22 / 95
本編
秘技、油湯通し!夏野菜のカポナータ
しおりを挟む
「おはようございます!」
「おはよう! ……いい野菜だなあ」
今週も後輩がやってきた。今日は、例の家庭菜園をやってる友達からおすそ分けしてもらったという夏野菜を手土産に持ってきてくれた。
「トマトもナスもピーマンも、立派ですよね!」
「ああ、さっそく料理してみるか」
トマトは、見たところ少し柔らかくなっているようだ。形もよくないし、生で食べるよりは加熱向きだろう。
「なに作るんですか?」
「そうだな、ラタトゥイユ……いや、ここはカポナータにしてみよう」
「ラタトゥイユがフランス料理で、カポナータはイタリアですよね」
「そうだな。煮込む時に酢と砂糖を入れるのが特徴だ」
野菜の煮物に砂糖を入れるというのは日本料理では基本だが、西洋料理では珍しい。さらに酢も入れるので、暑い夏にはぴったりの料理だ。
*
「よし、いつものようにお湯沸かすぞ」
「はい!」
俺が言う前に、すでに鍋を用意していた。俺の方は玉ねぎを1個取り出し、皮をむいて刻んでいく。角切りと言うか、あら目のみじん切りと言うか、そのくらいの大きさだ。
「まずは玉ねぎを炒めて、っと。野菜を多めに使うから、塩は小さじ1杯……いや、1杯半ほど入れとくか」
「ということは、9グラムですね」
「ああ、例によって4人分くらい作るつもりだ」
フライパンにオリーブオイルをひき、玉ねぎを炒める。ニンニクひとかけもみじん切りにして入れる。いい香りが漂ってきた。
「フライパンのほうを頼んだ」
「はい!」
すっかり頼りになる助手だ。今度はトマトを刻む。一番大きくて熟れているものを一つ。市販のやつなら2個分はありそうだ。これを洗って、大きめにダイスカットしていく。もちろん皮ごとだ。そして色づいた玉ねぎの入ったフライパンに投入していく。ピーマン2個も同様だ。ナス2個は大きめの乱切りにするが、まだフライパンには入れない。
*
「先輩、お湯沸いたからパスタ入れますね」
「あ、ちょっと待った!」
今回は、パスタを茹でる前にすることがある。俺は沸き立つ鍋にオリーブオイルを注ぎ入れる。目分量で大さじ2杯、鍋の半分くらいが油で覆われる。
「ちょっと先輩?! 何してるんですか?」
「これは中華の技法なんだけどな、油通しって聞いたことあるだろ?」
その鍋の中に、乱切りにしたナスを放り込む。
「でも、これって油が浮いてるけどお湯ですよね?」
「ああ、これが家庭向けのテクニック、油湯通しだ!」
水面上で、ナスが油でコーティングされながら茹でられることで、少量の油でも油通しに近い効果が得られる。麻婆茄子などを家庭でお手軽に美味しく仕上げるためのテクニックとして紹介されているが、今回はこれをイタリアンに応用するというわけだ。
「本来はナスを素揚げするところだけど、それを代用するってわけだ」
*
「こんなもんかな」
2分ほど茹でたところで、ナスを取り出してフライパンに移す。
「確かに、普通に茹でたのとは違いますね。揚げたみたい」
一切れを味見しながら後輩が言う。
「そう、少ない油でも十分な効果があるんだ。そして、このお湯も有効活用するぞ」
オリーブオイルとナスの色で、濃い緑色になったお湯の中にスパゲッティを入れる。
「大丈夫なんですか? なんかすごい色してますけど」
「アクがある野菜ならまずいだろうけど、今回はナスだけだからな。その間に野菜の方を仕上げよう」
フライパンに、酢と砂糖を大さじ1杯ずつ入れて煮込んでいく。
「それぞれ、塩の2倍が目安だな。本来ならワインビネガーなんだろうけど、米酢しかないからそれでいくぞ」
「バルサミコ酢もよさそうですね」
「だな。ただしバルサミコはクセが強いから、使うにしても普通の酢と半分ずつくらいがいいかも知れないな」
自分ではあまり使ったことのない調味料である。他の料理も含めて、今度いろいろ試してみようか。
*
「パスタ、そろそろいいんじゃないですか?」
「そうだな、空けとくか」
湯切りしたパスタはオイルでコーティングされている。今回はあくまでも油湯通しの副産物ではあるが、これを目的に油を使う人もいるという。
「ここに野菜をかけて、仕上げに刻んだバジルを散らして、っと。夏野菜のカポナータソース、完成!」
「野菜がごろごろしてて、いいですね!」
ウインナーなどを入れても良かったが、今回は100%野菜料理にした。この分量だと塩はもっと多くても良かったが、調整しやすいように薄味というわけだ。
「それじゃ、いただきまーす!」
*
「いろんな野菜の食感が楽しいですね。ナスもよく味が染みてておいしいです」
「最初に油湯通しした効果だな。そのままだと味が染みにくいから」
