンジョンでは元々のボスで大地竜がいて、その後天使の暴走で火炎竜と氷雪竜と神聖竜の三体が追加された。
幻想魔術の心臓と魔石を取り込むという点で助かるのはいいのだが、老竜相手の戦闘は面倒なので出来れば回避したいのだ。
「まぁいないなら得したと思って先に進もう」
『ワカッタ』
俺と麒麟さんが先頭で索敵しながら安全確保して進んでいる頃、後方ではセルを慰めるグループと宝探しを行うグループに分かれていた。どちらも楽しげなのはいいのだが、この世界のテイマーの在り方に疑問を抱かずにいられない。特に巨デブの熊さんに対して。
「プルーム様、ダンジョンコアはありますがダンマスがいません」
「知っている」
「だから折檻を延期したんですか?」
「それもある」
え? それもってことは他にも急ぐ理由があるのか?
ボスがいないのはともかく【コアの雫】をもらわずに外に出るのか……。攻略の証ももらっていないし。でも不機嫌なプルーム様に逆らっていいことは一つもないので、諦めて踏破用の転移魔法陣に乗り魔法陣を起動させる。
次の瞬間、視野に映る色は白一色。ホワイトアウトとも言える状況が目の前に広がっていたのだ。
「……それに、ここは山の上か……」
「そうだ。とりあえず山を下るが、ここもダンジョンの一部だから転移は使えないぞ」
つまりはどうにかしろということだ。
「では、こちらにお乗りください」
「おい! 俺は覚えているぞ! それは怖いヤツだろ!?」
ボムが覚えている恐怖の乗り物とは、オークのダンジョンを襲撃した者たちを乗せたボブスレー型のソリだ。それを全員が乗れるように大きくし、後部には車輪部分を改造した棺桶をセットしてある。
「これは俺の世界では大会が開かれるくらいの人気があるものだったんだぞ。映画という動く絵本もあったしな。だから怖くなどない。そして先頭をボムにやらせてあげよう。体重移動で左右に曲がるから楽しいはずだぞ!」
「嫌だ! 絶対に嫌だ! 背の順じゃないのか?」
「ボムさん、最後尾の人は走らなきゃならないから、走るのが嫌いなボムさんには無理だよ。でも先頭なら視界が悪くても、大きいボムさんを目印にしてみんなも体重移動がしやすいでしょ? それに本当の先頭はソモルンだから大丈夫!」
ボムのお腹のポケットの中に避難しているソモルンが本当の先頭なのだが、ポケットによって守られているだろうから、ガード付きのジェットコースターに乗っている気分だろうよ。
「じゃあラースが先頭で【神魔眼】を使って前方確認をして、二番目にソモルンがポケットから出て大きくなり三番目の俺と一緒に体重移動を頑張る。最後尾をグロームに担当してもらって出発するっていうのはどうだ? 完璧だろ!」
絶対そう言うだろうと思ったよ。
俺もそれが最善だと思っていたけども、あえて言わずにボムの可愛い表情を下で待っているだろうモフリストたちに見せてあげようと思ったのだ。
「麒麟さんとガルーダはどうする? 乗る?」
「乗るに決まっている」
俺の質問に答えたのは未だに不機嫌なプルーム様。セルの顔には空元気の笑顔しかないからだろう。こういう乗り物を出すと「悪魔の乗り物よ」と言ってもおかしくないのに、カルラが話し掛けても「そうね」としか言わない。
このまま出発せずにもたついてはバンジーをやらされる危険もあり、不満ではあるがボムの提案を受け入れて全員で乗り込んだ。
「はぁ……。【神魔眼】は目に負担がかかるからあんまり使いたくないんだけどな」
「大丈夫だ。体に負担がかかるよりはいいだろ?」
「そりゃそうだが……。今の状態のプルーム様の折檻は負担がかかるとかの問題じゃないんだけどな」
「じゃあ急いで下るとしよう!」
