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吸血鬼
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しおりを挟む「やっぱりここに居たか」
聞き慣れた声。
振り向くとまほろばが居た。
赤い長髪。
虎の刺繍、黒筋の入った銀の派手な須賀ジャン。下には、黒いタンクトップ。
そして、黒いピッタリなGパン。
目の前のイスに座る。
長い足を投げ出す様にして、目立ってる。
目立ってるね。
視線が痛い。
赤い髪が、それに続く、整った顔が、目立ってる。
鬼の“角”は、見えない“術”を使えたけれど、赤い髪だけは、どうにも出来なかった。
染めても、染まらないんだ。この髪は。
「まほろば。まだ“美麗”のバイト終わってない」
モゴモゴ、口を動かしながら彼を見遣ると、
「俺も着いて行く」
腕組みをし、目を細めて、
「失敗はしない。手伝える範囲で……する」
―――?
あ。何か、気配がする。
まほろばの目線を辿ると、そこに居たのは、小さな女の子。
女の子の、霊。
纏わりついて居るのは、彼女の母親?
そんなのも、視える様になってしまった。
視えるのは、特に可哀想な幽霊。
母親は気付かない。
でも、必死に纏わりつく女の子は、声を上げて泣き出した。
周りの誰も気付かない。
まほろばを見ると、首を振る。
『死んだのを気付いて居ない』
それは、悲しい事。
もう一度女の子に目をやると、目の前に、来て居た。
驚いた。
『お兄ちゃんには、見えるの? 私の事?』
長い髪を横二つに結んだ可愛らしい女の子。
黄色地の白い花柄のフワッとしたワンピースを着ている。
『……名前は?』
『結花』
『ゆいかちゃん?』
『ママには、見えないの。結花の事。
ママずっと泣いてたの。だから、結花ずっと近くに居たのに……』
何だろ。
冷たい感じがする。
「ライ!」
まほろばの声。
何か焦って居る様な?
『邪魔なモノが、出来たの……お兄ちゃん。手伝ってよ?』
にっこりと笑って手を出して来た結花。思わず手を取ると、全身に冷たさが広がる。
「あ……」
抜ける。
体の力が。
『ありがと』
笑った結花がボクの側から瞬時に消えて、母親の傍に居た。
にこりと、嬉しそうにほほ笑んで、次の瞬間には、笑みは、歪んだ黒い影と成る。
母親のお腹目掛けて手の平を叩き付ける様に落とす。
『アンタはイラナイ。
ママには結花が居るんだから!!!』
影と成した結花が、
ボクから取った“力”を注いだのは、
お腹の赤ん坊。
邪気を含んだ“力”の渦は、赤ん坊と、母親にまで、浸透する。
「あっ!」
母親が、くずおれる。
ここまでが、一瞬の出来事。
「痛い……赤ちゃんが!」
母親は苦痛に顔を歪ませ、膨らんだ腹を抱え脂汗を流し唸っている。
「くっ……まほろば……」
奪われたのは、少量の“鬼力”
「だから言った」
飽きれた様に眉根を寄せたまほろばが、軽くボクの肩に手を触れ、母親の元へ向う。
「大丈夫か?」
母親は、もう声さえ出せなくなっていて、青白い顔を左右に振る。
周りもざわめき、集まって来た。
『何で? 邪魔なのは、お腹の中身だけ』
か細く震える声が、身近に聞こえる。
「ゆいかちゃん。
お母さんと、赤ちゃんは繋がってるんだよ」
触れられた肩から癒されてた。
「ゆいかちゃんもそうだったんだよ」
『覚えてないもん』
涙を浮かべた幼い幽霊は、母を見て震え出す。
『ママ。死なないよね?』
視線を向けると、まほろばがお腹に手の平を当てていて、頷いた。
「大丈夫、助かるよ。今ゆいかちゃん、言ったよね? “死”んで欲しくないって……君は気付いてる?し……」
パリン
机上の水のコップが割れた。
「死んでるんだよ。ゆいかちゃんも」
自覚させなきゃならない。
『やだもん……』
首を振る。
彼女の目線まで体を落とし、
「気付いて居るんだろう? 本当は?」
流れる涙は、幻しとは思えない程キラキラ輝いて、
『ゆいか……死にたくなかった……ヒック』
肩を震わせ泣きじゃくる。その小さな体を抱き締めてやる。
『お兄ちゃんは、ゆいかに触れられるの?』
遠くからサイレンの音。
「ボクはゆいかちゃんが居た事を忘れない……ママだってそうさ」
タイミングよく、母親が呟く、
「結花……守ってやって……」
『ママっ!』
彼女はボクの腕をすり抜け、母の元へ。結花が一瞬こちらを向き、可愛くその年令を思わせる無邪気な笑顔を浮かべ、煙りの様に母のお腹の上で“消滅”した。
「ゆいかちゃん……忘れないよ」
涙に濡れた胸元の服が、彼女が確かに居た証し。
悲しいね。
死ぬのは、残される方も、残して逝く方も……
視線に気付く。
まほろばが、こちらを見ていた。
「悲しいね」
もう一度、言葉に出す。
救急隊員が店内に入って来て、母親を連れ慌ただしく出て行く。
まほろばが席に戻って来た。
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