記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

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第28章 勇者が誘う、最後の舞台

第422話 最盛を望む者

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「我がマスター、ラルフル様。ご機嫌いかがでしょうか?」

 ミリアさんと一緒に王宮の裏手に行くと、ニナーナさんがお仕事をしていました。
 大量に干された洗濯物に、何やら両手から出した風を当てています。

 乾燥させてるのでしょうか?

「どうも、ニナーナさん。……すみませんが、『マスター』や『ラルフル様』という呼び方は、やめてもらえないでしょうか?」

 前から気になってたのですが、ニナーナさんは自分に対して、かしこまった呼び方ばかりします。
 製作者のフロストさんが言うには、『人間のような思考はできない』とのことですが、この呼び方はムズムズします。

 ニナーナさんはお母さんをモデルに作られた人――
 そんな人から目上の人に対する呼ばれ方をすると、正直いい気はしません。

「かしこまりました。では、何とお呼びすればよいでしょうか?」
「単純に『ラルフル』でお願いします。自分にかしこまった態度もいりません」
「かしこまりました、ラルフル」

 呼び方は変えてくれましたが、かしこまった態度は変えられないのですね……。



「ニナーナさん……。この人って確か、ラルフルのお母さん――ルナーナさんに似せて作られた、ゴーレムみたいなものなのよね?」

 ミリアさんも事情は飲んでくれています。
 ニナーナさんを不思議そうに見ていますが、ニナーナさんの方もミリアさんをジッと見つめています。

「……ラ、ラルフルのお母さんと同じ姿の人に見られてると思うと、緊張するわね……。なんでこんなに見つめられてるのかしら……?」
「あっ。きっとミリアさんがどういう人かを、確認中ですね」

 ニナーナさんがこうやって相手を見ているときは、"データベース"というものから情報を得ているときです。
 フロストさんから色々聞きましたが、自分の知り合いは大体ニナーナさんにも理解できるようです。

 ただ、その情報はフロストさんの偏見が混じっているようで――

「――データベースとの照合ができました。スタアラ魔法聖堂の聖女、ミリア様。データベースからは、『アホバクトの娘』と強調されたデータが存在します」
「あっ……。これって、完全にフロストさんの感想よね……」

 ――やっぱりそうなりましたか。
 ミリアさんもどこか呆れ顔です。

 フロストさん……。
 本当にバクトさんのこと、嫌ってますね……。

「ニナーナさん。フロストさんがバクトさんのことを嫌っている理由って、分かりますか?」

 前々から気にはなってましたが、自分はバクトさんの娘であるミリアさんと付き合ってます。
 これって、フロストさんとバクトさんの両名にとって、あまり愉快な話ではないのでは――

「『仲が悪い理由』に関するデータは存在しません。ですが、『アホバクトへの恨み節』というデータが存在します」
「何ですかそれは……。とりあえず、聞かせてもらえませんか?」
「かしこまりました、ラルフル」

 今後のことを考えると、フロストさんとバクトさんの不仲の理由は知っておいた方がいいです。
 ちょっと怖い気もしますが、ニナーナさんに聞いてみましょう――





「『俺のコーヒーに砂糖を入れまくったこと、絶対に許さない』、『ブチギレアホ公爵が。もっと小魚食え』、『鉄とアルミは別物だって、何度も言ってるだろ』、『少しは遠慮しろ。モンスタークレーマー』――」
「あっ、すいません。もういいです」

 ニナーナさんが知っている、フロストさんのバクトさんに対する不満――
 その数々をニナーナさんは口にしていきますが、これは何でしょうか?



 喧嘩のレベル……低すぎません?



「他にもデータベース内には、九十五件の恨み節が存在します。本当によろしいですか?」
「まだ九十五件もあるのですか……。はい、大丈夫です。多分、どれも同じレベルの話ですから……」

 これ以上聞いても、ただ頭が痛くなるだけな気がします。
 フロストさんにバクトさん――
 この二人って、実はそんなに仲が悪いわけではないのでは……?

「え、えーっと、ラルフル……。なんだか、アタシのお父さんが……その……ゴメン」
「いえ、気にしないでください。これ以上は自分達が関わるだけ、無駄な話な気がします」

 ミリアさんはなんとなく申し訳ない気持ちになったのか、頭を下げてきました。
 あの二人の関係に関しては、完全にあの二人の問題ですね。

 ただ、それでも自分とミリアさんの関係に口を挟まないところを見ると、認めてくれているということでいいのでしょうか?
 多分、大丈夫でしょうけど……結構、面倒な人達ですね。





「ありゃ? ラルフルにミリア様やないか? こないなとこで、何しとるんや?」

 何とも言えない空気にさらされていた自分の耳に、聞きなれたウォウサカ弁が入ってきました。
 シシバさんです。いつも左目に着けている眼帯をいじりながら、自分達へと話しかけてきました。

