IRREGULAR~異世界人しか出てこねえ異世界モノ~

陸一 潤

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2:迷い犬と雨のビート

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※※※※

「……んむ」
 瞼の裏側で、夢の残滓を纏いながら、意識が浮上する。手足の肌に、弾力をもった寝台のざらついた感触。夜明けの直前、ひんやりとした夜気の名残り。寝汗か湿気によるものか、さだかではない水分が、皮膚の表面に纏わりついている。
 寝起きは良い方だが、顔や首のまわりに張り付くいくつかの髪がうっとうしい。

 呼吸のリズムにあわせて温い寝床から起き上がり、乱れた後ろ髪に軽く手櫛を通して、ざっくりと一本の三つ編みに結いなおす。
 ぼくが生まれた一族は、男女関係なく、後ろ髪を伸ばすことが慣例である。
 髪ゴムなんて無い。量が多く硬めの髪質で出来上がる三つ編みは、しめ縄みたいに太くて、自分で結えるようになるまでには苦労したものだ。
 寝巻代わりの甚平に似た下着の上から、山吹色の上衣を被り、三つ編みを掬い出し、襟をあわせてボタンを留め、琥珀に似た蜻蛉玉がついた飾り紐を首にかけ、鎖骨の位置になるよう調整しながら結んで。……完成。

 窓から差し込む朝日の青い影。
 鏡に映ったのは、アジア調の民族衣装を着た今の『ぼく』。
 性差がまだ無い幼顔に、黄色の瞳と茶色の髪。
 小動物の子供を想起させる大きな瞳が特徴の、一族としては平均を汲んだ薄い顔立ち。遺伝子的にも前世より小柄な体。
 まったくの別人なのに、カテゴリ的にはどこかが被っている気がするこの姿が、今生においてのぼくである。

「おはよう。ニル」と、台所からぼくの名前を母が呼ぶ。
 続けて、葱を片手に勝手口から顔を出した姉が、出勤前の最後の朝支度を終えた姉が、食卓で眠そうに白湯を啜る朝帰りの姉が、それを「だらしない」とドヤす祖母が、ついでに置物にように食卓の隅にいる曾祖母が―――――。
 曾祖母・祖母・祖父・父・母・姉・姉・姉・姉。そしてぼく。
 今のぼくの家族には、女性が多い。

 ここに生まれて、もう12年。
 何度夏が来ても、ぼくの中にある14年は減りもしないし、増えもしない。
 夢だとか妄想だとか、そう断ずるには、ぼくの記憶は、知識は、経験にともなう感情は、現実が伴った形を成していた。
 幸いにも、この世界では『転生(うまれかわり)』を否定していない。むしろ前世よりも、真面目に科学的な研究がなされていると言っていい。
 でもぼくは、この記憶のことを誰にも明かさないまま、この12年を過ごしている。

 前世の感覚でいうなら、今年で小学六年生。
 あと五ヶ月―――――ぼく、ニルは、この冬で『成人』となる。

 ※※※※

「――――ふっ! 」
 手にした修練用の棒が、降り注ぐ水煙を半円を描いて横に切り裂く。
 空は明けの群青色。今日もこの国には、晴天の空に霧雨が降っている。
 泥濘(ぬかるみ)をならすように、摺り足で方向転換しながら、肘の位置を上下に。
「――――はッ! 」
 地面と直角に武器を持ちかえ、そこから石突を跳ね上げる。間髪入れずに、跳ね上げた姿勢からの突き。
 踏み込みによってピシャリと泥が跳ね、それを合図にしたかのように、静寂に響いた三度の柏手がぼくの動作を止めた。
「今日はここまで! 」

