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第七章 氷雪の試練と友情
第百五十二話 喧嘩と天誅
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「モフモフに包まれているとか……最高の時間だなぁ」
「おい、もたれかかるな!」
「たまにはいいじゃないか。君らのわがままを聞いてダイフクを救助しに行くんだから」
「おまえは自分が創ったダイフクが気にならないのか?」
ボムさんやプルーム様は勘違いしているのか、救助の前提条件を満たしていない。
俺はダイフクを助けろとは言われたが、マーガレット夫人を助けろとは言われていない。
そもそもダイフクはブーと同じく自分だけなら転移して帰って来れるわけだ。帰って来ないのはママであるマーガレット夫人が関係しているからだろう。
ということは、ダイフクを迎えに行っても、マーガレット夫人の問題を解決しなければダイフクも帰らない。
つまり、あのときの命令はダイフクの問題解決ではなく、マーガレット夫人の問題解決が正解だ。たとえ屁理屈と言われようとも、最後の最後まであがいてみせる。
「気になるけども、ダイフクには会おうと思えば会えるし」
「はぁ? 会えないから『ダイフクの問題を解決しろ』と命令が下ったんだろ?」
「――しまった! しくじったーー!」
「おや? 気づいちゃった? さすが賢いミニ怪獣だね。褒めてつかわす!」
「……ムカつく……!」
可愛いソモルンに睨まれた。意外に鋭い目つきで睨めるんだね。ちょっとプルーム様に似ていたかな。
「ソモルン、どういうことだ!?」
「ブーはバラバラになっても帰って来たって言ってたでしょ? それに学園でもフランを強制的に転移させてたじゃん」
「そういえば……」
「つまりはダイフクがいないのはダイフク自身の問題ではなく、ダイフクが大切に思っている人間の問題なんだよ! でも命令はダイフクの問題でしょ? ラースがダイフクを強制転移させれば仕事は終了。でも……根本的な解決はしないから、悲しむのはダイフクだよ」
「そのとおりなのだよ、暴君諸君!」
ようやく気づいたようだが、ソモルンが言った通りに時間をギリギリまで使ったあと、強制的に転移させて再依頼を阻止してくれる。
「はーはははは――痛ッ!」
そうだった。俺はボムさんの前に座っているから避けようがないんだった。
急いで転移して二撃目は回避できたけど、戦闘前に暴君一号からの折檻をもろに喰らってしまった。
「おまえ……!」
「覚えてろって言ったぞ。暴君たちの部下もたまには反乱を起こすってことを理解してもらえて嬉しいな」
最近の扱いの悪さと王国への不信、モフリストの竜の威を借る態度への不満がストレスとなっていた。
素直に頼めばいいことも取引したり脅したりと。それなら取引らしく言われたことしかせず、払われる報酬分しかしなければいいと思うことにした。
「敵対関係にある国の貴族のことなんかどうでもいいだろう? 文句があるなら自分たちで助ければいいんじゃないか?」
「おい、喧嘩すんなよー! 向こうから牛が来るぞ。どうすんだ?」
「牛はまとめて向こうに送る。レベルアップに努めてもらうよ」
霊柩車のソリバージョンと鎖を巻き取るキャプスタンを創ってプルーム様たちの元に転移する。少し離れた場所に固定して、近くにいたボーデンに二台目だと伝言を頼んだ。
ボムさんたちの元に戻ると、ボムさんがフェンリルから降りて熊さん座りをして待っていた。
「すまん。すまんかった。お腹を使いすぎた。竜の威を借りすぎた。すまん」
「ラース……ごめんね」
ボムさんが謝っている……。
「もういいよ。ダイフクの場所は分かっているし、ダイフクのことはブーにも頼まれているから。でもモフモフサンド以外もやってもらうからな」
「いいのか?」
「いいよ」
「すまんな」
ボムさんがいつも自分の口でしょぼーんって言ってるけど、今の方が相応しい表情をしていた。
「ソモルンもいいから」
「……ごめん」
「泣くなよー」
「ラース、プルーム様が帰ってきたら話があるってよ」
「どうやって連絡取ってるか知らないけど、俺はないって言っておいて!」
盗み聞きしているのか? 盗聴魔なのか?
