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本編
化学反応!?白菜のしゅわしゅわ黒酢あん
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「おはようございます! 昨日は暖かかったですね」
「おはよう。12月なのに半袖で過ごせたもんな」
西日本を中心に異例の暖冬が続いているようだ。これから寒波が来るようなので油断はできないが。なんにせよ、季節の変わり目に弱い俺にとってはまた体調を崩す原因になりそうだ。
「ところで、その荷物は?」
「これです、白菜!」
袋から取り出したのは、縦半分にカットした白菜だった。
「近所の八百屋さんで安かったから丸ごと買っちゃったんですけど、持て余しそうなので半分どうぞ」
「一人だとそうだよなぁ。それにしても立派な白菜だ」
今年の白菜は大きくて甘い。今は暖かいが、晩秋に寒かった期間があったためだろうか。白菜は霜が降ることで甘くなるという。
「よし、今日はこれでパスタを作ろうか」
「白菜のパスタ、初めてですけど面白そうですね」
「ああ、基本的には中華だけどな。とりあえず、お湯を頼んだ」
「はーい」
こうして、今日も料理の時間が始まる。
「白菜は1人1枚でいいか、外側の大きい葉っぱだからな」
「だいたい、100グラム弱ってとこですかね」
「だな。これを縦に3等分くらいにして、さらに1センチ幅で削ぎ切りにしていく」
短時間でも火が通りやすいように、断面を大きくするのがポイントである。
「ずいぶん細かく切るんですね」
「煮込むんじゃなくて炒めものだからな。次は合わせ調味料だ」
戸棚や冷蔵庫から材料を取り出す。醤油、みりん、味の素。そして……
「あー、また中国のお酢!」
「そう、山西老陳酢!」
夏場に愛用して、使い切ったのでまた買ってきたのだ。
「他の黒酢でもいいですかね?」
「うーん、原料に高黍が入っているのは俺の知っている限りこれくらいだから、風味が違うと思うぞ」
中国の黒酢だけでなく日本の純米黒酢なども店頭で見かけるのだが、これほど複雑な原料は他にはない。
「たかきび?」
「別名"もろこし"だけど、とうもろこしとは別物なのがややこしいな。中国語だとコーリャン、英語だとソルガムという」
「あ、ソルガムって聞いたことありますね」
「ミネラル豊富な健康食材だからな。今日はこれをたっぷり使おうと思う」
ボウルに酢を大さじ4杯、醤油とみりんを2杯ずつ入れて、味の素を数振り。
「ずいぶん入れちゃうんですね……ちょっと多すぎじゃないですか?」
味見をして後輩が言った。確かに、これだけだと酸っぱすぎるのだが、秘策がある。
「お湯のほうが沸いてきたな。今日はこれを使って茹でる」
「重曹! 久しぶりに中華麺風ですね」
パスタを茹でる時に重曹を加えて茹で汁をアルカリ性にすることで、中華麺に含まれる「かん水」の役割を果たし、麺に強いコシと縮れが生まれる。
「ゆで時間がかかるから、その間にじっくりと具を調理していくんだ」
フライパンに油を引いて、おろしにんにくやしょうが、唐辛子と共にひき肉を炒める。
「味付けはまだなんですね」
「ああ、肉が炒まってきたら白菜と同時に入れるんだ。パスタのほう、かき回しておいてくれるか」
「はいはい、わかってますってば」
軽く焼き目が付くまでひき肉を炒めたら、白菜と合わせ調味料を入れ、よく混ぜながらさらに炒めていく。
「結構、白菜から水分が出てきますね」
「そう、これで炒め煮にしていくんだ」
酢と香辛料の香ばしい香りが漂う。これぞ中華といった雰囲気だ。
「ちょっと柔らかい葉っぱのところをお味見……うーん、やっぱり酸っぱすぎませんかこれ?」
「どれどれ……いや、このくらいでちょうどいいんだよ。まあ最後まで見てなって」
火は通ってきたが、汁気が多いのでもう少し煮詰めていくことにする。片栗粉でとろみを付けるほどではなさそうだ。
*
「そろそろパスタが茹だったかな。湯切りして盛り付けて、っと」
「やっぱり重曹で黄色くなりますね。中華麺って感じです」
皿に盛り付けたら、すかさず熱々の白菜あんをかける。
「せ、先輩、なんか泡立ってますけど?!」
