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後日談5
しおりを挟む「素敵なおうちでしたね」
「はい。丁寧に住まれていたのが、伝わってきました。本当に、ありがたいです」
「……母とハリソンさんも、幸せそうで嬉しくなりました」
「良い方ですね」
「そうなんです。とっても優しい人なんです。……母は、10年前から、ハリソンさんのお店で働いているんですが、多分、ハリソンさんは母のことがずっと好きだったんです」
「そうだったんですね」
慈しむ様な目で、ララの母と、ララのことを見ているのが印象的だった。
「はい。でも、母も私を育てるのに必死で、気持ちの余裕がなくて。そんな母と私のことを、ずっと支えてくれていた人なんです。だから、本当に嬉しいです」
「……お二人に、何かお祝いをしなければいけませんね」
「ささやかですけど、贈り物はしたんです。でも、結婚式をしていないので、何か記念になることをしてあげたいなと思ってるんですけど……」
「記念……例えば、ララさんと、私、の結婚式の時に、お二人も一緒に、式を挙げるのはどうでしょうか……?」
「えっ、良いんでしょうか?」
「はい。せっかくの機会ですし」
「えっ、えっ、じゃあ、式を一緒に挙げたあと、ハリソンさんのお店で、知人や友人を呼んで食事をする。というのはどうでしょう……?」
「良いですね」
「っ、それは、嬉しいです! 常連の方にも、レオンさんが紹介できます!!」
ララがとても嬉しそうに笑う。
「ただ、うちの実家からは遠くて来れないので、私の地元で、もう一度、宴会か何かすることになるかもしれませんが……」
父も母も、隣近所の人を呼んで宴会をしたがる気がする。
「それは、もちろんです! 結婚式は、お呼びしなくて良いんでしょうか?」
「はい。大勢で呑む機会さえあれば、文句の言わない人達ですから」
「そ、そうなんですね。実は、レオンさん、お酒がとっても強いんでしょうか?」
「弱くはありません」
今まで、食事の時に少しワインを飲むくらいで、ララとお酒を飲む機会があまり無かったことに気づく。酔ったララはどんな風になるんだろうか。
「ララさんは、お酒は強いですか?」
「好きですし、量は飲めるんですけど、記憶が無くなることがあるので、パウラに外では飲むなと言われています」
「そうですね。もし飲む場合は、私がいる時にして下さい」
真剣な気持ちでそう言うと、ララが、顔を赤くして頷いていた。
夏の日差しを残しつつ、朝晩には秋の気配を感じるようになってきた頃、結婚式の日を迎えた。窓から外を見て、雲一つない青空にホッとする。ハリソンの店の近くの、小さな教会で式を挙げることになっている。ララは、レオンよりも先に教会へ行き、支度をしていた。
結婚式よりも先に、ララと二人で、ハリソンの元実家に移り住んでいた。ララと暮らす毎日は楽しく、穏やかな日々を過ごしていた。
ララの母とハリソンの結婚式は、二人に提案したものの、「こんな年で、沢山の人に見られたくないわよー!」という、ララの母の一言で、参列者はララとレオンだけの小さな式を挙げ、4人で食事をし、お祝いをした。今日はハリソンが、ララの父として式に参列してくれることになっている。
レオンは、正装の騎士服に身を包み、神父の前でララが来るのを待っている。参列者には、騎士団の同僚や、ララの学生時代からの友人達、図書館の同僚、レオンの上司のオズボーンに、ララの上司の図書館長の姿など、近しい人達の顔ばかりが並んでいる。
扉が開き、ララが入ってくる。
華美ではないが、繊細なレースがあしらわれた、オフホワイトのドレスを着ている。短めのシンプルなベールの向こうに、少し節目がちなララの顔が、うっすらと見えた。ララをエスコートしているハリソンの表情は硬く、緊張している様だ。ララが、そんなハリソンの方を向き、微笑みかけたのが分かった。ハリソンの表情が少しほぐれ、レオンの方へ向かって歩みを進める。近づくララの表情が、柔らかく嬉しそうに微笑んでいて、レオンも嬉しくなる。
ハリソンの腕から、ララの手が離れ、レオンの腕に絡められる。ララと目が合い、より笑みを深めたのが分かった。神に永遠の愛を誓い、ララのベールを上げた。ララが真っ直ぐにレオンを見つめる。ララの顔を見ると、緊張していたレオンも自然と気持ちが和らぐ。じっと見つめ合い、ララがハッとして慌てて目を瞑る。レオンの口角が緩んだ。ララの口の端に啄む様に口づけると、参列席から、わっと歓声が起こった。
式を終え、近くのハリソンの店へと移動する。来てくれた人達に、ララと二人で順に挨拶をしていく。レオンの上司であるオズボーンの前へ来た時、ララが緊張したのが伝わってきた。
「レオン、ララさん、この度はおめでとう。レオンが、こんなに可愛らしいお嬢さんと結婚できて、本当に嬉しいんです。……ララさん、姪のアナマリアが、突然ララさんに会いに行き、驚かせてしまい申し訳ありませんでした。私が勝手にレオンを心配して、言い出した話だったんです」
「い、いえ! 謝らないで下さい!! お会いできて、アナマリアさんのお気持ちが、よく分かりました。それに、お話できて、とても楽しかったんです」
「……ありがとうございます。おじ馬鹿かもしれませんが、……素直で良い子なんです。アナマリアからララさんに、『私は私の運命の人を見つけます』と伝言を頼まれました」
オズボーンが、少し困った顔で言う。
「……はい。アナマリアさんにお似合いの、素敵な、きっとちょっと強引な方と、お会いできますように」
ララが微笑みながら言う。
「ありがとうございます。伝えておきます」
と、オズボーンがホッとした顔で答えた。
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