秋のソナタ

夢野とわ

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かれん2

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 秋空に大きな気持ちの良い雲がふわふわと浮いている。
少し眠気がある。僕は眠かった。
誰かが黒板の前まで行くたびに、僕は気になって高山かれんのほうを見ていた。
かれんは、細く先のけずった鉛筆で、ノートをつけている。
僕は高山かれんの、横顔をみた。

色が、やはり白い。
僕のばあちゃんから前に聞いたことがあって、色白の人や、美人すぎる人は、幸せになれないとか、そんなことを思い出した。
僕は、前に向き直って、黒板を見た。
黒板に並んだ数字を見ていると、少しずつ目がさめる。
高山かれんは、お腹がいたいのか、ずっとお腹のあたりを押さえている。
それともお腹が空いたのだろうか?
そんなことを思っていると、お昼のチャイムが鳴った。

僕は、ほっそりとしていて、細いとよく言われるが、食べる量は多いので、その日も給食を長く食べていた。
中学校に入ったときに友だちになった、田中ゆうきという野球の好きな男子がいて、ゆうきも同じく、長々と給食をのばしていた。
「ねぇ、野球のさ、野球部にはいろうよ」
ゆうきが、そう楽しそうに言うので、僕は首をふる。
「めんどうくさい。キャッチボールをしたりとか。速い球をミットで取ったりとか」
給食のうどんがのびていた。
ヨーグルトをかたずけてしまうと、うどんも残さずに食べる。
「そんなにつらくないよ。ほら、初めは立って見ているだけでもいいみたいだからさ……」
ゆうきが色々と僕を野球部に入ろうと、させるために話す。僕はとたんにイヤになる。
「オセロ部!」
僕はそう言って、給食をかたずけはじめた。

そういえばかれん。かれんのほうを見た。
かれんはもそもそとうどんをまだ食べている。
少し食べずらそうにしていて、まるでおそばをすすっているように見えた。
うっすらと、涙の玉がまぶたににじむ。
「高山さん、もうお腹いっぱい?」
女子の一人が、かれんに心配して声をかけた。
かれんは、うなずく。
「ムリして全部食べなくていいよ」
かれんは安心したように、うどんのプレートをかたずけ始めた。


それから――午後の授業があった。
かれんを何度か見るたびに、退屈しているように見えた。
顔のまぶたの下に、やはり泣いたあとのような、うっすらとした水気があって、それが夕方近くの光に、光ってみえた。
僕は、ほおずえをつく。
こんなにいつもかれんを眺めているのに、一度もまだまともに話しをしたことがないのだ。
きっとかれんは勉強ができるのだろう。
賢そうに見えるから。
「ねぇ」
急に声がした。ふりむくとかれんだった。
「あたしのこと、ずっと見ている?」
かれんのまゆにシワが寄っている。
僕はすぐにしまった、と思った。

かれんとずっと授業中に目が合う。
やはり、きれいな目だと思う。

ねぇ。あたしのこと、ずっと見ている?

見ていない、とも言えずに、僕はコクリとうなずいてしまった。
かれんは、フフンと笑い、黒板にむき直った。
チッ、チッ、チッ、チッ……。
時計の音がする。
一日が長い。ちがう、今日一日が特別に長いのだ、と僕は思う。
そのまま終業になって、足早にかれんも帰って行った。
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