「シシバさんの方こそ、どうしてここにいらっしゃるのですか?」
「ああ、俺か? ちーっと"テスト"をしとったんや。そこのデカブツなら、丁度ええ感じにやってくれると思うてな」

 "テスト"って……何のテストでしょうか?
 よく見るとシシバさんの周りには、砕けた岩が大量に散らばっています。

 そして、シシバさんが『デカブツ』と呼んだのは――

「フオオオ……」

 ――フレイムさんです。
 どうやらシシバさんの言う、"テスト"とやらに付き合っていたようです。
 『どうしてぼくがこんなことを……』と、漏らしています。

「一体フレイムさんと一緒に、何をしていたのですか?」
「あいつに俺目がけて岩石放り投げさせて、それを砕いとった」

 ……何故そんなことをしていたのでしょうか?
 意味が分かりません。

「やってることの意味も分かりませんが、岩石を砕くシシバさんの力も意味が分かりませんね……」
「距離感さえつかめりゃ、<鬼勁きけい>でタイミング合わせて、これぐらいの岩なら砕けるわ」

 <鬼勁>って、確かシシバさんの技でしたよね。
 <寸勁>という技を、シシバさんなりに魔力を加えてアレンジした技と聞いてます。
 魔力がいらない<寸勁>なら、自分にもできそうです。
 今度試してみましょう。





 ――あれ? ちょっと待ってください。
 今、シシバさんがおかしなことを言ったような――

「あの……シシバさん。『距離感がつかめれば』って言いましたか? シシバさんは目が悪くて――」
「キシシシ! ああ、せやな。これまでの俺やったら、失った左目のせいで、距離感なんてつかめへんかった。せやけど――」

 自分の疑問に答えるように、シシバさんはゆっくりと左目の眼帯を外しました。
 そこにあったのは――

「――こうやって、"代わりの左目"さえあれば、俺は"最盛期"の力を取り戻すことができる」
「機械の左目……!? それって一体……!?」
「バクトはんとフロストはんに協力して作ってもらったんや。俺の魔力を使うことで、左目と視神経を一時的に回復させる、"医学"と"科学"が融合した――この俺を【最盛の凶獅子】として蘇らせる、とっておきや!」

 【隻眼の凶鬼】ではなく、【最盛の凶獅子】――
 今のシシバさんは、隻眼になる前の実力に戻ったということですか。
 シシバさんの最大の弱点――"距離感がつかめない"。
 それがなくなった以上、一体この人の実力は今、どうなっているのでしょうか……?

「まあ、代わりに<凶眼>は使えんようになってもうたがな。そんぐらいのデメリットなら、十分に釣りが出てくるわ」
「なぜそこまでして、新しい左目を……?」
「決まっとるやろが~。ゼロラはんに挑むためや。【伝説の魔王】と呼ばれた男との喧嘩……。こないに昂る話、他にあらへんやろ!?」

 ――左目を戻した理由も、実にシシバさんらしいですね。
 この人って、とにかく"強い相手と戦いたい"という欲望が強いです。
 ギャングレオ盗賊団の役目も終わりつつある今、今度は自信の欲求を満たすということですか――





「ほんで、ゼロラはんとの勝負が終わったら、今度はラルフルにも挑ましてもらおうかいの~」
「え!? じ、自分にですか!?」

 そんなシシバさんから、自分に対しても宣戦布告がなされました。
 確かに自分は一度、この人に"一応"で勝ってはいますが――

「シシバさん。ゼロラさんと戦った後に自分と戦っても、拍子抜けしますよ?」
「そうか? 俺はそうは思わへんで。ぶっちゃけた話、今のラルフルの実力はゼロラはんと同レベルやと思うで」

 ――自分に対するシシバさんの評価は、予想以上に高いです。
 これまでゼロラさんの背中を追うしかできませんでしたが、いつの間にか並び立てるところまで来てたのですか。



 ――お世辞かもしれませんが、嬉しい話です。



「俺がゼロラはんに勝てたら、ラルフルにもチャンスはあるな。とりあえず、機会を見て挑戦状でも叩きつけようかいの~。キーシシシ!!」

 新しい左目のテストを終えて、シシバさんはご満悦のまま、この場を去っていきました。

 『ゼロラさんに挑む』――ですか……。

「ミリアさん……。自分はゼロラさんに、勝てると思いますか?」
「分からない……。分からないけど、今のラルフルは"勝敗を言いきれない"ぐらいまで強くなってる。その実力は、アタシも保証するわ」

 不安げに尋ねた自分の言葉に、ミリアさんは優しく答えてくれました。



 自分もずっと、いつか挑みたいとは思っていました。
 先程眠っていた時の感覚が、何故だか体に蘇ってきます。

 ――詳しいことは分かりません。
 ですが今の自分なら、確かにゼロラさんにも挑めそうです――
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