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夢乱鬼
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しおりを挟む「地下があるのか?」
広間は一階にあった。その床が落ちたのだ。
「いけないっ! そこには地獄の入口があるのです!」
月が叫ぶ。
“地獄の入口”注意して見れば、肌がピリピリと痛む。
封印してあるのが判る。
「うわっ! 何? どうしたのこれ?」
虎之介の声にそちらを向くと、崩れた床の端に三人が立って居た
「何があった?」赤髪のまほろばが、厳しい顔つきで訊く。
「仲間の一人が悪鬼に成った」
「助けられるの?」
青髪のライが哀しい目をして訊く。
「恐らくは。母体は助けられる。問題は魂の無い獣達の方だ。死んだ者の骨の一部から甦った鬼」
詳細は二人に触れ伝える。
「簡単に行かないかもしれない。けど……」
ライが目を閉じ、眩い光と共に銀の鬼に変わる。「金と銀が揃えば、魂を呼び戻せる」
ライの言葉に頷く。
“肉体”が在るのだからそれが可能と見込んでライを呼んだ。
「来る」
まほろばが身構えると、そこに跳び上がって来たのは三兄弟。
「イヤァ! 朔を傷付けないで!」
奈留が叫ぶ。
ストレートの短い金髪をなびかせて目の前に飛び出した。朔。
長い金髪を身体に巻き付けた女性。上弦。
ウェーブ掛かった金髪の下弦。
六つの赤い眼が光る。
視線が合うと、一斉に飛び掛かって来た。
ライが瞬時に風を呼び、私達と三兄弟を取り巻く渦を作る。
まほろばは地下に飛び下りた。
出来るならば、皆が助かります様に。
ライの風が三人を囲み狭い空間を作る。
すでに破壊されていた窓が音を立てて外へ吹き飛び、獣達は強風に身動きが取れず一ヶ所に固まりこちらを威嚇する。
彼らの魂は実は近い所に在る。
手を伸ばせば届く場所。
彼女は夢を視て居た。
「華子様」呼ぶと長い髪を揺らしながらこちらに来る。
歩く度に、揺れる髪。渦近くに来た時、大きなリボンが風に舞い飛び、一本角が現れた。
「貴方方は何をされるつもりですか?」
幼い顔が青白い。
「貴女の大切な子どもを取り戻しましょう」
大きく見開いた空色の瞳が一瞬曇る。
「姿は私の子ども。でもあれは獣。
奈留の“造る能力”がここまで見事とは思いませんでした」
「“想い”はそれだけで強い力に成る事もありますから。気持ちが能力を高めたのでしょう」
それは事実。
輪廻転生もしかり、ただ想いを貫く事が奇跡に繋がる事もある。
「あの子達を取り戻せるの?」
弱々しく訊く華子に、「きっと大丈夫」と、ライが答えた。
華子の瞳が微かに光を取り戻す。
「どうすれば良いのですか?」
「夢を視て居ますね」
「……繰り返し、あの子達が死ぬ夢を視て居ます」
“夢”は捕える。
無意識に呼び寄せ、放さない。
角ある鬼は思わぬ力を持ってる事がある。
市松の父が義母の魂を体に封じた能力。表に出ていなくとも必要ならば目覚める事も。
「貴女の夢には、三人の魂を感じた。祓った時は下弦の肉体に惑わされたが、貴女は確実に孕んで居る。」
この表現があっているだろう。胎内に魂を宿して居る。まるで赤子を孕む様に。
「私が、あの子達を引き留めて居た?」
「そうです。おそらく夢で繰り返し視るのは、魂の最期の記憶だから」
華子の身体に触れる。
ゆっくりと。頭から顎、顎から肩、肩から心臓、心臓から腹部へ。
手の平に感じる燃える命の塊。
「ライ様」
「ライで良いよ」
にこやかに彼は頷く。
「確かに生命がそこで息づいて居るね」
ライが私の右手に左手を重ねる。風の波動が私に流れ、華子の身体に流れる。
「あぁ……」
華子が声を上げた。
私とライの髪が風に煽られ編み込まれる様に重なり互いの重ねた腕に巻き付く。その髪が、華子の腹部に消える。“入口”を作ったのだ。
「あぁ! ああ―――……」
華子の声が大きく響く。
彼女の躰に手が沈み込んで行く。
苦痛に眉根を寄せる華子。
まるで出産をしている様な感覚が腕から伝わって来る。
差し込んだ手が、掴む温かい生命。
「華子様。今しばらく我慢して下さい」
そう言って彼女の中でライと私の拳が掴んだ三つの魂をゆっくりと表へ引っ張り出して行く。
「あうっ……!」
華子が一度大きく身体を逸らせて小さく悲鳴を上げた。
拳は外へ、光る珠を三つ、確かに掴んで居た。
魂の珠。
風の牢獄に囚われて居る三人の唸りが一層大きくなる。
自分の欠けた部分が在るのを感じて居るのか?
とさり。と、小さな身体が私の腕の中に倒れ込んで来た。柔らかい金髪が頬をくすぐる。
「大丈夫ですか?」
「だるいですが、平気です。すみません」
謝りつつ身体を起こす華子。離れ堅く彼女の背に回した腕に力が入る。
「道彩?」
「いえ。月の所に居て下さい」
離すと、月が一人、華子を迎えに来た。
「道彩様、銀のお方、お気を付けて。」
月が会釈し、身体の力が抜けた華子を抱え足早に護りの中へ引き返す。
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