 鉦(かね)を鳴らしたような声に、空気が一瞬張り詰めて解ける。
 押し込められていたものから解き放たれたような清涼感。
 目の前にいた『仮想的』が消え、かわりに、左右前後ろに同じような背格好で泥にまみれた子供たちが目に入るようになる。僕も同じようなものだろう。みんな戻って来た『日常感』に、安堵にも似た息を吐いていた。
 総勢21人の教え子たちの視線を受ける師範代は、剃り上げた頭に鮮やかな朱色のターバンを巻き、皺の中に埋もれた瞳はいまもなお鋭く、鍛えた肉体は小柄ながらも猟人の鏃(やじり)のように研ぎ澄まされている。肩口で東風になびく朱色は、かつて若かりし頃になびかせた髪色と同じ色彩である。師範は子供たちが一息ついたのと、雨脚がいったん止まったことを確認し、そのまま口を開いた。

「……あと五ヶ月」
 『解散』の号令を待っている弟子たちに向かって、師範代が口を開いた。

「あと五ヶ月です」
 師範代は繰り返す。
「これが意味するもの。大人になるということ。親元を離れる者。故郷から旅立つ者もいるでしょう。家業を手伝う者。とく主だった環境の変化は無いという者もいるはずです」

 子供たちはおずおずと顔を見合わせ、該当する級友を連想し、あるいは、何かを呑み込むように口を結び、師範の言葉に耳を傾ける。
「……大人になるということ。経験から述べますと、これ自体には、あまり変化は無いのです。人は、とつぜん偉くなったり、天啓のように技術が授けられるわけではございんせん。その人ごとの経験と、積み重ねた研鑽。それを評価し、働きと責任に応じた報酬が得られる。どのような仕事であっても、それは変わりません……」
『業(わざ)は和の内に在る』が口癖の師範代は、もはや切れ目のようになった唇から明瞭な声で、さらに続けた。

「ここに集う者には、さまざまな生まれのものがいます。お金持ち。貧乏人。武の家のもの。華の道の家のもの。職人の子。酒屋の子。商人の子の中でも、大家のものもいれば、行商の家の子……」
 呟くように挙げられた『生まれ』に、子供たちはいくつかの同級生を連想する。でもぼくの家族のことは、ここでは上げられなかった。
「……世の中には、さらにたくさんの者がいます。一目で人の心もちは見透かせません。邪なこころを持ち、人の対価を掠め取ろうとするものは、ごまんとおります。面の皮ひとつにおいても、様々おりましょう。『異世界人』は、とくに」
 そこで師範代は、初めてぼくの顔を見て言った。

「……目が一つのもの。手が何本もあるもの。首が四つあるもの。全身が口になったもの。それぞれが、あなた達と同じように、故郷(くに)において食べ、暮らし、眠り、その体で生を受けます。普通は、同じ姿をしたものたちが、同じように生きている。そういう世界が大多数なのです。そして『異世界人』は、大多数がそういう世界から来ている。彼らからしてみれば、我々のほうが不可思議な存在であります。あなたたちは、奇跡のように稀有な暮らしをしている自覚を忘れてはなりません。あなたたちは常に、彼らについて考え続けなければならない」

 向けられた師範の視線に、ぼくは、しっかりと頷きを返す。

「『管理局』のひとたちにも、恐ろしいひともいるでしょう。不親切なものも、悪人というものもいる。……しかし、悪とは何か? これは難しい。なぜならば、誰であっても、『悪』の路は拓かれているからです。では、『正しき』とは何か? ……その答えも、実に難しい。なぜなら、あなたは一人しかいないから。あなたの『正しさ』は、あなただけのものだから。その『正』が、自分以外の誰かと一致したとき、あなたの『正』は『義』の文字を得るのです。世の中には、『義』を得られないまま自身の思うがままに『正』を貫き、気が付けば『悪』となっていた……そんなことも、少なくはありません」
 師範代は、皺の奥からジッと弟子たちを見た。

