神に愛されし夕焼け姫

Ringo

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突撃、商人の娘

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「……なんだったのかしら?」

「……さぁ?」


侍女とふたり、走り去っていく女性を見送り呆然としてしまったマリアンヌ。


『大きな顔が出来るのは今だけなんだから!もうすぐパーシル様はアタシと一緒になるのよ!!お父様ともそう約束してたんだから!』


街での買い物を終えて馬車に乗り込もうとしたところで、マリアンヌを睨み付けそう言い放ち踵を返して走り去っていった少女。暫し呆けたふたりだが、首を傾げてから馬車に乗り込んだ。


「新たなお花畑が生まれたのかしら?」


結婚してもパーシルの隣を狙う女性は相変わらずで、定期的にこういった物言いをされる。隠し事をしないマリアンヌはその都度パーシルに報告するのだが、話終わるとニッコリ笑って『もう絡まれないから安心して』とだけ返してくる。その言葉通り、同じ女性に絡まれることはない。

ふぅ、と小さな嘆息を漏らしたマリアンヌの向かいに据わる侍女は、明日のマリアンヌを労る軽食と紅茶を思い浮かべ選んでいた。

街へ出掛けると誰かしらに絡まれてしまうマリアンヌに『外に出るから』だと言い聞かせるかの如く、その日の夜はパーシルとの営みが激しい。

翌日のマリアンヌは、一日をベッドに沈んだまま終わることになるほど。くたくたになったマリアンヌを労り、滋養に富んだ軽食が用意される流れとなっていた。





******





「だから街へひとりで行ってはダメなんだよ」

「ぁっ……でも…っ…」

「買い物がしたいなら呼べばいい。どうしても街へ行きたいなら俺と一緒の時だけだ」


散々攻め立てられ、先ほどまでの激しさから一転した緩慢な突きにマリアンヌの甘い声が溢れる。初夜を迎えてから二月、パーシルの腕の中で踊らない日はない。


「マリー、もう外に出ちゃダメだよ」

「……ん、、ぁ…でも……」

「ん?」

「あぁぁぁぁっ……!」


緩く動かされていた腰を思い切り突き立てられ、反論しようとしたマリアンヌは最後の糸がプツリと切れてしまった。こうなればあとはもうパーシルの独壇場、気が済むまで喘がされてしまう。


「っ…マリー…凄くいいよ……」


強烈な締め付けに思わず吐精しかけたのを耐え、ゆっくりと突きながらマリアンヌの秘所に出入りする自身を見つめうっとりと呟くパーシル。一度も抜かずに数回の吐精をしたせいで、マリアンヌの薄い腹は少しだけぽっこりしていた。


「そろそろ根付いたかな…」


この二月、飽きることなく抱き続けている成果か月の障りが遅れていることには気付いている。それが意味することはひとつしかなく、期待を込めて精で膨れる腹を撫でた。

自分に抱かれ、精を放たれ…その結果妊娠。

パーシルは口角をあげて笑みを浮かべながら、正常な思考を放棄し喘ぐだけなったマリアンヌの中を味わうように穿つ。


「はぁ……マリー…気持ちいいよ……」


街で絡んだと言うのは新規で契約をした商人の娘であろう、とパーシルは思い当たっていた。新しい販路を開く為の打ち合わせや契約の場にいた娘から、常に秋波を送られていたからでる。