「他にも応用できそうですね。例えばミートソースにナスを入れるときなんかも!」
「そうだな。ただ、油っこくなりすぎないように気をつける必要はあるだろうな」
今回は肉などを入れていないので、油分はオリーブオイルのみである。ミートソースを作るなら、豚よりもさっぱりした鶏むねがいいだろうか。
「それに、もともと酸味があるからタバスコが合いますね」
「最初に唐辛子を入れても良かったんだけどな。今回は基本形で作ってみたかった。逆に言えばアレンジの幅もあるってことだ」
*
「ごちそうさまでした! 私も今度作ってみますね。友達にも教えてあげよっと」
「お粗末様。それと、もう一つ試して欲しいことがある」
俺は熱湯で軽く消毒したタッパーに、残ったカポナータを取り分けながら言った。保冷剤と一緒に持たせてやるつもりだ。
「あ、分けてほしいなんて言ってないのに……まぁいただくつもりでしたけど」
「今回は野菜をたくさん持ってきてくれたからな。それに、これは冷たくして食べても美味いんだ」
今回、肉を入れなかった理由だ。野菜だけなら冷めてもおいしい。
「いいですね。細めのパスタに絡めて……それともそのままワインのおつまみにしたり」
「生ハムなんかを添えてみたりな」
「最高じゃないですか!」
もっとも、俺は低予算志向なので生ハムなんてめったに買わないのだが。
*
「それじゃ、今日もありがとうございました」
「俺の方こそ。野菜持ってきてくれてありがとな。友達にもよろしく!」
彼女を見送る。今日は珍しく午後に何の予定もない。部屋の片付けでもするか。そして夜は、例の映画のレイトショーでも見に行ってみようかなと思うのであった。
「おはよう! ……いい野菜だなあ」
今週も後輩がやってきた。今日は、例の家庭菜園をやってる友達からおすそ分けしてもらったという夏野菜を手土産に持ってきてくれた。
「トマトもナスもピーマンも、立派ですよね!」
「ああ、さっそく料理してみるか」
トマトは、見たところ少し柔らかくなっているようだ。形もよくないし、生で食べるよりは加熱向きだろう。
「なに作るんですか?」
「そうだな、ラタトゥイユ……いや、ここはカポナータにしてみよう」
「ラタトゥイユがフランス料理で、カポナータはイタリアですよね」
「そうだな。煮込む時に酢と砂糖を入れるのが特徴だ」
野菜の煮物に砂糖を入れるというのは日本料理では基本だが、西洋料理では珍しい。さらに酢も入れるので、暑い夏にはぴったりの料理だ。
*
「よし、いつものようにお湯沸かすぞ」
「はい!」
俺が言う前に、すでに鍋を用意していた。俺の方は玉ねぎを1個取り出し、皮をむいて刻んでいく。角切りと言うか、あら目のみじん切りと言うか、そのくらいの大きさだ。
「まずは玉ねぎを炒めて、っと。野菜を多めに使うから、塩は小さじ1杯……いや、1杯半ほど入れとくか」
「ということは、9グラムですね」
「ああ、例によって4人分くらい作るつもりだ」
フライパンにオリーブオイルをひき、玉ねぎを炒める。ニンニクひとかけもみじん切りにして入れる。いい香りが漂ってきた。
「フライパンのほうを頼んだ」
「はい!」
すっかり頼りになる助手だ。今度はトマトを刻む。一番大きくて熟れているものを一つ。市販のやつなら2個分はありそうだ。これを洗って、大きめにダイスカットしていく。もちろん皮ごとだ。そして色づいた玉ねぎの入ったフライパンに投入していく。ピーマン2個も同様だ。ナス2個は大きめの乱切りにするが、まだフライパンには入れない。
*
「先輩、お湯沸いたからパスタ入れますね」
「あ、ちょっと待った!」
今回は、パスタを茹でる前にすることがある。俺は沸き立つ鍋にオリーブオイルを注ぎ入れる。目分量で大さじ2杯、鍋の半分くらいが油で覆われる。
「ちょっと先輩?! 何してるんですか?」
「これは中華の技法なんだけどな、油通しって聞いたことあるだろ?」
その鍋の中に、乱切りにしたナスを放り込む。
「でも、これって油が浮いてるけどお湯ですよね?」
「ああ、これが家庭向けのテクニック、油湯通しだ!」
水面上で、ナスが油でコーティングされながら茹でられることで、少量の油でも油通しに近い効果が得られる。麻婆茄子などを家庭でお手軽に美味しく仕上げるためのテクニックとして紹介されているが、今回はこれをイタリアンに応用するというわけだ。
「本来はナスを素揚げするところだけど、それを代用するってわけだ」
*
「こんなもんかな」
2分ほど茹でたところで、ナスを取り出してフライパンに移す。
「確かに、普通に茹でたのとは違いますね。揚げたみたい」
一切れを味見しながら後輩が言う。
「そう、少ない油でも十分な効果があるんだ。そして、このお湯も有効活用するぞ」
