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when I was little ・・・

十二歳の爵位継承 -1/4-

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※ここでちょっと幕間…と言うか、息抜き?にバルトさんの少年期をお届けします。

next seasonで執事ジェイマンのやや重めな話が出てくるのですが、そんな彼とバルトの絆がどのように深まったのか…などなど。

(おまけ話なので全四話を一気あげ。お楽しみいただけましたら幸いです)






────────────────────






〔バルティス 十二歳〕


両親が事故で亡くなり、祖父母も他界していたことでぼくが爵位を継ぐことになった。

だけど僕はまだ十二歳の子供でしかなく、成人する十六歳までは、父の弟である叔父が後見人としてついてくれることに。

叔父とはそれまで特別親しくしていたわけではないけれど、王宮文官として勤める彼は淡々と僕のサポートをしてくれた。

しかし、叔父がしてくれたのは業務的な事のみ。

周りの貴族達から嫌味や嫌がらせを受けることも多く、それらの躱し方や対処方法を教えてくれたのはジェイマンだった。

多くの使用人を失い、両親よりも多くの時間を共にしてきた乳母とオリバーを失い…少しでも気を抜けば涙腺が緩む。

そんな日々でも負けるものかと頑張れたのは、僕が立派な領主となり、領民を幸せにする事をオリバーが望んでくれていたからに他ならない。

だから時々、息抜きにお茶を飲みながらオリバーと過ごした時間を思い出していた。






******






騎士を目指すオリバーの隣で、僕は次期当主としての教育を受けていた。

その厳しさと難しさに深く落ち込んでいた時、いつもは頑張れと肩を叩くオリバーが、珍しくただ隣に座っていたことがある。

その頃、体も丈夫になりつつある僕に婚約者を宛がう話が持ち上がるようになり、親族との集まりでは跡継ぎの話まで出るようになっていた。

どこそこの家系は多産だからいいとか、どこそこの令嬢は資産家だからいいとか、僕の気持ちなど置いてきぼりで話は進んでいく。


「僕はまだ十歳なのに、子供は何人いたらいいとかまで言ってくるんだ。もしも出来なかったらどうなるんだろう」

「その時は、誰か優秀な奴を後継に指名して任せればいいんじゃないか?お前はそれまできちんと領主として努めればいい」

「……そんなもん?」

「運営も子供も、やれることは全部やって、それでもダメなら仕方ないだろ。それでもお前は跡継ぎなんだから、簡単に諦めちゃダメだけどな」


自分で望んだ立場じゃないのに…と鬱屈してしまうけれど、そんな時もオリバーは変わらずに励ましてくれる。


「だけど、やるだけやってどうにもならなくなった時は手放したらいい。無責任に逃げるとか捨てるとかじゃなくて、きちんと責任を果たしてからその場所を譲るなら、周りも納得するさ」

「……そうかな」

「子供が出来なかった時もさ、きっとその事でツラい思いをするのは女の人だろうから、お前はその人の事を守らないといけないぞ」


騎士や侍女と立場の近いオリバーは、僕の知らない世界をたくさん知っているらしく、時々こうして大人みたいな事を言っては僕を驚かせる。


「ほら、最近子供が出来た侍女のナターシャいるだろ?結婚してから八年、漸く出来た子供だ。だけどその八年、旦那の親から子供はまだかっていつも言われて責められたらしいぞ」

