神に愛されし夕焼け姫

Ringo

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婚約式の戯れ

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公爵となったモロゾフ家。華美を厭う夫妻の意向で普段は落ち着いた雰囲気となるよう整えられている屋敷が、この日はその財力を見せつけるかのように華やかに飾り付けられた。


「マリアンヌ、準備は出来たかい?」

「えぇ、お父様」


胸元から下にかけて濃くなっていく青のグラデーションのドレスに、眩いばかりのゴールドで作られた宝飾品を身に付けているマリアンヌを見てその独占欲に呆れながらも微笑みを浮かべた。


───自分も同じだったな


「婚約を許したとは言え外泊はダメだぞ?」

「分かっていますわ」


渋い顔をしている父親に異論のひとつも唱えないのは、婚約から結婚までを最短にしたいという我が儘を既に飲んでもらっているから。


「……やっぱり二年くらいにしないか?」


懇願の笑みを浮かべる父親に、有無を言わせない完璧な淑女の笑みをもって応えるマリアンヌ。


「お父様」

「……分かってるよ。でも、何もこんなに早く嫁がせる必要なんてないんじゃないかって。まだまだ親に甘えてもいいんじゃないかって……」


ぶつぶつと小声で愚痴をこぼすダイアンに、マリアンヌはそっと抱き着いた。


「嫁いでもお父様の事はずっと大好きですわ」


ダイアンの目に薄く膜が張るが、まだ暫くは家にいるのだからと自分に言い聞かせて愛する娘を優しく抱き締めた。


「嫌だと思う事があればすぐに言いなさい」

「はい」


出来れば何かしてくれ、すぐに潰す!とダイアンは思っているが、そう思っている事をマリアンヌはお見通しである。


「さぁ、行こう。みんな待ってる」


小さい頃は手を繋ぎ歩いていたのを、腕を組むようになったのはいつ頃だっただろうか…そんな事を思いながら、腕を絡めたマリアンヌに微笑んで招待客の待つホールへと向かった。





******





マリアンヌの大好きな花がふんだんに飾られた屋敷内の大ホールには、私的に付き合いのある者達が集まっていた。

その奥、少し段があるその上に立つのは今日の主役のひとりであるパーシル。


「緊張しているか?」


隣に立つ父ナイル・ブロンスの言葉に首を振って笑みを浮かべた。


「嬉しくて叫びたいほどです」

「ははっ、やればいいさ」

「やめてください、解消されたくない」


一度経験したマリアンヌとの婚約解消。泣き叫んで背中を見送ったことは忘れられない。

もう二度と繰り返さないと決めて、ようやくここまでこぎ着けた。失態のひとつもおかさないと固く胸に誓っている。


「お前が息子になってよかったよ」


王族を抜けて養子にしてくれと言った幼いパーシルの姿を思い出し、ナイルは感慨に耽った。

幼少期の怪我が原因で、男性としての機能を失っていたナイルは子が成せない。それでも一人っ子で優秀な頭脳と剣術を持つことから侯爵を継ぎ、いずれ親戚筋から養子を貰うつもりでいたのだ。

まさに渡りに船。


「俺も、父上の息子になれてよかった」


もしも養子として受け入れてくれなかった場合、パーシルは貴族院で養子縁組みを頼むつもりだった。身元の確かな子供を養子にと願う者も多く、その申請をすればどこかしらから声はかかるだろうと思っていた。但し、元の身分を公にしなくてはならない。元王子の肩書きを悪用しようとする者も出てきてしまうし、一度結ばれたらそう簡単に覆せなくなる。それが原因でマリアンヌに迷惑をかけるような事は避けたかった。


