秋のソナタ

夢野とわ

文字の大きさ
4 / 10

かれん3

しおりを挟む
おだやかな秋の日に、高山かれんがピアノをひいていた。
コロン、ポロン、コロン、と優しい音色がして、教室に入ったところ、かれんが音楽室でピアノをひいていた。
コロン、トロン、ポロン……。

「高山さん」
「森くん?」

かれんがピアノを弾く手を止めて、こちらを見た。
すっと伸びた手が、鍵盤の上でとまる。
「高山さん、ピアノ上手なんだ?」
「ええ……。少し、まあまあってところかな」
かれんが少し笑った。
かれんがもう一度、鍵盤の上で、指をころがす。
軽快な音が、教室中に満ちる。
「何の曲?」
「モーツァルトのソナタ」
かれんが、ソナタと強めていう。
「モーツァルト……? そんな難しいの弾くの? すごいや」
「ええ……」
かれんが、はにかんだように笑う。
ピアノの音が止まる。
僕は、少し赤くなる。
「モーツァルトって、教科書の中でしかみたことない。ソナタなんて……。高山さんすごいね」
「そう?」
かれんが、コトリと静かな音を立てて、鍵盤のふたを下ろした。
「ドビュッシーのアラベスクとか……。ショパンのノクターンとかが好きなの」
「うん」
僕はもう、すごい、と言わなかった。
何となくかれんの人となりを、かいま見た気がした。
「次の授業だよ」
「ええ」
僕らは一緒に音楽室を出た。

窓の外は、雨だった。雨がしつこく降りつづいていて、教室の中を、暗くしていた。かれんも、僕も、授業のノートを、一生懸命とった。
かれんは、思ったよりも、勉強がすぐれている、わけではなさそうだった。僕と同じくらい。それか、僕より、すこし上くらいだろうか。
かれんは、あまり友だちがいない様子だった。休み時間には、静かにノートを見返しているか、いつも静かに目をつぶっていることが、あった。
ときどき、寝ているのだろうか、と思うと、はっと目が開いて、またノートを見ることに戻るのだった。
その様子が、不思議だった。
それは、僕だけではなく、クラスメイトも同じである、と気がついたのは、もう少し後のことだった。

「高山さん」と、先生が言った。
「この数学を、黒板の前で、といてもらえますか?」
「はい」
かれんが、立ち上がって、黒板の上に、さらさらと数式を書いた。
「もう少し、数字の字を、丁寧に書けると良いですね」
先生が、そう言って、赤のチョークで、かれんの書いた数学の数式の、まちがいを訂正した。
「絶対値もおぼえて下さい」
教室の中が、しん、としていて、時が止まったようだった。
かれんは、また、ノートを書き始めていた。

ゆうきと一緒に、野球部を見学した。
キャッチボールの様子や、バットのふり方の、先生の指導を見ていた。
「こんな速い球を、打ったりするんだね。僕には無理そう」
僕がそう言うと、すぐに慣れるよ、とゆうきが言った。
「ミットって、手が痛くなったりしない?」
「森くん、ちょっと持ってみて」
ゆうきが、持ってきた、野球のミットを付けてみる。思ったよりも重たく、手に不思議な感じがあった。
「大丈夫だよ。ほらこうして球が入るんだよ」
ゆうきが、ほらこうして、と言って、野球のボールを、ミットの中に入れて見せた。
「うん」
ミットを手につけて、僕もう帰るよ、と、僕は言った。
ゆうきが、とたんに不満そうな顔をした。
「野球部入れそうにない……?」
「うん」
「そうだよね」
ゆうきが、そうだよね、とあきらめたように言った。
「やっぱりオセロが良いな。早く帰りたいし」
「そうだよね」
ゆうきが、もう一度、そうだよね、と言うと、僕は借りたミットを、ゆうきに返した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

ハッピークリスマス !  

設楽理沙
ライト文芸
中学生の頃からずっと一緒だったよね。大切に思っていた人との楽しい日々が この先もずっと続いていけぱいいのに……。 ――――――――――――――――――――――― |松村絢《まつむらあや》 ---大企業勤務 25歳 |堂本海(どうもとかい)  ---商社勤務 25歳 (留年してしまい就職は一年遅れ) 中学の同級生 |渡部佳代子《わたなべかよこ》----絢と海との共通の友達 25歳 |石橋祐二《いしばしゆうじ》---絢の会社での先輩 30歳 |大隈可南子《おおくまかなこ》----海の同期 24歳 海LOVE?     ――― 2024.12.1 再々公開 ―――― 💍 イラストはOBAKERON様 有償画像

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

処理中です...