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赤の盗賊団

第26話 赤の盗賊団 『サタン・クロース』

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※エルフ国・周辺地図
 

 『世界樹共和国』、通称『エルフ国』―。その支配地域は主に大森林が広がっている地域である。

 大森林はその中を流れる川によって分断され、それぞれ、鉄の森ヤルンヴィド、ホッドミーミルの森、ヒーシの森、メメント森と呼ばれている。

 ホッドミーミルの森の外側には死の平野と呼ばれる平野があり、そこを隔てるように流れているリオ=グランデ=デ=ミトラ川の南に円柱都市イラムがあった。




 そして、円柱都市イラムのちょうど川を越えたホッドミーミルの入り口付近に『ミトラ砦』がある。

 もともとは『エルフ国』の戦争の防衛線であった。そう、バビロン地方や『馬国』、『ヴァン国』ひいてはその向こうの『南北・帝国』、『海王国』との国境警備の砦であったのだ。

 だが、いつしか『エルフ国』は貿易立国となり、各国と貿易で栄えるようになり、いまやその砦もあまり意味をなさなくなっているようだった。



 かつて『海王国』と『エルフ国』の大戦争、『エルフカイマキア(森水争乱)』の際には、この『ミトラ砦』は国境守備の前線基地となり、レッドキャップ種族がここでその生命をかけて戦い防衛したのだった。

 レッドキャップ種族は妖精族・エルフの英雄となり、のちのちの世までもその勇は語りぐさとなった・・・。

 が、時の情勢は変わり、今や『エルフ国』は戦争より、経済・貿易が主軸。はやばやと商才を発揮したネイチャメリカ種族や、ノヴァステカ種族などが今やその隆盛を極めている。

