45 / 62
第6日目
第40話 到着6日目・朝
しおりを挟む私、ジョシュアとコンジ先生がこの『或雪山山荘』に到着して6日目の朝を迎えました。
この日は何事もなく、無事にみんなが朝を迎えている……はずでした。
というのも、アレクサンダー神父の『聖なる結界』を各部屋の扉に……、といっても、『銀の粉』を扉の外側に振りかけただけでしたが、それでも人狼の苦手とする物質であり、本能のままに動いている人狼にとって、苦手なものは避けるはずでした。
もともとはケダモノなのですから……。
何事もなく朝が来た……。
そう思っていたのも無理からぬ事でしょう?
メッシュさんも朝食は朝に用意せず、前日、作り置きして済ませるということにしていましたから、部屋の外にまだ誰も出ていないはず……。
私は腕時計で時間を確認した。
8時ー。
窓から見える外の景色は相変わらずの吹雪が舞い荒れていました。
窓から差す陽の光は強くありませんが明るくなっているのが感じられました。
「人狼の活動時間は終わったよね?」
私はそう思い、部屋の扉をそっと開けて廊下の様子を伺いました。
廊下もしんと静まり返っていて、特に何も変わった様子はありません。
とにかくコンジ先生の部屋をノックする。
コンコン、コココン……。
「ふむ。ジョシュア。君か? まあ、無事で何よりと言ったところだな。」
「コンジ先生もお変わりないようで……。」
「まあな? さすがに今日は人狼も何もしてはいまいよ。」
「私もそうと思いますよ。」
「人狼は所詮は野生の生き物だからな。外の世界に戻ったのやもしれん……。残念だがな。」
「コンジ先生ってば……。まだ人狼を捕らえることを諦めていなかったんですね?」
「あったりまえだろ!? それが目的なんだからさ。目的を忘れることは、愚かな人間にもっともありがちなことだ。……とかのニーチェも言っている。」
コンジ先生……、ホント、変わってますよね?
こういう『化け物』にしか興味ないのかしら……。
「わかりましたよ。じゃあ、メッシュさんのところへ行きましょうよ!」
「ああ。ジョシュア。君は早く朝食を食べたいだけだろう?」
「悪いですか? 健康な肉体は健全な食事から始まる……っていうじゃあありませんか?」
「君……。それを言うなら健全な精神は健全な肉体に宿る……だよ?」
私たちが部屋の外に出たところで、ジェニー警視がちょうど部屋から外に出てきました。
「やあ! おはよう! キノノウくん。ジョシュアくん。君たちも今起きたのか?」
「ええ。やはり、陽の光が出てから出なければ、安心とは言えませんからね?」
「そうですね。でもコンジ先生は人狼を捕まえたいんじゃあないのですか? なら、夜、行動されたほうがいいのではないです?」
「ば……、バカなことを言うなよ! ジョシュア! いいかい? 人狼にとって夜間は最も大きく能力を発揮できる時間帯なんだぜ? そこで争ってどうするんだよ……。人狼の正体をこの素晴らしい頭脳で突き止め、ヤツの苦手とする昼間の時間帯に捕まえるのが最も効率がいいんだよ。『君子危うきに近寄らず』や『瓜田に履を納れず』、『李下に冠を正さず』という言葉を知らないのかい? 原文は漢文で『君子防未然 不處嫌疑間 瓜田不納履 李下不正冠』という「古楽府」という中国古典詩にある『君子行』の一節なんだが……。まったく……。君ってやつは本当に浅はかなんだからなぁ。 ぜ……、ぜんぜんビビってるとかそういうんじゃあないんだからな!?」
「はいはい。わっかりましたよぉ!」
私たちはまず、同じ『右翼の塔』側1階のメッシュさんの部屋に向かいました。
メッシュさんの部屋の扉を私がノックする。
コンコン、コココン……。
「へい! どなたですかい?」
「メッシュさん! ジョシュアです!」
「ジェニーです! メッシュさん、無事ですか?」
「ああ。お二人いらっしゃるんですね。じゃあ、安心だな。ちょっとお待ちを……。」
メッシュさんは一人で誰かが訪ねて来たのであれば、部屋の扉を開けないつもりだった様子でした。
まあ、警戒するに越したこと無いですからね。
メッシュさんが部屋の扉を開け、顔を見せました。
「おはようございます! おっと! キノノウ様もいましたんですねぇ。みなさん、お揃いで、無事で何よりですぜ。」
「ああ。メッシュさん。あなたも無事のようで良かった。あなたの料理は筆舌に尽くしがたいほど素晴らしいのでな。またぜひしっかりとした料理を味あわせていただきたいからな。」
「そ、それはもう! もちろんですぜ!」
つか、コンジ先生、メッシュさん自身の心配より、メッシュさんの料理が食べられなくなることの心配をされてたんですか!
まったく……。
さすがはコンジ先生ですね。
いつでもブレませんねぇ……。
「ん……? なにか言ったか? ジョシュア。」
「え? いえいえ……。何も言ってませんよぉ!」
なんて鋭いのかしら?
心の中でも読まれたの!?