ちなみに席順は四番目に大型犬くらいになった麒麟さんが入り、その後ろにセルさんが入った。さらにその後ろに子犬くらいになった神獣コンビが、チビッ子たちを守りながらギュッと固まり、プルーム様と続く。そして忠臣ガルーダがプルーム様の背を守り、最後はグロームとなる。
ところで合流してからヘリオスとガルーダ、それにグロームは一言も言葉を発していない。理由は明白だが聞きたくなってしまうのは仕方がないことだと思う。
「なぁ、なんかあったのか?」
乗り込むときのボムからヘリオスへの質問だ。ヘリオスは目を見開いて驚いていたが、ボムさんはそういう子なのだ。
「そちら側はいいよな。あの殺気と威圧に当てられずに済んだんだから。まさか竜化して咆哮を放つとは思わなかった」
「そ……そうか」
思ったより大事になっていた事実を知り、このあとの折檻が予想つかなくなっていた。
「は……早く乗ろう!」
ボムも悟った様子で俺の後に続き、ソモルンを押し込みながら乗り込んできた。最初は無理矢理二番手にされてごねていたソモルンもヘリオスの話を聞いて、動きは鈍いながらも素直に押し込まれていた。
「モフモフ号発車しまーす。動力スタート!」
動力機関であるグロームが力いっぱい押すのだが、いかんせん重くて動かないのだ。しかも不機嫌度合がヘリオス事変並みであるプルーム様が乗っているせいで、気軽に重いという発言ができないでいる。
こういうときこそ怪力自慢のボムを最後尾に置きたかったのだが、走るのが苦手で進み出したソリに追いつくか不安が残るため消去方でグロームになったのだ。
二足歩行が少ない欠点である。
「くっ……かくなる上は……」
重さによって少しも前に進まないという窮地に、グロームはズルをする決意を固めた。それは竜化だ。竜化して飛ぶのではなくソリを押した。そして人化してソリに乗り込んだ。
いや……。飛んでくれよ。
思わず突っ込んでしまうほどお馬鹿な行動だったが、俺には文句を言っている暇はないのだ。【神魔眼】を使って真っ白な視界の中、右へ左へと体を倒さなければならないのだ。
「「「うわぁあぁぁぁぁあぁ!!!」」」
前方がはっきり見える俺たち三人だけが落下の恐怖と闘い、後方ではチビッ子と神獣コンビがソリの速度に驚き、意外にも楽しんでいた。
「ぶつかるぅぅぅぅ!!!」
探知能力が高いソモルンも岩壁が見えるようで、俺以上に驚いていた。でも俺は、とある理由からわざと岩壁ギリギリを交わしていた。
というのも、ソモルンはぶつかりそうになると俺に抱きついて来るのだ。大きくなったモフモフ倍増姿での抱きつきは至福であるため、俺はわざと抱きつくような瞬間を作ってモフモフを楽しんでいた。
ところが後半になってソリの欠点が浮き彫りになった。このソリも試作であるため、シートベルト的なものも座席もない。ということはデブが徐々に前に迫って来るのだ。
現在俺はソリとモフモフのサンドイッチ状態なのだが、ソリの部分が食い込み地味に痛い。でも背中は幸せ状態。嬉しいのか辛いのかよく分からない状況である。
「このソリのいいところはソモルンに抱きつけるところだな!」
という巨デブの熊さんの言葉が後方より聞こえてきた。つまりデブが近づいてきたことで苦しんでいる状況は、巨デブの熊さんがソモルンに抱きつきたいがために起きた現象だったのだ。
「早く……早くついてくれ……」
決して重いと言えない状況に苦しんでいると、ようやくゴールが見えてきた。しかし出発前と雰囲気が違いすぎたのだ。
まず【ボムの箱舟】が空で待機して偵察兵が出撃していたことだ。異変があればと思って出した指示通りの行動をしているということは、雰囲気の違いが気のせいではないことを証明していた。