 レッドキャップ種族はその武の勇はあれど、商売には長けてはいなかったのだ。



 まるで落ちぶれた名ばかりの名門貴族のように、いつしか食うものにも困窮するようになっていったのは自明の理であった。

 飢えて死ぬ者も毎年のように出るほど種族は存続の危機を迎えていた。

 そんな中、レッドキャップ種族の中に、突然変異なのか身体が大きく、非常に力の強い男が生まれたのだ。

 その者の名は、サタン・クロース。



 もともとは非常に気の優しい青年であった。

 レッド・ノーズは獣人とレッド・キャップの混血児であったため一族でも浮いていた存在だったが、サタン・クロースは唯一そんな彼をかわいがってくれた存在であった。

 また、一族の狂気、鼻つまみ者とされていたレッド・マントもサタン・クロースにだけは逆らうことはなく、サタン・クロースも彼の面倒をよく見ていた。

 そんな風に種族の誰にも優しさを示すサタン・クロースの人望は高かったのだ。

 だが、彼がやがて結婚し、子を二人為し、そして、食べ物に困ってその妻が死んだ時、彼は変わった。

 「どうして・・・? 悪いのは誰だ? 悪い子はどこにいる? こんな・・・我はただ妻と子と静かに暮らしていたかったのだ・・・。」

 彼は世の中の不条理に、理不尽さに、怒り、その身を闇へと落としたのだった。



 「我が子だけは守らねばならね。どして誰も助けてくれねんだ? 許せねぇ。」

 彼は闇の魔王サタンの名を、自身の名とだぶらせ、そして、悟ったのだ。天は自ら助くる者を助くのだ・・・と。

 そして、レッドキャップ種族の村長、レッド・キャプテンも飢えに苦しむ種族の行く末を案じ、どうしようもない苦しみに囚われていた。

 また今年も飢えて死ぬ民が出る。他の種族に食料を分けてもらおうと頼んでも、金がいる。そして、村に金はもうない。





 そんな中、事件が起きた。

 サタン・クロースが、たった一人で近隣の村を襲い、その村のすべての住民を惨殺し証拠隠滅を図り、食料を奪ってきたのだ。

 レッド・キャプテンは、サタン・クロースに種族の命運をかけるしかない、そう思ったのだった。

 ある日、レッド・キャプテンは種族のみんなを集めてこう宣言した。



 「今日ここに集まった皆の衆、我がレッドキャップの新しきリーダーは、サタン・クロースじゃ!」

 レッド・キャプテンはそう言い放ち、レッド・マントやレッド・ノーズは大いに喜び歓声をあげた。

 こうして、『赤の盗賊団』という強盗集団が誕生したのだった。

 レッドキャップ種族は全員、この新しいリーダー、サタン・クロースの配下となった。




 その後、バビロン地方を通る商人や旅人が次々に襲われ、襲われた者のほとんどが殺され、周辺の民はこの容赦なき盗賊団を『赤の盗賊団』と呼び、恐れたのだったー。




 『カーズ法国』、人口は10億人を越え、その首都『アーカム・シティ』は1500万人の人口が集中するメガポリスである。

 『カーズ法国』は、貴族と下級民に分かれており、貴族は超英雄族であり、かつての大戦を生き抜いた種族の子孫たちであった。

 下級民のほとんどが人間種で占められているが、一部、別種族もいるらしい。

 そんな『アーカム・シティ』のオリュンポス執政院に、一人頭を抱えて悩む男がいた。



 ヘルメス・トリスメギストス。三重に偉大なヘルメスと呼ばれるヘルメスは、この『法国』の執政院委員の一人、国土交通大臣だ。

 彼は泥棒と商業、発明や伝令の司る者でもあった。

 いち早くバビロン地方でその被害が拡大している『赤の盗賊団』について危機感を覚えていた彼は、イラムの都市長シバからの伝令を受け取り、その対策に頭を悩ませていた。



 『法国』にとってもバビロン地方は交易の相手として非常に重要な位置を占めている。

 が、『エルフ国』と揉め事を起こすのもまずい。『エルフ国』は黄金都市などとこちらも非常に交易が盛んであり、『法国』経済においてなくてはならない相手であった。

 その対応策を検討しようとして、防衛大臣のパラス・アテナに相談したのが失敗だった。



 「なら、わたしが出向こうではないか! 任せてくれ!」

 「いや、アテナ。君はこの国の顔と言ってもいいくらいの存在だ。しかも防衛大臣だろう? 君が留守にしたら『法国』の防衛はどうするんだ?」

 「ふっふっふ。安心しろ。アレス・ウォール・カタストロフィアスのヤツにすでに頼んであるゾ!」

 「アレスか・・・。いや、ヤツに防衛が務まるのか? むしろ守るべき城壁を破壊してしまうだろ!?」



 「大丈夫。大丈夫。ヘルメスは心配しすぎなんだよ。」

 「アテナ・・・君が常に前線に出ようとするのは・・・やはり、パラス・トリトーンのことがあるからか。もう自分を責めるのはやめてもいいんじゃないか?」

 「言うな!! ヘルメス! いくら卿でも、それ以上言ったら承知しないゾ!!」

 「あれは事故だったんだ。いい加減、自分を許してやれよ。」

 「ヘルメス!!」

 「・・・。わかったよ。アテナ。君の好きなようにしろ。だが、グラウコーピスとエリクトニオスも一緒に連れて行けよ。君に万が一があっては困る。」

 「承知した。すまんな。ヘルメス。」





 「ああ、我が偉大なる姉よ。願わくば君の心がいつか晴れることを思う。」

 「ヘルメス。卿は本当に可愛い我が弟だよ。」



 アテナたちはこうして円柱都市イラムへ向けて旅立ったのだったー。







 ところ変わって、どこかの暗い部屋ー。

 荘厳な部屋の装飾に似合わないのは、蝿が無数に飛んでいることだ。

 蝿の数は異常なくらい多く、その羽音がうるさいくらいだった。



 その中に赤い衣服と王冠を身につけた騎士がひざまずいていた。

 声だけが響く。

 「して、ベリトよ。『法国』は気がついておるか?」

 「は!気がついております!」

 赤い衣服と王冠の騎士はそう虚空に向かって返事をした。



 「おっと。忘れておったわ。」

 声がまた響いた次の瞬間、無数の蝿が一点に集まり、人の姿へと変わる。

 炎の帯を額に巻き頭には大きな角が二本ある。足はアヒル、尻尾は獅子、全身が真っ黒の豹の姿であった。
顔は眉毛はつりあがり、目をぎらつかせていた。 賢王にふさわしい威厳ある姿である。

 その賢王は指輪を一つ取り出し、自らの指にはめる。




 「ではいま一度尋ねる。『法国』は気がついておるか?」

 「まだ気がついていませんね・・・。我らの計画は順調かと。」

 赤い衣服と王冠の騎士はそう目の前の賢王に向かって返事をした。

 「ふむ。で、あるか。引き続き、作戦を潜行させよ!」

 「は!皇帝陛下!」

 騎士は去っていく。

 その後、またその賢王たる皇帝は、無数の蝿に別れ、散開するのだったー。



~続く~

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