「何してるのー?」
「ん? セルさん? 何でここにいるの?」
「観戦よ! マンモスちゃんをいじめたヤツがどう倒されるのか見に来たのよ!」
元気になってる。何でか聞きたいけど、聞いてもいいのか?
「セルさん、テミスと何か話したの?」
「えぇ。ラニブス様の伝言を持ってきてくれたのよ」
「なんだって?」
「ほっぺたの仕組みだって。ラースに教えてもらったブレスを放つために必要なんだって。竜の喉にある器官と同じ効果を持つけど、複数の属性効果を持たせる複合魔術だから喉とほっぺたの三箇所で術式を構成するんだって。初代フェンリルも似たようなことができたから気にしなくていいって」
相変わらずセルさんのことが大好きなのな。確かにテミスに伝言を頼めばダンジョン攻略の干渉にはならないから反則ではない。
ラニブス様はテミスが近くにいなかったら別の者を用意しただろうな。
「それで何してるの? また喧嘩? プルーム様の様子もおかしかったし。もしかしてダイフクのことかしら?」
「まぁそうだけど、解決したから大丈夫だよ」
「そうなの? それならいいわ」
ムードメーカーが来てくれて助かった。それにダンジョンで行動していたメンバーが揃ったのも嬉しい。
そう思うと、セルさんのことで怒りの沸点が下がっていたのかもしれない。俺も反省すべきなんだろう。
「主、その胸につけいるのはなんです?」
「僕も気になってた」
「これか? 神様たちがくれたんだ。鎧になるらしいぞ! これを試したいから老竜がいいんだ!」
「じゃあ私のことは誰が守ってくれるの?」
「……戦わないの?」
本当に観戦しに来ただけなのか?
「病み上がりなのよ?」
確かに心の病だったけども……。
「セルは俺が守るからラースたちはさっさと終わらせてくれ。ラニブス様なら同じ事を言うと思うし」
「お願いしまーす!」
フェンリルもセルさんのこと可愛がってるからな。カルラ中毒患者でもあり、セルさん中毒患者でもある神狼さんだ。安心して任せられる。
「じゃあセルさん、途中まで乗せてって」
「途中で降りてよね!」
前線に連れて行かれることを予想するとは……成長したな。
気づかなかったら、そのまま戦わせようと思っていたのに。
「もちろんだよー!」
「ならいいのよ!」
◇
愛狼の背中を楽しむこと数十分。
ようやく敵の姿を視認できるところまできた。
「結構遠くにいたんだねぇ」
「主が巨人の方ですか?」
やっぱりそう思うよね?
「俺は老竜二体の方だ!」
「へぇー。お肉を献上するんじゃ……?」
「トドメはラースだ!」
「……なるほど」
セルさんが疑問に思うことは、すでに俺が聞いた。
「……何だ?」
「いえ! 何も! 応援してます!」
「うむ!」
大きく頷くボムさんだが、見た目は怪獣だ。
ソモルンが頷いているようにしか見えない。
「そういえば、僕は誰が守ってくれるの?」
「ソモルンは俺と一緒にいるんだぞ! なっ!」
全員同時に目を逸らし、ソモルンの救援要請を拒否する。
「じゃ、じゃあ……俺は先に行くからねー!」
「じゃあ降りて!」
「……そうだね。セルさんも気をつけてね」
「もちろんよ!」
セルさんから降りて気持ちを切り替える。
敵はマンモスを虐め、テミスを突き飛ばした一団の首魁。
「マンモスの代わりに断罪してくれよう!」
魔力を解放して属性纏を施す。
――属性纏《雷霆》――
「俺たちも行くぞっ! フェンリルっ! 突撃っ!」
チラッと横を見ると、神様にもらったというブローチが一瞬でマントつきの鎧に姿を変え、俺が作った武器――【三界】を十文字槍の【空界】に変えていた。
さらに、ボムさんお得意の大地魔術で突撃槍に変化させ、フェンリルに突撃指令を出した。
「本物の騎士みたい……。姿はソモルンだけど」
「ホントねぇ……」
「フェンリルも行くらしいけど……セルさんも一緒にどう?」
「私はゆっくり行くわ」
そんなに戦いたくないかね。
「仕方ない……。行くか」
「いってらーー!」
セルさんに見送られながら、俺とボムはマンモスの仇に向かって歩を進めた。
「「突撃っ!!!」」
◇
巨人が土下座をしている相手に斧を振り上げているのを確認し、不意打ちのチャンスだと思い、すぐさま全力で駆けた。
速度を緩めることをせず、そのままの勢いで全力の殴打を巨人のアゴに叩き込む。
見事に吹き飛んだ巨人を目で追いつつ、その場で土下座をしている者たちへ意識を向ける。
「牛さんたちは、さっきの牛さんたちとは違うの?」
二つ目の霊柩車に詰めた牛さんに似ていたため一応確認をとったのだが、雰囲気が麒麟さんみたいだから別のグループだと思われる。
「我々に敵意はない」
あれ? 否定しないってことは、同じグループなの?
