日曜の昼は後輩女子にパスタを作る

矢木羽研

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本編

ミキサーも包丁も不要?凍結粉砕ジェノベーゼ

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「おはようございます! 相変わらずムシムシしてますねぇ」

今日も後輩はやって来る。そして梅雨明けにはまだまだかかりそうだ。こんな日は冷房の効いた部屋でごろごろしていたいが、それでは体がなまってしまう。

「おはよう。ちゃんと飯とか食ってるか?」
「それは大丈夫です! 私、食欲だけはいつも旺盛なので!」

相変わらず健康な肌をしている。ダイエットは結局諦めたようなのだが、標準体重はキープしているとのことなので、これでいいのだろう。

「ところで先輩、バジルは結構使ってるんですね」
ベランダにある鉢植えを見て言う。実際、葉っぱが半分ほど摘み取られているからだ。

「ああ、ちょうど仕込んでるところだからな」
「ということは、ジェノベーゼですか?」
「だな! とりあえず、お湯を沸かすぞ」

*

鍋を火にかけると、俺は冷凍庫からジップロックを取り出す。中には粉砕されたバジルの葉が入っている。

「なるほど、ソースを冷凍していたんですね」
「いや、これは葉っぱだけだ。ソースはこれから作る」
「なんでまた冷凍を? 新鮮なバジルならいつでも摘めるじゃないですか」

当然の質問だ。順番に答えてやることにする。

「これは、ミキサーも包丁も使わずに作るジェノベーゼなんだ」
「え、どういうことですか?」

「今でこそ一人暮らしの割にやたらと調理器具が充実してるなんて言われるけど、一人暮らしを始めたときには一つの手鍋と深皿、あとはザルくらいしか持ってこなかったんだよな」
「確かに、鍋とザルさえあれば麺は茹でられますからね」
「そう。パスタは特にそうだけど、保存性やコスパ・手間なんかを考えると麺が一番なんだ。昔は適当にめんつゆをかけたり、市販のソースを使ってた」

最低でも、乾麺を茹でられれば食事になると思ったのだ。もちろん炊飯器も欲しかったが、知り合いに譲ってもらうあてがあったので買わないでおいた。俺の一人暮らしは、外で食べる昼飯を除けば、朝晩と麺ばかり食べていた。それだけでは飽きるので、たまに弁当やパンなんかも買ってきたけど。

「ある日、スーパーでバジルの葉っぱの詰め合わせが安く売っていた。これでジェノベーゼでも作ろうかと思って買って来たんだが、ミキサーどころか包丁すら無い。さて、どうする?」

「えーと、指で細かくちぎるとか?」
「最初は俺もそうしようとしたんだけど、限界もあったからな。そこで、凍らせることにしたんだ」
「あー、わかってきました!」

「葉っぱを袋ごと冷凍庫に入れて、凍ったら袋の上から握り潰す。これを1時間おきに数回繰り返したのがこれだ」
「確かに、結構細かくなってますね」
「さすがにミキサーにはかなわないけどな。包丁で刻んだくらいにはなっただろ。さてと、二人分ならこのくらいかな」

目分量で刻んだバジルを深皿に取り出す。1人分で15~20グラムくらいが目安だと思う。

「ここにオリーブオイルを大さじ2杯、粉チーズもたっぷり大さじ2杯入れるぞ。おろしニンニクを小さじ2、後は塩を3グラム、小さじ半くらいか。味の素も3振りほど入れる」
「わりとオーソドックスですね」
「ここで俺流の隠し味、ごまドレッシングを大さじ1入れる。ナッツ類の代用だな」

一人暮らしのテクニックで覚えたのは、少ない調味料を様々な用途に使うことだ。ごまドレッシングであれば野菜にかけるだけでなく、芝麻醤ちーまーじゃん(ごまペースト)代わりに担々麺に使ったりもしている。

「これだけだと酸味が勝つから、砂糖もスティック1本くらい入れる」

一般的なレシピでは砂糖はあまり使わないと思うのだが、市販のジェノベーゼソースには糖類が入っていることが多い。やはり日本人には甘めのほうが向いていると思う。

「小さじ1杯分ってとこですね」
「だな。ちょっと味見してみてくれるか?」
「んー、もうちょっとしょっぱくてもいいかも?」

ほんのひとつまみ程度の塩を足す。いつものことだが、俺はパスタを茹でるときには塩を入れず、ソースの味で調整するスタイルだ。

*

「茹で上がったな」

いつものように、茹でたパスタを取り分ける。今日のは1.4ミリのフェデリーニだ。さっそく、そこにソースをかけていく。

「今日は冷製じゃないんですね」
「それでもいいけど、チーズはほどよく溶けて絡んだほうがいいと思う」
「確かに。それじゃ、よーく混ぜて、っと。……いただきます!」

*

「ごちそうさまでした!」

「お粗末様。あんまり自信のあるレシピじゃなかったけど、食べてくれてありがとな」
「そんなことないです、美味しかったですよ!」

きれいに平らげたのを見ると、それは本心でもあるのだろう。

「ジェノベーゼ、どうしても決定版って感じにはならないんだよな。やっぱりミキサーでしっかりペーストしたものにはかなわないというか」

凍結粉砕などの工夫を試してみても、しょせんは小手先技であり、本流にはかなう気がしない。

「まあ、夏はこれからですし、バジルもまだまだ獲れますからね。いろいろ試してみてくださいよ、私も付き合うので」
「そうか、よろしくな。……ところで、くちびるにバジルが付いてるぞ」
「先輩も。お互い様ですね」

笑い合う二人。窓から差し込む初夏の日差しが、バジルのついた前歯を照らす。
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