暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一

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第七章 氷雪の試練と友情

第百五十一話 離反と災害

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 船の屋上デッキに転移した俺を迎えたのはモフリストと子熊たちだった。

「「ラース!」」

「いろいろ聞きたいことがあるかと思いますが、予想通りスタンピードが発生しました。そしてこのスタンピードを皆さんの修業に利用しようという提案がある人物から出され、参加の意思を伺いに参りました」

 嘘は言ってないよ。プルーム様からの提案って思ってくれたら、説得が不要かなって思っただけで他意はない。

「な、なるほど……。あの量の魔物を……」

「えぇ、数万を超えていますね。でも大丈夫です。檻を押すだけですから。子熊との共同作業ですよ」

「「「「「えっ?」」」」」

 あれ? 一人足りなくないか?

「シュバルツは?」

「お茶汲みじゃ」

 そうか。ここにいるのは全部王侯貴族の夫人や令嬢だけ。この場合は騎士がお茶汲みをするのか。

「まぁシュバルツはボムがやれと言えば大丈夫そうだからいいとして、ついでに魔力纏の復習をやろうと思っています。属性纏が使えないと十大ダンジョンに挑戦するのは難しいですし、確か習得に手こずっていると聞いてますし」

「集中すればできるわよ?」

 負けず嫌いなセシリアさんがむっとしながらできると言う。

「集中しないとできないの間違いです。属性纏に集中していたら戦闘が疎かになって瞬殺されますよ? 教会前の結界を破るなんて夢のまた夢です」

 プルーム様がいないから調子に乗って挑発してみたところ、女性陣の眼が猛獣のように鋭くなり妖しい光を放っていた。

「……属性纏ができるというのなら、まるでコートを羽織るような感覚で発動させられるようになってから言ってください。それで参加するんですか? 参加するなら装備を整えてきてください」

 若干嫌な予感がしないでもないけど、俺も荷物を取りに行き屋上デッキに戻る。そこには全員揃っていて、出発の準備も終わっていた。

「それでは転移します」

 転移した場所はプルーム様のすぐ近くで、目の前にはフェンリルがいて、プルーム様とカルラに撫でられていた。きっと褒美をもらっているのだろう。

「ただいま戻りました!」

「うむ、ご苦労」

『兄ちゃん……お目々大丈夫?』

 大丈夫じゃないって言ってカルラに癒してもらいたいけど、言った瞬間折檻が確定するから言えない。

「大丈夫だよ。ただの疲れ目だからね!」

 カルラを一撫でできたことだけを喜ぼう。

「では檻付きソリを作ってしまいますからね」

 ――創造魔術《霊柩車》――

 ――創造魔術《巨大魔道具》――

 ボーデンが竜化しても大丈夫な大きさの巨大キャプスタンを地面がある場所に固定して、ソリバージョンの霊柩車の上部に鎖で固定した。

 巨大な檻の中に数万の魔物が隙間なくひしめきあっている。精神異常耐性も育成してあげようという善意から、檻を力一杯押すところまで近づくと、薄ら魔物が見えるくらいの透明度にしてあげた。

 遠目には真っ黒にしか見えないから大丈夫だろう。

「ラース、これを押すのか? いくら隙間なくギュッと固めてはいるけど、これを押せる人間はいないだろ」

 という指摘がフェンリルから寄せられる。俺も同じ事を思わないでもないよ。でも修業をしたいと言ったのはモフリストだし。

「ラース」

「はいぃぃ!」

 殺気を込めないでくれ……。

「どうするのだ? 我でも無理かもしれんぞ」

「「「「「えっ?」」」」」

「……ん?」

 何で俺だけ? フェンリルと怪獣兄弟にセルさんまで疑問を感じたのに、何故俺だけ威圧を喰らわねばならんのだ。

「邪魔な雪をどけ、緩やかな坂にしておきますので頑張ってください!」

 俺は逃げるように怪獣兄弟とフェンリルを連れてマンモスの仇討ちに向かう。

「それで、何で俺まで……」

「セルさんの代わりっていう理由と、セルさんの悪口を言った悪魔の仲間の捕縛をしてきて。ダンマスと悪魔が二人いると思うからさ。子機の中に檻を入れておくから、プルーム様のところに持っていけば褒めてくれるって」

