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「……私をその部屋に連れ込むつもり?」「ああ。逆らうような真似をせず、僕の言う通りにしろ」【[※]後半2話、他所で未発表原稿】
[ラブホテル]「手枷足枷のベッド……私をどうするつもりだったのかしら?」
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「――アリス、着いたぞ。
車から降りられるか?
今は、記憶が正しく繋がっているか?」
「……エリオットが、恐怖政治を敷く支配者で、私とルイーナを、タワー『スカイ・オブ・パーツ』の座敷牢に閉じ込めるような極悪人だったっておぼえているから、記憶の混乱はないと思う。
でも、肩を貸してほしいかも。少し疲れているの。
ねえ――その扉の向こうには、何があるのかしら」
「さあ。
僕も、こういったところを使うのは、初めてだからな。
すまない。
なんとか、横になって休める場所をさがしてみたのだが、安全に使えると判断できたのが、ここしかなかった」
「ふーん。
私を、人質まがいに連れ去って、逃亡しているエリオットの言う事なんて、信用できないわ。
だって、ここって、いわゆる連れ込み宿じゃないの?」
「ああ……そうだな。
大学時代に起こしたクーデターが成功して、それからはずっと、軍事政権の頂点に君臨していたので、俗っぽいものに触れる機会が少なかったが、たぶん、アリスの言う通りの場所だ」
「世間の人たちの前では、独裁者ぶりを発揮していたのに、私には正体を隠したままだった。そして、ルイーナを産ませた。
気づいて逃げたら、捕虜として連れ戻され、書類上の『妻』になるよう脅されながら夜伽の相手にされた。記憶喪失になったのを都合がよいと思い、私をお人形さんのように扱った。
これ以上、天王寺アリスという女に、エリオットは、何をするつもりなのかしら?」
「君が、責め立てたい気持ちは、理解しているつもりだ。だが、逃亡生活に付き合わされ、疲れているだろ? 今夜は、本当にゆっくりさせてやろうと思い、ここをさがしたんだ。
命令しているとか、言われるかもしれないが、大人しく車から降りて、僕と一緒に部屋の中へ。
ほら、肩ならいくらでも貸すよ。だから、ここで逆らうような真似はやめてくれ。
その扉を開けたら、すぐに個室の中のようだ。
誰かに会う心配はない」
「あら。
私を、その部屋に連れ込む計画は完璧なのね。
車内で、監視カメラに絶対に映らない自信があると言っていたし。今、エリオットの手を握ったら、誰にも助けてもらえなさそう」
「文句なら、部屋の中でいくらでも聞く。
アリス、こっちへ。
手を伸ばして。
足を動かすのは、ゆっくりでいい。
体調が万全でないのは、本当なんだろ?
車内で、いざとなったら逃げ出せると言っていたが、僕が食料を調達して戻った時、ぐったりとした様子で眠っていたじゃないか。
風呂で身体を伸ばしてのんびりとし、ベッドの上で好きなように過ごしてくれ」
「うん。
分かった。
逃げようとしても、このままエリオットに身体をつかまれて、部屋に連れ込まれるのだろうから、素直に従うわ」
「部屋の中の情報までは、調べていない。寛げないような場所だったら、すまない。おそらく、大丈夫だと思うが……あっ」
「ふーん。
こういうお宿の扉を開けると、まずは、廊下があるのね。
暗い。
エリオット、そこに、スイッチがある。電灯をつけたらどうかしら?」
「……ああ。
ありがとう、アリス」
「エリオット、ひょっとして、怖い?」
「そんな事はない……」
「思い出すんでしょ。
私と初めて会った日、何もかもを失った幼いエリオットが、独り隠れていたのは、こういう狭くて暗い地下室だったから。
保護して、天王寺家の屋敷に連れて行ってからも、狭くて暗い場所を嫌がって泣いていたわね。
――大丈夫。
今も、アリス姉さんは、一緒にいるわよ」
「……電灯のスイッチ。
これだな。
ここは――トイレか。
左の扉は、洗面所。奥に、おそらく浴室があるのだと思う」
「タワー『スカイ・オブ・パーツ』に強制連行して、私を閉じ込めた直後のエリオットは、本当に人でなしに思えたわ。
夜になるたび、私は、ベッドに鎖で縛りつけられた。嫌がると、余計に嬉しそうな顔をされ、道具を使って、いじめられた。
天王寺家の屋敷で預かっていた頃も、ちょっと元気になってきたかと思ったら、私のぬいぐるみを持ち出して、返してほしかったら、抱きしめてほしいと言っていた。
外見は、アリス姉さんよりも大きく成長して、しかも、父親にもなっているはずなのに、中身は子供のままだなと思っていたの」
「アリス……姉さん。
先ほども言ったが、文句なら、部屋の中でいくらでも聞く。
とにかく、奥へ。
ベッドなり、ソファなりに腰をおろしてくれ。
この扉を開けると寝室か?