「キノノウくん。飯の心配よりまず、みんなの安否を確認しようじゃあないか?」
「おっしゃるとおりです。ジェニー警視。それを今、僕が言おうとしていたところですよ? You took the words right out of my mouth! ジェニー警視、あなたはシンクロニシティを引き起こしたのですよ? いいですか……? シンクロニシティとは、ユングが提唱した概念で『意味のある偶然の一致』を指し、日本語では主に『共時性』と訳され、他にも『同時性』もしくは『同時発生』と訳され場合もある。例えば、虫の知らせのようなもので因果関係がない2つの事象が、類似性と近接性を持つこと。ユングはこれを『非因果的連関の原理』と呼びました。……そこでですね……。」
「ああ! わかったよ。キノノウくん。みなまで言わなくていい……。」
どうやら、ジェニー警視もこの短い期間にコンジ先生の性格を掴んでしまわれたようですね。
私たちはそろって、次は同じ『右翼の塔』側の3階にあるシュジイ医師の部屋に向かいました。
シュジイ医師もやはり、メッシュさん同様に、複数の声が聞こえて初めて部屋の扉を開けてくれました。
「おはようございます。皆さま、お変わりなく良かったです。ん? メッシュ。怪我の具合はどうだね?」
「へぇ。まあ、痛みは少しありますが、まあ、大丈夫ですぜ。」
「何よりですな。」
「えっと……。スエノさんは……。」
「ジョシュア。おそらく彼女は自分の部屋にはいないよ。ジニアスさんの部屋だろうね。彼女と彼はもうそういう仲なんだよ。」
「あ……。コンジ先生もそういうのわかるんですね?」
「なんだよ? 君、僕がそういうのわからないとでも思ってたのかい? 僕は恋愛コンシェルジュって呼ばれてるくらいなんだぜ?」
……どこの誰にですか……?
でも、そうすると、この『右翼の塔』側には、もう誰もいない……のですね。
管理人のカンさん、アイティさん、ビジューさん、シープさん、パパデスさん……。
もう亡くなられたり、行方がわからなくなってしまったりなんですね。
「じゃあ、『左翼の塔』側のジニアスさんや、おそらくは一緒であろうスエノさん、ママハッハさん、アネノさん、アレクサンダー神父を起こしに行くか!?」
ジェニー警視も現在、今、生きている人を確認するかのように言った。
このまま、3階の廊下を通って、談話室や書斎、遊戯室の前の廊下を通って、『左翼の塔』側へ向かう私たちでした。
しかし、この時はまだ、これから発見する惨劇を予想していた者は誰もいなかったのでした。
そう……。
黄金の頭脳を持つと言われるコンジ先生でさえ、まさか、『左翼の塔』側で、あのような恐ろしい惨劇が行われていたとは、予想できるはずもありませんでした。
そうなんです。
人狼によって行われてきた連続する悲劇はまだ繰り返されていたのでした。
ビュォオオオォ……
館の外からは、激しく風巻く吹雪の音だけが低く、ゴォゴォと響いていたのでしたー。
私たちがこの『或雪山山荘』に到着して6日目の朝は、ここからが長く感じられたのであります-。
~続く~
※「You took the words right out of my mouth!」
「今まさにそれを言おうとしていたところなんだ。」という意味です。
自分がちょうど考えていたことを相手が口にした瞬間に出る表現です。
※シンクロニシティ
コンジの説明通り、ユングが提唱した概念で『意味のある偶然の一致』を指し、日本語では主に『共時性』と訳され、他にも『同時性』もしくは『同時発生』と訳され場合もある。例えば、虫の知らせのようなもので因果関係がない2つの事象が、類似性と近接性を持つこと。ユングはこれを『非因果的連関の原理』と呼んだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】結界守護者の憂鬱なあやかし幻境譚 ~平凡な男子高校生、今日から結界を繕います~
御崎菟翔
キャラ文芸
【平凡な高校生 × 妖従者たちが紡ぐ、絆と成長の主従現代和風ファンタジー!】
「選ぶのはお前だ」
――そう言われても、もう引き返せない。
ごく普通の高校生・奏太(そうた)は、夏休みのある日、本家から奇妙な呼び出しを受ける。
そこで待っていたのは、人の言葉を話す蝶・汐(うしお)と、大鷲・亘(わたり)。
彼らに告げられたのは、人界と異界を隔てる結界を修復する「守り手」という、一族に伝わる秘密の役目だった。
「嫌なら断ってもいい」と言われたものの、放置すれば友人が、家族が、町が危険に晒される。
なし崩し的に役目を引き受けた奏太は、夜な夜な大鷲の背に乗り、廃校や心霊スポットへ「出勤」することに!
小生意気な妖たちに絡まれ、毒を吐く蛙と戦い、ついには異世界「妖界」での政変にまで巻き込まれていく奏太。
その過程で彼は、一族が隠し続けてきた「残酷な真実」と、従姉・結(ゆい)の悲しい運命を知ることになる――
これは、後に「秩序の神」と呼ばれる青年が、まだ「ただの人間」だった頃の、始まりの物語。
★新作『蜻蛉商会のヒトガミ様』
この物語から300年後……神様になった奏太の物語も公開中!
https://www.alphapolis.co.jp/novel/174241108/158016858
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
アガルタ・クライシス ―接点―
来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。
九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。
同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。
不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。
古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。
「魔物の討伐で拾われた少年――アイト・グレイモント」
(イェイソン・マヌエル・ジーン)
ファンタジー
魔物の討伐中に見つかった黄金の瞳の少年、アイト・グレイモント。
王宮で育てられながらも、本当の冒険を求める彼は7歳で旅に出る。
風の魔法を操り、師匠と幼なじみの少女リリアと共に世界を巡る中、古代の遺跡で隠された力に触れ——。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
