邁進のヘレディタリー

風鈴の音

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第一章 ラスト=エゴ・アルター

第一話 別人格

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☆ アルトラ・ルーシャ

 すらすらと本に目を通していく。昔の書物は読みづらい。それを読むためだけに《速視》と《翻訳》を使うと、翼の人達は「魔力の無駄遣いだ!」と言ってくる。仕方ないじゃないと私は思う。だって、ここは図書館。本しかないんだもの。司書にでも頼めばチェスや囲碁を持ってきてくれるだろうが、あいにくここにはやる人が居ない。(テレビゲームを持ってきてもらった事もあったが、敵を倒す描写が私には合わなかった。)
 「やっぱり面白い」
 本、特に歴史の本は世界を教えてくれる。世界は広いと思わせてくれる。ロック、モンテスキュー、ルソー、ナポレオン、世界を変えたとされる者は1000年ほども語り継がれてきている。とても面白い話だと思う。国民の気持ちを変えたのはそれだけ慕われる何かがあったということ。そうでなくては他人の気持ちは変えられない。たぶん。
 歴史の本を置き、軽く伸びをする。ほぅと息が漏れる。窓際を見るときれいな夕焼けが見えた。もうこんな時間か。私はもう一冊、手に取った。昔存在していた『Japan』という区域についての本だ。その区域は歴史が長かったと語られている。魔法というものが存在していなかったこの世界に、魔法をもたらした『魔法発祥の地』としても知られている。とある科学者が、遺伝子組み換えを、自分の肌に行った。はじめはコーンの葉の遺伝子を組み込んだと言われている。それによって光合成をおこなえるようになった等、様々な研究結果が出たらしい。そこから研究が派生していき……というところまで本を読み進めたところで、ウィーンと音が鳴り図書館の入り口が開いた。
 「アルトラお嬢様、やはりここにいらっしゃいましたか」
 そう言葉を発したのは護衛役、兼執事の「カルリス・M・カルト」だ。そういう名目だが、ほとんど監視役みたいなものだ。
 「なーぁに?今日も私を連れ戻しに来たの?」
 「そうでございます。翼の方々が貴女をお呼びしておりました故」
 面倒くさい。どうせいつも通り魔法の練習をさせられる。
 「嫌だと言ったら?」
 「『契約破棄』でしょう」
 はぁ…とため息をついた。だから、翼の言うことは聞かなくてはならない。行っていい場所は限られているし、何より娯楽場は図書館のみに指定されている。年頃の優性はカラオケやショッピングという昔ながらの楽しみがあるというのに。まぁ、しょうがないと思う。だって私は……『劣性』だもの。
 あの『契約』を破棄されれば最後、『劣性魔法遺伝者』のほとんどは生きることが難しくなるだろう。もちろん、『あの娘』も。
 「わかった。行くわ。すぐ向かうと伝えて頂戴」
 「分かりました」
 そう言うと、片手に《魔通》を取り出し、連絡を取りながら、こつこつと靴を鳴らしてカルリスは去っていった。
 本を棚に片付け、《転移》を使う。ちょうど今日、図書館で新しく学んだ分野の魔法だ。
 「詠唱―光ヨリ早ク 星ヘト届ケ 希望トトモニ 鳴ビ響ク 懺悔ノ中デ 永遠ヘノ 思イヲ 胸ニ……《転移》‼」
術式を眼前に展開する。一ミリのズレもないきれいな術式を。そして、魔力を消費し、テレポートを行った。
 しゅたっ!とかっこいい音を鳴らして広場に降り立った。ここが魔法訓練の場所、翼の幹部が住む豪邸の広場、ちょうど狙った場所にテレポートできたようだった。いや、ちょっとズレている……が、大体上手くいった。
 さて、と周りを見渡す。新科学と呼ばれる分野の魔法で構築された大きな建造物が、草花がきちんと整っている広場を囲んでいる。端っこの方で、優性の中で一番の優しさを持つ男性……「パッパ・スクルト」が、5~6歳程の優性少女に魔法を教えていた。
《変服》を使い、洋服からトレーニング用スポーツウェアに着替える。この魔法は一瞬で着替えられるから何より楽だし、たとえ外で《変服》をしても光が自分の周りを纏うから、裸体を見られないで済む。素晴らしき古代魔法の一つだ。
そして歩き、パッパの元へと向かった。まだ特訓まで時間があるからだ。
「パッパさん、こんにちは。今日も未来有望の優性者を教えてるんですか?」
「まあそうだね。人に教えるのは得意なんだ。あっ!せっかくだし魔法でも見せてよ!この子、オリジナル以外の魔法が苦手なんだ。」
「あらお嬢さん。そうなのね」
パッパの横で頷く少女には、初々しさがあった。とてもかわいらしい。
「まず貴女に《魔力流》の魔法をかけるわ。この魔法には、魔力の流れを視認できるようになる力が込められているの」
術式を展開し、ぱちんと指を鳴らした。
「《魔力流》‼」
心臓の近くに魔力を保持している部分がある。それを、「魔力保持縁」と呼ぶ。そこに、水色の光が見えるようになれば成功だ。
「お姉ちゃんのここら辺、今どうなってる?」
心臓の近くを指さし、その子に聞いてみた。その少女は、小さな声でこう言った。
「……水色」
「そうだね。じゃあ、今から魔法を使うから、見ててね」
眼前に術式を展開。詠唱を始めた。
「詠唱―地震雷火事なんちゃら!天まで焦がせ数多の炎!《炎火》‼」
やっぱり、現代の戦闘魔法は詠唱がなんかダサい。劣性は、一度詠唱したことのある魔法なら、次からは詠唱せずとも出せるが、優性の人はこれを毎回言わないといけないなんて、面白すぎる。
ダサいけど魔法が発動した。手のひらに炎を生み出し、それを的に放った。
「水色が移動した!」
少女は目をキラキラさせて私を見ていた。
魔力の伝達は神経細胞によって行われるため、心臓近くから骨髄へ、骨髄から神経へと魔力の流れ、つまり「水色」が線状になって移動する。それを見て、少女は興奮していた。
「つまりこんな感じで、線をぴーっと伸ばす感覚でやってみるときっとできるわ」
「ありがとお姉ちゃん!やってみる!」
「やっぱりルーシャ、君はすごいよ。今すぐ僕の代わりに教えてくれない?」
パッパがそう言った。私は苦笑しながら
「それは無理だね、こっちもこっちで色々あるから」
と、返してみた。
ふと、魔法訓練の事を思い出した。周りを見渡してみると、集合場所には翼のトップ層の面々が並んでいた。やばい、行かなきゃ。怒られる……最悪は契約破棄だ。私は「ごめん急ぐから」とだけ残して集合場所に向かった。
「《転移》‼」
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