「来たぞ」


過去に思いを馳せて俯いていたら、いつの間にかマリアンヌが父親のエスコートで入室してきている。あげた目線がぶつかった。


「マリー…」


ゆっくりとこちらに向かう様子はまるで結婚式を彷彿とさせる。これもパーシルの希望だ。


───マリーは俺のものだ


美しく磨きあげられたマリアンヌを、欲のある目で見やる男達の表情に笑みを浮かべる。

ゆっくりと歩を進めるマリアンヌは、真っ直ぐにパーシルしか見ていない。その優越感は、なんとも言えないものだ。


「マリアンヌ」


段を降りて名を呼び手を差し出せば、大好きな微笑みを浮かべて「パーシル」と返し手を乗せた。

ドレスの裾を気遣いふたりで段をあがり、両側に各当主が並び挨拶をし宴の開始を述べる。


「本日、我が娘マリアンヌ・モロゾフとブロンス侯爵が息子パーシルの婚約をここに宣言する。結婚式は三ヶ月後、ここにいる皆が参列してくれることを願う」


これからも善きお付き合いを…参加できるように間違いを起こすな…そんな意味を含めたダイアンの口上で多くのグラスが高くあげられた。




パーシル・ブロンス 19歳
マリアンヌ・モロゾフ 15歳

涙の婚約解消から11年、パーシルの執念が実る形で正式に婚約が結ばれた。





******





婚約お披露目パーティーの参加者に挨拶をしながら、ふたりはその仲の良さを見せつけた。

あまりにも美しいふたりに、あからさまな媚を売る者もいれば愛人の座を狙おうとする者もいる。


「マリー」


ドレスの裾を気にして少し屈みそうになったマリアンヌを制して、パーシルが直した。屈めばよりはっきりと胸の谷間が見えたのに、と悔しそうにする男への牽制で腰を強く抱き寄せる。そうすればマリアンヌは嫌がるどころか嬉しそうに寄り添うのだから、付け入る隙が見当たらない。


「シル」


愛人の座を狙う令嬢が『名を呼ぶな』とブリザードを起こさせれば、牽制するようにマリアンヌは愛称で呼び頬に手をあてる。そうすれば途端に優しい微笑みをマリアンヌだけに向け、嬉しそうに腰を抱き寄せる。浅慮な令嬢など入り込めるはずがない。


“見て、また散らしたわ”
“よく入り込めると思うわよね”
“邪魔するより眺めていたいわぁ”


無駄なことはしない者達は、ふたりの美しさを肴にお酒を飲んでいる。


「マリー…酔った?大丈夫??」

「ん…だいじょぶ……」


この日初めてお酒を口にしたマリアンヌは、思ったよりも早く酔いが回ってしまった。主だった者への挨拶は終わったし少し休憩でもしようと両家に声をかけ、その為に設けてある客間にふたりで足を向けた。

マリアンヌは些かくたりとしており、腰を抱かれているだけでは心もとない…と言い訳をしたパーシルは、そっと横抱きにした。

初お姫様だっこである。


「軽いなぁ」


膝の上に乗せるようになってから思っていたが、その軽さに改めて驚いた。女性はこんなものなのか?と思うも他を試す気もないので、いずれ娘が出来たら試させてもらおうと考えた。


「ふふっ…シルの匂いがする」


首に腕を回し、首筋をくんくんと嗅がれてパーシルはたまらない。マリアンヌの髪からいい香りがして違う意味で酔いが回りそうになる。


「こら、襲うぞ」

「襲ってくれるの?」


ぱっと顔を輝かせたマリアンヌに苦笑して、あと三ヶ月…あと三ヶ月…と念仏のように心の中で唱える。ここまで待ったのに間違いは起こせない。


「初夜でね」


そう言うとマリアンヌは不貞腐れて頬をぷくっと膨らませ、額に口付け目当ての部屋を目指した。





******

(ふたり遊び劇場)













「ほら、飲んで」

「いや」


休憩用の客間でマリアンヌは反抗期を迎えた。酔いを冷ますための水もいや、パーシルから離れるのもいやと言って膝の上に乗ったまま首を振る。


「マリー…」


そんな姿を『可愛いなぁ』と眺めつつ、落ち着かせるために背中…からお尻までを擦った。まだ婚約者のふたりなので、扉は薄く開いている。いつその扉が全開になるか分からない状態でもあり、うっかりここ最近の遊びも出来ない。


「……シル」


期待を込めた目を向けられ、パーシルはぐっと胸の高鳴りを抑え込んだ。


「シル…パーシル……」


首に腕を回してすり寄るマリアンヌに、様々な言い訳を頭に浮かべて自分達の座る位置を改めて確認する。ソファーは扉からは少し距離のある位置にあり背が高く、意図せず扉に背を向ける形で座っている。


