日曜の昼は後輩女子にパスタを作る

矢木羽研

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本編

エピローグ 里帰りの日に

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「兄ちゃん、おかえり!」

実家の最寄り駅の改札を出た俺たちは、高校3年生の上の弟に出迎えられた。

「どうした? 来るなんて聞いてなかったのに」
「どうせバスの定期券があるし。それに……ほら、荷物とか多かったら持ってあげよっかなって」

弟はそう言いながらも、俺の隣にいる人をちらちらと見ている。

「はじめまして! 弟さん?」
「は、はい! はじめまして……」

そう、わざわざ駅まで来たのは「彼女」をひと足早く見たかったのだろう。

「それじゃ、私のカバンを持ってくださる?」

そう言って、手持ち無沙汰にしていた弟に荷物を預けた。なかなか人を使うのが上手い。

*

「兄ちゃんとはいつから付き合い始めたたんですか?」
「付き合い始めたのはつい最近かな。友達として遊んだりはしたけれど」
「それじゃ、クリスマスは何してました?」
「ふふ、内緒♪」

後輩はバスの中で、弟からの質問攻めを適当にいなしている。失礼なことを言ったらひっぱたいてやろうかと思ったのだが、その必要はなさそうだ。

「そういえば、お姉さんは帰省しないんですか?」
「うちのほうは実家が近くて、しょっちゅう帰ってるからね。それに今年は妹も友達とお泊まりに行ってるから」
「その友達、実は彼氏だったり?」
「さあ、どうでしょうねぇ」

やれやれ、「お姉さん」か。あっという間にすっかり馴れ馴れしくなってしまった。彼女のほうもまんざらではなさそうなのだが。

*

「おかえり! ねえ兄ちゃん、ミートソース作ってよ」
「俺はエビチリが食べたい!」

家に帰るなり、弟たちが次々にリクエストをする。俺は作った料理の写真を家族グループに共有しているので、何を作れるかはよく理解している。

「おいおい、今日は年越しそばじゃないのか?」
「それは夜じゃん! 俺たち、兄ちゃんのパスタに期待して昼飯はまだなんだから」
「うーん。別に構わないけど、今から材料買ってくるのか?」
「それなら大丈夫よ、もう用意してあるから」

母に言われて冷蔵庫を開く。年越し用のそばや天ぷら、正月料理の材料などに混じって、確かにひき肉やむきエビがある。豚の軟骨もあり、これは父のリクエストだろうか。

「そうそう、お父さんは今日が仕事納めだから夜に帰ってくるからね。ソーキ……だっけ、沖縄の煮豚をリクエストしてたわ。お蕎麦に乗せて食べたいって」
「それも美味そうだなぁ。それじゃ、何から作ろうか……おい、お前らも手伝え」

俺は弟たちに声をかける。

「先輩、私も手伝いますよ」
「頼んだ。こいつらだけじゃ不安だからな」
「はぁ? 俺だって料理くらいできるし!」

そう言いながら、弟たちはバタバタと手洗いなどの準備を始める。

「私も、手伝ったほうがいいかしら?」
「いいよ、母さんは今日くらい休んでなって」
「お客さんに料理させるのは悪い気がするけど……たまにはお言葉に甘えようかしらね」

実家の広い台所が賑やかになる。その中心に俺がいるというのがちょっと不思議な感覚だった。

***

ミートソースとエビチリは2人前ずつ作ったのだが、弟たちはあっという間に完食して遊びに出かけてしまった。母も夜の御札焼きの準備で近くの神社に行ってしまったので、居間には二人だけが残された。

「まだ決まったわけじゃないけど、卒業したら地元で働くことになると思う」

俺はみかんを剥きながら、隣合わせでこたつに入っている後輩に改めて話しかけた。来年で大学4年生になる。順調にいけば卒業して就職だ。親戚に紹介された地元の会社には夏に訪問して以来、やり取りを重ねている。まだ正式に内定されたわけではないのだが、向こうとしては雇う気でいるようだ。正月明けにも再訪する予定である。

「私は何も言いませんよ。先輩が決めた道なんですから」
「地元に戻ったらあんまり会えなくなるけど……それでもいいのか?」
「大丈夫ですよ。たった1年じゃないですか! 私も卒業したら追いかけますので。……そしたら、ずっと一緒ですよね」

俺の肩に頭を擦り寄せて、いつになく甘えてくる彼女の口に、返事代わりにみかんの房を入れてやるのであった。

*****

日曜の昼は後輩女子にパスタを作る

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