自慢なのであろう豊満な胸をこれでもかと見せつけ、隙あらば触れてこようとしてきていたことを思い出して嫌悪感が甦ってしまった。


「…父親に警告するか」

眉を顰めぼそりと漏らされた声に喘ぐマリアンヌは気付かず、その様子にパーシルは気を良くして腰の動きを巧みに操る。

父親に商才がある点は評価しているが、あわよくばと娘の希望を後押ししてパーシルの愛人へと推しているのはいただけない。

いざとなれば父親の持つ権限を全て飲み込んでやればいい。どちらにしても領地には利益しかないのだから、マリアンヌとの甘い生活を脅かす不届き者など排除するだけ。

父親の対応次第での手順を頭の中で纏め、自分の下で息も絶え絶えに喘ぐマリアンヌを見下ろし、細い腰を掴んでさらに奥へと突き刺した。

深く抽挿すれば、解れきった入り口が新しい精を求め吸い付いてきてパーシルを悦ばせる。


「んぁっ、ゃ……」

「マリー、もうひとりで出掛けちゃダメだよ?危ないんだから…分かった?」

「ぁっ…ゃ…っ…わか、…っ」


正常な思考を手放しているマリアンヌは、この甘く強い刺激から解放されるならと返事をした。


「いい子だね」

「───あぁぁっ、やっ、シル……っ!」


途端に激しくなった抽挿に、それまで緩く波立っていた快感が大波となってマリアンヌへと襲いかかる。うまく息も出来ないほどに翻弄され、腰を持ち上げ揺さぶられながら涙を溢した。

淫靡な音をたて、結合部からは互いの精や蜜が混じり合ったものを溢れさせ、パーシルは奥へ奥へと突き進むかのように腰を打ち付ける。

ただでさえマリアンヌという存在に溺れきっていて、その愛しい存在が自分の行為で涙を溢すほどに感じていることへ愉悦を感じてしまう。

何度出しても萎えることはなく、意識を飛ばしたマリアンヌさえも幾度となく貪ってきた。隙間から漏れ出すほどに注ぐせいで、余韻も味わった上で抜けばごぽりと溢れる白濁の液。その光景を思い出して、パーシルの腰は激しさを増していく。


「マリー…ッ、マリアンヌッ…」


マリアンヌの体を二つに折り畳むようにして覆い被さり、叩きつけるようにして奥へと入り込ませんばかりに腰を打ち付ける。

もう根付いているであろうそこに、まるで栄養分を注ごうとしているかの如く。


「あっ、ダメ……っや、きちゃ…ぅっ…あぁっ!」

「───マリーッ!」


マリアンヌが達したことによる締め付けを受けて一層強く腰を打ち付け、ぶるっと体を震わせた直後に大量の精を解き放った。


「ふっ…ん……ぁぁ…マリー……」


人より長い吐精を満喫するかのように緩く突いたり腰を回したりして注ぎ込み、パーシルが充分にその余韻を楽しみ終える頃にはマリアンヌの意識は手放されていた。


「…マリー、愛してるよ」


快感の渦に飲み込まれて気を失ったマリアンヌを繋がったまま抱き上げ、身を清める為に機嫌良く浴室へと向かう。それと入れ替わるように、寝台を整えるために入室し始めたメイド達。

パーシルの放ったもので惨状とも言える寝台の状態を見たメイド達は、強すぎる執着に戦きながらも絶大な愛情を受けるマリアンヌを羨ましく思ってもいた。

けれどその愛情がマリアンヌ以外に向けられる事などあり得ないとも分かっているメイド達。愚かな希望など抱くことなく、淡々と仕事をこなして主が戻る前に寝室をあとにした。





******





「え?」


父親から隣国に住む親戚の元に嫁ぐよう言われた商人の娘は言葉を失った。


「い、いやよ!どうしてアタシが!?アタシはパーシル様と結婚するのよ!?」

「……あり得ん」

「あり得なくないわ!お父様との契約がなければパーシル様だって困るじゃない!」

「困らんよ…むしろお前が色をかけたせいで窮地に立たされたのは私の方だ」


娘が思いを寄せていることは分かっていたし、貴族の跡取りであるパーシルなら愛人のひとりやふたりを作るであろうと考え、娘が愛人となれば自分との商売も安泰だと思っていた父親。己の考えがいかに浅はかだったのかを先刻の打ち合わせで思い知った。