───ちょっとだけなら……


ここ最近、隙を見つけてはスキンシップを図ってきたふたり。お酒も入り、その感情はぐんぐんと上昇していく。


「…マリー」


首筋から顔をあげたマリアンヌの額に口付けて、そっとドレスを捲りあげていく。

くっきりとした谷間が見え、細い腰にピンと上向きなお尻のラインがくっきりと分かるドレス姿を見て、欲情と共に激しい嫉妬が沸いた。


───マリーの体は俺だけのもの


男達の視線がマリアンヌの体を隙あらば隅々まで見つめていたことから、パーシルはずっと嫉妬に掻き立てられている。


「マリー…」

「……っ…」


太ももまで捲り、優しく撫で擦ればマリアンヌの口から甘い息が吐かれ、思わず唇を塞ぎたい衝動に駆られてしまう。それを発散するかのように、いつもと同じく唇以外に口付けていく。

服や布越しだから…そんな言い訳をして、むしろ口付けのほうが清いのではないかと突っ込まれる触れ合い。


「……シル…っ」

「静かに…ダメだよ、声出しちゃ」


触れそうで触れない距離まで唇を近付け、見つめ合いながらお互いの呼吸と共に唾を飲み込む。ドレスの中、そこにある薄い一枚の布越しに足を触り、その位置を少しずつあげていく。

体に沿うように作られたデザインは、極上の柔らかい生地で作られていてするすると不埒な手の侵入を簡単に許してしまう。加えてマリアンヌが自ら足を少し広げるので余計に。


「…マリー」


甘く小声で耳元に囁けば、開いたばかりの足を閉じようとしてパーシルの手が挟まれた。無意識に太ももを擦り合わせようとする様子にパーシルの口角ははっきりと上がり、マリアンヌが落ち着いてまた開くのをじっと待つ。

その間、マリアンヌを抱き寄せている手を胸元へと回してドレスの上から胸を優しく揉むのもいつもの流れ。布越しとは言え、一度その生の感触を知ったパーシルの脳内では直接触れているような感覚に脳内変換されている。


「っ……」

「…いい子」


甘い息を漏らしながらも太ももの力が抜け、また手の侵入が容易となった。肌に直接ドレスが触れないようにと着ている薄い布越しでも、そこからはマリアンヌの体温がはっきりと伝わる。丁寧に優しく撫で擦りながら進み、やがて辿り着いたのは初夜を迎えればその目に晒される場所。

他の場所より熱を持つそこを、焦らすように触れるか触れないかを繰り返せばマリアンヌが堪らず身を捩って押し付けようとした。


「こら…ダメだよ、大人しくしてて」

「……ゃ…」


小声で制して唇のすぐ横に口付ければ、もうマリアンヌが蕩けている顔をしていると分かる。薄く開かれた唇を今すぐ割って舌を絡めたい…そう思う情欲を理性を総動員して抑え、それでもマリアンヌから吐き出される息さえも独占したいと唇は近付けたまま。

少し高めの体温を発している場所に指先を這わせればマリアンヌはビクリと体を震わせ、その続きを急かすようにパーシルの頬に両手を添える。


「可愛い」


額をつけて蕩けきった目と見つめ合い、這わせている指先を割れ目に沿って優しく擦ればマリアンヌが声を我慢して口をきゅっと結んだ。その様子も可愛らしいと思いながらも、漏れる甘い息が断たれたことが物足りなくなる。

結婚すれば思う存分啼かせて声が聞けるのに…と思う反面、こうして隠れて睦み合うのも今だけ、と思えばそれはそれで興が乗ってしまいパーシルの息子も反応を示した。既に痛いほど張っているのに、これ以上は一度か二度抜かないとホールに戻れなくなる。

一応は主役のふたり、大人だけの時間となるまでは顔を出さなくてはならない。


「マリー…大好きだよ…」


鼻に唇を寄せ、優しく食めばまた甘い息を漏らした。顎をくいっとあげるのは、息が苦しいだけではなく唇への口付けを求めているせいで…けれどパーシルは頑なにそれを躱す。恨めしげな目をされても、微笑みを浮かべて応えない。その代わりに…と言い訳でもするように、這わせていた指を巧みに動かしマリアンヌの火照りをあげていく。