……あっ」
「……あら?
エリオット、これは、どういう事かしら。
やっぱり、私を、懲らしめてやろうと思って、ここに連れてきた。
それとも、今、私に責め立てられたので、『見えない力』とか非科学的な能力を使って――手枷と足枷が完備されたベッドを用意したのかしら。
さすが、世界を支配できるほどの男は違うわ。
ねえ、エリオット?」
「いや……僕は、そのような事を考えて、君を、この部屋に案内したつもりはないのだが。
つ、使わなければ、問題ないだろ?
僕は、ソファなり、床なりで寝る。
アリス。
この部屋での過ごし方は、君の好きにするといい」
「ふーん、そう、エリオット。
あら!
テーブルの上に、鎖付きの首輪が置いてある。
そういえば、あんな事もあったな。
ルイーナの前で、父親の威厳が傷つくぐらいに、こっ酷くけなして、一矢を報いてやった日の事を思い出すわ。
息子の前では、優しそうな親を演じていた癖に、夜伽に連行した私の前では、悪役顔。『どちらが主人なのか、分からせてやる』と言われながら、無理やり首輪をつけられた」
「こ、これは、玄関の棚の上にでも置いておく! 今夜は使わないと、約束する!」
「エリオット。
狭くて暗い廊下に、一人で出るの怖くない?
使うつもりがないのなら、そこに置いておけばいいじゃない。
ふう。
アリス姉さん、お風呂に入ろうかな。
あら。
この部屋も、暗いわね。
狭くないけど、窓が塞がれているせいかな――押し込められた感じがして、地下室みたいに思える。私が、お風呂から出てくるまで、待っていられる?
一人で部屋にいる間に、怖くなって、こっそり泣いている図、想像されたくなかったら、私と一緒にきたらどうかな。後で、泣いていなかったと言われても、信じるつもりはないから」
「……なんという言い丸め方をしてくるんだ君は。
はあ。
世界一の軍師である天王寺アリスが立てた、恐ろしい作戦なんだな。
いいのか?
男の僕に、裸の姿を見せる事になるぞ」
「うーん。
『僕が与えた服だから、好きにさせてもらう』と言われながら、何度も、服を剥ぎ取られ、裸にさせられた。
獲物を仕留めた時の獣みたいな表情をして、押さえつけたまま私の胸を揉んで、下の方にも手を伸ばしてきたじゃない」
「僕と、浴室で二人きりになりたいなんて、どうなっても知らないからな。
アリス。
君の体調が万全ではないので、今すぐ休ませてあげたいと考えているのは本当だ。
知らないからな!」
「お風呂は、洗面所の奥だったかしら?
はい。
アリス姉さんが、手を繋いで、廊下を歩いてあげるわ。でも、エリオットが、前を歩いてね。私、疲れているから、ドアノブを回せないの」
「天王寺アリス。
このエリオット・ジールゲンを、自分のペースにはめて、いったい何を企んでいる?
……はあ。
まあ、いいだろう。
企みの尻尾をつかませてもらったら、必要な措置をとればいいだけだ。
どうせ、ここからは、逃げ出せない。
幕僚としての能力だけに長けている君と違って、僕は、最前線での白兵戦とて可能だからな」
「あらら。
エリオット。
やっぱり本性を隠していたのね。
ふーん。
そうやって善人の振りをして、初めて身体を重ねた日――あの子が宿った時みたいに、今夜も私を騙す気だったという事ね」
「もう、好きに言ってくれ。
世界を恐怖で支配した事実が、消える事はない。
アリス。
今、君は、そんな男と、この宿の個室で二人きりだ。
本当に、知らないからな!