「『正義』を見極めるすべは簡単です。たくさんのものを知り、たくさんの人の声に耳を傾け、心を平和にすること。心の平和は、余裕を産みます。そして心の平和とは、日々の鍛錬によって築き上げられるものです。日々の鍛錬とは、食べるべき時に食べ、眠るべきときに眠り、毎日新しいことを知る努力をし、そうして知恵を蓄え、すべを蓄え、戦うべきときに備えること。もし、あなたたちが不幸にも肉体が損なったとしても、鍛え上げられた精神は、肉体の欠損を補います。大人になるということは、財産をもつことが許されるということ。財産となるものを受け入れる器の大きさは、出生、素質、環境などにより、人によって異なります。わたしは、あなた達の『器』を大きくするためのきっかけになる技能を、いくつか授けたつもりです。ぜひとも、たくさんの財産を蓄えてほしい。時の流れの速さだけは、すべての人が平等なのですから」


 ※※※※


 帰り道。この早朝の修練も、今日で最後かと思うと感慨深い。
 ぼくは三日後、『管理局』へ奉公へ出る。寮に入るので、3歳から通ったこの塾も卒業なのだ。
 この時期、区切りとしてそういった子供は多い。ぼくは今年最初の卒業生なので、師範は時間を取って説教をしたのだろう。
 といっても、郊外にある実家から中央にある寮へ移るだけなので、距離にして5㎞圏内に塾も入ることになる。行こうと思えば、いつでも顔を出せる距離だ。

 この国の『塾』は、むかしの『寺子屋』のような扱いで、多くの子供は地域にいくつかある私塾の中から、学びたい分野を教えてくれる塾を選んで毎日通う。勉強に割ける時間や、求められる知識技能はご家庭で違うので、だいたいが朝から日暮れまで門戸を開けていて、午前の部と午後の部があり、生徒はいつ登校しても良い。
 うちの師範代は学者兼、僧侶兼、武術家兼、文化人……というような人で、寺院の修行にも似たかなり緻密なカリキュラムを組んでいる。夜明けとともに門が開き、陽が昇りきるまで棒術や無手格闘技の授業。時に瞑想や説教なども含まれる。さらに午前と午後に分けて、違う分野の座学を行い、夕方から日暮れまでの時間をまた心身の鍛錬に宛がう。
 たいがいの生徒が、早朝・午前・午後・夕方の四つに分かれた授業を二つから三つ選択し、空いた時間には家に帰り、家業を手伝ったり、別の塾にハシゴしたり、お金持ちの子なんかは家で家庭教師の授業を受けたりする。農家の子なんかは、早朝と午後を選択して、午前中は親と畑に出るようにするパターンが多い。
 ぼくの場合は、昼間に家に帰っても曾祖母の話し相手になるだけなので、早朝の鍛錬のあと一時帰宅して朝食を食べてから弁当を持って登校し、午前午後通しで座学をするというプログラムを選んでいた。この九年間、体調不良以外で、一度も早朝鍛錬だけは欠かしたことは無い。
 たいがいの子は、親が塾を選ぶけれど、ぼくは姉たちが通っていた塾ではないところを自分で選んだ。
 体を鍛えたかったのだ。前世ではとんと縁のないことだった。どうせ二度目のことだもの。『管理局』の存在もある。この先、何があるか分からないしね。
 まあ、健康のためにも損にはならないだろう。

 師範代の話にもあった通り、この世界は、大きく分けて二つの人種がいる。

 ひとつは、原住民であるぼく達『本の一族』。雰囲気としてはアジア系ドワーフ。平均身長は男女ともに150センチ以下。
 鮮やかな色彩の髪と瞳を持ち、勤勉にして賢明で、とくにモノ造りと薬学に精通する。主食は米と小麦、粟、稗などの穀物類。
 体は小さいけれど、その特性上、けっこう力が強い。ぼくでも100㎏のバーベルを持ち上げられる自身があるから、前世の常識で考えるとかなりの怪力といっていい。

 もうひとつは、『異世界人』……いや、彼らの言葉でいうのなら、『イレギュラー』と呼ばれるべきひとたちだ。例外なく『管理局』に所属する職員であり、ぼくら『本の一族』総勢808万7200人を守る楯である。


 だいたい1000年ほど昔、静かに暮らしていた『本の一族』は、『異世界人』の侵攻を受け、奴隷に堕とされた歴史を持つ。
 その侵略者たる組織の一つこそ、『管理局』と名乗る流浪の隊商集団(キャラバン)だった。
 最初は、異世界間旅行を確立させたいくつかの文明世界との間で、交流と共に未知のアイテムを物々交換するだけのものだった。
 しかし『異世界間を移動する』技術の漏出により、国家間の『貿易』は、やがて烏合の衆による、略奪・侵略・人身売買の温床として変化。数え切れない世界を巻きこんでの大市場に成長した。
 当時、1億人ほどいたといわれる『本の一族』は、市場において目玉となり、散り散りに売り飛ばされ、文化と尊厳と家族を失い、滅亡寸前まで追い込まれた。

 当時の『管理局』は、その市場では名の知れた大キャラバン。数々の強力な能力を持つ異世界人を抱え、仕入れ量も段違い。金を落としては稼ぐを繰り返す指折りの商売人たちでありながら、傭兵の一面も持ち、異世界市場を確立させた立役者でもあった。

 今の管理局は、『本の一族』と約定を交し、共生生活を送る関係だ。現在、まったく逆の活動をする組織である。
 異世界人……イレギュラーによる侵攻を阻止し、また、望まずして異世界の地を踏んだ人々の保護も行う。
 各世界で蒐集したアイテムを研究し、量産することで、隊員たちの活動と、ぼくらの生活に役立っている技術も数多い。

 では、なぜその『管理局』が、今『本の一族』を守っているのかというと、これにもまた一つの壮大な物語がある。


 『イレギュラー』は管理局の造語だ。一度別の世界の土を踏んだ存在は、もう故郷には戻れない。その世界にはその世界の法則があり、そこから弾きだされた存在は、その環境に適合してしまっている。戻ったとしても、その世界の自浄作用が働いて、異物は弾きだされるだけ。
 彼らは総じて故郷を失くしている。だから『異物』。『イレギュラー』と名乗る。

 『本の一族』は、そんな『管理局』に土地を提供した。つまり、『第二の故郷』となる拠点と、そこで待つ故郷の朋となる同士を。
 もちろん歴史は綺麗なばかりではない。管理局という組織の在り方の反転と、今の平和が築かれるまでの紆余曲折は、多くの犠牲の屍が積み重なった道である。
 けれどそれは、今話すには少し文字数が足りないだろう。

 ぼくの家族は、代々、『管理局』の活動の近いところへ食い込んだ仕事をしている。
 曾祖母は長年管理局の食堂で働いていたし、祖父はアイテム管理の仕事をしていた。祖母と父は、職員と共に何度も異世界の地を踏んだし、四人の姉たちもそれぞれアイテム開発や、開発部から卸売の商店を独立して営んでいる。
 古い家だと、いまだに『イレギュラー』を侵略者だと言って差別することもあるけれど、ぼくの家はずっと昔から、そうして『管理局』と接してきた。ぼく自身もまた例外ではない。

 師範はああ言ったけれど、街を歩く人々を見れば、ぼくらと同じような姿をしている人のほうが多いのだ。ちょっと耳の形が違ったり、手足の数が違ったりするけれど、それをいうなら『本の一族』のほうも、前世の感覚からしてみれば、青や緑、ピンクなんて、およそ人体色素に含まれていないドギツい色を持って生まれた人も多い。ぼくの地味な髪色なんて、逆に珍しいくらいだった。

 濡れた青灰の瓦屋根が、水色の空を反射して藍色に輝いている。
 道の両端は、建物から伸びた色とりどりの庇(ひさし)が雨除けになっていて、多くの通行人がその下を頂戴して水分から身を守る。軒下に露店を開いているところも多く、毎日がお祭りみたいだ。車の往来が無いからできることだと思う。
 この国では、通行の多い街道になるとだいたいこんな感じで、露店を開いている顔ぶれを見れば、異世界人もかなり多い。
 故郷の味や、自作のアイテムは、管理局の申請が通ればこうして売ってもいいことになっているのだ。
 アルバイト感覚の小金稼ぎだったり、大きな商売の足掛かりのつもりだったり、いろんな人がいて、いろんなものを売っている。掘り出し物だって多い。
 初任給が出たら、何か買うのもいいかもしれない。

 そんなことを考えながら、自宅方面の小路へ舵を切ると、目の前がとつぜん真っ白で柔らかいものに遮られた。
 低反発の温もりに顔を強かに打たれ、ぼくは慌てて後ろへ飛びのく。
 肩に白い傘を携えたその女性は、小首をかしげて「あらぁ……」と、高い声で言った。すくめた肩のせいで、ふくよかに詰まった胸元に目がいってしまう。

「す、すみません! 」
「いいのよう。こちらこそごめんなさい。気にしないでぇ」

 少し身を屈めて、その異世界人の女性はやや間延びした甘い声で言った。レースのワンピースに白い帽子と傘をあわせ、ベージュの巻き毛が、やや丸顔の輪郭を縁取っている。にっこりとした口元に、そこだけペンが誤ったかのような黒子がぽつんとあり、ぼくは思わず見惚れてしまった。
「……あ、あの、ほんとうにすみません。ぼく、前、見てなくて……」
「ふふ……いいえ……じゃあ、またね」
 去っていく白い背中を、ぼくは時間を忘れて見送る。「アン! 」連れがいたのか、巻き毛の女性の後ろ姿を追いかけて、菫色の髪が曲がり角に消えた。

「また、ね……? って……」
 今さら顔が赤くなる。いや、いや、醜態を晒さなくて良かったのだと考えよう。逆光で透けた肢体の輪郭が目に毒すぎたのが悪い。うん。「また」というのも、言葉の綾に違いない。もしくはからかわれたのだ。
 うう……なんて恥ずかしい。

 ……なんて、よそ見をしていたのが悪かった。

「……っ! 」

 小さく息をのむ声。胸元の軽い衝撃。
「わわわわわわ!!! ご、ごめんなさーい!」

 不愉快そうに歪んだ眉根の下で、大きな瞳がぼくを睨んでいる。
 慌てて伸ばしたぼくの手を素直に取り、少女は服の埃を払う。腰に巻かれたレモンイエローのリボンと、瞳の紫紺以外は、頭の先から艶々の靴の爪先まで真っ黒な、異世界人の女の子だった。
 ぼくが慌てたのは、彼女の格好が糸くずひとつの解れも隙が無い仕立てのワンピースドレスだったことと、大きなカバンを携えた旅装だったことだ。

 転がった革のトランクを起こして差し出すと、目だけで頷いて受け取る。年の頃は、いくつか下だろうか。身長は同じくらい。さきほどの雨に降られたのか、湿り気を帯びた黒髪に、陽光が紫がかった光輪となって反射していた。色彩の明度が低いだけに、彩度の低い肌の白さが目立つ。

「あの……」
「ありがとうございました」
 口火を切ろうとしたぼくを切り捨てるようにお礼を言って、彼女はスタスタと後ろ姿をさらした。
 そして、さきほどの女性が消えた辻でキョロキョロと首を回し、離れていてもゆうに聞こえるほどの特大のため息を零し、通行人を避けて道端に移動した彼女はトランクを広げると、取り出した地図らしきものを難しい顔で睨んだ。
 ぼくは、逃げない黒猫にするように、うずくまって地図を睨む小さな背中へ近づく。

「……あのぅ」
 斜め後ろにしゃがみこんで声をかけると、振り返った彼女はアーモンド形の眼を丸くして瞬いた。彼女がほんとうに猫なら、瞳孔がきゅっと細くなるのが見える表情だった。
「そこに行きたいの? 」
 ぼくの控えめな問いかけに、きゅっと眉根を跳ね上げ、唇を小さく結んだ彼女はしっかりと頷いた。


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