オリーブオイルとナスの色で、濃い緑色になったお湯の中にスパゲッティを入れる。
「大丈夫なんですか? なんかすごい色してますけど」
「アクがある野菜ならまずいだろうけど、今回はナスだけだからな。その間に野菜の方を仕上げよう」
フライパンに、酢と砂糖を大さじ1杯ずつ入れて煮込んでいく。
「それぞれ、塩の2倍が目安だな。本来ならワインビネガーなんだろうけど、米酢しかないからそれでいくぞ」
「バルサミコ酢もよさそうですね」
「だな。ただしバルサミコはクセが強いから、使うにしても普通の酢と半分ずつくらいがいいかも知れないな」
自分ではあまり使ったことのない調味料である。他の料理も含めて、今度いろいろ試してみようか。
*
「パスタ、そろそろいいんじゃないですか?」
「そうだな、空けとくか」
湯切りしたパスタはオイルでコーティングされている。今回はあくまでも油湯通しの副産物ではあるが、これを目的に油を使う人もいるという。
「ここに野菜をかけて、仕上げに刻んだバジルを散らして、っと。夏野菜のカポナータソース、完成!」
「野菜がごろごろしてて、いいですね!」
ウインナーなどを入れても良かったが、今回は100%野菜料理にした。この分量だと塩はもっと多くても良かったが、調整しやすいように薄味というわけだ。
「それじゃ、いただきまーす!」
*
「いろんな野菜の食感が楽しいですね。ナスもよく味が染みてておいしいです」
「最初に油湯通しした効果だな。そのままだと味が染みにくいから」
「他にも応用できそうですね。例えばミートソースにナスを入れるときなんかも!」
「そうだな。ただ、油っこくなりすぎないように気をつける必要はあるだろうな」
今回は肉などを入れていないので、油分はオリーブオイルのみである。ミートソースを作るなら、豚よりもさっぱりした鶏むねがいいだろうか。
「それに、もともと酸味があるからタバスコが合いますね」
「最初に唐辛子を入れても良かったんだけどな。今回は基本形で作ってみたかった。逆に言えばアレンジの幅もあるってことだ」
*
「ごちそうさまでした! 私も今度作ってみますね。友達にも教えてあげよっと」
「お粗末様。それと、もう一つ試して欲しいことがある」
俺は熱湯で軽く消毒したタッパーに、残ったカポナータを取り分けながら言った。保冷剤と一緒に持たせてやるつもりだ。
「あ、分けてほしいなんて言ってないのに……まぁいただくつもりでしたけど」
「今回は野菜をたくさん持ってきてくれたからな。それに、これは冷たくして食べても美味いんだ」
今回、肉を入れなかった理由だ。野菜だけなら冷めてもおいしい。
「いいですね。細めのパスタに絡めて……それともそのままワインのおつまみにしたり」
「生ハムなんかを添えてみたりな」
「最高じゃないですか!」
もっとも、俺は低予算志向なので生ハムなんてめったに買わないのだが。
*
「それじゃ、今日もありがとうございました」
「俺の方こそ。野菜持ってきてくれてありがとな。友達にもよろしく!」
彼女を見送る。今日は珍しく午後に何の予定もない。部屋の片付けでもするか。そして夜は、例の映画のレイトショーでも見に行ってみようかなと思うのであった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
美人生徒会長は、俺の料理の虜です!~二人きりで過ごす美味しい時間~
root-M
青春
高校一年生の三ツ瀬豪は、入学早々ぼっちになってしまい、昼休みは空き教室で一人寂しく弁当を食べる日々を過ごしていた。
そんなある日、豪の前に目を見張るほどの美人生徒が現れる。彼女は、生徒会長の巴あきら。豪のぼっちを察したあきらは、「一緒に昼食を食べよう」と豪を生徒会室へ誘う。
すると、あきらは豪の手作り弁当に強い興味を示し、卵焼きを食べたことで豪の料理にハマってしまう。一方の豪も、自分の料理を絶賛してもらえたことが嬉しくて仕方ない。
それから二人は、毎日生徒会室でお昼ご飯を食べながら、互いのことを語り合い、ゆっくり親交を深めていく。家庭の味に飢えているあきらは、豪の作るおかずを実に幸せそうに食べてくれるのだった。
やがて、あきらの要求はどんどん過激(?)になっていく。「わたしにもお弁当を作って欲しい」「お弁当以外の料理も食べてみたい」「ゴウくんのおうちに行ってもいい?」
美人生徒会長の頼み、断れるわけがない!
でも、この生徒会、なにかちょっとおかしいような……。
※時代設定は2018年頃。お米も卵も今よりずっと安価です。
※他のサイトにも投稿しています。
イラスト:siroma様
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる