日曜の昼は後輩女子にパスタを作る

矢木羽研

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本編

初夏を味わえ!トマトと新玉ねぎとチキン

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「おはようございます! ほら、どうですかこれ!」

いつものように、後輩が来た。今日はお土産としてトマトを持ってきてくれることになっている。先ほど、1箱に12個も入って500円で売っているという連絡が来たので、半分を分けてもらうことにしたというわけだ。

「うまそうだ! それにしてもトマト、最近安くなったよな。そろそろ旬だもんな」
「春先はやたら高かったですもんねぇ」
本当にそうだ。2個で300円くらいしたのが嘘のようだ。

「さっそく、これで料理するか!」
「はい、お湯沸かしましょうか?」
「いや、まだいい。ソース作りにちょっと時間がかかるからな」

俺は材料を準備する。冷蔵庫から鶏もも肉とにんにくチューブ、大きめの新玉ねぎ1個を取り出す。

「トマトと玉ねぎと鶏肉。これを全部煮込んでいくんだ。目安としては鶏肉とトマトが同じ重さ、玉ねぎがその半分ってとこだな」
「この感じだと、鶏もも1枚にトマト2個、玉ねぎ1個ってとこですかね」
「ああ、その通り!」

大ざっぱに、300グラムのトマトと鶏肉に、150グラムの玉ねぎといったところだ。

*

「まずは玉ねぎからだな」
上下を落として、縦半分に切ったら皮をむいて、繊維に沿って薄切りにしていく。

「あ、フライパン準備しますね」
俺が指示するより早く、フライパンに油を引いて火にかけた。そこに、切ったそばから玉ねぎを入れていく。

「ここに塩を小さじ半分ほど入れて。次はトマトだな」
ヘタの部分を切り落として2センチほどの輪切りにし、それをさらに2センチほどの太さに縦に切っていく。また、ヘタの周りの身も無駄にせずに切り分けておく。

「あ、湯むきしなくていいんですか?」
「してもいいけど、俺はしない。その代わり皮はちゃんと切っておくんだ。食べやすいようにな」

輪切りにした後に縦に切るということは、ちょうど下から見た時に、格子状の切れ目を入れる形になる。これなら皮は気にならない。玉ねぎ同様、切ったそばからフライパンに入れていく。後輩がそれをかき混ぜてくれる。

「やっぱりアシスタントがいると効率いいな」
「えへへ」

「最後に鶏肉だ。これは一口大ってところだな」
「皮はむかないんですか?」
「臭みが気になるならむいてもいいけど、俺はそのまま使う」

トマトもそうだが、可食部を捨てることに抵抗があるのだ。もっとも皮については別途料理に使うという手もあるのだが。

「先輩、皮がまだ繋がってますけど」
「ああ、煮ていくうちに簡単にほぐれるから気にしなくていい。ここから火を少し弱めて10分煮る。ここで黒コショウと、乾燥オレガノもあるから入れようか」
「セージとかタイムでも良さそうですね」
「そうだな。もも肉は香りが強いが、悪く言えば臭みでもある。スパイスやハーブ類は強めに効かせたほうがいい」

鶏肉が苦手な人というのは意外と多いようだ。外食ではフライドチキンや唐揚げなどで濃いめに味付けてあるので気になりにくいが、シンプルな家庭料理だと際立ちやすいのである。

*

今のうちに、包丁やまな板を洗剤で洗っておく。生肉を使う場合はこの手間が面倒だ。最初から細切れにしてある肉が買えれば手軽に作れるのだが、いつも売っているわけではない。

「結構水気が出るんですね。水は一滴も入れてないのに」
「トマトに新玉ねぎだからな。水分はたっぷりだ。それに塩を入れたから浸透圧で染み出してくる。ときどき、かき混ぜたりほぐしたりするといいぞ」

「そういえば先輩、鶏肉はももじゃないと駄目ですか?」
「そうだな。煮込む場合は胸肉やささみだと硬くなる。下ごしらえで工夫しても限度があるから、ここは素直にもも肉で作るのがおすすめだ。骨付きの手羽元とかもありだけどな」

*

「そろそろ10分ですね」
「よし、今からパスタを茹でるくらいでちょうどいいかな」
「ソースはどうします?」
「今度はフタを開けて、汁を煮詰めていくんだ。チューブにんにくはこのタイミングで入れるのがいい」

生にんにくなら最初に炒めるべきだが、チューブは焦げるので煮る段階で入れるのがベターだと思われる。

「そういえば先輩、ベランダのバジルも結構大きくなってきましたね」
「おっと、忘れるところだった。せっかくあるんだからバジルも使わないとな」

さっそく、摘んできて水洗いし、軽く刻んでおくことにした。

*

「そろそろ茹で上がりだな」
「ソースのほうもちょうどいい感じですよ!」
「どれどれ……もうちょっと塩だな」

今のところ、最初に小さじ半分、つまり3グラムの塩を入れただけだ。2人分のソースの味付けとしてはやや薄いので、ここで味見をして塩を足すわけである。

湯切りをして盛り付け、そこにソースをたっぷりかける。この分量だと、二人で食べるには少し多いくらいだ。まあ余っても後で食べるだけなので全く問題ない。

「バジルを散らして、粉チーズをかけて、と。それに、こいつも相性抜群だぞ」
「わ、タバスコ。先輩のとこで見るの久しぶりかも!」

今までは実家から送られてきた唐辛子をメインに使っていたのだが、ストックが減ってきたので最近はタバスコも使うようになった。特に、この料理との相性はピッタリだと俺は考えている。

「新玉ねぎは甘みが強いからな。タバスコの酸味と辛味を合わせるとバランスが取れるはずだ」
「タバスコって、要は唐辛子の酢漬けですもんね。たっぷりかけちゃおっと。……それじゃ、いただきます!」

*

「トマトソースといえば缶詰で作るイメージでしたけど、生のトマトもいいものですね」
「そうだな。特に今は新玉ねぎとトマトの旬が重なっているから、一番美味しく作れる季節だと思う」
「まさに、初夏の味ってわけですね!」

缶詰に使われている加熱用の真っ赤な品種とは違う、ピンク色のトマトソース。そのみずみずしい見た目は、まさしく初夏にふさわしい爽やかさだ。

「そういえば先輩、味の素とかコンソメって入れてないですよね?」
「ああ。トマトはもともと旨味成分がたっぷりだからな。入れる必要はない」
「鶏肉のイノシン酸とトマトのグルタミン酸の相乗効果ってやつですよね。本当に美味しい!」

シンプルな材料だが、それぞれの食材の味がお互いを引き立て合う。単純にして王道のパスタソースである。

*

「ごちそうさまでした! 今日も本当においしかったです!」
「そりゃよかった」
「トマトはたくさんあるんで、私も作ってみますね。つきましては参考のために、もう少しだけ、いただけないかなー、って……」

遠慮がちに言いながらフライパンのほうを見つめる。まだ、1人前弱くらいのソースが残っている。

「しょうがないなぁ。まあ、トマト買ってきてくれたんだし、このくらいは分けてやるよ」
ここに冷や飯を入れてリゾット風にしようと思っていたんだが、また作ればいいだけの話だ。タッパーに詰めて持たせてやる。

*

「それじゃ先輩、また明日!」
「ああ、気をつけて帰れよ!」

彼女を見送る。空は曇り空の雨模様で、そろそろ梅雨が始まる。梅雨が明けたら今年も暑い夏になるのだろう。旬の食材をたっぷり食べて英気を養おうと、改めて思うのであった。
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