愛した人は青空の瞳〜御使いシラサギと3つの選択〜

平川

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◇式前30日の記録

16.真夜中の訪問者⑷

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「.........お前.........誰なんだ?」
「昨日よりリリア様の護衛に雇い入れ頂きましたの。グッ.....フウ。どうですか?わたくし合格ですか?テオルド様」
「護衛?本当か?」
 女の首と左腕をギチッと離さないまま聞き返す。

「.........テオルド?テオルドなの?」
「リリア.........護衛雇ったのか?」
「護衛.........あ、スパラッシュの事?」
「ん?スパラッシュ?」

 ベッドに掛かっているドレープを避け、白い髪の女性が顔を出した。月明かりに反射して緑色の澄んだ瞳が煌めいて、『悪気』で視力を強化していたテオルドには、彼女がまるで女神の様に美しく見えた。
 久しぶりに.........胸がときめく。やはりリリアは特別だ。

「ええ、そうですわ。女神様に人に変えて頂きましたの。糸は出せますから護衛に雇い入れて頂きました。...ゴホッ.........シューマ様に」

 スパラッシュは壁に苦しげだが凛とした声で答える。首を掴む手が離れ身体を押さえる力が少し弱まった。

「.................何故だ.........リリアの友人だからか?それだけじゃないだろ?目的は何だ?」
「下界に.........叶えたい事がございますの。その為に天界での地位も力も捨てて参りました。出来ればテオルド様にも協力をお願いしたいのですが、まあ、それは追々」

「.................分かった。信じよう」

 テオルドはゆっくりとスパラッシュから身体を離す。

「テオルド.........」
 リリアがベッドから出て小走りで近づいて来る。

「.........起こして、済まない。顔見に来ただけだったんだけど」

 少しバツが悪い。まさかリリアの部屋の中で戦闘になるとは思わなかった。迂闊な行動だった。下手をすればリリアが怪我をしてしまう所だった。下を向くテオルド。

「平気よ。テオルドもスパラッシュも無事で良かった。.........貴方と全然会えなくてスパラッシュの事言えなくて.........。ビックリした?」
「ああ。でも途中で『悪気』が無いから可笑しいとは思ってた。そうか.........天界の者は『悪気』は発しないんだな.........」
「そうなんだね。考えた事無かったよ」
「.........えっと.........すまん。騒がしくして.........じゃあ、俺.........戻るな」
「..................」

「おやすみ、リリア」

 そう言ってテオルドは身体を白い扉に向け歩き出す。ハッとして顔を上げたリリアに背を向けた。

「テオルド。あの.........あのっ!もう少しだけ.........」
 リリアは小さな声でそう言いながら腕を延ばしてテオルドのバスローブの肘の辺りを指先でキュッと摘む。

「え?.........う?.........うん」

 一瞬呆けるテオルドだったが、俯くリリアを見て少し胸が高鳴る。

「.........では、わたくしお部屋を出ましょうか?」

 スパラッシュは指先をクルクル回し部屋の中の糸を回収しながら言った。

「え?あ、いや.........俺の部屋に行こうか?スパラッシュ、君はまだ部屋は与えられて無いのか?」
「明日同じ階にご用意頂けるそうですわ。護衛ですからね。今は一緒に寝ておりました」
「そうか。悪かった。迂闊な行動だった。済まない。怪我はしてないか?」
「ふふ。テオルド様は素直ですね。イヤらしさが無くて好感が持てます。糸で衝撃は抑えましたから大丈夫ですよ。腕はもげそうでしたが。やはり貴方はお強いですね。戦い慣れてる」
「.................それは.........どうも。.....じゃあ、少しだけ....行こうか、リリア」
「うん。じゃなくて、はい。参ります」
「俺の前では普段通りで良いよ」

 そう言ってテオルドはふふっと笑った。
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