「お前、奥様に失礼な事を申し上げたそうだな」

「そ…それは!なによ、告げ口!?そんなんだからパーシル様に捨てられるのよ」

「捨てる?何を言ってるんだ?そもそもお前のように礼儀もマナーもなっていない平民の娘が貴族と結婚できるなどあり得ん」

「でもっ!」


理解しようともしない娘に、それなりに財を成したからと金を積んで貴族が多く通う王立学園に入れた事を後悔した。貴族との距離が縮まったことで、勘違いをしているのだろう…と。


「いいか?お前が親しくしていると言う学園の子息達も卒業すればそれまでた。仮にその後も付き合いを望まれたとしても、それはお前が財を成した商家の娘であるだけのこと。勘違いするな」

「なによ!私は人気者なのよ!?」

「……簡単に体を許すような平民だからだろ」

「───っ!」

「知らないとでも思ったか?たとえどんな手法でも、我が商会の売り上げになるならと思っていたが…お前のしていることは娼婦と変わらん」


値が張るものは与えてくれない父親に反抗して、裕福な子息達と肉体関係を持っては商会が取り扱う高級品を強請っていた娘。まさかその内情まで知られているとは思っていなかった。


「ブロンス侯爵家との繋がりがなくなれば、それはすなわちモロゾフ公爵家との繋がりをも失うことになる。そうなれば我が家はおしまいだ」


それだけならいい。パーシルから提示された娘の暴挙を纏めた証拠を突き付けれ、対応次第では築き上げた財産も信用をも失ってしまう。


「お前を二度と視界に入れるなと仰せだ。取り返しのつかないことになる前に嫁に行け」

「いやよ…だってアイツは……」


父親が提示してきた嫁ぎ先は、二回りも年が上の遠戚だった。人より体の成長が早かった娘に対して、幼い頃より卑猥な手付きで撫で回されてきた記憶が甦る。

裕福な男爵であり、既に孫もいる身でありながら何人もの愛人を侍らせている…そんな男に嫁ぐなと許容できないと娘は声をあげた。


「ブロンス侯爵子息様がお持ち下さった話だ、お前に拒否権はない。後妻として嫁げ」

「そんなっ!」


夢を見た。妻に向ける微笑みを、妻を抱く逞しい体を…自分にも与えてほしいと。父親との商談がいかに得難いものなのかを話していたから、それを盾にすれば簡単に奪えると思った。


「…たかる相手を間違えたな。ブロンス侯爵子息様は、奥様の害となる者を見逃さない」


それでも万が一娘に興味を持てば…そう思ってしまった父親も、ここで対応を間違えれば同じく害と見なされてしまう。他の家族や従業員を守るためにも必要な決断だった。


『娘さんを大切にしてくれる親戚がいるようですね、そちらに嫁がせては?』


いつの間に調べたのかと考えるも、商談が始まった辺りから警戒していたのだろうと思い至り、自分の浅慮さに嘆息を漏らす。


「パーシル様は───」

「名を呼ぶことも許されてはおらん!」

「──っ、でも…」

「これは決定事項だ。明日にはここを発て」


父親から投げ付けられた言葉に絶句し、数日後には変態とも言えるジジイに好き勝手される生活が始まる…そう脳裏に過った娘は、徐に立ち上がり飛び出すようにして部屋を出ていった。


「まったく…」


父親は気付かない。娘が家を飛び出し何処へ向かい走るのか。無理矢理にでも閉じ込めておけばよかったと、数刻後に後悔することになろうとは。










「……申し訳ありませんっ!」










小石だらけの地面に額を擦り付け、商人である父親は震えながら詫びを続けていた。

ブロンス侯爵家、モロゾフ公爵家との繋がりを持ちたがる商人は多く、なかなか契約に至る者はいないとされていたなか掴み取った事に受かれていたことは自覚している。

それでも実力を言葉にして認めてくれていたからこそ、多少の事は目を瞑ってもらえると驕った。


「二度と視界に入れるなと言ったはずだよね?」

「も、、申し訳ありませんっ!」

「お父様っ───!」


後ろ手に縛られ拘束されている娘に、父親は怒りをこめて睨み付ける。

言い訳など出来ない。家族や従業員達の今後を憂い、ただひたすらに額を地面に擦り付けた。

不貞腐れて出ていっただけだと思っていた娘が捕縛されたと知らせを受け、事情を聞いて崩れ落ちそうになる足を叱咤して向かった先にいたのは縄で縛られている娘。その姿を見ることもなく怒りを露にしていたのは、決して逆らうことなど許されないブロンス侯爵家子息パーシル。


