日曜の昼は後輩女子にパスタを作る

矢木羽研

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本編

これぞ無国籍、和風イエロー麻婆カレー!

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「おはようございます、また暑くなってきちゃいましたね」
「おはよう。台風の日は涼しかったのにな」

先週は台風が近づいてきて曇りがちになり、気温が大幅に下がっていた。台風が通過した日はエアコンを入れずに眠れるほど涼しくなった。しかし過ぎ去った後は再び残暑がぶり返してきた。さすがに夏の盛りよりは涼しくなったのだが。

「こんなふうに気温が変わると体調も悪くなりそうですよね」
「そうだな。俺も小さい頃から季節の変わり目には弱かったんだよな」
「あー、わかります! こういうときは辛くてスタミナが出るもの食べたいんですよね」
「辛くてスタミナ、かぁ……」

俺は冷蔵庫の中を見る。この前買ってきたイエローカレーペーストがあったので、それを使うことにする。

「あ、また買ったんですねこのシリーズ」
「ああ、今度はイエローだ。割とマイルドだからレッドやグリーンより使いやすいと思う」

業務スーパー名物の「リアルタイ」ブランドのカレーペースト。1つ300円と激安だが、恐ろしいことに30皿分も入っているので一人暮らしにとっては悪魔のアイテムでもある。

「具はどうしようかな……豆腐があったか。これとひき肉で……うん、麻婆カレーにしよう!」
「麻婆カレー!? イエローカレーでやるんですか?!」
「むしろ、タイカレーでは一番カレーっぽいからな。レッドやグリーンでやっても美味いんだけど、あんまりカレーっぽくならないんだ」

レッドカレーやグリーンカレーのペーストを豆板醤トウバンジャンがわりにして作ってみたことはあるが、風変わりな麻婆豆腐にはなっても「カレー」らしくはなかった。

「そういえば、タイ語でもカレーっていうのはイエローカレーだけだって聞きましたよ」
「いわゆるタイカレーは現地ではゲーンと呼ぶからな。イエローカレーはゲーン・カリー、つまりカレー味のタイカレーって意味になるわけだ」
「へぇー」

一般的なタイカレーは生のスパイスを使うが、イエローカレーはカレー粉、すなわち乾燥スパイスの粉をメインで使用する。

*

「それじゃ、さっそく作るか。お湯は任せたぞ」
「はーい♪」

俺の方はフライパンを使う。油を引いて、ひき肉を炒めていく。

「あれ、ニンニクとか入れないんですか?」
「入れてもいいけど今はちょっと切らしてるし、ペーストにも入ってるからな」

カレーにとって、ニンニクとショウガ(タイではガランガルという独特の風味がある品種を使うようだ)は標準装備だ。

「火が通ったら、ペーストを大さじ1杯。めんつゆも大さじ2杯入れる」
「え、めんつゆ?!」
「そう、かつお風味のな。イエローカレーは和風味が意外と合うんだよな。実際にインド洋周辺でもかつお節に似た干物をダシに使うと聞いた」
「モルディブフィッシュでしたっけ。確かに南インドやスリランカでは使うと聞いたんですが、タイカレーかぁ……でも相性は良さそうですね確かに」

ダシの風味が香る黄色いカレーは、まるでカレーうどんのようだ。麺に合わないわけがない。

「ここに1カップの水を入れてよく混ぜる。さいの目に切った豆腐と、みじん切りのネギを加えて、少し煮込んでいこう」
「こうやって見ると作り方は麻婆豆腐そのものですね。味付けが違うだけで」
「そうだな。もともとアレンジの幅が広い料理だと思うんだ」

麻婆カレーというのは、もともとはゲームの中に出てきたジョーク料理らしい。しかし今では様々な店や企業が作るようになっている。それだけ相性が良いのだろう。

*

「パスタ、そろそろですね」
「よし、こっちも仕上げるか」

火を止めて水溶き片栗粉を回し入れ、再び火にかける。軽くかき混ぜて、ペッパーミルで挽いた花椒ホアジャオをふりかける。

「おー、ここで四川風味なんですね」
「麻婆と名乗るからには、これも入れなきゃな」
「どうせならパスタも中華麺風にしたほうが良かったですかね? 前やったみたいに重曹を入れて」
「それでも良かったかもな。ま、今回は普通のスパゲッティでいいだろう」

あるいは、いっそのこと白飯にかけるのが一番美味そうな気がしなくもない。

「それじゃ、お皿に盛り付けますね」
「麻婆をたっぷりかけて……完成!」

「では、いただきます!……うーん、いろんな味がしておいしいですね」
「タイ・インド・日本・中華。それをイタリアのパスタにかけるという、まさに無国籍料理だからな」
「カレー屋さんなのかお蕎麦屋さんなのか中華屋さんなのかわからないこの感じ、いかにも家庭料理って感じですよね」

俺の思いつきで作った不思議な味のパスタを、実に美味そうに口の中に運んでくれる。

「辛さはこんなもんでよかったか?」
「美味しいですけど、たしかにタイカレーならもっと辛くてもいいですね。タバスコとかありましたっけ?」
「タバスコもいいけど、ちょっと試してほしいものがある」

俺はそう言いながら冷蔵庫から小瓶を取り出した。

「これ……もしかしてゆず胡椒?」
「当たり! 先週もらった柚子の皮と青唐辛子を刻んで作ったんだ。一週間寝かせたからそろそろいい頃合いだと思う」

刻んだ唐辛子とゆず皮を、煮沸消毒した小瓶に詰めておいた。

「でも、いくら和風でもカレーにゆず胡椒ですか……」
「そう思うだろ。でも、タイカレーにはもともと柑橘系の成分が入ってるんだ。ほら」

俺はカレーペーストの容器を持ち、原材料を指さした。

「ここにカフィルライムピール、ってあるだろ」
「ふむふむ、ライムの皮ってわけですね」
「日本語ではコブミカン、現地語ではマックルーと言う。実物は見たこと無いけれど、ゆずに似てコブのある形をしているようだ」

実際に、この皮の風味が日本のゆずと似ているかどうかはわからない。同じ柑橘類なら大きな違いはないと思うのだが。ちなみにグリーンカレーなどに使われるバイマックルーというのはマックルーの葉である。

「ともかく、タイカレーというのは柑橘の風味も受け入れてくれるんだ」
「……なるほど。確かにゆず皮の苦味が不思議と合うような気がしますよ」
「タイ料理は辛くて酸っぱくて甘い料理とは言うけど、苦味は表に出てこないからな。かえって引き締まるのかも知れない」

ゆず胡椒については、普通に作ったタイカレーにも混ぜてみたことがある。他に辛み調味料が無かったからだが、思いのほか相性が良くて驚いてしまった。

*

「ごちそうさまでした! 今日も美味しかったし、それに面白かったです!」
「お粗末様。美味かったのなら何よりだ」
「パスタというよりも、カレーの新たな扉が開けた感じがします! 私もいろいろ試してみたくなっちゃいました」

「今回は和風にしたけど、ナンプラーベースでタイ風味を強めてもいいかもな。あるいはオイスターソースとかで中華寄りにしてみたり」
「あー、どれも美味しそう! 私も作りたくなってきちゃいました。韓国風にするのもありかも?」
「面白そうだな。俺も韓国系はまだあんまり詳しくないから研究してみるか」

こうして料理談義に花が咲く。大学の夏休みも終盤戦。やることはまだまだあるが、元気に頑張れそうだ。
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