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◇本編
84.
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ワタシは勢いが付いて倒れ込むシューマさんの前に躍り出てテオルドに向けて両手を一杯に広げた。
真っ黒な『悪気』に包まれた彼からナイフが振り下ろされる。
「リッーーっ!」シューマさんの声。
「ダメッだ!」トーザさんの声。
まるで凄く遠くに居るみたいに聞こえる。
可哀想なテオルド。
この手で『悪気』が払えるなら死ぬまでワタシを抱き締めていて?最後の瞬間まで手でパタパタしてあげる。そしたら......... きっと消えてしまうわ。貴方を苦しめるモノが......
ワタシはくっと目を瞑る。
『バシィッッ』
と音が響いた
顔の前を風が通る。
暗闇の中彼の荒い息遣いが.........聞こえた。
「ハッ.........ハア.........ハァ.........」
衝撃は.................来なかった。
痛くは無い。
瞑っていた目をワタシはゆっくりと開けた。
目の前に彼の右手が握り締めたナイフ。その先を目で辿ると彼の左手が彼の右手を掴んでいた。
それをボンヤリと見つめ、顔を上げる。
そこには苦悶の表情で歯を食いしばるテオルドの顔。ブルブルと震え左手で右手をグイッと掴み上げる。
「ハー........ハー.........うっ.........くぅ.........」
苦しそうに唸りながら持っていたナイフを握る右手の指をグググッとごじ開け振るい落とす。それはカシーンッ.......と音を立てて暗い屋根の上を滑って行った。
「ぐぅ.........ハアハアハアハァ.........」
「う.........ぅ.........テオルド.........テオルド.........」
ワタシはテオルドの胸に震える手を添えた。その瞬間、触れた箇所の黒いモヤがフワリと消えていく。
彼は止めてくれた。
ワタシを刺さなかった。
涙がポロポロとこぼれ落ちる。
優しいテオルド大好きよ。
ワタシは声を殺して泣いた。
艶のある紺の髪、青空の瞳
ワタシの帰る場所
あの日言われた言葉。本当に嬉しかった
『帰っておいで。君の生きる場所は俺の居る所だ』
ワタシは貴方と生きたかった。小さいワタシでも、役に立たなくてもワタシを求めてくれたから。あなたがワタシを大切にしてくれたから。大事に大事にしてくれたから。
苦しくて苦しくて辛かった。鳥である事や貴方に好きな人が居る事。叶わない想い。だから逃げ出そうとした。
でも、でも.........
ワタシは.........本当は.........
貴方の青空で飛び続けたかったの。
「ハァ.........リリア.........」
「うっうっうっ.........うぅぅ.........ぐすっ。」
「.........ああ.........途中から.........なんか.........頭がボンヤリして.........ハァ.........。気付いたらお前の顔が見えて....俺『悪気』に.........呑まれたん、だ、な」
「ぐすっ。う.........うぅ.........テオルド.........ごめんなさい.........」
「.........いや.........俺が悪かった.........俺が.........あんなキツく.........言うつもり無かったの、に。......すまない」
テオルドはそう言いながらワタシを覆う様にゆっくりと胸に抱き込んだ。
彼のシャツにワタシの涙が吸い込まれて行く。
彼を覆う黒いモヤはフワリフワリと消えて行き、次第に薄くなって消えて行った。
「ああ.........リリア俺の唯一。もう大丈夫。お前が居れば.........俺は戻れる」
真っ黒な『悪気』に包まれた彼からナイフが振り下ろされる。
「リッーーっ!」シューマさんの声。
「ダメッだ!」トーザさんの声。
まるで凄く遠くに居るみたいに聞こえる。
可哀想なテオルド。
この手で『悪気』が払えるなら死ぬまでワタシを抱き締めていて?最後の瞬間まで手でパタパタしてあげる。そしたら......... きっと消えてしまうわ。貴方を苦しめるモノが......
ワタシはくっと目を瞑る。
『バシィッッ』
と音が響いた
顔の前を風が通る。
暗闇の中彼の荒い息遣いが.........聞こえた。
「ハッ.........ハア.........ハァ.........」
衝撃は.................来なかった。
痛くは無い。
瞑っていた目をワタシはゆっくりと開けた。
目の前に彼の右手が握り締めたナイフ。その先を目で辿ると彼の左手が彼の右手を掴んでいた。
それをボンヤリと見つめ、顔を上げる。
そこには苦悶の表情で歯を食いしばるテオルドの顔。ブルブルと震え左手で右手をグイッと掴み上げる。
「ハー........ハー.........うっ.........くぅ.........」
苦しそうに唸りながら持っていたナイフを握る右手の指をグググッとごじ開け振るい落とす。それはカシーンッ.......と音を立てて暗い屋根の上を滑って行った。
「ぐぅ.........ハアハアハアハァ.........」
「う.........ぅ.........テオルド.........テオルド.........」
ワタシはテオルドの胸に震える手を添えた。その瞬間、触れた箇所の黒いモヤがフワリと消えていく。
彼は止めてくれた。
ワタシを刺さなかった。
涙がポロポロとこぼれ落ちる。
優しいテオルド大好きよ。
ワタシは声を殺して泣いた。
艶のある紺の髪、青空の瞳
ワタシの帰る場所
あの日言われた言葉。本当に嬉しかった
『帰っておいで。君の生きる場所は俺の居る所だ』
ワタシは貴方と生きたかった。小さいワタシでも、役に立たなくてもワタシを求めてくれたから。あなたがワタシを大切にしてくれたから。大事に大事にしてくれたから。
苦しくて苦しくて辛かった。鳥である事や貴方に好きな人が居る事。叶わない想い。だから逃げ出そうとした。
でも、でも.........
ワタシは.........本当は.........
貴方の青空で飛び続けたかったの。
「ハァ.........リリア.........」
「うっうっうっ.........うぅぅ.........ぐすっ。」
「.........ああ.........途中から.........なんか.........頭がボンヤリして.........ハァ.........。気付いたらお前の顔が見えて....俺『悪気』に.........呑まれたん、だ、な」
「ぐすっ。う.........うぅ.........テオルド.........ごめんなさい.........」
「.........いや.........俺が悪かった.........俺が.........あんなキツく.........言うつもり無かったの、に。......すまない」
テオルドはそう言いながらワタシを覆う様にゆっくりと胸に抱き込んだ。
彼のシャツにワタシの涙が吸い込まれて行く。
彼を覆う黒いモヤはフワリフワリと消えて行き、次第に薄くなって消えて行った。
「ああ.........リリア俺の唯一。もう大丈夫。お前が居れば.........俺は戻れる」
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