「マンモスをいじめた?」
まぁ同じグループでも違うグループでも、マンモスを虐めたか虐めてないかが大事だからね。
「到着したときにはいなかった」
……一応嘘発見器を使っておこうかな。
「じゃあこの紙に魔力を通していじめていないって言ってみて」
結果は、白だった。
疑いすぎて申し訳ないから、あとで竜肉を御馳走してあげよう。彼らも巨人の被害者みたいだし。
「じゃあ危ないから脇にいて。あとで竜肉を御馳走するからさ」
コクリと頷く牛さんたちの横を通り、巨人の方向へ進む。
その際、ボムさんを確認した。
ボムさんは槍からポールアックスの【地界】に変え、老竜二体を相手に大暴れをしている。
フェンリルは既に檻に悪魔と人間を放り込み、セルと談笑中だ。
「向こうは楽しそうだな……。それに、マンモスの仇は老竜だと思うし……。なんかハズレを引いたような気がする……」
「――誰がっ! 誰がハズレだっ!」
「ん? お前」
「このっ! 不意打ち野郎がっ! ――死ねっ!」
「断るっ!」
――創造魔術《肉たたき》――
振り下ろされる斧を避け、下からすくい上げるように股間に一撃を加える。
「――があぁぁっぁぁッ!!!」
「まだまだーーっ!!!」
俺の声に反応した巨人が斧を手放し、すぐさま両手で股間をガードする。
だが、俺の狙いは股間ではない。
膝の皿だ。
片膝ずつ滅多打ちにし、両膝をつくことで三ヶ所同時防御をするように誘導する。
巨人を膝立ちにしてしまえば、最初よりは頭部を狙いやすい。
「とある大魔王陛下が言っていたっ! デカいことがイコール強さではないのだっ!」
喰らえっ! 小指インパクトっ!
「があぁぁぁぁっ! 卑怯だぞっ!」
「マンモスを虐めた貴様に言われてくはないっ!」
指叩きゲーム開始っ!
手でガードしようと足に手を伸ばす隙を突いて、股間に強打を浴びせる。股間をガードしようとすれば、足の指を順に叩いてく。
延々と強打を繰り返す内に、巨人は両足を引っ込めて亀のように丸まりながら蹲ってしまった。
――チャンス到来っ!