「そう、重曹のアルカリに酢が中和反応するんだ。粉末のコーラとか飲んだことあるか? あれと同じ原理だな」
「あー、確か重曹とクエン酸で炭酸水ができるってやつですね。しかしパスタ料理で見ることになるとは……」
以前、黒酢あんと重曹パスタを組み合わせた時、泡が出てきたのは予期しない反応だった。しかし冷静に考えてみれば不思議でもなんでもない、ありふれた現象である。
「これをよくかき混ぜて……」
「うーん、しゅわしゅわいってますね。それじゃ、いただきます!」
「どうだ?」
「……うん、酸っぱくない、ちょうどいいです!」
酸味はアルカリによって中和される。酸っぱいレモン汁に重曹と砂糖を混ぜて、甘いレモンスカッシュを作るようなものである。
「そう、だから酢は強めに利かせるくらいでいいんだ」
「これはアイディアの勝利ですね。栄養たっぷりのお酢もたくさん摂れますし」
「ちょっと苦味が気になるかも知れないから、砂糖や味の素で調整してもいいかもな」
砂糖はもちろん、味の素のうま味は尖った味をマイルドにする効果がある。
「この料理、山西老陳酢のラベルに書いてあるやつなんですね」
後輩が、味変としてさらに酢をかけようとして、ラベルに印刷されたレシピに気づいた。
「そう、醋溜白菜だ。麺料理に絡めるためにひき肉を使ったり、白菜を細かく刻んだりのアレンジはしてあるけど、基本は同じだな」
「レシピ通りだと3人前で唐辛子5本とか、すごいこと書いてあるんですけど」
「まあ品種によっても辛さは違うからな。そのあたりは料理をする側が調整しないと駄目だろう」
唐辛子の辛さというのははっきりした基準がないため、本数での加減というのは本来不可能である。加工品ならまだしも、そのまま使う場合の分量については作り手が吟味して調整しなければならない。
*
「ごちそうさまでした! 野菜とお酢たっぷりで元気になれるレシピです!」
「お粗末様。もちろんご飯のおかずにしてもいいから、白菜が余ってたら試してくれよな」
「黒酢、私も買っちゃいましょうかね。いろいろ使えそうですし」
「ああ。餃子のタレとかにしてもいいし、担々麺とかにかけてもいいからな。酢だから日持ちもするし、おすすめだぞ」
「私もいろいろレシピ考えてみましょうかねぇ」
新しい食材を知るたびにレシピが増える。創意工夫の楽しさは止まらない。これからも試行錯誤していこうと思う。
「おはよう。12月なのに半袖で過ごせたもんな」
西日本を中心に異例の暖冬が続いているようだ。これから寒波が来るようなので油断はできないが。なんにせよ、季節の変わり目に弱い俺にとってはまた体調を崩す原因になりそうだ。
「ところで、その荷物は?」
「これです、白菜!」
袋から取り出したのは、縦半分にカットした白菜だった。
「近所の八百屋さんで安かったから丸ごと買っちゃったんですけど、持て余しそうなので半分どうぞ」
「一人だとそうだよなぁ。それにしても立派な白菜だ」
今年の白菜は大きくて甘い。今は暖かいが、晩秋に寒かった期間があったためだろうか。白菜は霜が降ることで甘くなるという。
「よし、今日はこれでパスタを作ろうか」
「白菜のパスタ、初めてですけど面白そうですね」
「ああ、基本的には中華だけどな。とりあえず、お湯を頼んだ」
「はーい」
こうして、今日も料理の時間が始まる。
「白菜は1人1枚でいいか、外側の大きい葉っぱだからな」
「だいたい、100グラム弱ってとこですかね」
「だな。これを縦に3等分くらいにして、さらに1センチ幅で削ぎ切りにしていく」
短時間でも火が通りやすいように、断面を大きくするのがポイントである。
「ずいぶん細かく切るんですね」
「煮込むんじゃなくて炒めものだからな。次は合わせ調味料だ」
戸棚や冷蔵庫から材料を取り出す。醤油、みりん、味の素。そして……
「あー、また中国のお酢!」
「そう、山西老陳酢!」
夏場に愛用して、使い切ったのでまた買ってきたのだ。
「他の黒酢でもいいですかね?」
「うーん、原料に高黍が入っているのは俺の知っている限りこれくらいだから、風味が違うと思うぞ」
中国の黒酢だけでなく日本の純米黒酢なども店頭で見かけるのだが、これほど複雑な原料は他にはない。
「たかきび?」
「別名"もろこし"だけど、とうもろこしとは別物なのがややこしいな。中国語だとコーリャン、英語だとソルガムという」
