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もう1人の先輩……?

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 次の日から、杏先輩はまた、学校に来なくなってしまった。
「陸斗先輩、杏先輩、またなんかあったんですか?」
「うーん、最近悠くんのこと、杏ちゃんの周りでも結構話題なんだよね、杏ちゃんのこと好きな子がいる~とか、それで悪口になったり本人いないとこで揶揄ったりしてるの、聞いちゃったんじゃないかな」
「なるほど……」
「とりあえずは僕がまた話してみるよ、悠くんも何か話してあげて」
「わかりました」
 その日、家に着くと同時に荷物を投げ捨てるように置き、ドタバタと階段を駆け上った。スマホを開き、杏先輩へのメッセージを開く。
『杏先輩、体調とか色々、大丈夫ですか?』
とだけ送って、返事を待った。ご飯を食べてお風呂に入り、歯も磨きながら連絡を待ったが、一切の音沙汰がなかった。せめて既読がついていないものかと開いたその瞬間、目を疑うような一文が飛び込んできた。
『あなた、誰?どうして私の名前を知ってるの?』
あまりにも理解できないその文章に、僕は数十秒近くフリーズしてしまった。
『え、僕は悠です、部活の後輩の!だから先輩の名前だってわかります!』
『分からない、あなたは誰なの?私はあなたとどうしたらいい?ごめん、ちょっとしばらくあなたと話す気になれないから、そっとしといてくれないかな』
『わかりました』
理解が追いつかないでいると、陸斗先輩からメッセージが届いた。
『悠くん、大丈夫かい?』
『あ、はい、僕は大丈夫なんですけど……杏先輩、どうしちゃったんですかね』
『実はね、杏ちゃん昔はあんな感じだったんだ。中学に入ってすぐ、一人称も口調も変わってしまったんだよ。と言うのも少し想像がついていて、彼女の家庭はかなり厳しい家庭というか、厳しいの度合いを越してる家なんだ。恐らくそのストレスに耐えかねて、もう1人の自分のような存在を作り上げて親から逃げたつもりになっていたんじゃないかな』
『そうだったんですか……その上学校でもあれじゃどうかしちゃいますね……』
『そう、そこなんだ。もう1人の自分になんとかしてもらおうと考えていたところに新たなストレッサーができてしまったことで、今度は今までの杏ちゃんが引っ込んでしまったんだと思う。このまま不安定な状態が続いてしまうと杏ちゃんにもよくないし、なんとかしないとな』
『そうですよね、僕に何かできるといいんですけど……』
『なんかあったら君にもすぐ頼るからそのつもりでよろしくね!』
『わかりました!それじゃあそろそろ寝ますね、おやすみなさい』
『うん、おやすみ』
それからは毎日懲りずに杏先輩と連絡を取り続けた。少しずつだけど杏先輩も僕を認めてくれている気がした。特にこれといった大きな問題もなく、相変わらず学校には来られないもののメッセージで連絡を取り合う関係を続けていると、ふと以前の杏先輩に戻ったときがあった。不定期で2人が入れ替わり立ち替わり日々を送っているらしい。
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