お腹の奥を疼かされ、けれどそこに望むものが来ることはなく…マリアンヌは触れる指の動きに神経を集中させ感覚を研ぎ澄ます。

ドレスのラインを崩さない為に下着は着けていない。薄い布越しに敏感な秘豆を擦られる度に体が小さく痙攣し、パーシルの攻めがそこに集中する頃には思考が停止してしまう。


「…っ、ぁ…はぁ…ん……」


与えられる快感に集中し夢中になるあまり漏らしてしまう声。けれども極力小さな声で漏らす喘ぎを、パーシルは止めない。小さな痙攣を繰り返し喘ぐマリアンヌを見つめ、気を抜けば暴発しそうな自分を抑えながら少し強めに押し付けた指の動きを早めてマリアンヌを高めていく。


「はっ…ぁ……シル……っ」


眦に涙をためてもう限界が近いことを訴え、上半身を捻ってパーシルに抱き着き自らも僅かに腰を動かし始めた。

パーシルのシャツに顔を埋めれば多少の声は吸収してくれる。甘く熱い息をシャツに与えながら、より強く早くなった指に合わせて自然と腰を動かしながら───


「あぁっ……っ……」


マリアンヌが達すると、それまで刺激を与えるように擦っていたそこをパーシルは優しく包むように撫でる。まるで頭を撫でるかのようで、マリアンヌは上手に達することが出来た事を褒められているような気持ちになってしまう。


「マリー…愛してる」


甘い痺れに身を震わせている時に耳元でそう言われると、マリアンヌはまた小さく達した。これもふたりで触れ合う時のお決まり。

荒い息をゆっくりと整え、乱れたドレスをパーシルに直してもらって額に口付けを受けるとマリアンヌの鼓動が早くなった。

これからお化粧を直してホールへと戻る。

そしらぬ振りをして戻ることに恥ずかしさも感じるが、パーシルへ秋波を送る女性達を思えば自ずと笑みがこぼれてしまう。


「マリー?」


パーシルが愛し合いたいと望むのは自分で、それを強く訴えている場所に手を伸ばした。


「っ……マリー…ダメだって…もう…戻ら……」


そう言いながらも押し付けてくるパーシルが愛しくて、いつもされるようにパーシルの顔にキスを降らしていく。


「シルは私のものよ」


散々撫で擦られマリアンヌの独占欲に体を震わせたパーシルは、『どうせお色直しだから』と躊躇せず溜まりに溜まっていた精を吐き出した。


「はっ…ぁ……っ…マリー……」


自分がするように、達しても優しく撫で続けられる行為にすぐ固さを取り戻す。妄想だけでも数回の吐精が必要なのに、マリアンヌの手によるとなれば無限に出せる気がしてくるパーシル。

決して早漏ではない…ないのだが、時間が限られている事もあって耐えることなく次の吐精に向けてマリアンヌの手に押し付け腰を振った。


「マリー…も…ぅ……行かないと…っ…」


凄まじい量が出たと自覚もしているし、洗い流さなければならない。だから早くしなければ…とマリアンヌを抱き締め匂いを深く吸い込み、布越しのマリアンヌの手に思い切り放出した。


「凄い…いっぱい出てる……」


うっとりと擦るマリアンヌの手を離させ、今度はパーシルが荒い息を整える。


「も…ダメだって言ったのに……」

「気持ちよかった?」

「物凄く気持ちよかった」


互いの額に口付けてから使用人を呼び、マリアンヌの化粧直しの間にパーシルは下半身だけを軽く流してから着替えた。

パーシルの衣装を回収したのはブロンス侯爵家の使用人。さすがに婚姻前と言うことでモロゾフ家の使用人には見せるわけにいかない。

もろもろバレてはいるが。


「シル、お待たせ」


青いドレスから金糸の刺繍がふんだんに施されたクリーム色のドレス姿を見て、パーシルの独占欲が満たされていく。


「よく似合ってる」


ドレスと宝飾品はパーシルからの贈り物。金糸のドレスに合わせたのは上質なブルーサファイアのイヤリングとネックレス。

パーシルはマリアンヌの夕焼け色で作った騎士の正装用マントを羽織り、ブルーダイヤのピアスをしている。


「私もピアスしたいわ」

「初夜が終わったら開けてあげるよ」

「? どうして初夜のあとなの?」

「マリーを初めて貫くのは俺でありたいから」


その意味を正しく理解して頬を染めたマリアンヌの腰を抱き、使用人達から生温かく見送られてまだまだ盛り上がっているホールへと足を向けた。







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