「戦闘準備!」
思わず声をあげ警戒を促す。ボムはソモルンに小さくなってもらい、お腹のポケットの中に避難させた。その頃には下山が完了しており、ソモルンを避難させたことによってできたスペースを使って急いでソリから降りた。
これで一応はダンジョンの範囲外から出たことになるため、あらゆる制限が解除される。
「プルーム様、何があったか知っていますか?」
「うむ。スタンピードじゃ」
「えっ? ここのダンジョンは無縁だったんじゃ?」
「どこぞの阿呆共が人為的にスタンピードを起こしたらしい。そもそも氷雪のダンジョンには蛇と竜と悪魔しかいない。そこにいる麒麟を除いてな。では、どこからきた魔物だと思う?」
え? ここでクイズ? 分かるはずがなく麒麟さんを見る。
『マオウノハイカデショウカ?』
「そうじゃ」
このときプルーム様の配下? と思ったのは俺だけではないだろう。傷心のセルも不思議そうな顔をして、俺とプルーム様を交互に見つめていたからだ。
「違うと思うが、我の配下と思っているわけではあるまいな?」
「あ……当たり前じゃないですか! プルーム様は神様であり竜なのですから!」
周囲で激しく同意をする同志がいることを横目に見ながら、全力で否定する。
「えっと、結局その【魔王の配下】とはいったい?」
全員が気になっている言葉についての説明が始まるのだが、この【魔王の配下】が今後も俺たちにつきまとうことになるとは、この時点では誰も気づいていなかった。
氷雪のダンジョンの話がうまくまとまらず書き直しを考えていたのですが、辺境伯領の章を作ることで大筋を変えずに済みましたので投稿を再開しました。
変更が間に合わず今年のファンタジー大賞に応募できませんでしたが、別の新作をエントリーしましたので、合わせてお読みいただければ幸いです。
『召喚勇者~』も読んでくださっている方にも迷惑をかけていますが、話のまとめ方と次章への持って行き方に躓き、現在は修正中です。もうしばらく待っていただければ幸いです。
『前話までのあらすじ』
氷雪のダンジョンを攻略中、セルに対してデブと暴言を吐く悪魔が現れる。この悪魔にモフリン教の教祖であるボムと神子のソモルンが神罰を下し、閻魔様のもとへと向かう準備をする。
以下本文です。
↓↓↓
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怪獣への変身は舞台前の衣装合わせほどのトラブルは起きず、あっという間に着替え終わった。着替え終わったあとは閻魔大王様を待たせているため、急いで移動しなければならないのだが、傷心のセルの背に乗っていいものかと悩む。
でもいつも通り伏せた状態で乗るのを待っていてくれているので、俺もいつも通り背中に乗って頭を撫でた。
「頼むぞ!」
「……うん」
やっぱり元気がない。いつもなら「任せて!」っと元気よく返事してくれるのに。ムードメーカーに元気がないとお通夜みたいになるんだな。
その後麒麟さんの先導で先に進む。道中では棺桶の車輪の音がガラガラとうるさかったことと、途中の坂道でソリに首を絞められたフェンリルが苦しがったことしか問題は起きず、意外にも早く再会のときがやってきた。
そして再会を知らせる合図は仁王立ちしている閻魔大王様を、先頭で真っ先に見てしまった麒麟さんの悲鳴だった。
「ラース……」
「ボム……」
お互いが自然に視線を交わして、これから起こるであろうことを思い覚悟を決めていた。ちなみに、ソモルンはボムのお腹のポケットの中に避難している。逃げ足はセルに次ぐ速さである。
「お待たせしました。セルを傷つけた重罪人を連行しました」
