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本編
和風ガパオでミートソース!.
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「おはようございます!」
すっきりしない曇り空の下に爽やかな声が響く。今日も後輩はやってきた。
「おう、おはよう」
「梅雨とも夏とも言いにくい微妙な感じの天気が続きますねぇ」
西のほうでは豪雨災害が相次いで発生しているとのことだが、東のほうはむしろ空梅雨である。水不足にならないといいのだが。
*
「そういえばここのところ、冷製パスタばっかりですね。それもいいんですけど、たまには温かいのも食べたいなって」
いつものように台所へ行き、鍋に水を張って火にかけたところでリクエストが来た。
「そうだな、俺もそうしようと思っていたところだ」
冷蔵庫から鶏むねのひき肉、玉ねぎ、ピーマン。調味料としてケチャップを取り出す。
「うーん、ミートソースですか?」
「まあ広義ではそうだろうな。俺が作ろうとしているのはガパオだ」
「ガパオ! タイ料理ですね!」
正確には、ありあわせの材料と調味料によるガパオもどきといったところだろうが。とりあえず玉ねぎを刻む。あら目のみじん切りだ。そしてフライパンに油を引いて、200グラムのひき肉と一緒に炒めていく。
「ここで黒胡椒を挽いて、少し塩を振る。小さじ半分くらいか。……ちょっとピーマン刻んでもらっていいか? あと鷹の爪も2本くらい」
「わかりました、みじん切りですね」
「頼んだ。中のワタも取らずに入れていいからな。ヘタは取ったほうがいいか」
いまのうちによく炒めておく。特にひき肉は塊にならないように、フライ返しの先でよくほぐしていく。
「できました!」
「よし、いいぞ」
ちょうど肉に火が通ってきたのでピーマンと唐辛子を入れてもらう。そのまま軽く炒めたところで、調味料を入れる。
「醤油、みりん、ケチャップ。それぞれ大さじ2杯ずつだな。これは4人分くらいを想定しているんだけど」
「ちょっと不思議な組み合わせですね」
「あればオイスターソースやナンプラーを使いたいんだけどな。まあ和風ってところだ。あとは味の素を少々……4振りくらいかな」
「あ、ケチャップなのに味の素を使うんですね」
「今回のケチャップは脇役だからな」
トマトにはグルタミン酸が豊富に含まれており、当然それを原料とするケチャップにも同様なので、ナポリタンなどでケチャップをメインにした味付けのときには味の素を添加しない。だが、今回は醤油などとともに味付けの一部に過ぎないのである。
「ここでフタをして、少し煮込んでいく。パスタのお湯は沸いたかな」
「はい!」
*
「ソースのほうはこんなもんか。一旦取り分けておいて、同じフライパンで目玉焼きを作る」
「こういうのってちょっと油多めで焼くといいですよね、フライドエッグって感じの」
「だな。今回は肉も鶏むねであっさり目だから、多少油を使ってもいいか」
熱した油に卵を割り入れる。いい音がする。
「忘れてた、バジルの葉っぱを摘んできてもらえるか?」
ベランダのバジルは相変わらずすくすくと育っている。ガパオとはもともとタイ語でバジルの意味である。厳密には英語でホーリーバジルという、西洋のバジルとは少し違う種のようなのだが。
「はい、結構多めでいいですよね?」
「そうだな、ひとつかみくらいはあってもいいか」
摘んできたバジルは洗ってみじん切りにしてもらって、炒めた肉野菜に混ぜる。
「パスタも茹で上がったかな」
今日は細めのフェデリーニだ。どちらかといえば太めのほうが合うと思うのだが、まあそのあたりは妥協である。皿に盛り付けて、ガパオをかける。
「タイ料理だからな。例によって、食べながら砂糖やレモン汁で味変することをおすすめするぞ」
「唐辛子入ってますけど、さらにタバスコもありですかね」
「そうだな、タバスコペッパーはタイのプリッキーヌの仲間だからな。この前くれた島唐辛子も」
沖縄名物の島唐辛子も含めて、同じキダチトウガラシの仲間である。
*
「ガパオ、ご飯にかけるイメージでしたけどパスタでもおいしいですね」
「まあ、ご飯に合うものはだいたいパスタにも合うんだけど、少し味の傾向が違う」
「と言いますと?」
「どちらかといえばご飯には甘め、麺には酸っぱめが合うんだよな」
一人暮らしを始めた頃、レトルト食品をよく食べていた。その時、ふと思いつきでカレーをパスタにかけたり、ミートソースをご飯にかけたりしていたのだが、悪くはないのだがやはり違和感があった。それは甘みと酸味のバランスの違いではないかと俺は思ったのだ。
「だからガパオをパスタにかけるときは、例えばレモン汁を効かせるとバランスが取れると思う。あくまでも俺の持論なんだけどな」
「なるほど、参考になりますね」
*
「ごちそうさまでした! さて、私は午後から用事があるんで早めに帰りたいんですけど……」
言いながら、キッチンに置いてあるボウルをちらちらと見る。中にはガパオがまだ半分くらい残っている。
「ああ、わかってるって」
俺は彼女が言う前に、タッパーを取り出して詰めてやる。もともと、そのつもりで多めに作ったのだ。
「いつもありがとうございます」
「ま、お互い様だからな」
「先輩、今年の夏は予定あります?」
「とりあえずお盆には実家に帰るくらいか。あと就活次第だな」
仲間うちで旅行の話も出ているのだが、まとまったスケジュールが合わず、近場で遊んだり家飲みしたりがメインになりそうだ。
「まあ、予定ができたら早めに連絡するよ」
「わかりました! それじゃ私も、なるべく顔出すようにするんで」
*
