(完結)僕の婚約者は能面令嬢??

Ringo

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手引きした者とその末路

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(小児性愛的な話が出てきます。ご注意を)
(読まなくとも話は繋がります)
(明るく?言えばショタコンです)

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サルバトーレ帝国第三皇子の病死が発表される少し前、手引きした者達が地下牢に詰め込まれた。

筆頭は侯爵夫人。嘗て皇帝の愛人だった彼女は、皇帝からの命を受けて正式な手続きをとって入国し、十年もの長い時間をかけて機を待っていた。

侯爵夫人となったのも計画の内であり、多額の借金を抱えていた侯爵に近付いて甘言を囁き、見目の良さと資金を差し出し身元を確保するに至る。

それから十年。すっかり王国に馴染んで人脈を作り上げていた夫人は、その伝手を生かして王太子妃候補の教育係の座を掴んだ。

その女は現在、冷たい地下牢の石床に騎士によって強制的に跪づかされており、怒りを隠そうともしないクリスティアーノが見下ろしている。


「金か?」

「そうね、それもあるわ」


それだけの時間をかけても皇帝の命を遂行しようとした理由を尋ねれば、返ってきたのは含みを持たせた曖昧な返事。


「それ?」

「愛してるからよ」

「……まさか皇帝をか?あり得ない」

「それこそあり得ないわ。愛しているのは第三皇子のトリジアーニ殿下よ」

「は?……第三皇子?」



ふふ…と恍惚とした表情で笑う。

女の年齢は三十五歳。対するトリジアーニは十六歳で、十年前と言えばまだ六歳と…二十五歳だ。


「お金には変えられないものもあると知ったわ」


当初は金の為に皇帝の愛人となったが、息子の第三皇子トリジアーニと出会い恋に落ちた。

その皇子が初めて女に打ち明けた心の内は、他国の貴族令嬢への恋慕と結婚を望む思いであり、その頃には皇帝もその令嬢を迎え入れようと動いている事も女は聞かされていて、表向きは皇帝からの命で動いているように見せかけ、その裏では皇子こそが本命であると繋がりを持ち続けた。


「トリジアーニ殿下の初めては私が頂いたの」


うっとりと始めたのは、女と第三皇子との関係。

当時二十五歳の女が僅か六歳の男児に行った卑劣な行為の数々に、その場の誰しもが顔を顰める。


「とてもお可愛らしかったわ。初めての感覚に涙を流して…幼いからまだ精通もしていなかったんだけど、気持ちいいことに変わりはないのね。可愛く腰を痙攣させていたのよ」


クリスティアーノは目の前の女に怒りを覚えた。

愛するプレッツェルを奪おうとしたことは許せないが、まだ何も分からない少年を相手に猥褻な行為を何度も強いて、愛人である皇帝から命を受けるも歪んだ愛を抱く少年の為にとあっさり反旗を翻し、潜入の足掛かりとされた侯爵とは…


「なぜ子まで儲けた」

「女ですもの抱かれたいわ。そうなれば子も出来てしまうでしょう?生むしかないじゃない」


つまりは自分の欲求の為に成した存在であり、そこに愛情などひと欠片も存在していない。


「あぁ…でも、旦那様が金髪に藍色に近い瞳だったのも決め手ね。そうすれば生まれてくる男の子も同じ可能性があるでしょう?」


侯爵は根っからの文官タイプで細身…クリスティアーノは第三皇子と侯爵家次男の容姿を思い出して眉間の皺を深める。


「長男は私に似ていて残念だったけれど、次男は旦那様によく似ていて…まるで殿下のようだと思わない?これは私へのご褒美だと思ったわ。だから生まれた時から大切に愛してあげてきたの」


侯爵家の次男は八歳。話の流れから既に手を付けられたのは間違いない…と、その場にいる者は吐き気を催した。


「ねぇ、あの子を呼んで?生まれてからずっと毎日可愛がってきているのに、未だに恥ずかしがって抵抗するのよ?躾なくちゃいけないの」

「…会わせるわけないだろ?それに、抵抗するのは羞恥からなどではない、貴様に触れられるのを嫌悪しているからだ」


クリスティアーノが知る次男は、病的なまでにか細く白い肌をした少年で、常に下を向いて何かに怯えているような感じさえ窺わせていて不思議な存在だった。

その原因が閉ざされた空間で実の母親に関係を強いられ続けていたせいだと知れば…その心の傷を思えば、遣りきれない感情が沸いてくる。


「嫌悪?……ふんっ、あり得ないわ。あの子は私がいないと生きていけないの。私の愛がないと生きていけないのよ!連れてきなさい!」


教育係に採用するにあたり行った面接には、クリスティアーノも同席した。

プレッツェルの側に置く人間に万が一の裏があってはならないと、志願者や推薦者の身元は徹底的に洗われていたはずで、女がサルバトーレ帝国出身だということに警戒心も抱いた。

