ときおりしおり

俺んぢ

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1章 見覚えのない場所へ

8 生命賛歌

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「ま、今日はしゃーないか」

 森の中の少し開けた場所までくると、シオリはリュックを下ろした。

 あたりはかなり暗くなっており、数メートル先すら暗闇に包まれてもう見えなくなってしまう。

 ボクたちは、寝るための場所を探していた。寝ている間に雨が降ると面倒なので、穴倉でもなんでも屋根のある場所がないか探していたが、結局見つからなかった。

「ほら、明かり」

 そう言って、シオリはリュックから取り出した奇妙な石をこちらに投げる。

 ボクはそれを受け取って、顔の前にかざす。石は、ぼんやりと黄緑色に光り、あたりを少しだけ照らしている。

「軽いでしょ。緑石とか、コーレンド鉱石とか言われるの。いくらでも採れるやっすい石だから、慎重に扱わなくて大丈夫だよ。宝石とかじゃないから」 

 ボクはそれを聞いて、もういちど石を見てみる。たしかに、宝石にしてはデカすぎるし、形は砕けたままのようにガタガタで、高価でないことは明らかだ。

「はあーーーっっ」

 ボクもため息と同時にショルダーバッグを地面に下ろす。シオリはすでにリュックに頭を乗せて、仰向けになって寝る体勢に入っている。

「明日は水探しに、食料探しに...できればここがどこなのかも知りたいし、やることは山積み、大変だねー」

 シオリは他人事のように言う。

 夜になったとはいえ、まだ日は沈んだばかりだ。それに、地面は妙にひんやりしてるし、体は疲れているが寝付くのに時間がかかりそうだった。

 ボクはここで、今覚えている事を整理しようとした。

「...」

 しかし、やはりシオリに会うより前の事を思い出せない。

 でもひとつだけ思い出しかけた、ボクには姉がいた...気がする。

 しかし、記憶をなくして小屋の中に一人残されているというのは、どういう状況なのだろう。ボクは何処から来たのだろうか?

 考えれば考えるほどわからない。

「ねえ」

 ボクはシオリに声かける。

「...」

 反応はない。もう寝付いたのだろうか。

 ボクは仰向けのまま、黄緑色の石を空に向かって掲げてみた。淡い光で、周りの木々がうっすらと姿を見せる。

「あああ」

 ボクは空に向かって大きく息を吐きながら、声を出してみた。

 声はほんの少しだけこだました後、すぐに闇に消えていく。

「あああ」

 ボクはもう一度、大きな声を出してみた。

 また少しだけ、その声が自分の元へ帰ってくる。

 ボクは満足して、腕を下ろし、まぶたを閉じた。身体中に感じる土の感触が、とても柔らかかった。
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