上 下
158 / 256
七雄国サミット

第146話 七雄国サミット『謎の闖入者』

しおりを挟む
 「では、ジンについては、後見役を『龍国』に任せ、『海王国』『法国』の2カ国が準後見役とすることで異論はないか?」

 フォルセティがみんなに問いかけ、確認する。

 「我が『エルフ国』はバビロン地域の支配権を放棄する。ゆえに、禁呪使用の件、ナナポーゾの不始末については、個別の罰を与えるということでよろしいな?」

 タイオワ長老が『エルフ国』の責任の所在を明確に宣言した。


 オベロンは心の中でホッとしていた。

 領土は守られた上に、実質関係のないバビロン地域の権利を譲るといった机上の空論で、いかにも譲歩したように見せたタイオワの手腕に舌を巻いた。

 さすがは、老獪なネイチャメリカ種族の長老だな。



 「ぬぅ……。まあ、準後見役ということでよかろう。それと、サファラ砂漠の開発の件は我が『海王国』が手掛けるということでよいな?」

 ハスターはバビロンの準後見役を認める代わりに砂漠エリア進出を許諾させたのだ。

 「やるなぁ。ハスター。君の思い通りの結果になったのかな?」

 「ふふ……。まあ、よしとしようか。」

 ニャルラトホテプも素直にハスターの手際に感心したのだ。



 「うむ。『法国』としては、それでかまわんぞ。」

 「ええ。ゼウス閣下。」

 『法国』のゼウスもヘルメスも賛同の意を示した。


 「まあ、好きにするがいいわ。だが、『巨人国』としては今後、禁呪の使用の監視役を『エルフ国』に派遣するがよいな?」

 ウトガルティロキが無理矢理感があるが、『エルフ国』に釘を刺す。

 「まあ、よかろう。」

 タイオワもここは飲んでおくようだ。



 「ならば、『幕府』も監視役を出すとしようではないか?」

 「うむ。それは『帝国』と合意のものでという判断でよろしいか?」

 「そうじゃなぁ。『帝国』としても将軍閣下に任せようと思うぞ。」

 ブラフマーの賛同も得て、ヴァイローチャナがニヤリと笑う。


 「それに、『海王国』が砂漠の開拓をするというなら、我が『幕府』も南方の蛮族・火竜どもを討伐するが良いな?」

 ここにきて、どさくさに紛れ『南部・幕府』が南方の『火竜連邦』へ侵攻する旨を述べたのだ。


 「いやぁ? それはいけないんだなぁ。ねえ? フォルセティ?」

 ロキが異を唱えた。

 「そうですね。『火竜連邦』は『七雄国』ではないが、正式な国家です。先に侵略されたなら自衛の戦いとして認められますが、侵略行為は許すわけには行きません。」

 フォルセティがここはきっぱりと否定の意を示したため、ヴァイローチャナ将軍もおとなしくここは引き下がった。



 「我が『地底国』は異論ないぞ。」

 残る『地底国』も異論なしということで、決定になる。

 「我が『龍国』としては、東方都市『キトル』へ、このマルドゥクを派遣し、地域の発展に努めようぞ!」

 「おまかせください!」

 アヌ龍王がそう言って、マルドゥクもそれを受ける。



 「よって、冒険者『ルネサンス』のジンを新たなるSランク冒険者に認定とし、そのパーティ『ルネサンス』もSランクとすることを認めよう。」

 フォルセティが声高らかに宣言した。


 「「おお!」」


 パチパチパチパチパチパチパチ……


 みなの拍手が鳴り響く。

 そして、拍手が止んだ。



 だが、みなが拍手を止めたにも関わらず、ひときわ大きな拍手がこの『ヘスティアの炉』の扉のほうから聞こえてきたのだ。


 パチ……、パチ……、パチ……!