「そういえばマンモスもいじめられてたな。よし、わかった! 任せろ!」

「頼んだ。ボムさんは四天王一体でいい?」

「はっ? 嫌に決まってるだろ。俺も老竜がいいぞ!」

「えぇーー! 竜肉を献上しなきゃいけないから、できるだけ傷をつけないように仕留めなきゃいけないんだぞ?」

 ボムさんは斬撃と打撃が主体だから、とても綺麗に仕留められるとは思えない。

「簡単だぞ! 俺がボコボコにする。お前がトドメを刺す。完璧だ!」

「じゃあ最初から俺が行けばいいだろ? 二度手間になるだろ!」

「四天王は弱そうだから嫌だ。魔王なら喜んで俺が参戦していた」

「ボムさんと相性が良さそうな相手だと思うんだけどな」

 あの数万の魔物の大群から予想すると、四天王はほぼ確実に大型の人型魔物だ。巨デブの熊さんであるボムさんなら瞬殺だろう。

「お前が言おうとしていることは、フルサイズになって瞬殺すればいいってことだろ?」

「あれ? バレてる?」

「当たり前だろ! ソモルンが教えてくれたからな!」

「えっへん!」

 さっきまで絶望の表情で項垂れていたのに、今は胸を張ってドヤ顔を浮かべている。

「ソモルン、俺の企みを言わないでよ……」

「強制的に連行されたからね!」

「連行したのはボムさんだよ!」

「とにかく俺は老竜の元に行くんだ! お前が四天王を瞬殺して俺の方に来てくれればいいだけだろ? 貴重な血液もできるだけ流さないようにするからさ。早く来いよ! じゃあフェンリル乗っけてってくれ!」

「おい! 同じところにいるんだから俺も乗せてってくれよ! 愛狼がいないんだからさ!」

 結局、怪獣の尻尾が邪魔でボムさんの後ろに乗れず、もめにもめてボムさんの前に乗ることができた。フワフワモフモフのお腹に包まれて少しの間幸せを味わうのだった。


 ◇◇◇


 ところ変わって、四天王を含む魔王軍側では問題が起こっていた。

「おい! 貴様ら……どういうつもりだ?」

「相変わらずの阿呆具合にため息しか出ないな。脳ミソがスカスカなのか小さすぎなのか分からないが、少しは話を理解してもらわないと説明する気が起きない」

「……なんで貴様らは進軍せずに留まっている?」

「お前が魔王様じゃないからだ。理解できたか?」

 赤黒い肌を持つ巨人が自身の武器である斧に手を伸ばし、鋭い眼光をミノタウロスに向けた。

「ほらみろ。すぐに頭に血がのぼって冷静な判断ができなくなる。それで封印されたのを忘れたのか? 私はお前の軍団に編成されたが、お前の指示に従う気はない。実力主義の魔王軍に所属しているのに、何故自分よりも弱いお前に従わなければならない」

「……俺が貴様より弱い……だと?」

「そうだ。ゴマすり木偶の坊」

 直後、ゴォッと音を立て振り下ろされた斧をミノタウロスは軽々と避け、部下にももっと下がるように指示を出した。

「今すぐ俺の下につくという者がいるならその者は許してやろう。反対にこの臆病者につくというのなら、反逆者として俺の斧の錆落としに使ってやるぞ!」

「隊長~、団長の言うとおりですよ~。早く進軍しましょうよ~」

「行きたい者は行け。止めはしない。戻ってきても受け入れない。私から言えるのはそれだけだ」

 果たして残ったのは百体の部下だけで、ミノタウロス部隊に所属する九百体は進軍するために隊長の下を去って行く。そして二度と生きて対面することはないのだった。

「貴様……くっくっく、人望なさすぎだろう」

「お前もな。木偶の坊」

「……殺す」

「まぁ待て。おかしいと思わないか?」

「あぁ?」

「進軍の音も振動もないことについて何も思わないのか? と私は聞いている」

 数万を超える魔物が移動すれば振動も音も絶望を連想をさせても不思議ではないほどに響くはず。それが進軍を始めて間もないのに一切しなくなっているのだ。しかもそこそこ大きいミノタウロス部隊の離反者の足音もなくなり、魔力も突然感知範囲内から消えた。

