(完結)僕の婚約者は能面令嬢??

Ringo

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プレッツェルの誘拐

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不正入国をして黙って王宮に入り込んだ帝国第三皇子と、その手引きをした侯爵夫人、そしてその手駒達が一斉に粛清され、漸く落ち着きを見せたワンダル王国。

王宮内は新たな人事と結婚式の準備に追われ、その主役であるクリスティアーノとプレッツェルも忙しない日々を送っている。


「どう?クリス」


式典のあとに控えている結婚披露の舞踏会で着用予定のドレスの裾をふわりと広げ、得意気な笑みを浮かべているプレッツェルは自分に向けられている熱い視線に頬を染めた。


「綺麗だよ」


優雅に足を組んで座ったまま上から下までをじっくりと眺め、浮かべられた微笑みに使用人達が甘い息を漏らしそうになって飲み込み、心なしか慌てて部屋を辞した。

慣れているはずの彼女達でさえこれなのだ、夜会などでしか姿を見ることのない女性達が心を踊らせ勘違いしても仕方ない。

そして、プレッツェルもクリスティアーノの微笑みには慣れることがなく、正面から向けられると頬を染めてもじもじと視線を彷徨わせる。


「あ、ありがとう」


意を決して視線を合わせれば、鮮やかに澄んだ緑色の瞳…その奥に隠されている熱に気付く。

優しい微笑みの王子と知られている彼が、実は獰猛な肉食獣を内に秘めていると知るのは常に付き添う側近と侍女くらい。

プレッツェルは『クリスも年頃だから』と優しく受け止めているが、その目で射抜かれると体が熱くなって下腹部が疼く。

そして、その事に気付いているクリスティアーノはその目を向けない。


「あ……あの……」


コツ…コツ……と近付いてくるクリスティアーノに対して言葉は続かず、しどろもどろしている間に優しく腕の中に囚われた。


「本当に綺麗…」


ほぅ…と、とてつもなく甘い吐息を漏らすクリスティアーノは、優しく抱き締める手をずらしてプレッツェルを色んな意味で堪能し始めるが、いつもの事である為側近と侍女は気にしない。

ただ、超絶麗しいふたりのじゃれ合いに


───『目の保養になる、もっとやれ』


と思ってはいる。

わざとか否か、クリスティアーノの情欲を受け止めたプレッツェルは自ら体を押し付けた。


「わたし、綺麗?」

「この世で一番綺麗だよ」


テレテレするプレッツェルに優しく微笑むクリスティアーノだが、両手は不埒に動いたまま。これでよく一線を越えないものだと感心さえする。


「早く結婚したいわ」


その言葉の意味するものを察したクリスティアーノは抑えきれなくなり、プレッツェルをソファーに押し倒して口を塞いだ。

けれど一線は決して越えない、いい子である。




* * * * * *




結婚式まで一ヶ月を切り、近隣諸国から遠い異国に至るまでの王候貴族が続々と入国し始め、それに伴い王国内全土が賑わいを見せている。

実に目出たく喜ばしいことだが、王宮への出入りが多くなるに連れて緊張感も増していく。


「二名の鼠を捕縛致しました」


騎士の報告にクリスティアーノは重い溜め息を吐くが、それも仕方ない。


「……これで五件か」


プレッツェルとの邂逅を狙い王族の居住スペースへの侵入を図る者が後を断たず、既に五件…七名が捕らえられた。

当のプレッツェルは厳重な守りを敷かれている王太子妃の部屋に閉じ籠っており、結婚式当日まで出ることはない。


「今度はどこの誰?」


こめかみを揉んで頭痛を和らげようとするクリスティアーノの顔を覗き込むのはプレッツェル。不測の事態に備えて続く扉の鍵は全て開けられており、実はこうして王太子の部屋に滞在中。