けれど女の豊富な知識と洗練された作法と身のこなしに、僅かに懸念が残るものの満場一致で採用が決められたのだ。

誰ひとりとして気付かなかった女の狂気と本性。


「……狂ってる」

「私は狂ってなんかいない!早く連れてきて!あの子には私が必要なの!!」


誰かがポツリと呟いた言葉に噛みついて喚き散らして暴れ、これでは他の罪人の調書が取れないと猿轡がされ騎士に押さえ付けられた。

女の協力者は全部で二十名。

その全てと肉体関係を持っており、男達は女の愛と体を独占する事を望んで競い合い、手引きをしたのも女へのポイント稼ぎ。

告げられていた協力内容は『親戚の子にどうしても庭園を見せてやりたいの』と稚拙なものだが、常に嫉妬心と独占欲に苛まれていた男達の殆どが即答で女のおねだりに頷いた。


「実際に来たのは第三皇子だがな」


クリスティアーノの言葉に、膝をついて項垂れている男達は首を差し出した。

身元の確認もせずに王宮内に入れただけでも懲罰ものなのに加え、手引いた先は王族とその招待客のみが使用を許されている庭園。

当初はその計画に怯んだ者もいたが、皇帝を篭絡させるほど手練手管の女に寝台で言葉巧みに言いくるめられ、最終的には『王妃教育を請け負うほどの人』だからと折れた。

まさかそこまで愚かではないはずだ…と。

だが蓋を開けてみればどうだろうか。


「たとえ帝国の皇子とはいえ先触れなしの王国並びに王宮への不法侵入の罪は重い。その上でワンダル王国の王太子を侮辱、そして王太子の婚約者誘拐未遂と王太子殺害未遂…まだまだ余罪はあるけど、これだけでも極刑に値する」


毒牙にかかった男達の中にはまだ子が生まれたばかりの者もいるが、そこに同情は出来ない。

守るべきものがあるにも関わらず女の体に溺れ、その寵愛を競い合ってあくまでも自分の意思で動いたという愚劣の極み。


「調査の結果、今回の件はそれぞれが個人で動いたものと確認した。よって連座はせず対象は本人のみとする。その日まで己の罪と向き合え」


男達の殆どが一掬の涙を流して床を濡らしたが、幾人かは恨みがましくクリスティアーノを鋭く睨み付けた。




* * * * * *




後日、男達の家族の元にトリジアーニ皇子の事は伏せて報告が届けられ、その全てが爵位を後継に譲渡するか返上の動きを見せた。

生まれたばかりの子を抱える夫人も夫の犯した罪と不貞への嫌悪から激しい憤りを抱き、のちに行われた公開処刑では率先して石を投げ付けていたのを目撃されている。

処刑が執行される場には国王と王妃、王太子が並び、その隣には異例でもある婚約者の姿。王太子にしっかりと腰を抱かれ、王族と共に最後のひとりまでを見届けてからその場を辞した。

その扱いは、婚儀前であるが既に王家に受け入れられている事を示すものであり、罪人達に告げられた【罪状第一事由】が『王太子の婚約者に対する誘拐未遂』と呈されたことで、その本気度がじわりと広がっていく。

【罪状第一事由】は刑執行に伴う最重要事由であり、そこに婚約者の案件を持ってきた王家。

その王家が辞したあとで小さなざわめきが起きたが、取り急ぎ情報の共有を図る為に次々と足早にその場を去り、馬車を走らせた。

処刑された者の多くは貴族。

血縁関係から僅かな付き合いの仕事関係まで、徹底的に調べあげなければ足元を掬われてしまう事になる。また、事前に処刑対象者の一切が公表されなかったことから、既に王家が調査へと着手しており様々な証拠を得ていることが予想されて多くの者が身を震わせた。


「急げ!!」


ある者は王都のタウンハウスへと向かい、またある者は領地へと早馬を飛ばす。

そして、処刑場に赴いたにも関わらずひとりも最期を見届けることもなく、誰よりも先に家へと戻り荷物を纏めて家を飛び出したひとりの男が、そこで騎士団によって捕らえられた。


「【罪状第一事由】で捕縛する」


男は、対象がプレッツェルだとは知らずに逃走経路の確保と案内を引き受けていた。

計画当日、約束の時間になっても依頼主は現れずに帰宅。前金でそれなりに受け取っていたから、貴族の気紛れだと特に気にもしていなかった。

酒場で知り合ったやたら艶っぽい女に『駆け落ちする友人を助けてほしい』と強請られ、篭絡された男はそれを承諾。

男は商売を手広く営んでいるが、高位貴族とのやり取りは全て妻に任せていたので侯爵夫人の顔など知らない。

やたら整った顔の女だとしか思わず、羽振りの良さと手練手管に骨抜きにされて請け負ったのだ。


───『前金だけでも半年は遊ぶ金に困らない』


残金も貰えれば軽く二年は遊んでいられたはずだが、大した労もせずに得た大量の金貨に満足して女の事などすっかり忘れて過ごしていた。

そこで急遽公示された処刑をなんとはなしに見に行けば、いつぞやの女が猿轡を噛まされ緊縛された状態で断頭台にあがっている。

しかも【罪状第一事由】が婚約者の誘拐未遂。

思い当たることしかない男は、バチっと女と視線がぶつかった気がして踵を返して走り出したが、その時点で騎士団が後を追い始めたことにはついぞ気付くことはなかった。

最後まで難航していた協力者の所在。

慎重に行動しているようで抜けだらけの計画らしく、篭絡して協力を確固たるものにしたと驕った女は相手の素性を聞きもしていなかった。


───『断頭台にあがったら男を探して教えろ。そうすれば色々と考えてやらなくもない』


クリスティアーノにそう言われ、狂気に狂う女の脳裏に浮かんだのは次男の姿。再び甘い時を過ごせるのだと血眼になって男を探し、見つけると同時に合図を送り王族席に座るクリスティアーノを見上げると……


───『ご苦労さん』


唇がそう動いたのを見やり、その意味を理解すると同時に怒りを沸騰させて顔を真っ赤に染め、猿轡の奥で何かを叫んだところで刃が落ちた。





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