日曜の昼は後輩女子にパスタを作る

矢木羽研

文字の大きさ
21 / 95
本編

和風ガパオでミートソース!.

しおりを挟む
「おはようございます!」
すっきりしない曇り空の下に爽やかな声が響く。今日も後輩はやってきた。

「おう、おはよう」
「梅雨とも夏とも言いにくい微妙な感じの天気が続きますねぇ」

西のほうでは豪雨災害が相次いで発生しているとのことだが、東のほうはむしろ空梅雨からづゆである。水不足にならないといいのだが。

*

「そういえばここのところ、冷製パスタばっかりですね。それもいいんですけど、たまには温かいのも食べたいなって」

いつものように台所へ行き、鍋に水を張って火にかけたところでリクエストが来た。

「そうだな、俺もそうしようと思っていたところだ」
冷蔵庫から鶏むねのひき肉、玉ねぎ、ピーマン。調味料としてケチャップを取り出す。

「うーん、ミートソースですか?」
「まあ広義ではそうだろうな。俺が作ろうとしているのはガパオだ」
「ガパオ! タイ料理ですね!」

正確には、ありあわせの材料と調味料によるガパオもどきといったところだろうが。とりあえず玉ねぎを刻む。あら目のみじん切りだ。そしてフライパンに油を引いて、200グラムのひき肉と一緒に炒めていく。

「ここで黒胡椒を挽いて、少し塩を振る。小さじ半分くらいか。……ちょっとピーマン刻んでもらっていいか? あと鷹の爪も2本くらい」
「わかりました、みじん切りですね」
「頼んだ。中のワタも取らずに入れていいからな。ヘタは取ったほうがいいか」

いまのうちによく炒めておく。特にひき肉は塊にならないように、フライ返しの先でよくほぐしていく。

「できました!」
「よし、いいぞ」

ちょうど肉に火が通ってきたのでピーマンと唐辛子を入れてもらう。そのまま軽く炒めたところで、調味料を入れる。

「醤油、みりん、ケチャップ。それぞれ大さじ2杯ずつだな。これは4人分くらいを想定しているんだけど」
「ちょっと不思議な組み合わせですね」
「あればオイスターソースやナンプラーを使いたいんだけどな。まあ和風ってところだ。あとは味の素を少々……4振りくらいかな」

「あ、ケチャップなのに味の素を使うんですね」
「今回のケチャップは脇役だからな」

トマトにはグルタミン酸が豊富に含まれており、当然それを原料とするケチャップにも同様なので、ナポリタンなどでケチャップをメインにした味付けのときには味の素を添加しない。だが、今回は醤油などとともに味付けの一部に過ぎないのである。

「ここでフタをして、少し煮込んでいく。パスタのお湯は沸いたかな」
「はい!」

*

「ソースのほうはこんなもんか。一旦取り分けておいて、同じフライパンで目玉焼きを作る」
「こういうのってちょっと油多めで焼くといいですよね、フライドエッグって感じの」
「だな。今回は肉も鶏むねであっさり目だから、多少油を使ってもいいか」
熱した油に卵を割り入れる。いい音がする。

「忘れてた、バジルの葉っぱを摘んできてもらえるか?」
ベランダのバジルは相変わらずすくすくと育っている。ガパオとはもともとタイ語でバジルの意味である。厳密には英語でホーリーバジルという、西洋のバジルとは少し違う種のようなのだが。

「はい、結構多めでいいですよね?」
「そうだな、ひとつかみくらいはあってもいいか」

摘んできたバジルは洗ってみじん切りにしてもらって、炒めた肉野菜に混ぜる。

「パスタも茹で上がったかな」
今日は細めのフェデリーニだ。どちらかといえば太めのほうが合うと思うのだが、まあそのあたりは妥協である。皿に盛り付けて、ガパオをかける。

「タイ料理だからな。例によって、食べながら砂糖やレモン汁で味変することをおすすめするぞ」
「唐辛子入ってますけど、さらにタバスコもありですかね」
「そうだな、タバスコペッパーはタイのプリッキーヌの仲間だからな。この前くれた島唐辛子も」

沖縄名物の島唐辛子も含めて、同じキダチトウガラシの仲間である。

*

「ガパオ、ご飯にかけるイメージでしたけどパスタでもおいしいですね」
「まあ、ご飯に合うものはだいたいパスタにも合うんだけど、少し味の傾向が違う」
「と言いますと?」
「どちらかといえばご飯には甘め、麺には酸っぱめが合うんだよな」

一人暮らしを始めた頃、レトルト食品をよく食べていた。その時、ふと思いつきでカレーをパスタにかけたり、ミートソースをご飯にかけたりしていたのだが、悪くはないのだがやはり違和感があった。それは甘みと酸味のバランスの違いではないかと俺は思ったのだ。

「だからガパオをパスタにかけるときは、例えばレモン汁を効かせるとバランスが取れると思う。あくまでも俺の持論なんだけどな」
「なるほど、参考になりますね」

*

「ごちそうさまでした! さて、私は午後から用事があるんで早めに帰りたいんですけど……」
言いながら、キッチンに置いてあるボウルをちらちらと見る。中にはガパオがまだ半分くらい残っている。

「ああ、わかってるって」
俺は彼女が言う前に、タッパーを取り出して詰めてやる。もともと、そのつもりで多めに作ったのだ。

「いつもありがとうございます」
「ま、お互い様だからな」

「先輩、今年の夏は予定あります?」
「とりあえずお盆には実家に帰るくらいか。あと就活次第だな」

仲間うちで旅行の話も出ているのだが、まとまったスケジュールが合わず、近場で遊んだり家飲みしたりがメインになりそうだ。

「まあ、予定ができたら早めに連絡するよ」
「わかりました! それじゃ私も、なるべく顔出すようにするんで」

*

玄関で彼女を見送る。今年はどんな夏になるのだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

美人生徒会長は、俺の料理の虜です!~二人きりで過ごす美味しい時間~

root-M
青春
高校一年生の三ツ瀬豪は、入学早々ぼっちになってしまい、昼休みは空き教室で一人寂しく弁当を食べる日々を過ごしていた。 そんなある日、豪の前に目を見張るほどの美人生徒が現れる。彼女は、生徒会長の巴あきら。豪のぼっちを察したあきらは、「一緒に昼食を食べよう」と豪を生徒会室へ誘う。 すると、あきらは豪の手作り弁当に強い興味を示し、卵焼きを食べたことで豪の料理にハマってしまう。一方の豪も、自分の料理を絶賛してもらえたことが嬉しくて仕方ない。 それから二人は、毎日生徒会室でお昼ご飯を食べながら、互いのことを語り合い、ゆっくり親交を深めていく。家庭の味に飢えているあきらは、豪の作るおかずを実に幸せそうに食べてくれるのだった。 やがて、あきらの要求はどんどん過激(?)になっていく。「わたしにもお弁当を作って欲しい」「お弁当以外の料理も食べてみたい」「ゴウくんのおうちに行ってもいい?」 美人生徒会長の頼み、断れるわけがない! でも、この生徒会、なにかちょっとおかしいような……。 ※時代設定は2018年頃。お米も卵も今よりずっと安価です。 ※他のサイトにも投稿しています。 イラスト:siroma様

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

処理中です...