───終わった


そう思って直ぐ様土下座をした父親に、パーシルは娘の所業を教えてくれた。


「今日はさ、可愛いマリーの頼みで行きつけの菓子店に買い物に出ていたんだ。そこに現れたこの阿婆擦れ、マリーに何をしたと思う?」

「……っ、な、何をしたのでしょう…」


父親は恐怖で顔をあげられない。明るく話しているにも関わらず、パーシルからは継続して押し潰されるような怒りと威圧を感じるからだ。


『勘違い女!あんたなんて貴族の娘なだけじゃない!あんたなんてパーシル様に捨てられればいいのよ!』


そう言って石を投げつけてきたんだよ…その言葉に父親は気を失いそうになるのを必死で堪えた。平民が貴族に暴言を吐くだけでも許されない事なのに、あまつさえ危害を加えようと石を投げつけた…その事に戦慄しながら。

娘の喚きなど耳には入らない。この場で切り捨てられていないだけ温情とも言える。


「──申し訳ございません!」


謝る以外に術のない父親に対しても娘は罵詈雑言を浴びせてくるが、いっそ自分の手で絞め殺したくなる思いに駆られた。

多少見てくれがいいからと甘やかしてきたツケが回ってきたことも分かりながら。


「シル」


殺伐とした空気に、凛とした声が響いた。


「マリー、降りてきちゃダメだよ」

「でも…」


恐る恐る顔をあげれば、一度だけ紹介されて顔を合わせたことのあるパーシルの最愛マリアンヌが馬車から降りてきたところだった。

困った子だね…と言いながら腰を抱き寄せ、戸惑いを見せるマリアンヌの頬に口付けている。


「やめなさいよ!淫乱!」


嫉妬して叫んだ娘の元に目に見えぬ速さで近付いた父親は思い切り殴り付けた。これ以上、事態を悪化させたくはない、その思いで。


「淫乱はお前だ!」


父親の拳をまともに食らった娘は気を失い、その状況を見ていたマリアンヌは「まぁ…!」と口を手で覆っていた。


「重ね重ね申し訳ございません!」


再び土下座をする父親に、マリアンヌは顎に指を当てて考えるような仕草を見せパーシルに何事か囁いた。


「……本当にいいの?」


それを受けたパーシルは眉を顰めながらも、可愛いマリアンヌの頼みならと嘆息して父親に向かい合う。


「顔をあげろ」


その言葉に顔をあげると、不機嫌そうなパーシルとは対照的に優しく微笑んでいるマリアンヌを見て戸惑った。


「マリーが───」







その後、マリアンヌの慈悲で首の皮が繋がった父親は、それまで以上にブロンス侯爵家並びにモロゾフ公爵家へと忠誠を誓ったのである。







『私のお気に入りの花を、奥様がご自宅で育てていらっしゃるんですって。いつでも愛でられるようにと仰って』


遠い異国から仕入れた種を大切に扱い、マリアンヌに定期的に届けていた商人の妻。その心遣いに応えたいと言うマリアンヌの気持ちに、パーシルは渋々ながら商人を許した。

自宅に戻った商人は妻に涙ながらに感謝を述べ、娘は鉱山送りになった事を告げたが妻は動揺のひとつも見せなかった。

やりかねない…そう思っていたから。

そして、その晩もマリアンヌがパーシルに激しく翻弄されることになったのは言うまでもない。






「マリーのお願い聞いたんだから、今度は俺のお願い聞いてくれるよね?」









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