うさぎ獣人のララさんは、推し声の騎士様に耳元で囁かれたい。

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 獣人は、普段は普通の人と変わらない外見をしているが、発情した時のみ、獣人の特徴であるしっぽや耳が出てきてしまう。見た目で発情しているというのが分かるため、しっぽや耳を親しくない人に見せるのは、マナー違反であり、恥ずかしいこととされていた。男女ともに、性的に発散することで発情をコントロールできるので、獣人の多くは結婚する時期が早く、結婚していなければ恋人がいることが一般的だった。夫も妻も恋人もいない獣人は、そういった店に行ったり、自分を慰めることで、発情してしまうのをコントロールしていた。

 うさぎ獣人は年中発情期と言われており、他の獣人に比べ、発情しやすい体質だ。そのことから、世間一般的に、臆病だけれど性欲が強いという、相反するイメージを持たれる事が多かった。
 
 学生の時に、初めてララに恋人ができた。向こうから付き合おうと言ってくれて、男友達の多い明るい男の子で、ララも悪い印象はなかったので、恋に対する憧れもあり喜んで承諾した。異性と手を繋ぐことすら経験のなかったララは、積極的にスキンシップを図ろうとする相手に戸惑ってしまい、ララの困惑が相手にも伝わり、気まずい空気になってしまうことが多かった。付き合い始めは、向こうから一緒に帰ろう、家に遊びに来ないかと誘ってくれていたが、会うたびに気まずい空気になるので、だんだんと誘われることも減っていった。ある日の放課後、教室に忘れ物を取りに戻ったララは、交際相手の男の子が、友達に自分のことを話しているのを聞いてしまう。

「せっかく2人っきりになっても、キスもろくできないんだよ」 
「強引に押し倒してみれば?」
「……キスすらまともにできないのにか? ララって、うさぎ獣人のくせに色気ないよな? そんな気にもならないっていうか。付き合ったら、向こうから迫って来るかと思いきや全然だし。胸も小さいし、がっかりだよ」
「ひでーな、自分から告白しといて」

 友達とゲラゲラと笑う声が、ララのいる廊下まで響いていた。


 このまま、つき合い続ける事はできないと思い、すぐに自分から別れを切り出し、相手もあっさりと了承した。酷く傷ついたララは、食べることで自分を満たそうとした。甘いものを食べ、脳内の麻薬物質が出る瞬間だけ、嫌なことを忘れられると、ひたすら食べ続けてしまった。結果、見事に太り、更に落ち込んだララは、これ以上自分のことを嫌いになりたくはないと、必死にダイエットをする。無事に体重は元に戻り、なぜか胸の肉だけは落ちずに、図らずも小柄な身体つきにしては大きな胸になり、元恋人の言葉が頭をよぎったが、今回の経験で恋愛はもうこりごりだと思うようになった。

 学校を卒業し、就職して環境が変わってからは、うさぎ獣人であることを、上司や親しい友人以外には隠すようになった。
  
 恋人のいないララは、日中に発情してしまわないように、夜な夜な自分を慰めていた。その行為は必要だからしているだけで、自分には不必要な熱を抑えるためだけに、いつも淡々と行なっていた。恋人もおらず、欲しいとも思わない自分が、性欲だけはちゃんとあり、ただただ面倒くさい体質だと感じていた。


 今日は、レオンと約束している日で、もうすぐ昼休憩の時間だ。午前中、ずっとソワソワしていたララに、同僚のパウラが声をかけた。

「ララ、今日はどうしたの? いつも以上に落ち着きがないけど」
「パ、パウラ、よくぞ聞いてくれたわ。あの、イケボの騎士様と、一緒に昼食を食べることになったの」
「えっ、昼食? なに? 誘われたの?」

 パウラが目を見開いて、嬉しそうに聞いてくる。

「ちがう、ちがう! レオン様は、軽々しく女の子を誘ったりしない! 多分!」
「なーんだ、違うんだ。じゃあ、なんで? あ、ララから誘ったの?」
「うん。でも、誘ったって言っても、レオン様がお見合いをするのに、女性と話すのが苦手だって困ってたから、私から練習相手をさせて下さいって言ってみたの! 間近で、あの声が聞けるのよ?!」
「……ふーん、そうなんだ。お見合いねー」

 途端につまらなさそうな顔になる。

「パウラ!! あの声!! あの声が、目の前で発せられて、私の耳に入るのよ?!」
「……ララ、それで良いの? せっかくの機会なんだから、頑張って仲良くなって、あわよくば恋人になれたら、とか思わないの?」
「……そういうんじゃないのよ。恋愛とか面倒でしかないもの。ただ、あの声が聞けるだけで良いの。まあ、結婚されるお相手が、あの声を毎日聞けるのかと思うと、羨ましい気持ちは正直あるけど」

 あの声で、もっと甘い声で、甘い言葉を囁いたりするのかと思うと、ララも聞いてみたいし羨ましくはなる。だからといって、レオンと、どうにかなりたいなどという気持ちは、これっぽっちもなかった。

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