「天誅っ!!!」
今日一番の強打を目の前のつむじに叩き込んだのだった。
===================
久しぶりです。
放置していても待っていてくれた読者の皆さん。
本当にありがとうございます。
最初から書き直そうと思って準備していたのですが、挫折して中止しました。
この章は近い内に完結します。
あと私事ですが、今回も無謀にもファンタジー小説大賞に応募します。
『怪物転生者は早期リタイアしたい~チートあるけど、召喚獣とパシリに丸投げする~』
というものを書きました。
良かったら、お読みいただけると嬉しいです。
「おい、もたれかかるな!」
「たまにはいいじゃないか。君らのわがままを聞いてダイフクを救助しに行くんだから」
「おまえは自分が創ったダイフクが気にならないのか?」
ボムさんやプルーム様は勘違いしているのか、救助の前提条件を満たしていない。
俺はダイフクを助けろとは言われたが、マーガレット夫人を助けろとは言われていない。
そもそもダイフクはブーと同じく自分だけなら転移して帰って来れるわけだ。帰って来ないのはママであるマーガレット夫人が関係しているからだろう。
ということは、ダイフクを迎えに行っても、マーガレット夫人の問題を解決しなければダイフクも帰らない。
つまり、あのときの命令はダイフクの問題解決ではなく、マーガレット夫人の問題解決が正解だ。たとえ屁理屈と言われようとも、最後の最後まであがいてみせる。
「気になるけども、ダイフクには会おうと思えば会えるし」
「はぁ? 会えないから『ダイフクの問題を解決しろ』と命令が下ったんだろ?」
「――しまった! しくじったーー!」
「おや? 気づいちゃった? さすが賢いミニ怪獣だね。褒めてつかわす!」
「……ムカつく……!」
可愛いソモルンに睨まれた。意外に鋭い目つきで睨めるんだね。ちょっとプルーム様に似ていたかな。
「ソモルン、どういうことだ!?」
「ブーはバラバラになっても帰って来たって言ってたでしょ? それに学園でもフランを強制的に転移させてたじゃん」
「そういえば……」
「つまりはダイフクがいないのはダイフク自身の問題ではなく、ダイフクが大切に思っている人間の問題なんだよ! でも命令はダイフクの問題でしょ? ラースがダイフクを強制転移させれば仕事は終了。でも……根本的な解決はしないから、悲しむのはダイフクだよ」
「そのとおりなのだよ、暴君諸君!」
ようやく気づいたようだが、ソモルンが言った通りに時間をギリギリまで使ったあと、強制的に転移させて再依頼を阻止してくれる。
「はーはははは――痛ッ!」
そうだった。俺はボムさんの前に座っているから避けようがないんだった。
急いで転移して二撃目は回避できたけど、戦闘前に暴君一号からの折檻をもろに喰らってしまった。
「おまえ……!」
「覚えてろって言ったぞ。暴君たちの部下もたまには反乱を起こすってことを理解してもらえて嬉しいな」
最近の扱いの悪さと王国への不信、モフリストの竜の威を借る態度への不満がストレスとなっていた。
素直に頼めばいいことも取引したり脅したりと。それなら取引らしく言われたことしかせず、払われる報酬分しかしなければいいと思うことにした。
「敵対関係にある国の貴族のことなんかどうでもいいだろう? 文句があるなら自分たちで助ければいいんじゃないか?」
「おい、喧嘩すんなよー! 向こうから牛が来るぞ。どうすんだ?」
「牛はまとめて向こうに送る。レベルアップに努めてもらうよ」
霊柩車のソリバージョンと鎖を巻き取るキャプスタンを創ってプルーム様たちの元に転移する。少し離れた場所に固定して、近くにいたボーデンに二台目だと伝言を頼んだ。
ボムさんたちの元に戻ると、ボムさんがフェンリルから降りて熊さん座りをして待っていた。
「すまん。すまんかった。お腹を使いすぎた。竜の威を借りすぎた。すまん」
「ラース……ごめんね」
ボムさんが謝っている……。
「もういいよ。ダイフクの場所は分かっているし、ダイフクのことはブーにも頼まれているから。でもモフモフサンド以外もやってもらうからな」
「いいのか?」
「いいよ」
「すまんな」
ボムさんがいつも自分の口でしょぼーんって言ってるけど、今の方が相応しい表情をしていた。
「ソモルンもいいから」
「……ごめん」
「泣くなよー」
「ラース、プルーム様が帰ってきたら話があるってよ」
「どうやって連絡取ってるか知らないけど、俺はないって言っておいて!」
盗み聞きしているのか? 盗聴魔なのか?
「何してるのー?」
「ん? セルさん? 何でここにいるの?」
「観戦よ! マンモスちゃんをいじめたヤツがどう倒されるのか見に来たのよ!」
元気になってる。何でか聞きたいけど、聞いてもいいのか?