ほら、浴室は目の前だぞ。服を脱いだらどうだ。タワー『スカイ・オブ・パーツ』の僕の居室と違って、脱衣専用のスペースはない。
洗面所だと思うが、ここで脱げという事だ。そこに置いてある籠に服をいれるのではないか」
「私、ここまで歩いてきて、疲れちゃった。
エリオット。
服を脱がせてくれない?」
「は?
えっと……アリス……分かった。
――横のファスナーを動かすぞ。
そういえば、そのワンピース、どうだ?
サイズが合っているかという質問だ。僕が、適当なものを見繕ってきたじゃないか。一緒に逃亡するに際して、華美なドレス姿では、いくらなんでも無理があったからな」
「うーん。
エリオットが、軍服を捨ててくれたから嬉しかったかな。
私、軍人さんは嫌いなの。
小さい頃から、軍人を目指せと強制されて生きてきたし。
もう、普通の女の子として、平和に暮らそうかな~と思っていたら、軍事政権のトップの横に立つ女になれと言ってきた軍人さんがいたから。
――その白いシャツ。
似合ってる。
軍服じゃないから」
「……棘が含まれていそうな発言だな。
アリス。
腕、もう少し上に向けてほしい。
胸を覆っている下着、手首の方まで動かさないと外せないんだ」
「あ。
軍人さんのお仕事失職で、暇になるのだったら、デニムジーンズのクラッシュ具合の研究をしてみたらどうかな?
うちの父も軍人だったけど、オフの日は、自分で加工したジーンズ姿だったから。世界を制圧できるようなエリオットなら、ジーンズの一つや二つ、すぐに統率できるでしょ」
「誰のせいで失職する事になったのか、口にしたら、さらに僕を責め立てる気か?
アリス。
もう何も着ていないぞ。
僕に、すべて見られている」
「そうね。
全部、エリオットに脱がされてしまった。
あ、でもね。
エリオットは、自分で脱いで。
私のパンツを脱がす時に、足をあげてほしいと言ってくれなかった。やっぱり、まだ、悪政の支配者に戻る気があるのかもしれないと、今、疑っているから」
「……今日の君は、どれほど面倒くさいんだ。
僕も脱いでいいんだな?
ふん。
返事はしてくれなくていい。
すぐに脱ぐ。
どうせ、浴室のドアノブも、僕が回せと言うんだろ? 言われる前に、そうしてやる。
知らないからな!
裸の僕の前で、君も裸なんて、浴室の中でどうなっても……あっ」
「あら?
あらら……浴室の中でどうなっても……手錠よね。壁に固定されているのは、どう見ても手錠。
エリオット。
脱衣中に言われた事に腹を立てて、私を懲らしめる気なのね」
「えっと……いや。
僕は、そんなつもりは……」
「そういえば、タワー『スカイ・オブ・パーツ』に閉じ込められてすぐの頃、自分で腕をあげて、手錠の前に立てと言われた。
お風呂タイム。
『君は今から、手錠で固定されたまま、隅々まで、僕に身体を洗われるんだ』って。
私が従わないのなら、ルイーナに、『父親の正体』をバラすと脅してきた。
本当に、本当に、悪役顔して、私を追い込んで、手錠をかけて満足そうな様子。胸はもちろん揉まれたし、抱きつかれて首もと、執拗に何度も舐められた記憶がある。
おなかのあたりを洗ってやると言いながら、結局は、私の大切な部分をひたすら触ってくるの。興奮してきて当たり前なのに、『喘ぎ声をあげているその口を塞いでやろうか?』と言われながら、口の中に舌を突っ込まれた。
シャワーでソープを流してすぐに、『本当にきれいになったか、僕の舌を使って確認させてもらう』と言われてしまったわ。
咥えられた胸の先端は、慰みもの扱い。
反応を楽しむように、ゆっくりと、それでいて、しつこい感じ。エリオットの口の中に閉じ込められた胸の先に舌があたる感覚があるの。
胸の谷間から、おなかに向かって、舌を這わせてきて――思わず、私が声をあげてしまったら、『お仕置きだ』と言いながら、大切な部分を指で裂いて弄ってきた。
今日も、そうされちゃうのかしら?
