空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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将軍艦隊編・序

ep290 どうして、アタシはこんな立場に立たされてるのさ……?

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「タ、タケゾー……ショーちゃん……。ただいま……」
「あれ? 今日はやけに早い帰りだな? いつもなら、日が暮れるまでパトロールしてるのに?」
「ボクもお仕事終わって、今から向かおうとしてた。なのに、隼さん帰ってきた。……何かあったの?」

 SNSで見た投稿がショックで、アタシも早々に我が家へと戻ってきた。
 こういう時、いつもなら二人に『慰めてぇぇえ!』なんて言って駆け寄るんだけど、そんな気力さえも湧いてこない。

 ――嘘八百で罵倒を浴びせられるのも嫌だけど、身内の悪事の方がよっぽど突き刺さる。
 鷹広のおっちゃんのことなんて、アタシももう忘れたいのにさ。

「隼……泣いてるのか? 本当に何があったんだ?」
「うん……ごめん……。今はそっとしておいて……」
「…………」

 あまりに心苦しくて、アタシはリビングにあったソファーの上でタオルケットの中にうずくまってしまう。
 これまで空色の魔女として苦難を乗り越えたことはあったけど、こういう経験は初めてだ。
 周囲から後ろ指差され、ありもしないことを広められ、知られたくないことも知られる。

 デザイアガルダ――鷹広のおっちゃんの存在はアタシにとっての黒歴史だ。
 あの人との関係を知られてしまったことが何よりも辛い。事実だけに言い返すこともできない。

 ――もう、アタシでもどうしたらいいのか分からない。

「……隼さん、今は気持ちを落ち着けるべき。テレビを見て、気持ちを切り替えるといい」
「……そうだな。ショーちゃんの言う通りだ。悪いんだが、テレビをつけてくれ」

 ショーちゃんとタケゾーもアタシを気遣ってくれるけど、こればっかりはアタシの問題だ。
 普段から生活周りで迷惑かけてるのに、こんな話に付き合ってもらうのも忍びない。
 アタシも気持ちを切り替えたかったし、今はみんなで一緒にテレビを見て――



【速報です。以前に宝石強盗や加重逃走で逮捕されていた怪鳥デザイアガルダですが、つい先程収容されていた刑務所内から脱獄したと連絡が入りました】
「え……!? デ、デザイアガルダが……!?」



 ――そう思ってテレビに目を向けると、映し出されたニュースの内容で余計に不安が走ってしまう。
 アタシとデザイアガルダの血縁関係まで知られたところに、その当人が脱獄したというニュース。
 とてもただの偶然とは思えない。まるで、アタシを追い詰めるように事象が連鎖している。

「ど、どういうことだよ!? デザイアガルダって、隼の叔父さんだろ!? それがなんで脱獄して――」
【また、一報によりますと『デザイアガルダは空色の魔女との血縁関係がある』とネット上でも情報が出回っており、その関係性も焦点とされ――】
「隼さんと悪い鳥さんのこと、どうしてここまで知られてるの!? おかしい! 何かおかしい!」

 タケゾーとショーちゃんもニュースの内容を見て驚愕して狼狽えている。
 ただ、その内容自体はアタシもSNSで見た通りだ。こうやって公共の電波にあがってしまった以上、もう完全に誤魔化しきることなどできない。

 ――デザイアガルダが脱獄したよりも、世間からくる冷たい視線が怖くなってくる。

「タケゾー、ショーちゃん……! ア、アタシ……どうしたら……!?」

 本当はいち早くデザイアガルダの再討伐に向かうべきなんだけど、とてもそんな気持ちを起こす気になれない。
 どんな強大なヴィランを敵に回すよりも辛い。戦って傷つくことよりも苦しい。

 ――『知られてしまった』という事実が、アタシの胸を締め付けてくる。

「……隼が苦しんでたのは、これが理由か」
「隼さん、かわいそう。でも、どうしてこんな話になってるの?」

 ニュースを聞いて、二人もアタシが落ち込んでる理由を察してくれたようだ。
 だけど、こんなことになっている理由が分からない。話の流れだけを聞くと、本当にアタシを追い詰める策略にしか見えない。
 固厳首相といった政府の謀略? フロスト博士率いる将軍艦隊ジェネラルフリートの陰謀?
 いずれにしても、アタシは知らないところから攻撃を受けている。

「ア、アタシ……どうしたらいいか分かんないよ……!」

 見えない敵と心に来るダメージ。そのせいで気が付くとアタシはタオルケットにくるまりながら泣いていた。
 これまでアタシが街のヒーローとしてやって来れたのだって、陰ながら世間が応援してくれたからに過ぎない。
 空色の魔女なんて一皮むけば、ただ人様より特殊なだけの若い女に過ぎない。
 こうして世間に敵意を向けられると、一気に心の芯がへし折れてしまう。



 ――誰のために空色の魔女をすればいいのかさえ分からない。



「SNS上でも酷い批判の嵐だな……。隼の叔父さんの件は別として、以前のヴィラン騒動の元凶だなんて身も蓋もないぞ……!?」
「武蔵さん。これからどうなっちゃうの? ボク達、ヒーローを辞めなきゃいけないの?」
「……いや。そんなことには俺がさせない。ショーちゃんはここで隼の傍にいてやってくれ。俺は少しやることができた」
「武蔵さん……?」

 ソファーの上で横になって動けないアタシの傍で、タケゾーとショーちゃんが何やら話しているのが聞こえる。
 耳には入ってくるんだけど、脳でうまく処理できない。これって、うつ症状みたいな感じか。
 初めてなったけど、これは確かに辛い。今のアタシに物事を考える力なんてない。

「……隼。少しの間だけ、ショーちゃんと一緒にここで待っててくれ。俺が必ずこの事態の真相を暴いてみせる」
「ふえ……? タ、タケゾー……?」
「約束する。相手が誰でどんな目的でこんな行動に出ていようとも、俺が元通りにしてやる。だから、安心して待っていてくれ」

 それでも分かることは、タケゾーがアタシのために動こうとしてくれているということ。
 幼い頃はイジメられていたタケゾーをアタシが助ける立場だったのに、そんな立場も今は昔か。

「……本当に信じていいの? タケゾーに頼っていいの?」
「ああ、頼ってくれ。隼が悩み苦しむ姿を、俺が見たがるわけないだろう?」

 タケゾーのことを心配したくなるけど、今はアタシの方が明らかに苦しい状況か。
 普段のように戦って解決できないことでも、タケゾーなら何とかしてくれる。これまでだって、ずっとアタシの傍で守ってくれたんだ。
 心配な気持ちはあっても、甘えたい気持ちの方が勝る。

「……お願い。アタシを……助けて……!」
「ああ、分かった。その言葉だけで十分だ。後は俺に任せておけ」

 今のアタシは何の役にも立たないし、このまま心が折れたままでもいられない。だから、今この時ばかりは厚かましくも頼らせてもらおう。
 アタシの返事を聞くと、タケゾーはどこか凛々しい顔をしながらリビングを離れていく。
 これからどう動くのかは分からない。それでも、信じることはできる。



 ――世間でヒーローと呼ばれる空色の魔女にとって、タケゾーの存在はアタシだけのヒーローだ。
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