4 / 7
第一章 ラスト=エゴ・アルター
第三話 魔混聖剣
しおりを挟む
☆アルトラ・ルーシャ
《敵》との戦闘に備えての訓練が、2日に1度行われる。詳しいことは機密事項らしく、教えてもらえない。言われるのは、「特訓するのだ。敵との戦いの為に」とだけだ。
強くなることがとにかく重要らしい。私に従う以外の選択肢は無い。そうしないと、「ミクス」につらい思いを、もしかしたら彼女を殺してしまうかもしれない。この手で殺すわけではなくとも、間接的に。
《翼》のやつらは、自分勝手で傲慢だ。こちらには何もしてくれない。差別を尊重し、当たり前のように人を殺す。でも、少なくとも「劣性遺伝者」は救われている部分もある。救われている部分「も」ある。ということは、救われていない部分が多い。ということだ。
そもそも、優性が劣性よりも上に立っているのも全ては《翼》の革命から始まった。《翼》は当時、王政であった政治を変えるため、勇者と、優性と劣性の二人の魔法使いに協力を頼んだ。そして、勝利を勝ち取った。だが、劣性は死んだ。優性は魔力を劣性に与えていたにも関わらず王との直接対決で結果を残していた。戦いに結果を残した優性を《翼》は称え、劣性を見下した。もちろん勇者は、魔法によって生まれる……術式は残っていないため使えないが……「魔混聖剣」を手に、最後の一撃を王へと叩き込んだ。
数日後、息絶え絶えだった優性が、死亡した。
《翼》はそれを利用した。この国……いや区域「アメリカ」を支配、当時の人はそう思っていなかったであろうが、とにかく治めたのは事実だ。
その騒動から数百年が経った。今は、《翼》がその頃の王と同程度、下手するとそれ以上の決定権や支配力を持っている。
革命を起こした側が、起こされる側に変わる。今までの歴史で何度も繰り返されてきた。
「また同じことを繰り返すつもりか」
一人、ぼそっと呟いてみた。呟いたところで意味はない。革命を起こそうとした劣性が、大量虐殺されたこともあった。だから、今はこいつらの話を素直に聞くのが善だ。
私は、術式の展開と訓練の準備を始めた。
今回の訓練の手合わせ相手は、「ライフ・カチリスト」優性遺伝者で、冷静な判断を得意としている。オリジナルは《反射》相手の魔法攻撃を跳ね返す強力な魔法だ。この場所に来てからの、三人目の友人でもある。だが……友人であっても手加減は出来ない。《翼》が見ているためだ。
「戦闘訓練を行う!先に倒れた方の敗北だ!では……はじめっ!」
地を蹴り、駆けた。即時《速視》《機動》《俊敏》の魔法を使う。後ろに回るのが善……か。跳んだ。素早さでは勝っている。未だ相手は気が付いていない様子だ。今殴るか。空から、相手の後頭部めがけて《太陽神》を使う。森を焦がす熱風を相手に浴びせる。カキンと跳ね返る音とともに、熱風が頬に近づいた。熱い。なるほど、読み切られていたらしい。熱風を《氷河期》の吹雪で打ち消した。そして、《変服》を使う。対戦で使えない魔法だと考える人が大半だろう。しかし、実は強き者こそ使う戦闘用魔法でもある。全身を光で覆い、目くらましを行う。彼は一瞬目を閉じた。今だ。横から蹴りを入れる。その一撃でふらついた体を追撃しようと、握った拳を横から叩きつける……が、甘かった。片腕を盾に彼は衝撃を逃がした。明らかに早い。恐らく、《機動》を使っているはず。だが、詠唱は聞こえなかったし、術式も見えなかった。《太陽神》と《氷河期》をぶつけた時の音と《変服》の光で誤魔化したか。上手い。さらに私は上へと跳んだ。
戦場では上を取るのが定石だ。
《敵》との戦闘に備えての訓練が、2日に1度行われる。詳しいことは機密事項らしく、教えてもらえない。言われるのは、「特訓するのだ。敵との戦いの為に」とだけだ。
強くなることがとにかく重要らしい。私に従う以外の選択肢は無い。そうしないと、「ミクス」につらい思いを、もしかしたら彼女を殺してしまうかもしれない。この手で殺すわけではなくとも、間接的に。