はい。
ここに立てばいいのかな。
お風呂で身体を伸ばしてくれって、こういう意味だったのね」
車から降りられるか?
今は、記憶が正しく繋がっているか?」
「……エリオットが、恐怖政治を敷く支配者で、私とルイーナを、タワー『スカイ・オブ・パーツ』の座敷牢に閉じ込めるような極悪人だったっておぼえているから、記憶の混乱はないと思う。
でも、肩を貸してほしいかも。少し疲れているの。
ねえ――その扉の向こうには、何があるのかしら」
「さあ。
僕も、こういったところを使うのは、初めてだからな。
すまない。
なんとか、横になって休める場所をさがしてみたのだが、安全に使えると判断できたのが、ここしかなかった」
「ふーん。
私を、人質まがいに連れ去って、逃亡しているエリオットの言う事なんて、信用できないわ。
だって、ここって、いわゆる連れ込み宿じゃないの?」
「ああ……そうだな。
大学時代に起こしたクーデターが成功して、それからはずっと、軍事政権の頂点に君臨していたので、俗っぽいものに触れる機会が少なかったが、たぶん、アリスの言う通りの場所だ」
「世間の人たちの前では、独裁者ぶりを発揮していたのに、私には正体を隠したままだった。そして、ルイーナを産ませた。
気づいて逃げたら、捕虜として連れ戻され、書類上の『妻』になるよう脅されながら夜伽の相手にされた。記憶喪失になったのを都合がよいと思い、私をお人形さんのように扱った。
これ以上、天王寺アリスという女に、エリオットは、何をするつもりなのかしら?」
「君が、責め立てたい気持ちは、理解しているつもりだ。だが、逃亡生活に付き合わされ、疲れているだろ? 今夜は、本当にゆっくりさせてやろうと思い、ここをさがしたんだ。
命令しているとか、言われるかもしれないが、大人しく車から降りて、僕と一緒に部屋の中へ。
ほら、肩ならいくらでも貸すよ。だから、ここで逆らうような真似はやめてくれ。
その扉を開けたら、すぐに個室の中のようだ。
誰かに会う心配はない」
「あら。
私を、その部屋に連れ込む計画は完璧なのね。
車内で、監視カメラに絶対に映らない自信があると言っていたし。今、エリオットの手を握ったら、誰にも助けてもらえなさそう」
「文句なら、部屋の中でいくらでも聞く。
アリス、こっちへ。
手を伸ばして。
足を動かすのは、ゆっくりでいい。
体調が万全でないのは、本当なんだろ?
車内で、いざとなったら逃げ出せると言っていたが、僕が食料を調達して戻った時、ぐったりとした様子で眠っていたじゃないか。
風呂で身体を伸ばしてのんびりとし、ベッドの上で好きなように過ごしてくれ」
「うん。
分かった。
逃げようとしても、このままエリオットに身体をつかまれて、部屋に連れ込まれるのだろうから、素直に従うわ」
「部屋の中の情報までは、調べていない。寛げないような場所だったら、すまない。おそらく、大丈夫だと思うが……あっ」
「ふーん。
こういうお宿の扉を開けると、まずは、廊下があるのね。
暗い。
エリオット、そこに、スイッチがある。電灯をつけたらどうかしら?」
「……ああ。
ありがとう、アリス」
「エリオット、ひょっとして、怖い?」
「そんな事はない……」
「思い出すんでしょ。
私と初めて会った日、何もかもを失った幼いエリオットが、独り隠れていたのは、こういう狭くて暗い地下室だったから。
保護して、天王寺家の屋敷に連れて行ってからも、狭くて暗い場所を嫌がって泣いていたわね。
――大丈夫。
今も、アリス姉さんは、一緒にいるわよ」
「……電灯のスイッチ。
これだな。
ここは――トイレか。
左の扉は、洗面所。奥に、おそらく浴室があるのだと思う」
「タワー『スカイ・オブ・パーツ』に強制連行して、私を閉じ込めた直後のエリオットは、本当に人でなしに思えたわ。
夜になるたび、私は、ベッドに鎖で縛りつけられた。嫌がると、余計に嬉しそうな顔をされ、道具を使って、いじめられた。
天王寺家の屋敷で預かっていた頃も、ちょっと元気になってきたかと思ったら、私のぬいぐるみを持ち出して、返してほしかったら、抱きしめてほしいと言っていた。
外見は、アリス姉さんよりも大きく成長して、しかも、父親にもなっているはずなのに、中身は子供のままだなと思っていたの」
「アリス……姉さん。
先ほども言ったが、文句なら、部屋の中でいくらでも聞く。
とにかく、奥へ。
ベッドなり、ソファなりに腰をおろしてくれ。
この扉を開けると寝室か?
