うさぎ獣人のララさんは、推し声の騎士様に耳元で囁かれたい。

文字の大きさ
2 / 35

2

しおりを挟む


 かろうじて保っていた理性で、司書としての仕事を遂行する。以前貸し出した、話し方の本が置いてあった、言語の棚を探しに行く。
 棚の端の方に、『たった10秒で女性を口説く』や、『女性にモテる話し方』、『その気にさせる口説き方』など、思っていたよりも、女性と会話するため?の本があったが、これは、お見合いで使えるのか? と疑問が生まれる。というか、こういった本が意外と需要があるのだなと、よく来る真面目そうな利用者の面々の、新たな一面を見た気がする。

「一般的な、世間話の仕方が載っている本は、無さそうですね……」
「そうですよね……」
「お役に立てず、申し訳ありません……」
「いえ! 同僚に相談したら、実践に勝るものはないと口々に言われたのですが、実家も遠く仕事人間なので、近くに女性の知り合いがいなくて……。こちらこそ、お手数をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした」

 レオンの申し訳無さそうな声を聞き、なんとかしてあげたくなってしまう。それに、ただただ声が良過ぎる。ずっと聞いていたい。ララは、レオンの役に立ちたいという良心と、自分の欲望の両方を満たす素晴らしい案を思いついてしまう。

「…………あの、も、もしっ、私で良かったら、お話の練習相手、になりましょうか……?」

 レオンが軽く目を見張り、驚いた顔をする。

 ――わ、引かれた? ですよね。いきなり何言い出すんだ、この女は。ですよね!

 と、一瞬で提案したことを後悔する。

「……良いんでしょうか……?」
「えっ、は、はい。私も一応女ですので! 練習にはなると思います」

 レオンがキョトンとした顔をする。

「……どこからどう見ても、女性ですが……? あ、もしかして、心は女性の方……」
「違います!」

 慌てて食い気味に答える。

「あの、騎士様のお見合い相手でしたら、貴族の方になりますでしょうか? もし、そうでしたら、練習相手としては、かなり力不足ですが、一応女ですので、女性と話す練習にはなるかと思いますの、一応・・です!」

 誤解されたくなくて、息継ぎなしで必死に説明する。

「なるほど……勘違いしてしまい、申し訳ありません。そこまで考えてくれて、提案して下さったんですね。ありがとうございます」

 レオンが優しい声で、微笑みながら答える。

 ――ぐっ

 元々柔らかな声が、更に丸味を帯びて甘くすら聞こえる。この声を近くで聴き続けたら、自分の心臓は堪えられるのだろうかと不安になる。それでも、ララの日常に彩りを与えてくれているレオンに、少しでも恩返しができればと、レオンの声のせいで力が入らなくなった身体に喝を入れる。

「いえっ、あの、昼休憩の時間はどうでしょうか? 私はいつも中庭で昼食をとるのですが、食事を頂きながら話す練習にもなりますし……」

 お見合いなら、食事をしながら相手と話す可能性は高い。それに、中庭なら、他にも昼食を食べたり、休憩している人がいるので二人きりにはならないし、周りから変に勘繰られることも無いだろう。

「貴重な休憩時間を奪ってしまうことになりますが、良いんでしょうか?」
「1人でぼんやりと食べていたので、私も、お話相手がいて下さるのは嬉しいです!」

 以前は食堂で、職場の同僚と一緒に食べていたが、他にお弁当を持って来ている人がおらず、中庭で1人で食べるようになった。レオンの声を、誰にも邪魔されず堪能することができて、1人でもララにとっては楽しい時間だったが、その憧れの声の人と1対1で話せるのである。願ったり叶ったりだ。

「では……、お言葉に甘えさせて頂いても?」

 少し困った様な表情で、レオンが聞く。

「はい! もちろんです」
「ありがとうございます。自己紹介が遅れて申し訳ありません。私は騎士団第ニ部隊所属の、レオン・オニールと言います」
「私は、ララ・ミラーといいます。この図書館で司書をしております」
「ララ、さん、とお呼びしても? 私のことはレオンと呼んで下さい」