「あ、ソルガムって聞いたことありますね」
「ミネラル豊富な健康食材だからな。今日はこれをたっぷり使おうと思う」
ボウルに酢を大さじ4杯、醤油とみりんを2杯ずつ入れて、味の素を数振り。
「ずいぶん入れちゃうんですね……ちょっと多すぎじゃないですか?」
味見をして後輩が言った。確かに、これだけだと酸っぱすぎるのだが、秘策がある。
「お湯のほうが沸いてきたな。今日はこれを使って茹でる」
「重曹! 久しぶりに中華麺風ですね」
パスタを茹でる時に重曹を加えて茹で汁をアルカリ性にすることで、中華麺に含まれる「かん水」の役割を果たし、麺に強いコシと縮れが生まれる。
「ゆで時間がかかるから、その間にじっくりと具を調理していくんだ」
フライパンに油を引いて、おろしにんにくやしょうが、唐辛子と共にひき肉を炒める。
「味付けはまだなんですね」
「ああ、肉が炒まってきたら白菜と同時に入れるんだ。パスタのほう、かき回しておいてくれるか」
「はいはい、わかってますってば」
軽く焼き目が付くまでひき肉を炒めたら、白菜と合わせ調味料を入れ、よく混ぜながらさらに炒めていく。
「結構、白菜から水分が出てきますね」
「そう、これで炒め煮にしていくんだ」
酢と香辛料の香ばしい香りが漂う。これぞ中華といった雰囲気だ。
「ちょっと柔らかい葉っぱのところをお味見……うーん、やっぱり酸っぱすぎませんかこれ?」
「どれどれ……いや、このくらいでちょうどいいんだよ。まあ最後まで見てなって」
火は通ってきたが、汁気が多いのでもう少し煮詰めていくことにする。片栗粉でとろみを付けるほどではなさそうだ。
*
「そろそろパスタが茹だったかな。湯切りして盛り付けて、っと」
「やっぱり重曹で黄色くなりますね。中華麺って感じです」
皿に盛り付けたら、すかさず熱々の白菜あんをかける。
「せ、先輩、なんか泡立ってますけど?!」
「そう、重曹のアルカリに酢が中和反応するんだ。粉末のコーラとか飲んだことあるか? あれと同じ原理だな」
「あー、確か重曹とクエン酸で炭酸水ができるってやつですね。しかしパスタ料理で見ることになるとは……」
以前、黒酢あんと重曹パスタを組み合わせた時、泡が出てきたのは予期しない反応だった。しかし冷静に考えてみれば不思議でもなんでもない、ありふれた現象である。
「これをよくかき混ぜて……」
「うーん、しゅわしゅわいってますね。それじゃ、いただきます!」
「どうだ?」
「……うん、酸っぱくない、ちょうどいいです!」
酸味はアルカリによって中和される。酸っぱいレモン汁に重曹と砂糖を混ぜて、甘いレモンスカッシュを作るようなものである。
「そう、だから酢は強めに利かせるくらいでいいんだ」
「これはアイディアの勝利ですね。栄養たっぷりのお酢もたくさん摂れますし」
「ちょっと苦味が気になるかも知れないから、砂糖や味の素で調整してもいいかもな」
砂糖はもちろん、味の素のうま味は尖った味をマイルドにする効果がある。
「この料理、山西老陳酢のラベルに書いてあるやつなんですね」
後輩が、味変としてさらに酢をかけようとして、ラベルに印刷されたレシピに気づいた。
「そう、醋溜白菜だ。麺料理に絡めるためにひき肉を使ったり、白菜を細かく刻んだりのアレンジはしてあるけど、基本は同じだな」
「レシピ通りだと3人前で唐辛子5本とか、すごいこと書いてあるんですけど」
「まあ品種によっても辛さは違うからな。そのあたりは料理をする側が調整しないと駄目だろう」
唐辛子の辛さというのははっきりした基準がないため、本数での加減というのは本来不可能である。加工品ならまだしも、そのまま使う場合の分量については作り手が吟味して調整しなければならない。
*
「ごちそうさまでした! 野菜とお酢たっぷりで元気になれるレシピです!」
「お粗末様。もちろんご飯のおかずにしてもいいから、白菜が余ってたら試してくれよな」
「黒酢、私も買っちゃいましょうかね。いろいろ使えそうですし」
「ああ。餃子のタレとかにしてもいいし、担々麺とかにかけてもいいからな。酢だから日持ちもするし、おすすめだぞ」
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