……あっ」
「……あら?
エリオット、これは、どういう事かしら。
やっぱり、私を、懲らしめてやろうと思って、ここに連れてきた。
それとも、今、私に責め立てられたので、『見えない力』とか非科学的な能力を使って――手枷と足枷が完備されたベッドを用意したのかしら。
さすが、世界を支配できるほどの男は違うわ。
ねえ、エリオット?」
「いや……僕は、そのような事を考えて、君を、この部屋に案内したつもりはないのだが。
つ、使わなければ、問題ないだろ?
僕は、ソファなり、床なりで寝る。
アリス。
この部屋での過ごし方は、君の好きにするといい」
「ふーん、そう、エリオット。
あら!
テーブルの上に、鎖付きの首輪が置いてある。
そういえば、あんな事もあったな。
ルイーナの前で、父親の威厳が傷つくぐらいに、こっ酷くけなして、一矢を報いてやった日の事を思い出すわ。
息子の前では、優しそうな親を演じていた癖に、夜伽に連行した私の前では、悪役顔。『どちらが主人なのか、分からせてやる』と言われながら、無理やり首輪をつけられた」
「こ、これは、玄関の棚の上にでも置いておく! 今夜は使わないと、約束する!」
「エリオット。
狭くて暗い廊下に、一人で出るの怖くない?
使うつもりがないのなら、そこに置いておけばいいじゃない。
ふう。
アリス姉さん、お風呂に入ろうかな。
あら。
この部屋も、暗いわね。
狭くないけど、窓が塞がれているせいかな――押し込められた感じがして、地下室みたいに思える。私が、お風呂から出てくるまで、待っていられる?
一人で部屋にいる間に、怖くなって、こっそり泣いている図、想像されたくなかったら、私と一緒にきたらどうかな。後で、泣いていなかったと言われても、信じるつもりはないから」
「……なんという言い丸め方をしてくるんだ君は。
はあ。
世界一の軍師である天王寺アリスが立てた、恐ろしい作戦なんだな。
いいのか?
男の僕に、裸の姿を見せる事になるぞ」
「うーん。
『僕が与えた服だから、好きにさせてもらう』と言われながら、何度も、服を剥ぎ取られ、裸にさせられた。
獲物を仕留めた時の獣みたいな表情をして、押さえつけたまま私の胸を揉んで、下の方にも手を伸ばしてきたじゃない」
「僕と、浴室で二人きりになりたいなんて、どうなっても知らないからな。
アリス。
君の体調が万全ではないので、今すぐ休ませてあげたいと考えているのは本当だ。
知らないからな!」
「お風呂は、洗面所の奥だったかしら?
はい。
アリス姉さんが、手を繋いで、廊下を歩いてあげるわ。でも、エリオットが、前を歩いてね。私、疲れているから、ドアノブを回せないの」
「天王寺アリス。
このエリオット・ジールゲンを、自分のペースにはめて、いったい何を企んでいる?