俺はセルから降りて地獄の閻魔大王と化してるブルーム様の前に、悪魔入りの棺桶を移動して蓋を開けた。
「うむ。ご苦労」
それだけ言うと悪魔を引きずり出して、ヘリオスととも部屋の隅に向かって行った。とにかくこれでお役御免かな? なんて思っていると、俺たちの目の前に天使が舞い降りた。
『姉ちゃん!』
そう、カルラだ。今回は前回ほど離れてはいなかったが、それでもとても寂しかった。ゆえに、俺とボムは我先にと飛び出した。しかしカルラが一番に目指したのは傷心のセルの元だ。
「……カルラ。元気だった?」
『姉ちゃんがいなくて寂しかったの。姉ちゃんをいじめたヤツから姉ちゃんを守れなかったの』
「主たちが懲らしめてくれたから大丈夫よ」
涙ぐむカルラをフワフワモチモチの頬で優しく撫でてあげる姿を見て、一応しっかりお姉さんしているんだなと感心してしまった。
「おい。さっさと先に進むぞ!」
俺が感心していると、いつの間にか戻ってきてセルを撫でていたプルーム様が移動を促してきた。でも折檻が終わるにしては早すぎな気もしないでもない。
「もういいのですか?」
「いや。折檻は延期になった」
はぁ? 珍しいこともあるものだ。プルーム様が途中で折檻をやめたことなど一度くらいしかない。確かその一度のときは水神様の介入があったときだ。……まさか。
「いいから行くぞ」
「は……はい」
セルはプルーム様に構われているため、俺は麒麟さんに乗せてもらうことにした。神獣や竜王、さらに管理神がいれば落ち着かないだろうからと思ったからだ。
「麒麟さん、プルーム様以外は基本的に上下なく平等だから畏まる必要はないよ。まぁチビッ子たちは子どもだからいろいろ優先されるけどね。一応俺もギリギリ未成年だから子どもなんだけどね」
『オモシロイジョウダンダ』
「ラース、冗談の腕が上がったのか?」
信じてくれない麒麟さんと、知っているのに冗談だと思い込む巨デブの熊さん。この熊さんは現在ニールとバロンの質問攻めにあっている。
理由は簡単。『カーディナル・ボム』がチビッ子たちの心に響いたからだ。そしてソモルンも可愛い弟たちのために力説するのだが、たまに感じるプルーム様の視線に怯えて再びポケットに潜っていた。
でも、何でカーディナルのことを知っているんだ? と思わずにはいられなかった。
『オカシイ』
ソモルンのモグラのような行動を見ていると、麒麟さんが辺りを見渡したあと首を傾げる。
「どうかした?」
『ココニボスデアル【暴嵐竜】ト【流水竜】ガイルハズ』
「それって老竜の?」
『ソウダ。コノダンジョンユイイツノダンジョンサンダ』
「えっ? つまり老竜二体以外はスカウト組ってことか?」
『ソノトオリ』
マジか……。あの蛇を外から連れてきたのかよ。しかも典型的な悪魔なんてどこにいたんだよ。
それにしても十大ダンジョンは、ボスに属性竜の老竜を使うこと多いのか? 生命のダンジョンでは元々のボスで大地竜がいて、その後天使の暴走で火炎竜と氷雪竜と神聖竜の三体が追加された。
幻想魔術の心臓と魔石を取り込むという点で助かるのはいいのだが、老竜相手の戦闘は面倒なので出来れば回避したいのだ。
「まぁいないなら得したと思って先に進もう」
『ワカッタ』
俺と麒麟さんが先頭で索敵しながら安全確保して進んでいる頃、後方ではセルを慰めるグループと宝探しを行うグループに分かれていた。どちらも楽しげなのはいいのだが、この世界のテイマーの在り方に疑問を抱かずにいられない。特に巨デブの熊さんに対して。
「プルーム様、ダンジョンコアはありますがダンマスがいません」
「知っている」
「だから折檻を延期したんですか?」
「それもある」
え? それもってことは他にも急ぐ理由があるのか?
