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2. 持つべきものは男友達 ※
しおりを挟むラルフは、自身がモテていることを自覚していた。けれど、それは表面的なことだということも。
侯爵家の跡取りで、元々器用な質で、勉強や運動も難なくこなしてしまう。顔立ちも不細工なわけではなく整った方らしい。放っておいても女の子は寄って来るし、ラルフも人が嫌いなわけではないから、適当に相手をしてしまう。女の子とは、そんな当たり障りのない関係しか築けないと、ラルフは思っていた。
メリッサは、目を引くような美人ではないけれど、美しい艶のあるブルネットの髪に、穏やかで深みのある緑色の目と合うと、いつも引き込まれてしまう。それに、メリッサのピアノの音色は、柔らかで温かく、聴いていると心が落ち着いた。
メリッサといると、侯爵家の長男としてのラルフではなく、ピアノが好きな一人の人間として、心穏やかに過ごすことができた。
卒業を控えた発表会で、メリッサと連弾をすることになり、ラルフはなぜか気持ちが浮ついていた。
テンポの良い明るい曲で、弾いている最中に彼女と目を合わせると、自然と笑顔になる。彼女の軽やかで優しい音色に、自分の力強い低音が合わさると、気分が高揚する。ラルフは、メリッサと練習する時間を、一緒に過ごす時間を楽しみにしていた。
「ラルフは、女性の胸を、見たことがある?」
メリッサにそう聞かれた時、一瞬で目まぐるしく頭の中が動き、自分は女の子の裸を頻繁に見る様な男だと思われていること、メリッサが、自分のことをなんとも思っていないことに気づかされ、愕然としてしまう。
それに、卒業すれば、このままでは彼女は他の男と結婚してしまうということにも。
「……………………僕で良ければ、協力するけれど」
メリッサにとって、親しい男友達は自分だけなのだということも分かり、一瞬安堵したが、このままでは他の男のものになってしまうと焦り、とんでもない提案をしてしまった。
「ああ、詳しく医師にやり方を聞いたしね。メリッサが自分でするよりも、効果的かもしれないよ?」
さも、それが一番良い方法だというように、普段の侯爵家の長男としての仮面を被り、少し後ろめたい気持ちで口にする。素直なメリッサは、すぐに懐柔されてしまう。ラルフは、メリッサの胸に触れる権利を得ることができて、思わぬ幸運に、心の中でよくやった!と、拍手喝采が鳴り響いていた。
◇◇◇
ラルフとの連弾の練習は、週に一度、決まった曜日にしていた。今日は練習の日で、先週ラルフに胸のことを相談してから一週間経っている。
メリッサが練習室へ行くと、すでにラルフは来ていた。お互いなんとなく気もそぞろで、連弾の練習を終え、ピアノの椅子に座った状態で向かい合った。
「…………ラルフ」
「なんだい?」
「…………絶対、笑わないでね」
ラルフは、他の女の子の胸を、多少なりとも見たことはあるような口ぶりだった。もし、他の子と比べられて、ラルフに変だと思われてしまったら、もう一生誰にも見せられない気がする。
「笑うわけがない」
ラルフが真剣な顔で言う。
「……ラルフを、信じるわ」
メリッサはボレロを脱いで、リボンを外し、ブラウスのボタンを外していく。下着の肩紐を下ろすと、膨らみが露わになる。ここまでしても、胸の先を見せる勇気が出なくて、思わず胸元を押さえてしまう。
「……メリッサ、絶対に笑わないから、見せてくれるかい?」
ラルフの真剣で優しい声に後押しされ、押さえていた手を、外した。
「…………」
ラルフが、メリッサの胸を凝視したまま固まっている。
「……ラルフ?……変じゃ、ない?」
「っ、変なんかっ、じゃ、ない……」
「本当? 良かった……」
ラルフにそう言われて、ほっとする。
「……小さくて、ピンク色で、可愛い……」
ラルフに、真剣な顔で呟く様に言われ、顔がカッと熱くなる。
「あ、あんまり、見ないで……」
「っ、ごめん!」
ラルフが顔を赤くして、パッと視線を逸らす。ラルフに治すのを手伝ってもらうというのに、恥ずかしさが勝ってしまい、そんなことを言ってしまった。
「……メリッサ、自分では、触ってみたの?」
「うん。ラルフが教えてくれたみたいに、摘んだり、引っ張ったりはしてみたんだけれど……」
今までも、出てこないかと少し触ったこともあったけれど、この状態が普通なのか普通じゃないのかすら分からなかったので、気に病むのが嫌になり、極力触れない様にしていた。ラルフが医師に聞いてくれたことで、放っておくよりも、治った方が良いということ。しかも、治せるかもしれないということが分かり、自分の身体ときちんと向き合おうという気持ちになれた。
初めて自分の胸にちゃんと触れてみたけれど、簡単には出てこず、しかも敏感な場所だからか、無理に触ると痛くなってしまった。
「ちょっと、強く触ると痛くなってしまって、それからは触ってないの……」
「そう、だったんだね……。あれからまた、父の友人の医師に、詳しく話を聞いてみたんだ。メリッサ、少し、触れても良いかい?」
「っ、ええ」
「……重度じゃなければ、指の刺激だけで治ると言っていたんだけれど……」
ラルフが身を乗り出して、メリッサの胸を持ち上げる様にそっと触れる。乳首の周りの、小さな乳輪を親指の腹で撫でるように、優しくほぐしてくれている。
「……痛くないかい?」
「っ、ぅん……大丈夫」
メリッサよりも大きくて骨張った手なのに、指先で触れる感覚は、自分で触れた時よりも、ずっと優しかった。
「周りをほぐしてから、引っ張り出したところを、摘んで癖づけるのを繰り返すらしい……」
乳輪を押さえ、乳首を押し出す様に、親指と人差し指できゅっと摘まれる。
「出てきた……、メリッサ、少し引っ張るから、痛かったら言って」
「はいっ」
ラルフの真剣な様子に、メリッサも集中する。
押し出された小さな乳首を、きゅっとラルフの温かく太い指で摘まれ、軽く引っ張られる。
「このまま、癖づく様に少し力を入れるよ?」
「う、ん」
指の腹で、きゅうっと圧迫するように挟まれる。
「んっ」
メリッサの身体がびくっと震え、ラルフが指をパッと離した。
「っ、すまない! 痛かったかい?」
「ううん! 大丈夫っ……あ、戻ってる」
ラルフが摘んでいた小さな乳首が、また、メリッサの胸の膨らみの中に収まっていた。
「これを何回も繰り返すらしいんだ。メリッサ、自分でできそうかい?」
「う、ん、家でもやってみるわ! とりあえず、自分で頑張ってみる。ラルフ、ありがとう」
ラルフは、メリッサのとんでもない相談を馬鹿にせず、一緒に真剣に向き合ってくれた。それだけで、今まで、ずっと気になっていたけれど、目を逸らし続けていた自分の身体の一部を、少し受け入れられた気がしていた。
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