日曜の昼は後輩女子にパスタを作る

矢木羽研

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本編

アメリカ南部の味!オクラのトマト煮

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「おはようございます! まだまだ暑いですね」
「おはよう、暑さ寒さも彼岸までとは言うけど、今年の残暑はひどいからなぁ」

9月も半分を過ぎたというのに、まだまだ暑い日が続く。さすがに朝方ともなるとだいぶ涼しくなってきたのだが、日中の日差しと湿気は相変わらずだ。

「さて、今回はなにか食材仕入れてきましたか?」
「とりあえず、昨日はオクラが安かったから買ってきたところだ」
「オクラですかぁ。さっぱりポン酢あえとかにしますかね?」

オクラといえば、軽く茹でておひたしにして食べることが多い。しかし俺が安く買ってきたものは、シーズンをやや過ぎてちょっと成長しすぎたものだ。こういうやつはシンプルな調理より、たっぷり加工したほうがいい。

「ガンボ、作ってみるか。アメリカ南部のソウルフードだ」
「ガンボ?」
「ああ、フランス語でオクラの意味らしい。色々な食文化が混ざって生まれたものみたいだな」

日本では「○○のソウルフード」などと一般化されてしまっているが、本来はアメリカ南部の伝統料理を指す固有名詞であるらしい。

「それで、どういう料理なんですか?」
「オクラを野菜と炒めてトマトソースで煮込むんだ」
「へえ、ちょっと想像できないですね」

俺も知ったのは割と最近だ。煮込み料理に使うという発想自体が無かった。

「とりあえず、いつも通りお湯を沸かそうか」
「はーい! 普通のスパゲッティでいいですよね」

こうして、今週も二人の料理が始まる。

*

「まずは玉ねぎを粗目のみじん切りにして、オリーブオイルで炒めていく。小さじ1杯の塩を振って、と」
「浸透圧で水分を出すんですね」
「そうそう。ちょっとオクラとか切るから、フライパンは任せた」

まずは唐辛子とにんにくをみじん切りにしてフライパンに入れる。続いてオクラとウインナーを1センチほどの小口切りにして、同様にフライパンに入れる。

「オクラの尻尾の方は固いから少し細かく刻んで、と。本当はピーマンとセロリを入れたほうがいいんだけど、あいにく用意してない」
「セロリ、あんまり使いませんもんね」
「本当はミートソースとかにも入れると美味いんだけどな」

セロリは1本買っても持て余しがちな野菜である。嫌いではないのだが用途が限られていて消費が難しい。

「これはだいたい4人分だな。玉ねぎは1個で、オクラは玉ねぎの半分くらいの重さが目安だ」
「結構、使うんですね」
「ただの具じゃなくて、粘り気が大事だからな」

オクラの粘り気は煮込んでも残る。小麦粉のルーとはまた違う舌触りになるわけだ。

*

「さて、火が通ってきたらトマト缶を入れる。1缶まるごと400グラムだ」
「トマト缶、使うの久しぶりですね。ケチャップで代用とかもできますか?」
「まあ、やろうと思えばできるだろうな。いずれ研究してみようか」

トマト缶の中身をフライパンに流し入れた後、缶に半分ほど水を入れて、こびりついた液体ごと洗い流すようにしてフライパンに入れる。

「あとは塩と胡椒で味を整えて、しばらく煮込む。せっかくだから風味もつけようか。カレー粉を小さじ1杯ってとこか」
「出た! 万能スパイスとしてのカレー粉ですね」

カレー味を付けるためではなく、カレー粉に含まれる様々なスパイスの代用として使う、俺が得意とする代用術だ。

「そうだな。ここではクミンの代わりといったところだ。ついでに乾燥オレガノがあるから入れるか」

ガンボに使われるケイジャンスパイスの基本はクミンとオレガノだという。結構前に買って、なかなか使い切れないオレガノが残っていたので入れることにした。本当はチリパウダーを使うべきだと思うのだが。

「あとは少し煮立てれば完成だ。パスタが茹で上がるころにはちょうどいいと思う」

どちらかといえば、少し寝かせたほうが美味くなりそうなのだが仕方ない。

*

「それじゃ、いただきます!」

いつものようにパスタを取り分けて、ソースをたっぷりとかける。

「トマトベースだから酸味が効いていて、さっぱりしてますね」
「ポン酢もそうだけど、オクラには酸っぱいのが合うよな」

「そういえばオクラって、いかにも日本っぽい名前だと思ってたんですけど外来語なんですよね」
「原産はアフリカみたいだな」
「うちの両親が子供の頃にはほとんど見かけなかったって言ってました」

夏になると冷やしそばにも乗せたりしてすっかり日本に定着したイメージがあるが、かなり新しい野菜であるようだ。

*

「ごちそうさまでした! オクラの煮込み料理っての意外とありですね」
「そうだな。例えばカレーなんかに入れてみてもいいんじゃないか。残った分はあとでカレーにリメイクするつもりだからな」
「この時期、生だと食べにくそうなちょっと育ちすぎたオクラとか見かけますもんね。私も試してみようっと」

まだたっぷりと2人分は残っているので、タッパーに取り分けて持たせてやろう。

*

「それじゃ、私はいろいろやることがあるのでこのへんで! おすそわけありがとうございます」
「今週から大学が始まるからな。まだまだ暑いけど朝晩は急に冷え込むこともあるだろうし、体には気をつけるんだぞ」
「はい、おたがい元気に頑張りましょう」

彼女を見送る。夏というか残暑はまだまだ続きそうだが、夏休みは終わろうとしている。ツクツクボウシの声が響く空に浮かぶ雲は、すっかり秋の形をしている。季節は移ろい、俺たちの時計の針も進んでいく。
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