「え……」

「別に何かを継ぐ跡取りでもないのにだ。てことは、お前の嫁はもっと色んな人に言われることになるんだから、ちゃんと守ってやる必要がある」


まだ婚約者もいないのに、なんだかどんどん不安になっていった。

もしも子供が出来なかったら…その時に僕は何をどうすればいいのだろう…


「領主として土地や民を守りながらだから大変だと思うけどさ、それでも相手を愛してるなら守らなくちゃダメだ」

「…………愛せなかったら?」

「それは…まぁ、確かに貴族だから政略結婚てことまあるんだろうけど…蔑ろにしていい言い訳にはならなくないか?」

「……うん…」


僕の気持ちなんて無視して選ばれる奥さんを、愛せるようになるだろうか…そんな不安はなかなか消えてくれない。


「もしも愛せなかったら、それはそれでちゃんとした責任の取り方があるんじゃねぇの?そこら辺はたぶん、ジェイマンが教えてくれるさ」

「……そうだね」

「もしも愛することが出来て相手もバルトを愛してくれたとしてさ、子供は出来なくて…だけど別れたくはないって思ったら、その時は爵位を譲って貴族やめれば?」

「えっ!?」


まさかの言葉に、思わず大きな声が出た。

いつも「立派な領主になれよ」って励ましてくれるオリバーが、まさか貴族をやめろなんて言うから…見捨てられるような気がして。


「さっきも言ったじゃんか。やるだけやってダメなら仕方ないって」

「言ったけど…でも…」

「貴族やめて平民になるなんて簡単な事じゃないけどさ、努力してやれるだけやってもダメなら、最後に守るのは愛する女だろ」


露骨な言い方に、僕は恥ずかしくなった。


「オリバーは…好きな人いるの?」

「今はいないけど、惚れて一緒になる女は絶対大切にするし幸せにする」


オリバーは好きな人と結婚できるんだ…と、別に現状で自分が誰かを慕っているわけじゃないのにとても羨ましく思えた。

だけど、政略結婚でも愛せないとは限らない。

愛し合うようになって…だけど子供が出来なかったら…その時はジェイマンに相談してどうするべきか考えればいい。

だけどまだ子供の僕は、爵位を譲って平民になることでジェイマンやオリバーと離れる…という事に恐怖と寂しさをに覚えた。


「……もしも僕が平民になったら…オリバーとはどうなるの?もう会えなくなる?」

「なんも変わらないだろ。領主であり当主のお前と使用人騎士の俺っていう関係が、ただの友達になるだけだ」

「友達……」

「なんだよ…不満か?」


少し照れたように口を尖らせるオリバーに、僕はそれがとてつもなく素敵で楽しい事に思えて、むしろ平民になりたいとまで思えた。

オリバーが言うように頑張れるだけ頑張って、それでもダメなら責任を果たしてから愛し合う人と新しい道を歩めばいい。

大変な事も沢山あるだろうけれど、そこに友達のオリバーが居てくれるなら心強い。


「不満なんてあるわけないよ」


その日、僕は今まで以上に頑張ると決めた。

いつか出会う奥さんを大切に守りながら、一緒に領地を盛りたてる。

子供が出来なかったら、奥さんやジェイマンに相談してどうするべきか考えればいい。


「オリバーが友達ならなんでも出来そうだ」

「平民の楽しみかたなら任せておけ」


待ち受ける未来が一気に輝き










そして、その未来は閉ざされた。






******

〔バルティス 十四歳〕






ジェイマンに手伝ってもらいながら叔父さんに渡された課題を片付けていると、来客を告げる報せが入った。

十四歳になった僕にはもう分かる。

先触れもなく訪れる事はとても無礼に当たり、先触れをする意味や理由をジェイマンに教わった。

だけどこうして来ると言うことは、まだまだ甘く見られ舐められているってこと。


「誰が来たの?」

「ヤミール伯爵とそのご令嬢でございます」


その名前に、僕は思わず眉を寄せてしまった。

ジェイマンを見れば、さすがに表情を変えてはいないものの、纏う気配が変わっている。

身分が上でも先触れなしを理由に追い返す手段はいくらでもあり、いつもジェイマンがそうしてくれてきた。


「恐らく、例の件でしょう」


十日ほど前、ヤミール伯爵家から縁談の申し込みが届けられた。

令嬢は僕と同い年らしく、今まで婚約者を決めずにいたのはひとえに父親の溺愛かららしい。

なかなか娘を手放す覚悟が出来ずにいた…と同封されていた手紙に書かれていたけれど、それが真の意味なのかどうかは微妙なところだ。

流れてくる噂では、第二王子に懸想し婚約者の座を狙っていたからだと言われている。

けれどその第二王子は先月になって婚約者が決まり、いざ他の嫁ぎ先を探そうにも目ぼしい家の跡継ぎ達は既に婚約者がいる状況。

そんな中で白羽の矢が立ったのが僕。

長い療養と慌ただしい爵位継承で未だ相手はおらず、子爵と言えどそれなりの収入もある。

そして、縁談を申し込んできた。


「お断りしたのに」

「そう簡単には引かないでしょう。ですが先触れもない訪問ですので、今日のところは私からお引き取り願うようお伝えしてきます」

「うん、よろしく」


頼もしいジェイマンが部屋から出ていくのを見送り、誰もいなくなった空間に溜め息を吐いた。

未だあまり丈夫ではない身でありながらも多忙を極め、それ故に疲れが溜まって床に伏せているのでとても応じられる状況にない…という設定が頻繁に使われている。

しかし実際はもうすっかり良くなっているので、体力作りに日々勤しんでいる僕だ。

漸く背も伸びてきて、薄い筋肉がついてきた。

時には騎士に混ざり鍛練もつけてもらっていて、その時に使うのはオリバーに貰った模擬刀。

当初は使うつもりなどなかったけれど、僕に使われることを望んでいたならとジェイマンに背中を押され、使うことに決めた。

完全に使えなくなるまで使ったら、そのあとは宝物として保管すればいい。

そして、ジェイマンが戻るまで時間がかかるかもしれないからと、課題に取りかかり直した。



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