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後日談4
しおりを挟むそんなある日、思わぬところから話が舞い込む。
「この間、母のところに行ったんです。あ、母が再婚をして」
「そうなんですか。おめでとうございます」
「ありがとうございます。ずっと働いていた食堂の店主さんと結婚するんです。私も子供の時からお世話になってた方で。とても良い方なんです」
「それは、良かったですね」
「そうなんです。それで、家が空くから住まないかって言われて」
「家、ですか?」
「はい。ええと、店主さん、ハリソンさんという方なんですけど、の、ご両親と住んでた家があって、もうご両親が亡くなられてて」
「……お二人はどこで住まれるんですか?」
「母とハリソンさんは、お店の2階をリフォームして住むらしくて、空いたお家に、私とレオンさんで住まないかって」
「……良いんでしょうか?」
「はい。少し古いので、手は入れた方が良いと言われたんですが、住宅街の中の小さな一軒家で、王宮からも、そんなに遠くないんです」
レオンの思い描いていた、ララとの愛の巣にぴったりの物件に聞こえる。
「……その、結婚祝いにと、言われました」
ララが、顔を赤らめながら言う。
「っ、それは、とてもありがたいですが……」
「ハリソンさんが是非にって。使わないと家も痛むからと」
「……ララさんの、お母様と、ご結婚相手の方に、ご挨拶に行かないといけませんね。いえ、そういったお話を頂く前に、行かなければいけませんでした」
「いえ! 私も、レオンさんのご実家にご挨拶に行かなきゃいけないのに、行けていませんし」
「うちは遠いですから。ララさんのお母様には、会いに行こうと思えばいつでも行けました」
「……母も忙しくしていますし、私も、久しぶりに母に会いに行ったんです。私が結婚するという話をすると、とても嬉しそうでした。レオンさんに会ったら、もっと安心すると思います」
「……そう思って頂ける様に、頑張ります」
「ふふ、レオンさんは、そのままで良いです」
ララの笑顔を見て、想像しただけで緊張してしまった、ララの親への挨拶が、少しだけ気が楽になる
。
「……じゃあ、そのお家を見せてもらうついでに、お店に行きましょうか?」
「ララさん、逆です。ご挨拶のついでに、家を見せて頂くのでは……」
「そう、ですね。はい。では、母に連絡しておきます!」
ララの母は、ララによく似ていた。小柄で、ララよりも少し濃いめの髪色の、くるくるとよく動く。なによりも、笑った顔がそっくりだった。
「……真面目そう!!」
「第一声がそれって、もっと他にあるでしょう?!」
「何言ってんの、ララ! 真面目が一番なのよ?! 母さんも沢山痛い目にあって、ようやくそれが分かったのよ」
「確かに、ハリソンさん、真面目な人だもんね」
ララの母の隣に座る男性が、顔を赤らめる。
「そうよ! 真面目で優しい。それが一番大事よ?」
「一個増えてるじゃない」
「あの……、ご挨拶に来るのが遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。王宮の騎士団第二部隊に所属する、レオン・オニールと申します」
ララの母が軽く目を見張り、
「っ、声も良い!!」
と叫んだ。
「そ、そうなの!! さすが母さん、分かってる!! 素敵な声でしょう?!」
「やっぱり声よねー!! ララもよく分かってるじゃない! ハリソンさんも、声も良いのよ!!」
「それは知ってる!」
ララとララの母のテンションに、呆気にとられていると、目の前の男性と目が合う。なぜか分かり合えた気がして、軽く頷き合った。
「ご、ごめんなさい。少し興奮してしまって……」
「いえ、ララさんのことが、より理解できた気がします」
「……本当に、声も好きなんですぅ……」
ララが顔を手で覆ってしまう。出ている耳が赤い。
「……この声で良かったと、改めて思いました」
「ふふふ。良かったわねえ、ララ。ララが、初めて彼氏を連れて来た時は、私の男の見る目の無さが遺伝してしまったかもしれないと、申し訳なく思ってたんだけど……」
「そ、そうだったの? アンソニーのこと、そんな風に思ってたの?」
「でも、本人が好きになっちゃったらしょうがないじゃない? 痛い目見ないと分からないこともあるし」
「母さんて、ワイルド……そうやって生きてきて、今の母さんがあるのね。なるほど」
「……ララに、それ以来恋人ができないから、心配してたけど、本当に良かった」
ララの母が優しそうに笑う。
「レオンさん、ララをよろしくお願いしますね」
ララの母が、レオンを真っ直ぐに見る。レオンは背筋を伸ばした。
「……ララさんと、お会いできて私は幸運でした。ララさんを、ララさんとの関係を、ずっと大切にしていきたいと思っています」
「っ」
ララの母が顔を赤くする。
「ちょっと!! ララ聞いた?! 今の!!! 一生耳に残しておきなさい?!」
「き、聞いてるよー」
横を見ると、ララの顔も真っ赤になっている。ハリソンが、そんな二人を微笑ましげに眺めていた。
ハリソンが住んでいた家にも案内してもらう。
青色の屋根で白い壁の、小さいけれど清潔感のある、落ち着いた佇まいの家だった。
「本当にいいの……? ハリソンさん。きっと大切に住まれてきたんでしょう?」
ララが、家の中をうっとりと眺めたあと、ハリソンに遠慮がちに聞いた。
「ああ。家にとっても、誰かが住んでくれた方が良いからね。知らない人が住むよりも、ララちゃん達が住んでくれた方がずっと嬉しいよ」
「お部屋も充分にあるから、いつ子供が産まれても大丈夫ね!」
と、ララの母が明るく言う。
「「子供……」」
レオンとララの声が重なる。
「やだ、なに? だって、あなた達、結婚するんでしょう?」
「そっ、そうなんだけど、実感があんまり無かったから……」
「そうですね……」
二人して、顔を赤らめる。
「ふふ、良いわね。これからよね。楽しい時だわ」
「母さん達だって、新婚じゃない」
「まあ、もちろん! そうよ。毎日ラブラブだもの。ねえ、ハリソンさん」
「っ、はい……」
ハリソンの顔が赤くなっている。
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