《翼》のやつらは、自分勝手で傲慢だ。こちらには何もしてくれない。差別を尊重し、当たり前のように人を殺す。でも、少なくとも「劣性遺伝者」は救われている部分もある。救われている部分「も」ある。ということは、救われていない部分が多い。ということだ。
そもそも、優性が劣性よりも上に立っているのも全ては《翼》の革命から始まった。《翼》は当時、王政であった政治を変えるため、勇者と、優性と劣性の二人の魔法使いに協力を頼んだ。そして、勝利を勝ち取った。だが、劣性は死んだ。優性は魔力を劣性に与えていたにも関わらず王との直接対決で結果を残していた。戦いに結果を残した優性を《翼》は称え、劣性を見下した。もちろん勇者は、魔法によって生まれる……術式は残っていないため使えないが……「魔混聖剣」を手に、最後の一撃を王へと叩き込んだ。
数日後、息絶え絶えだった優性が、死亡した。
《翼》はそれを利用した。この国……いや区域「アメリカ」を支配、当時の人はそう思っていなかったであろうが、とにかく治めたのは事実だ。
その騒動から数百年が経った。今は、《翼》がその頃の王と同程度、下手するとそれ以上の決定権や支配力を持っている。
革命を起こした側が、起こされる側に変わる。今までの歴史で何度も繰り返されてきた。
「また同じことを繰り返すつもりか」
一人、ぼそっと呟いてみた。呟いたところで意味はない。革命を起こそうとした劣性が、大量虐殺されたこともあった。だから、今はこいつらの話を素直に聞くのが善だ。
私は、術式の展開と訓練の準備を始めた。
今回の訓練の手合わせ相手は、「ライフ・カチリスト」優性遺伝者で、冷静な判断を得意としている。オリジナルは《反射》相手の魔法攻撃を跳ね返す強力な魔法だ。この場所に来てからの、三人目の友人でもある。だが……友人であっても手加減は出来ない。《翼》が見ているためだ。
「戦闘訓練を行う!先に倒れた方の敗北だ!では……はじめっ!」
地を蹴り、駆けた。即時《速視》《機動》《俊敏》の魔法を使う。後ろに回るのが善……か。跳んだ。素早さでは勝っている。未だ相手は気が付いていない様子だ。今殴るか。空から、相手の後頭部めがけて《太陽神》を使う。森を焦がす熱風を相手に浴びせる。カキンと跳ね返る音とともに、熱風が頬に近づいた。熱い。なるほど、読み切られていたらしい。熱風を《氷河期》の吹雪で打ち消した。そして、《変服》を使う。対戦で使えない魔法だと考える人が大半だろう。しかし、実は強き者こそ使う戦闘用魔法でもある。全身を光で覆い、目くらましを行う。彼は一瞬目を閉じた。今だ。横から蹴りを入れる。その一撃でふらついた体を追撃しようと、握った拳を横から叩きつける……が、甘かった。片腕を盾に彼は衝撃を逃がした。明らかに早い。恐らく、《機動》を使っているはず。だが、詠唱は聞こえなかったし、術式も見えなかった。《太陽神》と《氷河期》をぶつけた時の音と《変服》の光で誤魔化したか。上手い。さらに私は上へと跳んだ。
戦場では上を取るのが定石だ。
0
あなたにおすすめの小説
二度目の勇者は救わない
銀猫
ファンタジー
異世界に呼び出された勇者星谷瞬は死闘の果てに世界を救い、召喚した王国に裏切られ殺された。
しかし、殺されたはずの殺されたはずの星谷瞬は、何故か元の世界の自室で目が覚める。
それから一年。人を信じられなくなり、クラスから浮いていた瞬はクラスメイトごと異世界に飛ばされる。飛ばされた先は、かつて瞬が救った200年後の世界だった。
復讐相手もいない世界で思わぬ二度目を得た瞬は、この世界で何を見て何を成すのか?
昔なろうで投稿していたものになります。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる