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新たなる命題

第3話 新たなる命題『少女の願いと新たなる命題』

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 吾輩が現場監督にもらった『給料』という名の紙を握りしめて、道の端に倒れていたその時、吾輩の手からその紙を盗んでいく小さな人間がいた。

 吾輩は初めて味わう空腹感、飢餓感、エネルギー不足という感覚に、まさに転生したばかりですぐデッド・エンドになりそうだった。

 もう・・・終わりか・・・。まあ、最初に滅ぼされたときに終わったようなものだから、まあ言ってみればボーナスタイムのようなものだったか。

 

 これも仕方あるまい・・・。

 そう思っていた時、目の前に何やら人間の気配がした。

 (ん?これはさっき、吾輩の手から紙を盗んでいったやつだ・・・また戻ってきたのか?)



 「おじちゃん・・・おなかすいてるんでしょ?」

 (吾輩は最強の破壊神、シヴァルツ・シヴァイスなるぞ? おじちゃん?そんな不敬な呼び方をするでない!)

 声は出なかった。すると、何やら、吾輩の口から甘い液体が体内に流し込まれた。

 ん!!? あれ?なんだかエネルギーが湧いてきたぞ。



 どうやらこの世界では破壊エネルギーの回復が、つまり吾輩自身の無限回廊から補充されるのが異常に遅い。魔法力のもととなる魔素がないからか。

 魔素を吾輩の体内の無限回廊にて吸収し、その魔力を純粋な破壊エネルギーへと変換する。魔法力は破壊エネルギーが回復すれば自然と充填される。
吾輩は破壊エネルギーの力で生きているのだ。

 だが、その代わりに体内にエネルギーの代替となるものを摂取すると、無限回廊が動き、破壊エネルギーが補充され、魔法力も回復するようだ。

 つまり、人間や他の動物のように吾輩も、食物いうものを摂取する必要があるということか・・・。

 

 「おじちゃん?大丈夫?」

 「む!吾輩はおじちゃんなどではない。最強の破壊神、シヴァルツ・シヴァイスなるぞ!」

 「しばおじちゃん、これも食べていいよ?」

 ふと、目の前の人間を改めて観察すると、小さな少女で、まだ12、3才くらいか。みすぼらしい服を来ているな。

 まわりにさっきまで見ていたヤツラの服装より、ちょっと汚らしいというか・・・。貧しいというやつだろうな。



 その少女が差し出してきているのが、なんだか、植物の実で固められ、その周りを海洋植物で巻いた三角のものだった。

 「ふむ、毒ではないようだな?まあ、吾輩に毒攻撃は無効だがな。」

 「しばおじちゃん、面白いね!これはコンビニで買ってきたおにぎりだよ?」

 吾輩はその『鬼斬り』というやつを食べた。うーむ、こうやって食事をするのは何千年ぶりだろうか。必要がないことをする必要はなかったからな。



 「むむむ・・・!!これは美味い!なんだ、この『鬼斬り』というやつは!鬼もこれで倒される・・・そういうことか!?」

 「ほんと、変な人だね。ふふ。いっぱい食べていいよ?っていうか、これしばおじちゃんのお金で買ってきたんだよ。」

 そういって、ちゃっかり少女は自分の分も買ってきていたようで、一緒に『鬼斬り』を食べ始めた。

 むしゃむしゃ差し出されるだけ食べた吾輩は、この『裂け鬼斬り』が特に気に入った。

 おお・・・。エネルギーがみるみる回復していく。魔法力もマックス値の四分の一くらいにはなったな。

 吾輩の無限回廊の回復力は、超速なのだ。




 「吾輩の名は最強破壊神、シヴァルツ・シヴァイス。自分が善なのか悪なのかそれすらもわからない。だが人間の少女よ。お前の名は何という?」

 「あたしは名瀬・菜乃花(なぜ・なのか)だよ。みんな、ナノカって呼ぶよ。でも、しばおじちゃん、破壊神って何?」

 「ふーむ、まあ、おじちゃんでもいいわ、もう。破壊神とはこの世の何もかも破壊することのできる最強の存在のことだ。」





 

 「へえ。すごいんだね。しばおじちゃん。」

 「そうだ。吾輩に破壊できないものなどなにもないのだ。すごいだろ?」

 「でも、しばおじちゃん。何でも破壊できる神様なら、お願いしたいことがあるよ。あたしはどうしてこんなに貧乏なのかな。親もいないし。
この世界になぜこんな不平等があるの?この世の中の不平等、貧困という悲しくて理不尽なことをぶっ壊してほしいよ。」