 自分の名前をレオンが口にし、ララはドキッとする。また力が抜けそうになり、お腹に力を入れ返事をする。

「レオンさん、よろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしくお願いします」

 レオンが目を細め、微笑みながら言い、今更ながらレオンの目が深い青色だということに気づく。
 
 ――声ばかりに集中してしまっていたけど、整った顔をされているのね。

 レオンの、短くて清潔感のある黒髪と、切長の目は、一見すると厳しそうな印象を与えるけれど、柔らかな声と表情のおかげで、優しい人だというのが伝わってくる。ララは、やっぱりレオンの声が好きだと、改めて思っていた。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。 ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。 ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。 竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。 *魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。 *お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。 *本編は完結しています。  番外編は不定期になります。  次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。

呪われた王子さまにおそわれて

茜菫
恋愛
ある夜、王家に仕える魔法使いであるフィオリーナは第三王子フェルディナンドにおそわれた。 容姿端麗、品性高潔と称えられるフェルディナンドの信じられない行動に驚いたフィオリーナだが、彼が呪われてることに気づき、覚悟をきめて受け入れる。 呪いはフィオリーナにまで影響を及ぼし、彼女の体は甘くとろけていく。 それから毎夜、フィオリーナは呪われたフェルディナンドから求められるようになり…… 全36話 12時、18時更新予定 ムーンライトノベルズにも投稿しています。

異国の踊り子は「君はボクの番だよ」と求婚するヤンデレ王子に捕獲された

狭山雪菜
恋愛
ヘナは平民の出の"赤い旅団"トップに君臨する踊り子だ。幼い頃両親に決められた幼馴染兼婚約者は、酒にギャンブルに女と、どうしようもない男になっていた。 旅団に依頼された、テリアントロピア王国へと祝賀会への催し物で踊る事になったヘナは、仕事終わりのお祝いの会でレオンハルト・オスカル・テリアントロピア王子に出会い…… この作品は、「小説家になろう」でも掲載されております。

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

【完結】私の推しはしなやかな筋肉の美しいイケメンなので、ムキムキマッチョには興味ありません!

かほなみり
恋愛
私の最推し、それは美しく儚げな物語に出てくる王子様のような騎士、イヴァンさま! 幼馴染のライみたいな、ごつくてムキムキで暑苦しい熊みたいな騎士なんか興味ない! 興奮すると早口で推しの魅力について語り出すユイは、今日も騎士団へ行って推しを遠くから観察して満足する。そんなユイが、少しだけ周囲に視線を向けて新しい性癖に目覚めるお話…です?

「偽聖女」と追放された令嬢は、冷酷な獣人王に溺愛されました~私を捨てた祖国が魔物で滅亡寸前?今更言われても、もう遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢フィーア・エメラインは、地味で効果が現れるのに時間がかかる「大地の浄化」の力を持っていたため、派手な治癒魔法を使う異母妹リシアンの嫉妬により、「偽聖女」として断罪され、魔物汚染が深刻な獣人族の国へ追放される。 絶望的な状況の中、フィーアは「冷酷な牙」と恐れられる最強の獣人王ガゼルと出会い、「国の安寧のために力を提供する」という愛のない契約結婚を結ぶ。

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

洗浄魔法はほどほどに。

歪有 絵緖
恋愛
虎の獣人に転生したヴィーラは、魔法のある世界で狩人をしている。前世の記憶から、臭いに敏感なヴィーラは、常に洗浄魔法で清潔にして臭いも消しながら生活していた。ある日、狩猟者で飲み友達かつ片思い相手のセオと飲みに行くと、セオの友人が番を得たと言う。その話を聞きながら飲み、いつもの洗浄魔法を忘れてトイレから戻ると、セオの態度が一変する。 転生者がめずらしくはない、魔法のある獣人世界に転生した女性が、片思いから両想いになってその勢いのまま結ばれる話。 主人公が狩人なので、残酷描写は念のため。 ムーンライトノベルズからの転載です。

処理中です...