 「おめでとう! 会議は終わったかね?」

 全身黒い服で包まれた謎の男である。


 「「誰だ!?」」

 一同が身構える。



 一瞬、この暗黒の男がニャルラトホテプの闇のデーモンではないかと疑ったハスターは、隣を見たが、そこにニャルラトホテプはちゃんといる。

 つまり、あの謎の男は正体がわからないということだ。



 「世界の首脳の方々、これはこれは久しいなぁ?」

 その男が話しかけてくる。


 「ヘルメス……。」

 「ええ。ゼウス様。ヤツからは魔力を感じません。」

 ゼウスがヘルメスに確認するが、やはり魔力を感じないようだ。



 「ふふふ……。この男はただのヒトである。オセの呪文で余の精神を無理やりこの男に移したのだ。我が名はベルゼビュート! 魔界の皇帝である!」

 「なに……!?」

 「ベルゼビュートとな!?」


 その男が名乗ったのを聞き、一同は驚いた。

 魔界の者が公然と現れるのは実に数百年ぶりであったからだ。


 「オセの得意とする精神操作呪文『愛の喜び』か……。」

 「であろうな。ヘルメス殿。強力な魔族です。」

 「うむ。オセの魔力を受けた人間は、自分が王や教皇などであると信じ込んでしまう。ヤツも自分がベルゼビュートと信じ込んでいるのであろう。」

 「うーん。そうだねぇ。レベル8の精神魔法……、伝説レベルの魔法だよ。なかなかのものだねぇ。」



 ヘルメス、エンキ、タイオワ、ロキは『国際魔法使い協会』、通称『魔協』のトップ『24人の長老たち』の者である。

 さすがに魔法に詳しい。



 「余のいないところで、何をこそこそと話しておるかと思えば……。魔王のいぬまに選択……というやつか?」

 魔力は感じなくとも、圧倒的な帝王の迫力がそこにあった。


 「なにしに来たのだ? ベルゼビュートよ。おとなしく魔界に引っ込んでおるが良いわっ!」

 ゼウスが一喝した。



 「ふふふ……。我が『魔界連合王国』は、完全なる復活を遂げた。大魔王サタン・エルが蘇ったのだ。恐れおののくが良いぞ!?」

 「なにっ!?」

 「サタンが……!?」

 「あの大魔王サタンが!? バカな……。ヤツはシュオール(奈落の穴)の底、アバドンの氷の牢獄に囚われていたはず……!」

 「解放されたというのか……?」



 「今日はほんの挨拶だ! 今後、世界は闇の世界へと変わるのだっ!」

 そう言ったかと思うと、この男の身体がぶよぶよと気持ち悪く震えだした。


 「危ないっ!」



 ぼごわっ……


 男の頭が膨らんで破裂し、あたりに血を巻き散らかした。


 シュゥシュクシュゥゥ……


 『Oh when the saints,Go marchin' in,Oh when the saints go marchin' in.I want to be in that number,when the saints go marchin' in.』

 ヘルメスはとっさに闇を払う魔法『聖者の行進』の呪文を唱えた。

 何かの呪いの魔法を危惧してのことだ。



 しかし、なんともなかったようだ。

 「うむ……。おそらくは、オセの狂気にこの生贄の男の脳が耐えきれなくなったのであろうな……。」

 ハスターが冷静に分析する。



 「し……しかし、どこから入り込んだのだ!?」

 「厳重なセキュリティだったはず!?」

 みな一様にこの謎の男がいったいどこから入ってきたか疑問に思ったのだった。


 「本当にどこからなんだろうにゃぁ……?」

 「……おまえ……。……ふん、まあよいわ。」

 ただ、ハスターとニャルラトホテプだけは気づいていたようだ。



 「うーん。なんだか邪魔が入っちゃったみたいだけど……。会議の続きをやっちゃおうか? まあ、ほぼ決まってたみたいだけどね。」

 「そうですね。ロキの言う通りです。みなさま、今一度、席にお戻りください。」

 話がずれても本筋に戻すことができる、フォルセティは司会として優秀である。



 すると、そこへ、『法国』のニュンペー(下級妖精)が慌てた様子で入ってきた。


 バタン……!


 「緊急のご報告を申し上げます!」



 「どうしたのだ!?」

 「は! 『アーカム・シティ』にて複数の爆破事件発生っ!! 何者の仕業かは不明です……が、自らを『吸血鬼』と名乗っております!」


 「なんだと!?」




 『法国』のオリュンポス山のお膝元、首都『アーカム・シティ』で事件が起きることなど、数千年の歴史で初めてのことであったー。




~続く~

©「聖者の行進」(曲/アメリカ民謡 詞/アメリカ民謡)
©「愛の喜び」(曲:マルティーニ/作詞:ジャン・ピエール・クラリス)



しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ちびヨメは氷血の辺境伯に溺愛される

BL / 連載中 24h.ポイント:46,444pt お気に入り:4,961

女神の加護はそんなにも大事ですか?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:852pt お気に入り:5,455

獣人だらけの世界に若返り転移してしまった件

BL / 連載中 24h.ポイント:24,332pt お気に入り:2,044

最推しの義兄を愛でるため、長生きします!

BL / 連載中 24h.ポイント:34,344pt お気に入り:13,176

突然の契約結婚は……楽、でした。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:141,305pt お気に入り:5,182

孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話

BL / 連載中 24h.ポイント:60,372pt お気に入り:3,780

チートなんて簡単にあげないんだから~結局チートな突貫令嬢~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:226

不実なあなたに感謝を

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:84,981pt お気に入り:3,752

処理中です...