 「な・・・!? なんだと・・・。この世の貧困、不平等という理不尽さを破壊せよ・・・そう申したか?」


 「うん。あたしの孤児院の院長先生が言ってた。この世は不公平で、貧困問題はなかなかなくならないって。理不尽な世の中に負けちゃダメだよっていつも言ってるんだよ。」

 「むむむ・・・。吾輩に・・・吾輩に、破壊できないものなど、あってはならんのだ。なぜなら、吾輩は最強の破壊神だからだ!」

 しかし、吾輩は今まで、物理的な破壊は確かにその本能に身を任せ、何でも破壊してきた。

 人間どもの住まう王都も、龍の住まう龍神の巣も、エルフの住まう大森林も、魔王の支配していた巨大な山も全て吹き飛ばしてやったことはある。

 

 しかし、この眼の前の少女の我輩に突きつけてきた命題は、抽象的なもの・・・概念そのものの破壊方法をいまだ吾輩は知らない。

 「ふは・・・ふはは・・・面白い!人間の少女・ナノカよ!吾輩に新たなる命題を突きつけるか・・・。やってやろうではないか。吾輩はこの世界での新たなる目的を得た。」

 「ほんと!?すごい!しばおじちゃんってすごいんだね。」

 「んん? そうか?そうか。わっはっは。人間の少女・ナノカよ。吾輩はお前と契約をしよう。名瀬・菜乃花、お前のその破壊願望・・・、
吾輩が最強破壊神シヴァルツ・シヴァイスの名において必ず果たして見せよう。」



 こうして、吾輩はこの名瀬・菜乃花という少女と魂の契約をかわし、新たなる命題をこの世界で果たすこととなった。

 とりあえず、この世の中を知らずして、何もできない。吾輩は少女とともに、少女の『コジイン』とやらに一緒に行くこととなった。



 「あ、これ、しばおじちゃんのお金だよ?でも、こんなにお金持ってるのに、なぜ、あんなところで倒れてたの?」

 「ふむ、この紙切れはお金だったのか?お金とは金属の貨幣のことではなかったのか。『キュウリョウ』とかあの人間の男が言っておったな。」

 「へえ、お給料だったの? しばおじちゃん、お仕事してたの?えらいね。」

 「んん?そうかそうか、吾輩はえらいか?そうかそうか、わっはっは。」



 生まれ出でて何千年、忌み嫌われ、すべての者達から敵対視されてきた最強破壊神は、褒められ慣れてなかった・・・。

 こんなに真っ直ぐに褒められて、最強破壊神はただただこの少女を気に入ってしまったのだった。



 そして、孤児院『救世会』にたどり着いた。

 菜乃花と一緒に孤児院の中に入ると、孤児院には十人くらいの子どもたちがいた。


 院長先生の名は、矢佐柴・アーサ(やさしば・あーさ)。貧しい孤児院をたった一人で経営している。
アメージングリッチ国人とジャポン国人のミックス。ただの優しいおばあさん。全てを受け入れて生きている。

 「あら、菜乃花。おかえり。おや?その方は?」

 「うん、このおじちゃんは、しばおじちゃん。菜乃花が倒れてたところを見つけたんだよ。」



 「吾輩の名は最強破壊神、シヴァルツ・シヴァイス。名前しか思い出せない・・・。自分が善なのか悪なのかそれすらもわからない。だが、この菜乃花とは契約をした身。まさに、菜乃花に吾輩は生きる道を与えられたのだ。まあ、命の恩人ということになるな。」

 「あらあら、菜乃花。いいことしたねえ。」



 「うむ、とりあえず、これを与えよう。吾輩はしばらくここで世話になる。」

 そう言って、吾輩は、あの現場監督の男からもらった『給料』をすべてこの院長先生に渡した。

 「え?こんなに!?30万円近くありますよ? いいのですか?」

 「かまわんぞ。そなたに任せよう。」

 「ありがとうございます。えーと、昴・司馬(スバル・シバ)さんでしたっけ?」

 「まあ、いいわ。名前など。この際、どうでもいい。じゃ、それでよろしくたのむぞ。」



 そうこうしていると、外から元気な声がした。

 「ただいまーーー!あのね、あのね。この人、困ってる様子だから連れてきたよ!」

 「あら、加羅我(からが)じゃないの。おかえり。その方、どうされたの?」

 「うん、外国の人みたいなんだ。でも名前は烏丸・欽さんって言うんだって! 何も食べてないみたいで、困ってたみたいで連れてきたんだ。」



 吾輩は、外から帰ってきた少年とその少年が連れてきた者を見て、びっくりしてしまった。

 その少年が連れて帰ってきたのは、魔族だったのだ。

 しかも、その緑色の肌、耳の尖った魔族特有の顔、吾輩に何回も祈りを捧げておったその姿は忘れもしない、まさに大魔王ラスマーキンその者だった。



~続く~


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