 ミノタウロス部隊の隊長は、この異常事態を看過せずに状況を判断しようと思い残っているのだ。できるだけ多くの部下を守り、自身も無駄死にしないようにと。

「はっ! 大方海に入ったのだろうさ!」

「はぁ~。だから阿呆だというのだ。私の部隊の離反者の音が聞こえないのは何故だ? 耳が聞こえないのか? それならすまん。私が悪かった」

「き……きさ……貴様……」

「怒るなよ。誤解が生んだ不幸な事故だ。封印のせいで聴覚を失ったのだろ? 気づかずにいてすまんな。でも振動は分かるだろ? ……何? 分からないって? 触覚まで失ったのか……。不憫なことだ。だから斧の威力も弱かったのだな」

 言葉の端々に相手を嫌う態度が滲み出ている言葉の嵐に、ついに巨人がキレた。

「――死ね!」

「ふん! 鈍いわ!」

 そこそこ大きいミノタウロスと比べるとさらに大きい巨人は、自慢の斧を縦横無尽に振り回してミノタウロスを攻撃する。
 ミノタウロスは回避に専念することで余裕でかわし、部下に指示を出すこともできていた。

 この状況に困っているのは同じ場所にいるダンマスと悪魔二体に、封印を解いた人間たちである。
 ダンマス含む悪魔三体は諜報を担う悪魔部隊で、ずっと封印を解除することを願い行動してきた。一緒にいる人間たちは、魔王を崇拝し世界を魔王様に献上しようと目論む者たちだ。

 どちらも戦闘力が高いわけではなく、ミノタウロスが簡単に避けている斧の余波だけでも失神しそうだった。それゆえ彼らができることは老竜を盾にして隠れるだけ。嵐が過ぎ去るのをただただ待ち続けているのだ。

 早く止んでくれと切に願う思いが天に通じたのか、突如嵐のごとく巻き起こっていた巨人の攻撃が止んだ。

 ――が、巨人の攻撃をも止める災害が襲来したのだとその場にいた全員が直感した。

「ミノタウロス部隊に命じる! 端に行き跪き、決して目線を上げるな! 武器に手を触れることも禁じる! 両手のひらを上に向け、戦意がないことを示せ!」

 一番早く動いたのはミノタウロス部隊の隊長。即座に部下に指示を出し、敵対行動を取らないように対処した。

 まだ姿が点のようにしか見えない状態での指示に部下の数体は困惑するが、隊長の側近たちのサポートもあって、姿がはっきりする頃には指示通りの状態に並び終えていた。

「……何してんだ……? 貴様ら……? 魔王様以外の指示に従わないんじゃなかったのか?」

「お前は不感症か? それとも寒すぎて感じなくなったのか? それなら服を着ろ、半裸マン」

「余程死にたいらしいな……。アイツらの前に先にお前を殺してやる!」

「た……隊長……!」

「姿勢を崩すな!」

「死ね」

 巨人が殺気を出した直後、巨人が吹っ飛んだ。

 巨人が立っていた場所には、まだ成人してすらいない少年が一人佇んでいた。巨人が吹っ飛んだ後に少年が立っていれば、少年が何かしたのは明白だ。ミノタウロスよりも遥かに小さい子どもが、ミノタウロスが子どもに見えるほど巨大な巨人を吹っ飛ばした異常な状況に、畏怖を抱かないはずなかった。

「牛さんたちは、さっきの牛さんたちとは違うの?」

 少年の言葉で部下の反応が消えた理由が判明し、決して言葉を間違えてはならないと判断した。

「我々に敵意はない」

「マンモスをいじめた?」

「到着したときにはいなかった」

「じゃあこの紙に魔力を通していじめていないって言ってみて」

 魔法陣が描かれた紙に言われた通りに魔力を通して「いじめていない」と宣言すると、ようやく納得してくれたようだった。

「じゃあ危ないから脇にいて。あとで竜肉を御馳走するからさ」

 そう言って吹っ飛んだ巨人の方向に歩き出す少年を見送り、御馳走になるだろう竜肉の元を見ると、こちらでも戦闘が始まっていた。

 老竜二体は鎧を着た不思議な生物が相手をしており、悪魔部隊と人間たちは捕まって檻の中だ。

「私たちは……いったい何を相手にしてしまったんだ……」

 ミノタウロス部隊の隊長は異常な出来事の連続に、思わず疑問の言葉を呟くのだった。


 ◇◇◇

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