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オレオレオ

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4.これは夢

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「ごちそうさまでした」
ご飯を最後の1粒まで丁寧に食べ、箸を置いた。
和食と言っていた夕食は唐揚げ定食だった。唐揚げ定食が和食なのか、なんともグレーな気がするが、腹におさまって満腹になってしまえばそんな些細なことは気にならなかった。
宿屋の女の人は黙々と食器をお盆に乗せ、部屋を後にする。食べている間、直立不動のだった女の人はなんとも不気味で、なるべく視界に入れないようにして食べた。

女の人が扉を閉めたところで、改めて部屋を見渡す。
扉と正対する位置の壁には窓があり、ベッドもそちらの壁に四つ角にくっつくように置いてあり窓から朝日がちょうど頭の位置に差し込みそうである。
ベッドの横、窓がある壁と別の壁の方に洋服ダンスがあり、その横に壺が2つある。
トイレ、ユニットバスも併設されていること以外はTHE・RPGの宿部屋といった様相だ。
そしてRPGなら当然やらなくてはいけないことがある。そう、家探しだ。
とは言っても、借り物とはいえ自分の部屋なわけだからそんな罪の意識を持つ必要はなく、サラリと洋服ダンスの戸棚を開けた。
中には丸まった羊皮紙が1つ、ポツンと置いてあった。広げてみると、それは地図のようであった。
真ん中に大きな城があり、四方の隅に町を示すように家がいくつか書かれていた。そして左上の町には高い塔が、右上の町には切り立った山が、左下の町には湖が、右下の町には、サーカス?のようなテントが一緒に描かれていた。
今いるのは真ん中の城だろう、と予想する。それぞれの町は少し魅力的だが、魔王を倒す直接的な手がかりではなさそうだった。
地図を丸めてベッドに置く。もう少し物語が進みそうなものが欲しい。
続いて壺にとりかかる。覗いたらモンスターがいた…、なんてのはお決まりなので少し躊躇したが、意を決して覗く。
1つ目は空だった。2つ目には葉っぱが2枚入っていた。見たことある葉っぱだ。
無表情で、無言で腰の袋をまさぐる。取り出したるは同じ見た目の葉っぱ。
葉っぱが7枚になった!
ナレーションがつくならそんな感じか。現段階では薬草と思われる葉っぱが7枚に増えた。
悲しいかな用途は不明だ。
はぁ…
ため息1つついて、ベッドに倒れこむ。
もしかしたら物語がトントン拍子に進むのでは、と期待していたが予想が甘かった。
テンションがジェットコースターのように上下に揺れて、余計な疲れを感じた。
寝てしまおう。まぶたが重くなり、夢の世界へ落ちていく。

これは夢。
綺麗な、かわいいお姫様は切り立った山に囚われている。彼女を救うエンディングは存在しない。彼女は山でひっそりと息を引き取る。彼女は助からない。魔王を倒すのがグッドエンディングで、彼女を助けに行くルートはミスリード、バッドエンディングへの第一歩。
これは夢。

窓から射し込む朝日が眩しくて目を覚ます。
夢の内容なんて覚えていない。
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