「セルさん、テミスと何か話したの?」
「えぇ。ラニブス様の伝言を持ってきてくれたのよ」
「なんだって?」
「ほっぺたの仕組みだって。ラースに教えてもらったブレスを放つために必要なんだって。竜の喉にある器官と同じ効果を持つけど、複数の属性効果を持たせる複合魔術だから喉とほっぺたの三箇所で術式を構成するんだって。初代フェンリルも似たようなことができたから気にしなくていいって」
相変わらずセルさんのことが大好きなのな。確かにテミスに伝言を頼めばダンジョン攻略の干渉にはならないから反則ではない。
ラニブス様はテミスが近くにいなかったら別の者を用意しただろうな。
「それで何してるの? また喧嘩? プルーム様の様子もおかしかったし。もしかしてダイフクのことかしら?」
「まぁそうだけど、解決したから大丈夫だよ」
「そうなの? それならいいわ」
ムードメーカーが来てくれて助かった。それにダンジョンで行動していたメンバーが揃ったのも嬉しい。
そう思うと、セルさんのことで怒りの沸点が下がっていたのかもしれない。俺も反省すべきなんだろう。
「主、その胸につけいるのはなんです?」
「僕も気になってた」
「これか? 神様たちがくれたんだ。鎧になるらしいぞ! これを試したいから老竜がいいんだ!」
「じゃあ私のことは誰が守ってくれるの?」
「……戦わないの?」
本当に観戦しに来ただけなのか?
「病み上がりなのよ?」
確かに心の病だったけども……。
「セルは俺が守るからラースたちはさっさと終わらせてくれ。ラニブス様なら同じ事を言うと思うし」
「お願いしまーす!」
フェンリルもセルさんのこと可愛がってるからな。カルラ中毒患者でもあり、セルさん中毒患者でもある神狼さんだ。安心して任せられる。
「じゃあセルさん、途中まで乗せてって」
「途中で降りてよね!」
前線に連れて行かれることを予想するとは……成長したな。
気づかなかったら、そのまま戦わせようと思っていたのに。
「もちろんだよー!」
「ならいいのよ!」
◇
愛狼の背中を楽しむこと数十分。
ようやく敵の姿を視認できるところまできた。
「結構遠くにいたんだねぇ」
「主が巨人の方ですか?」
やっぱりそう思うよね?
「俺は老竜二体の方だ!」
「へぇー。お肉を献上するんじゃ……?」
「トドメはラースだ!」
「……なるほど」
セルさんが疑問に思うことは、すでに俺が聞いた。
「……何だ?」
「いえ! 何も! 応援してます!」
「うむ!」
大きく頷くボムさんだが、見た目は怪獣だ。
ソモルンが頷いているようにしか見えない。
「そういえば、僕は誰が守ってくれるの?」
「ソモルンは俺と一緒にいるんだぞ! なっ!」
全員同時に目を逸らし、ソモルンの救援要請を拒否する。
「じゃ、じゃあ……俺は先に行くからねー!」
「じゃあ降りて!」
「……そうだね。セルさんも気をつけてね」
「もちろんよ!」
セルさんから降りて気持ちを切り替える。
敵はマンモスを虐め、テミスを突き飛ばした一団の首魁。
「マンモスの代わりに断罪してくれよう!」
魔力を解放して属性纏を施す。
――属性纏《雷霆》――
「俺たちも行くぞっ! フェンリルっ! 突撃っ!」
チラッと横を見ると、神様にもらったというブローチが一瞬でマントつきの鎧に姿を変え、俺が作った武器――【三界】を十文字槍の【空界】に変えていた。
さらに、ボムさんお得意の大地魔術で突撃槍に変化させ、フェンリルに突撃指令を出した。
「本物の騎士みたい……。姿はソモルンだけど」
「ホントねぇ……」
「フェンリルも行くらしいけど……セルさんも一緒にどう?」
「私はゆっくり行くわ」
そんなに戦いたくないかね。
「仕方ない……。行くか」
「いってらーー!」
セルさんに見送られながら、俺とボムはマンモスの仇に向かって歩を進めた。
「「突撃っ!!!」」
◇
巨人が土下座をしている相手に斧を振り上げているのを確認し、不意打ちのチャンスだと思い、すぐさま全力で駆けた。
速度を緩めることをせず、そのままの勢いで全力の殴打を巨人のアゴに叩き込む。
見事に吹き飛んだ巨人を目で追いつつ、その場で土下座をしている者たちへ意識を向ける。
「牛さんたちは、さっきの牛さんたちとは違うの?」
二つ目の霊柩車に詰めた牛さんに似ていたため一応確認をとったのだが、雰囲気が麒麟さんみたいだから別のグループだと思われる。
「我々に敵意はない」
あれ? 否定しないってことは、同じグループなの?