ボスがいないのはともかく【コアの雫】をもらわずに外に出るのか……。攻略の証ももらっていないし。でも不機嫌なプルーム様に逆らっていいことは一つもないので、諦めて踏破用の転移魔法陣に乗り魔法陣を起動させる。
次の瞬間、視野に映る色は白一色。ホワイトアウトとも言える状況が目の前に広がっていたのだ。
「……それに、ここは山の上か……」
「そうだ。とりあえず山を下るが、ここもダンジョンの一部だから転移は使えないぞ」
つまりはどうにかしろということだ。
「では、こちらにお乗りください」
「おい! 俺は覚えているぞ! それは怖いヤツだろ!?」
ボムが覚えている恐怖の乗り物とは、オークのダンジョンを襲撃した者たちを乗せたボブスレー型のソリだ。それを全員が乗れるように大きくし、後部には車輪部分を改造した棺桶をセットしてある。
「これは俺の世界では大会が開かれるくらいの人気があるものだったんだぞ。映画という動く絵本もあったしな。だから怖くなどない。そして先頭をボムにやらせてあげよう。体重移動で左右に曲がるから楽しいはずだぞ!」
「嫌だ! 絶対に嫌だ! 背の順じゃないのか?」
「ボムさん、最後尾の人は走らなきゃならないから、走るのが嫌いなボムさんには無理だよ。でも先頭なら視界が悪くても、大きいボムさんを目印にしてみんなも体重移動がしやすいでしょ? それに本当の先頭はソモルンだから大丈夫!」
ボムのお腹のポケットの中に避難しているソモルンが本当の先頭なのだが、ポケットによって守られているだろうから、ガード付きのジェットコースターに乗っている気分だろうよ。
「じゃあラースが先頭で【神魔眼】を使って前方確認をして、二番目にソモルンがポケットから出て大きくなり三番目の俺と一緒に体重移動を頑張る。最後尾をグロームに担当してもらって出発するっていうのはどうだ? 完璧だろ!」
絶対そう言うだろうと思ったよ。
俺もそれが最善だと思っていたけども、あえて言わずにボムの可愛い表情を下で待っているだろうモフリストたちに見せてあげようと思ったのだ。
「麒麟さんとガルーダはどうする? 乗る?」
「乗るに決まっている」
俺の質問に答えたのは未だに不機嫌なプルーム様。セルの顔には空元気の笑顔しかないからだろう。こういう乗り物を出すと「悪魔の乗り物よ」と言ってもおかしくないのに、カルラが話し掛けても「そうね」としか言わない。
このまま出発せずにもたついてはバンジーをやらされる危険もあり、不満ではあるがボムの提案を受け入れて全員で乗り込んだ。
「はぁ……。【神魔眼】は目に負担がかかるからあんまり使いたくないんだけどな」
「大丈夫だ。体に負担がかかるよりはいいだろ?」
「そりゃそうだが……。今の状態のプルーム様の折檻は負担がかかるとかの問題じゃないんだけどな」
「じゃあ急いで下るとしよう!」
ちなみに席順は四番目に大型犬くらいになった麒麟さんが入り、その後ろにセルさんが入った。さらにその後ろに子犬くらいになった神獣コンビが、チビッ子たちを守りながらギュッと固まり、プルーム様と続く。そして忠臣ガルーダがプルーム様の背を守り、最後はグロームとなる。
ところで合流してからヘリオスとガルーダ、それにグロームは一言も言葉を発していない。理由は明白だが聞きたくなってしまうのは仕方がないことだと思う。
「なぁ、なんかあったのか?」
乗り込むときのボムからヘリオスへの質問だ。ヘリオスは目を見開いて驚いていたが、ボムさんはそういう子なのだ。
「そちら側はいいよな。あの殺気と威圧に当てられずに済んだんだから。まさか竜化して咆哮を放つとは思わなかった」
「そ……そうか」
思ったより大事になっていた事実を知り、このあとの折檻が予想つかなくなっていた。
「は……早く乗ろう!」
ボムも悟った様子で俺の後に続き、ソモルンを押し込みながら乗り込んできた。最初は無理矢理二番手にされてごねていたソモルンもヘリオスの話を聞いて、動きは鈍いながらも素直に押し込まれていた。
「モフモフ号発車しまーす。動力スタート!」
動力機関であるグロームが力いっぱい押すのだが、いかんせん重くて動かないのだ。しかも不機嫌度合がヘリオス事変並みであるプルーム様が乗っているせいで、気軽に重いという発言ができないでいる。
こういうときこそ怪力自慢のボムを最後尾に置きたかったのだが、走るのが苦手で進み出したソリに追いつくか不安が残るため消去方でグロームになったのだ。
二足歩行が少ない欠点である。
「くっ……かくなる上は……」
重さによって少しも前に進まないという窮地に、グロームはズルをする決意を固めた。それは竜化だ。竜化して飛ぶのではなくソリを押した。そして人化してソリに乗り込んだ。
いや……。飛んでくれよ。