「…ふたつ隣のバチェラ王国の双子王子だよ」

「あぁ、あの人達……」


大丈夫?とこめかみを揉む手に小さな手が重ねられると、途端にクリスティアーノの表情は柔らかいものへと変わった。

どんな薬よりも効くのは愛する人の気遣い。

プレッツェルが王太子の部屋にいる事は秘匿されているが、勿論知る者もいて…そのひとりであるプレッツェルの父親は、イチャイチャと戯れるふたりに…いやクリスティアーノだけに鋭い視線を向けている。


「……殿下、お控えください」

「まだいたのか、侯爵」

「おりますとも、えぇ、えぇ、当日までずっとこちらにおりますとも」


分かりやすい牽制にクリスティアーノも可愛い婚約者との戯れをやめ…るが、腰はしっかりと抱き寄せたままで侯爵の向かいに座った。


「…プレッツェル、離れなさい」

「嫌です」


父親からの忠言にもすげなく拒絶の意を返す様子にクリスティアーノは満足げな笑みを浮かべ、侯爵は困ったように眉を下げかけ…


「…まったく、結婚式まで待てないのか?」

「待ちたくありませんわ」


可愛い娘にすげなくされて内心では号泣している侯爵だが、表面は恐ろしいほどの美しさを湛えたまま、さらに威厳のある落ち着きを見せている。


「それで?ダリウス王国の動きは?」


美貌の親子で静かな睨み合いを続けていたが、クリスティアーノの言葉に空気が変わった。


「第七騎士団を総動員しております」

「精鋭部隊をか…抑えられる?」

「抑えます」


臣下の忠実な答えに頷き、次いで隣の婚約者を見やれば些か不安そうな様子。


「大丈夫、絶対に守るから」


安心させるように抱き締めたところで呆れたようにわざとらしく息を吐いた侯爵だったが、何も言うことなく頭を下げて部屋を辞した。


「プレル…大丈夫だよ」


幾度となくその身を狙われてきたプレッツェルだが、六歳の時に唯一防げなかった事があり、北の隣国ダリウス、そこの王弟に狙われ国境を越えて連れ去られ、この事は厳重に秘匿されている。


『くりす、たすけて!!』


まだ幼いクリスティアーノの目の前で拐われ、泣いて助けを請うプレッツェルは王弟自身の早馬に乗せられ連れ去られた。

今ほどの厳重な警備体制を敷いていなかった事も災いし、あっという間に国境を越えたプレッツェルは王弟の離宮に閉じ込められ、そこで一ヶ月もの時間を過ごしている。

救出時、朦朧として記憶を曖昧にしか持っていなかったプレッツェルが真っ先に調べられたのは純潔の有無。


『どちらだとしてもぼくのものだ!!』


もしも純潔を失っているなら王族へ嫁ぐことは許されない。それならば王位などいらないとクリスティアーノは泣き叫んだ。

結果として破瓜は回避されていたものの、全身に散らばっていた赤い鬱血痕…それは秘する場所の近辺にも存在し、つまりは裸に剥かれてその姿を王弟に晒したことを意味する。

診察と療養の為に閉ざされた部屋の前から動こうとせず、日に日に痩せ細るクリスティアーノの姿は見た者の心を打ち、どうにかしてふたりを守れないかと多くの嘆願が国王夫妻へと届く日々。

幸いにも、救出にあたった者と療養に携わる者は臣下の中でも特に忠誠心が強い。魘されるプレッツェルもクリスティアーノの名前を呼んでいることから、厳重な箝口令が敷かれ一連の出来事は秘匿された。

二十六歳の男による蛮行。

報復と他国からの糾弾を恐れたダリウス王国は、多額の慰謝料と隣接する領地を差し出す事と王弟の処刑を約束することで和解を提示。

だが処刑を前にして王弟は逃走し、現在に至るまでその所在は明らかになっていない。

そのダリウス王国から、結婚式へ参加するために譲位したばかりの国王夫妻が来ている。本来ならば参加など認めたくはないが、余計な詮索を避けるために仕方なく招いた。


「……クリス…」


震えるのは過去を思い出しているからか…当時の怒りは簡単に思い起こされる。

不安に瞳を揺らすプレッツェルを抱き上げて寝室へと向かうのを、止める者はいない。




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