「マンモスをいじめた?」
まぁ同じグループでも違うグループでも、マンモスを虐めたか虐めてないかが大事だからね。
「到着したときにはいなかった」
……一応嘘発見器を使っておこうかな。
「じゃあこの紙に魔力を通していじめていないって言ってみて」
結果は、白だった。
疑いすぎて申し訳ないから、あとで竜肉を御馳走してあげよう。彼らも巨人の被害者みたいだし。
「じゃあ危ないから脇にいて。あとで竜肉を御馳走するからさ」
コクリと頷く牛さんたちの横を通り、巨人の方向へ進む。
その際、ボムさんを確認した。
ボムさんは槍からポールアックスの【地界】に変え、老竜二体を相手に大暴れをしている。
フェンリルは既に檻に悪魔と人間を放り込み、セルと談笑中だ。
「向こうは楽しそうだな……。それに、マンモスの仇は老竜だと思うし……。なんかハズレを引いたような気がする……」
「――誰がっ! 誰がハズレだっ!」
「ん? お前」
「このっ! 不意打ち野郎がっ! ――死ねっ!」
「断るっ!」
――創造魔術《肉たたき》――
振り下ろされる斧を避け、下からすくい上げるように股間に一撃を加える。
「――があぁぁっぁぁッ!!!」
「まだまだーーっ!!!」
俺の声に反応した巨人が斧を手放し、すぐさま両手で股間をガードする。
だが、俺の狙いは股間ではない。
膝の皿だ。
片膝ずつ滅多打ちにし、両膝をつくことで三ヶ所同時防御をするように誘導する。
巨人を膝立ちにしてしまえば、最初よりは頭部を狙いやすい。
「とある大魔王陛下が言っていたっ! デカいことがイコール強さではないのだっ!」
喰らえっ! 小指インパクトっ!
「があぁぁぁぁっ! 卑怯だぞっ!」
「マンモスを虐めた貴様に言われてくはないっ!」
指叩きゲーム開始っ!
手でガードしようと足に手を伸ばす隙を突いて、股間に強打を浴びせる。股間をガードしようとすれば、足の指を順に叩いてく。
延々と強打を繰り返す内に、巨人は両足を引っ込めて亀のように丸まりながら蹲ってしまった。
――チャンス到来っ!
「天誅っ!!!」
今日一番の強打を目の前のつむじに叩き込んだのだった。
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久しぶりです。
放置していても待っていてくれた読者の皆さん。
本当にありがとうございます。
最初から書き直そうと思って準備していたのですが、挫折して中止しました。
この章は近い内に完結します。
あと私事ですが、今回も無謀にもファンタジー小説大賞に応募します。
『怪物転生者は早期リタイアしたい~チートあるけど、召喚獣とパシリに丸投げする~』
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お帰りなさい❗
また楽しく読ませてもらいます✨
感想ありがとうございます。
励みになる言葉……本当に嬉しいですm(_ _)m
いつも感想ありがとうございます。
賢いミノタウロス隊長は何とか危機回避に成功。
このまま竜肉を御馳走になればオークの仲間入りですね(笑)
いつも感想ありがとうございます。
旦那の成分が多めなところが周囲にさらなる不安を振りまくことに……。
それに加えて女の子であることも関係して……。