【完結】初恋は淡雪に溶ける

Ringo

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♡afterstory♡王太子の勧誘

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の一線を越えた日から、ふたりの寝室は同室となった。


「いいのかしら…まだ夫婦でもないのに…」


そう戸惑いつつも、以上は何がなんでもエメットに娶ってもらう…と決意し、満面の笑みを浮かべ「おいで」と手招きする婚約者の隣に潜り込んだ。

それ以降…早起きが得意だったアンジェリカは昼頃まで眠るようになり、対するエメットは肌艶と機嫌を良くして出掛けている。

無論、の一線は越えていない。






*.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜






今日も今日とて、空が白む直前まで存分にアンジェリカを愛し尽くしたエメットは、王太子からの呼び出しを受けて登城していた。


「……お前、なんでそんなに艶々しいんだよ」

「愛する人との睦み合いが原因ですね」

「…俺がアリアネルに怒られたんだぞ。折角アンジェリカ嬢と親しくなれたのに、鬼畜な婚約者が寝室に監禁していて会えないと」

「監禁だなんて心外だな。俺はただ、アンジェリカを深く愛しているだけなのに」


王太子のジト目を躱し、香り高い紅茶に口をつけて「アンジェが好きそうだな」と嗜む。


「ところで…だ。例の件、どうしても断ると言うのか?悪い話でもないだろうに」

「良いか悪いかで言うなら“悪い”」


にべもなく言われた王太子はムッとするが、そうさせたエメットは何処吹く風。


「なんでだよ。王太子…ひいては後の国王の専属護衛騎士なんて、普通は有難がるもんだろ」

「うわ、傲慢」

「事実だろう?それに、結婚した後の生活はどうするつもりなんだ?幾ら実家の事業を手伝うと言っても、それだけで公爵令嬢として育ってきた女性を満足に養えると思っているのか?」


だから側近兼騎士になれ…と迫るが、エメットが頷くことはない。

何処か不敵な笑みを浮かべて王太子を見やる。


「ダイアン伯爵を継ぐことになった」

「………は?」

「知ってるだろ?ダイアン伯爵家。母上の従兄の妻の従姉の姪が嫁いだ家なんだ」


家名は知っているが、続いた関係性に混乱しながらとりあえず「…あぁ」と首肯する王太子。


「まぁ血縁は無いんだが、急な病で跡継ぎだった唯一のご子息を亡くされてな…俺とアンジェにその役目を任せたいと打診が来た」

「…受けるのか?ダイアン伯爵家は確かに歴史もあるし、財政は上位の侯爵家と同等かそれ以上で何ら問題はない…が、領民は代官任せを嫌うと聞く。だから当代領主である伯爵も基本は領地暮らしであるし、社交シーズンでさえあまり顔を出さないのが通例だ」

「らしいね」

「アンジェリカ嬢に退屈な暮らしを強いるつもりか?王都で暮らせば夜会やお茶会など、幾らでも華やかな生活を送れると言うのに…それら一切が出来ないんだぞ?」

「願ったり叶ったり」


愛するアンジェリカをなるべく人前に出さず、目の届くところにだけ居て欲しいと願うエメットにとっては、これ以上にない大義名分。

毎日のように深く愛し合い、いずれ出来るであろう子供達と共にゆったりとした時間を過ごす…それを譲る気はなかった。


「窮屈な鳥籠ではいつか飽きられる」

「アンジェ自身がそれを望んでいるから」


王太子は胡乱な目を向けるが、笑みを深めたエメットの言う通りアンジェリカの望みでもある。

公爵令嬢として煌びやかな世界に身を置き、常に気を張り休まらない日々…あまつさえ元婚約者の愚行によって好奇の目に晒され、不本意ながらも“寝取られ令嬢”とまで揶揄された。


『エメットとふたり…のんびり暮らしたいわ。エメットが居てくれればそれでいいの』


王太子や国王付きの騎士になどなれば休日も碌に取れず、家族との時間など皆無に等しい。

確かに給金は安定しているし、王都にそれなりの屋敷を構えて華やかな暮らしを送れるだろう。

けれど漸く手に入れた最愛との時間を蔑ろにしてまで得たいものなど、今のエメットには皆目見当もつかない。

ましてその最愛の願いなら尚更に。


「だが……アリアネルが…」


王太子にとっての最愛は、その立場故に本音で付き合える友人が少ない。

知っているだけで二人…その内の一人は妹姫の講師として登城する機会が増えたが、これからはアンジェリカともお茶会などを楽しむのだと嬉しそうに話していた。

その微笑みと希望を摘み取るなど出来ない…と懇願するが、同様に最愛の願いを叶えたいエメットが頷くことは無かった。

代わりに…と口を開く。


「ダイアン伯爵領では純度の高い白金が採れる事が有名。その加工技術は国内のみならず、国外からも高い評価を得ている」

「そのくらい知っているさ。だからこそダイアン伯爵領の白金は、王家であろうとなかなかお目にかかれないんだから」


身につける装飾品はシルバーと白金に徹底している王太子は、予てからダイアン伯爵領の白金を使ったジュエリーを所望していた。

だがたとえ相手が王家であろうと忖度をしない職人達は「ご依頼は先着順」とツレない態度。

注文したジュエリーが納品されるのは、採掘量で変動する為に凡そ三~五年後と言われている。


「アリアネル嬢とお揃いで依頼したジュエリー、結婚祝いとして献上させてもらうよ。勿論ダイアン伯爵と職人達の許可も得ている」


あまりしつこく勧誘されても迷惑だし、アンジェリカが気を遣うのも避けたい。


「……本当か?」

「職人達がアンジェの可憐さにすっかり骨抜きにされてね。次代の領主夫人の頼みとあらば、多少の融通は利かせてくれるらしい」

「忖度はしないと…」

「職人も人の子だから。まぁ、王家の割り込みで他の納期をずらす事は出来ないと言って、相当無理をしてくれるみたいだけどな」


かくして、王太子からの勧誘は潰えたのである。

あとは念願の結婚式を待つばかり…と軽い足取りで帰宅し、起きて間もないという最愛の待つ部屋へと急いだ。







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