日曜の昼は後輩女子にパスタを作る

矢木羽研

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本編

生クリーム仕立て!フレンチカルボナーラ

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「おはようございます! 今日はあったかいですね」
「おはよう!」

12月だと言うのに今日の最高気温は20℃近くになるらしい。後輩は秋物のジャンパーを羽織ってやってきた。

「あったかいのはいいんですけど、乾燥してちょっと指先が割れてきてるんですよね」
「ちゃんとケアしてるか? 外からクリームを塗るだけじゃなくて、ビタミンや脂肪分もちゃんと摂らないと駄目だぞ」
「脂肪分ですか。冬場は太りやすいから気を使うんですけど、摂らないのもよくないんですよねぇ」

脂肪分といえば悪者扱いされがちだが、炭水化物やタンパク質と並ぶ三大栄養素である。

「太り過ぎは良くないけど、ちゃんと栄養は摂らなきゃな。ちょうど、今日はこういうのを用意した」
「茶色いパスタ……全粒粉ですか。ちょっとゆで時間は長めなんですね」
「同じ太さのスパゲッティと比べてみると確かに火は通りにくいからな」

全粒粉、すなわち小麦を精白せずにそのまま粉にして作ったパスタだ。風味や食感のクセが強いが、食物繊維やビタミンBをはじめとして栄養価は高い。

「さっそく、茹でていくか……と言いたいところだが、実はもう茹でてあるんだ」

俺は冷蔵庫から、朝のうちに茹でておいたパスタを取り出す。

「事前に茹でおきしておく、フレンチスタイルですね」

フランス料理では、パスタはあらかじめ茹でておいたものを提供直前にさっと湯通しするという。普通の茹で方ではなかなか火が通らない全粒粉パスタにはより適している調理法だと思う。

「お湯を沸かしている間にソースの準備だ。まずはボウルに牛乳とバターを入れる」
「あ! 私知ってます、生クリームの代用ですね!」
「正解! バターが1に対して牛乳が3の割合だな。」

今回は2人分として、バターを大さじ2杯(30ml)、牛乳を半カップ弱(90ml)使用する。

「さらに粉チーズも大さじ2杯と、コンソメキューブを2個。1人あたり塩分3グラム弱ってとこだな」
「バターもそうですけど、結構がっつり系なんですね」
「全粒粉のクセが強いからな。このくらいでちょうどいいと思う。ちょうどお湯があるから、湯せんで全部溶かしていくんだ」

鍋のお湯が湧いてきたので、鍋つかみを付けた左手でボウルを浮かべ、牛乳にバターとコンソメを溶かしていく。かき混ぜているうちに砕いたコンソメキューブのかけらは次第に小さくなり、やがて均一なソース状になった。

「次はここに生卵を入れる。2人分なら全卵を2個だな」
「もしかして、カルボナーラですか?」
「その通り! 生クリームを使うフランス式を簡略化してみたんだ」

ボウルをいったん鍋から上げて、鍋にパスタを放り込む。ボウルのほうには卵を割り入れてかき混ぜる。

「カルボナーラに生クリームを使うのは日本だけって言ってる人がいましたけど、間違いですよね」
「そう、フランスでは使うみたいだからな。パスタ料理がイタリアと日本だけのものだと思っている時点で視野が狭いと言えるな」

中国発祥のラーメンがアジア中で食べられているように、イタリア発祥のパスタはヨーロッパ全土に広まっており、各地の食文化に溶け込んでいる。パスタは決してイタリアだけのものではないし、イタリア式のみが正統というわけでもない。

「沸騰してきたな、仕上げといくか」

冷たいパスタを入れた鍋が再び沸騰し始めた。すかさず、卵を混ぜたボウルを再び鍋で湯せんにかけながら、よくかき混ぜる。

「どのくらい温めるんですか?」
「白身の透明な部分が見えなくなるまでかな。ちょうど半熟ってことだから」

カルボナーラは卵黄のみで作る場合もあるが、卵白を入れることでボリュームを増し、さらに色の変化をベンチマークとして利用するのだ。

「よし、こんなもんか」

鍋から取り出したボウルに湯切りしたパスタを入れてよく和え、皿に取り分けたら、仕上げにペッパーミルで挽きたての黒胡椒を振りかける。

「フレンチカルボナーラ、完成!」
「ではさっそく、いただきます!」

*

「すっごくクリーミー! 濃いめの味付けで正解ですね。全粒粉のクセに負けてませんし」
「イタリアでは、そば粉のパスタをチーズたっぷりのソースで食べると聞いたから、それも参考にしてみたんだ」

俺は食べたことがないのだが、北部イタリアの名産品にピッツォッケリというそば粉のショートパスタがあるらしい。小麦粉のみで作るパスタよりも香りが強いのだろうと思われる。全粒粉とはまた違うだろうが、似た雰囲気はあるかも知れない。

「具が無いと食感も単調になりやすいんですけど、そういう意味でも全粒粉は存在感があっていいですね。よく噛んで食べられますし」
「本当はカリカリに焼いたベーコンでもあると良かったんだけどな。その分コンソメの味を利かせてみたんだ」

仕上げに白ワインを振って風味づけたカリカリベーコンを添えるとより本格的になるところだが、手間と材料の都合で見送ってしまった。

「基本形だから、いくらでもアレンジの幅があるってことですね。私は温野菜を混ぜてチーズフォンデュ風にしてもいいかなって」
「それもいいな。ちょうどブロッコリーとかも旬だからな」
「そうそう、友達の家庭菜園でもそろそろ収穫みたいですよ」

イタリア料理という枠にとらわれず、自由な発想でパスタを楽しむ。これぞ家庭料理の醍醐味である。

*

「ごちそうさまでした! 今日もおいしかったです!」
「お粗末様。ちょっとしつこかったかも知れないな」
「私はこのくらいでちょうどよかったです。それに、お肌もつやつやしてきた気がします!」

そんなにすぐに効果が出るものでもないと思うが、機嫌が良さそうで何よりだ。

「先輩、年末年始のご予定はあります?」
「とりあえず、30日の夜がバイト先の仕事納めだからな。大晦日の昼過ぎあたりに実家に帰ろうかと思ってる」

なんだかんだで最後までシフトを入れることになってしまった。給料は割増だから悪くない話なのだが。

「ということは、それまではこっちにいるってことですね」
「だな。今年いっぱいは日曜は家にいると思う」
「それじゃ、またお邪魔しますね。そうだ先輩、大掃除とか始めてます?」
「まだだな。ついつい後回しになるからなぁ」

今年の汚れは今年のうちに、とはよく言ったものである。帰省するからには部屋はきれいにしておきたい。

「水回りとかは寒くならないうちにやっちゃいましょうよ、私も手伝うんで!」
「いいのか?」
「ええ、いつもお世話になってるんで」

そう言うと彼女はてきぱきと食器を片付け始めた。俺も怠けてはいられない。
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