日曜の昼は後輩女子にパスタを作る

矢木羽研

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本編

秘技、油湯通し!夏野菜のカポナータ

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「おはようございます!」
「おはよう! ……いい野菜だなあ」

今週も後輩がやってきた。今日は、例の家庭菜園をやってる友達からおすそ分けしてもらったという夏野菜を手土産に持ってきてくれた。

「トマトもナスもピーマンも、立派ですよね!」
「ああ、さっそく料理してみるか」

トマトは、見たところ少し柔らかくなっているようだ。形もよくないし、生で食べるよりは加熱向きだろう。

「なに作るんですか?」
「そうだな、ラタトゥイユ……いや、ここはカポナータにしてみよう」
「ラタトゥイユがフランス料理で、カポナータはイタリアですよね」
「そうだな。煮込む時に酢と砂糖を入れるのが特徴だ」

野菜の煮物に砂糖を入れるというのは日本料理では基本だが、西洋料理では珍しい。さらに酢も入れるので、暑い夏にはぴったりの料理だ。

*

「よし、いつものようにお湯沸かすぞ」
「はい!」

俺が言う前に、すでに鍋を用意していた。俺の方は玉ねぎを1個取り出し、皮をむいて刻んでいく。角切りと言うか、あら目のみじん切りと言うか、そのくらいの大きさだ。

「まずは玉ねぎを炒めて、っと。野菜を多めに使うから、塩は小さじ1杯……いや、1杯半ほど入れとくか」
「ということは、9グラムですね」
「ああ、例によって4人分くらい作るつもりだ」

フライパンにオリーブオイルをひき、玉ねぎを炒める。ニンニクひとかけもみじん切りにして入れる。いい香りが漂ってきた。

「フライパンのほうを頼んだ」
「はい!」

すっかり頼りになる助手だ。今度はトマトを刻む。一番大きくて熟れているものを一つ。市販のやつなら2個分はありそうだ。これを洗って、大きめにダイスカットしていく。もちろん皮ごとだ。そして色づいた玉ねぎの入ったフライパンに投入していく。ピーマン2個も同様だ。ナス2個は大きめの乱切りにするが、まだフライパンには入れない。

*

「先輩、お湯沸いたからパスタ入れますね」
「あ、ちょっと待った!」

今回は、パスタを茹でる前にすることがある。俺は沸き立つ鍋にオリーブオイルを注ぎ入れる。目分量で大さじ2杯、鍋の半分くらいが油で覆われる。

「ちょっと先輩?! 何してるんですか?」
「これは中華の技法なんだけどな、油通しって聞いたことあるだろ?」

その鍋の中に、乱切りにしたナスを放り込む。

「でも、これって油が浮いてるけどお湯ですよね?」
「ああ、これが家庭向けのテクニック、あぶら湯通ゆどおしだ!」

水面上で、ナスが油でコーティングされながら茹でられることで、少量の油でも油通しに近い効果が得られる。麻婆茄子などを家庭でお手軽に美味しく仕上げるためのテクニックとして紹介されているが、今回はこれをイタリアンに応用するというわけだ。

「本来はナスを素揚げするところだけど、それを代用するってわけだ」

*

「こんなもんかな」
2分ほど茹でたところで、ナスを取り出してフライパンに移す。

「確かに、普通に茹でたのとは違いますね。揚げたみたい」
一切れを味見しながら後輩が言う。

「そう、少ない油でも十分な効果があるんだ。そして、このお湯も有効活用するぞ」

オリーブオイルとナスの色で、濃い緑色になったお湯の中にスパゲッティを入れる。

「大丈夫なんですか? なんかすごい色してますけど」
「アクがある野菜ならまずいだろうけど、今回はナスだけだからな。その間に野菜の方を仕上げよう」

フライパンに、酢と砂糖を大さじ1杯ずつ入れて煮込んでいく。

「それぞれ、塩の2倍が目安だな。本来ならワインビネガーなんだろうけど、米酢しかないからそれでいくぞ」
「バルサミコ酢もよさそうですね」
「だな。ただしバルサミコはクセが強いから、使うにしても普通の酢と半分ずつくらいがいいかも知れないな」

自分ではあまり使ったことのない調味料である。他の料理も含めて、今度いろいろ試してみようか。

*

「パスタ、そろそろいいんじゃないですか?」
「そうだな、空けとくか」

湯切りしたパスタはオイルでコーティングされている。今回はあくまでも油湯通しの副産物ではあるが、これを目的に油を使う人もいるという。

「ここに野菜をかけて、仕上げに刻んだバジルを散らして、っと。夏野菜のカポナータソース、完成!」
「野菜がごろごろしてて、いいですね!」

ウインナーなどを入れても良かったが、今回は100%野菜料理にした。この分量だと塩はもっと多くても良かったが、調整しやすいように薄味というわけだ。

「それじゃ、いただきまーす!」

*

「いろんな野菜の食感が楽しいですね。ナスもよく味が染みてておいしいです」
「最初に油湯通しした効果だな。そのままだと味が染みにくいから」
「他にも応用できそうですね。例えばミートソースにナスを入れるときなんかも!」
「そうだな。ただ、油っこくなりすぎないように気をつける必要はあるだろうな」

今回は肉などを入れていないので、油分はオリーブオイルのみである。ミートソースを作るなら、豚よりもさっぱりした鶏むねがいいだろうか。

「それに、もともと酸味があるからタバスコが合いますね」
「最初に唐辛子を入れても良かったんだけどな。今回は基本形で作ってみたかった。逆に言えばアレンジの幅もあるってことだ」

*

「ごちそうさまでした! 私も今度作ってみますね。友達にも教えてあげよっと」
「お粗末様。それと、もう一つ試して欲しいことがある」

俺は熱湯で軽く消毒したタッパーに、残ったカポナータを取り分けながら言った。保冷剤と一緒に持たせてやるつもりだ。

「あ、分けてほしいなんて言ってないのに……まぁいただくつもりでしたけど」
「今回は野菜をたくさん持ってきてくれたからな。それに、これは冷たくして食べても美味いんだ」

今回、肉を入れなかった理由だ。野菜だけなら冷めてもおいしい。

「いいですね。細めのパスタに絡めて……それともそのままワインのおつまみにしたり」
「生ハムなんかを添えてみたりな」
「最高じゃないですか!」

もっとも、俺は低予算志向なので生ハムなんてめったに買わないのだが。

*

「それじゃ、今日もありがとうございました」
「俺の方こそ。野菜持ってきてくれてありがとな。友達にもよろしく!」

彼女を見送る。今日は珍しく午後に何の予定もない。部屋の片付けでもするか。そして夜は、例の映画のレイトショーでも見に行ってみようかなと思うのであった。
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