……はあ。
まあ、いいだろう。
企みの尻尾をつかませてもらったら、必要な措置をとればいいだけだ。
どうせ、ここからは、逃げ出せない。
幕僚としての能力だけに長けている君と違って、僕は、最前線での白兵戦とて可能だからな」
「あらら。
エリオット。
やっぱり本性を隠していたのね。
ふーん。
そうやって善人の振りをして、初めて身体を重ねた日――あの子が宿った時みたいに、今夜も私を騙す気だったという事ね」
「もう、好きに言ってくれ。
世界を恐怖で支配した事実が、消える事はない。
アリス。
今、君は、そんな男と、この宿の個室で二人きりだ。
本当に、知らないからな!
ほら、浴室は目の前だぞ。服を脱いだらどうだ。タワー『スカイ・オブ・パーツ』の僕の居室と違って、脱衣専用のスペースはない。
洗面所だと思うが、ここで脱げという事だ。そこに置いてある籠に服をいれるのではないか」
「私、ここまで歩いてきて、疲れちゃった。
エリオット。
服を脱がせてくれない?」
「は?
えっと……アリス……分かった。
――横のファスナーを動かすぞ。
そういえば、そのワンピース、どうだ?
サイズが合っているかという質問だ。僕が、適当なものを見繕ってきたじゃないか。一緒に逃亡するに際して、華美なドレス姿では、いくらなんでも無理があったからな」
「うーん。
エリオットが、軍服を捨ててくれたから嬉しかったかな。
私、軍人さんは嫌いなの。
小さい頃から、軍人を目指せと強制されて生きてきたし。
もう、普通の女の子として、平和に暮らそうかな~と思っていたら、軍事政権のトップの横に立つ女になれと言ってきた軍人さんがいたから。
――その白いシャツ。
似合ってる。
軍服じゃないから」
「……棘が含まれていそうな発言だな。
アリス。
腕、もう少し上に向けてほしい。
胸を覆っている下着、手首の方まで動かさないと外せないんだ」
「あ。
軍人さんのお仕事失職で、暇になるのだったら、デニムジーンズのクラッシュ具合の研究をしてみたらどうかな?
うちの父も軍人だったけど、オフの日は、自分で加工したジーンズ姿だったから。世界を制圧できるようなエリオットなら、ジーンズの一つや二つ、すぐに統率できるでしょ」
「誰のせいで失職する事になったのか、口にしたら、さらに僕を責め立てる気か?
アリス。
もう何も着ていないぞ。
僕に、すべて見られている」
「そうね。
全部、エリオットに脱がされてしまった。
あ、でもね。
エリオットは、自分で脱いで。
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「……今日の君は、どれほど面倒くさいんだ。
僕も脱いでいいんだな?
ふん。
返事はしてくれなくていい。
すぐに脱ぐ。
どうせ、浴室のドアノブも、僕が回せと言うんだろ? 言われる前に、そうしてやる。
知らないからな!
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エリオット。
脱衣中に言われた事に腹を立てて、私を懲らしめる気なのね」
「えっと……いや。
僕は、そんなつもりは……」
「そういえば、タワー『スカイ・オブ・パーツ』に閉じ込められてすぐの頃、自分で腕をあげて、手錠の前に立てと言われた。
お風呂タイム。
『君は今から、手錠で固定されたまま、隅々まで、僕に身体を洗われるんだ』って。
私が従わないのなら、ルイーナに、『父親の正体』をバラすと脅してきた。
本当に、本当に、悪役顔して、私を追い込んで、手錠をかけて満足そうな様子。胸はもちろん揉まれたし、抱きつかれて首もと、執拗に何度も舐められた記憶がある。
おなかのあたりを洗ってやると言いながら、結局は、私の大切な部分をひたすら触ってくるの。興奮してきて当たり前なのに、『喘ぎ声をあげているその口を塞いでやろうか?』と言われながら、口の中に舌を突っ込まれた。
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咥えられた胸の先端は、慰みもの扱い。
反応を楽しむように、ゆっくりと、それでいて、しつこい感じ。エリオットの口の中に閉じ込められた胸の先に舌があたる感覚があるの。
胸の谷間から、おなかに向かって、舌を這わせてきて――思わず、私が声をあげてしまったら、『お仕置きだ』と言いながら、大切な部分を指で裂いて弄ってきた。
今日も、そうされちゃうのかしら?
はい。
ここに立てばいいのかな。
お風呂で身体を伸ばしてくれって、こういう意味だったのね」
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