玄関で彼女を見送る。今年はどんな夏になるのだろうか。
すっきりしない曇り空の下に爽やかな声が響く。今日も後輩はやってきた。
「おう、おはよう」
「梅雨とも夏とも言いにくい微妙な感じの天気が続きますねぇ」
西のほうでは豪雨災害が相次いで発生しているとのことだが、東のほうはむしろ空梅雨である。水不足にならないといいのだが。
*
「そういえばここのところ、冷製パスタばっかりですね。それもいいんですけど、たまには温かいのも食べたいなって」
いつものように台所へ行き、鍋に水を張って火にかけたところでリクエストが来た。
「そうだな、俺もそうしようと思っていたところだ」
冷蔵庫から鶏むねのひき肉、玉ねぎ、ピーマン。調味料としてケチャップを取り出す。
「うーん、ミートソースですか?」
「まあ広義ではそうだろうな。俺が作ろうとしているのはガパオだ」
「ガパオ! タイ料理ですね!」
正確には、ありあわせの材料と調味料によるガパオもどきといったところだろうが。とりあえず玉ねぎを刻む。あら目のみじん切りだ。そしてフライパンに油を引いて、200グラムのひき肉と一緒に炒めていく。
「ここで黒胡椒を挽いて、少し塩を振る。小さじ半分くらいか。……ちょっとピーマン刻んでもらっていいか? あと鷹の爪も2本くらい」
「わかりました、みじん切りですね」
「頼んだ。中のワタも取らずに入れていいからな。ヘタは取ったほうがいいか」
いまのうちによく炒めておく。特にひき肉は塊にならないように、フライ返しの先でよくほぐしていく。
「できました!」
「よし、いいぞ」
ちょうど肉に火が通ってきたのでピーマンと唐辛子を入れてもらう。そのまま軽く炒めたところで、調味料を入れる。
「醤油、みりん、ケチャップ。それぞれ大さじ2杯ずつだな。これは4人分くらいを想定しているんだけど」
「ちょっと不思議な組み合わせですね」
「あればオイスターソースやナンプラーを使いたいんだけどな。まあ和風ってところだ。あとは味の素を少々……4振りくらいかな」
「あ、ケチャップなのに味の素を使うんですね」
「今回のケチャップは脇役だからな」
トマトにはグルタミン酸が豊富に含まれており、当然それを原料とするケチャップにも同様なので、ナポリタンなどでケチャップをメインにした味付けのときには味の素を添加しない。だが、今回は醤油などとともに味付けの一部に過ぎないのである。
「ここでフタをして、少し煮込んでいく。パスタのお湯は沸いたかな」
「はい!」
*
「ソースのほうはこんなもんか。一旦取り分けておいて、同じフライパンで目玉焼きを作る」
「こういうのってちょっと油多めで焼くといいですよね、フライドエッグって感じの」
「だな。今回は肉も鶏むねであっさり目だから、多少油を使ってもいいか」
熱した油に卵を割り入れる。いい音がする。
「忘れてた、バジルの葉っぱを摘んできてもらえるか?」
ベランダのバジルは相変わらずすくすくと育っている。ガパオとはもともとタイ語でバジルの意味である。厳密には英語でホーリーバジルという、西洋のバジルとは少し違う種のようなのだが。
「はい、結構多めでいいですよね?」
「そうだな、ひとつかみくらいはあってもいいか」
摘んできたバジルは洗ってみじん切りにしてもらって、炒めた肉野菜に混ぜる。
「パスタも茹で上がったかな」
今日は細めのフェデリーニだ。どちらかといえば太めのほうが合うと思うのだが、まあそのあたりは妥協である。皿に盛り付けて、ガパオをかける。
「タイ料理だからな。例によって、食べながら砂糖やレモン汁で味変することをおすすめするぞ」
「唐辛子入ってますけど、さらにタバスコもありですかね」
「そうだな、タバスコペッパーはタイのプリッキーヌの仲間だからな。この前くれた島唐辛子も」
沖縄名物の島唐辛子も含めて、同じキダチトウガラシの仲間である。
*
「ガパオ、ご飯にかけるイメージでしたけどパスタでもおいしいですね」
「まあ、ご飯に合うものはだいたいパスタにも合うんだけど、少し味の傾向が違う」
「と言いますと?」
「どちらかといえばご飯には甘め、麺には酸っぱめが合うんだよな」
一人暮らしを始めた頃、レトルト食品をよく食べていた。その時、ふと思いつきでカレーをパスタにかけたり、ミートソースをご飯にかけたりしていたのだが、悪くはないのだがやはり違和感があった。それは甘みと酸味のバランスの違いではないかと俺は思ったのだ。
「だからガパオをパスタにかけるときは、例えばレモン汁を効かせるとバランスが取れると思う。あくまでも俺の持論なんだけどな」
「なるほど、参考になりますね」
*
「ごちそうさまでした! さて、私は午後から用事があるんで早めに帰りたいんですけど……」
言いながら、キッチンに置いてあるボウルをちらちらと見る。中にはガパオがまだ半分くらい残っている。
「ああ、わかってるって」
俺は彼女が言う前に、タッパーを取り出して詰めてやる。もともと、そのつもりで多めに作ったのだ。
「いつもありがとうございます」
「ま、お互い様だからな」
「先輩、今年の夏は予定あります?」
「とりあえずお盆には実家に帰るくらいか。あと就活次第だな」
仲間うちで旅行の話も出ているのだが、まとまったスケジュールが合わず、近場で遊んだり家飲みしたりがメインになりそうだ。
「まあ、予定ができたら早めに連絡するよ」
「わかりました! それじゃ私も、なるべく顔出すようにするんで」
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玄関で彼女を見送る。今年はどんな夏になるのだろうか。
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