思わず突っ込んでしまうほどお馬鹿な行動だったが、俺には文句を言っている暇はないのだ。【神魔眼】を使って真っ白な視界の中、右へ左へと体を倒さなければならないのだ。
「「「うわぁあぁぁぁぁあぁ!!!」」」
前方がはっきり見える俺たち三人だけが落下の恐怖と闘い、後方ではチビッ子と神獣コンビがソリの速度に驚き、意外にも楽しんでいた。
「ぶつかるぅぅぅぅ!!!」
探知能力が高いソモルンも岩壁が見えるようで、俺以上に驚いていた。でも俺は、とある理由からわざと岩壁ギリギリを交わしていた。
というのも、ソモルンはぶつかりそうになると俺に抱きついて来るのだ。大きくなったモフモフ倍増姿での抱きつきは至福であるため、俺はわざと抱きつくような瞬間を作ってモフモフを楽しんでいた。
ところが後半になってソリの欠点が浮き彫りになった。このソリも試作であるため、シートベルト的なものも座席もない。ということはデブが徐々に前に迫って来るのだ。
現在俺はソリとモフモフのサンドイッチ状態なのだが、ソリの部分が食い込み地味に痛い。でも背中は幸せ状態。嬉しいのか辛いのかよく分からない状況である。
「このソリのいいところはソモルンに抱きつけるところだな!」
という巨デブの熊さんの言葉が後方より聞こえてきた。つまりデブが近づいてきたことで苦しんでいる状況は、巨デブの熊さんがソモルンに抱きつきたいがために起きた現象だったのだ。
「早く……早くついてくれ……」
決して重いと言えない状況に苦しんでいると、ようやくゴールが見えてきた。しかし出発前と雰囲気が違いすぎたのだ。
まず【ボムの箱舟】が空で待機して偵察兵が出撃していたことだ。異変があればと思って出した指示通りの行動をしているということは、雰囲気の違いが気のせいではないことを証明していた。
「戦闘準備!」
思わず声をあげ警戒を促す。ボムはソモルンに小さくなってもらい、お腹のポケットの中に避難させた。その頃には下山が完了しており、ソモルンを避難させたことによってできたスペースを使って急いでソリから降りた。
これで一応はダンジョンの範囲外から出たことになるため、あらゆる制限が解除される。
「プルーム様、何があったか知っていますか?」
「うむ。スタンピードじゃ」
「えっ? ここのダンジョンは無縁だったんじゃ?」
「どこぞの阿呆共が人為的にスタンピードを起こしたらしい。そもそも氷雪のダンジョンには蛇と竜と悪魔しかいない。そこにいる麒麟を除いてな。では、どこからきた魔物だと思う?」
え? ここでクイズ? 分かるはずがなく麒麟さんを見る。
『マオウノハイカデショウカ?』
「そうじゃ」
このときプルーム様の配下? と思ったのは俺だけではないだろう。傷心のセルも不思議そうな顔をして、俺とプルーム様を交互に見つめていたからだ。
「違うと思うが、我の配下と思っているわけではあるまいな?」
「あ……当たり前じゃないですか! プルーム様は神様であり竜なのですから!」
周囲で激しく同意をする同志がいることを横目に見ながら、全力で否定する。
「えっと、結局その【魔王の配下】とはいったい?」
全員が気になっている言葉についての説明が始まるのだが、この【魔王の配下】が今後も俺たちにつきまとうことになるとは、この時点では誰も気づいていなかった。
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これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
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つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
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聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
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・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
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その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
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