最初から始める

オレオレオ

文字の大きさ
上 下
7 / 12

6.薬草的で薬草的な

しおりを挟む
宿屋の部屋で地図を睨む仕事を生業にすることにした。
なぜなら、地図はとてもシンプルな見た目をしているのに、その実、中身には多くの情報が詰まっているからだ。
単純性と複雑性を含む地図という1枚の紙には睨んで多くの情報を得る価値がある。



…という嘘をつきたい程、地図を見ていた。
全くもって進まない情報収集に焦りと怒りと諸々の感情が体中にまとわりつき、地図という、もはや唯一の情報にすがるしかない状態だった。

その地図にしたって、大した情報はないわけで。
それでも、とりあえず新しい場所に行くことで新しい展開を迎えることができるのではないか、という霞のような希望を頼りに地図を広げた。

城を中心に左上の町には高い塔が、右上の町には切り立った山が、左下の町には湖が、右下の町には、サーカス?のようなテントが一緒に描かれている。

地図上では真ん中の城から距離は平等なように見える。
しかし、右上の町に行く道中には、険しい山道が描かれているし、左下の町には途中、道を分断する川が描かれていて、橋がある形跡はない。右下の町に行く道中には多くの木が描かれていて、どうやら森を抜ける必要がありそうだ。

 左上の、高い塔の町へ行く道は地図上では平坦なように見え、他の道に比べれば安易に行けそうな雰囲気が出ている。

高い塔の町へ行くか…

安全面を考えれば、高い塔の町がベストな選択である。しかし決断に至らない。
要因としてテントの町に行きたい欲があった。
他の町に比べて、描かれている家の数が多い気がするし、色がカラフルで賑やかそうな雰囲気が出ていて、情報収集しやすいんじゃないか、という算段があった。

高い塔かテントか。
この迷いが長時間、地図を見る原因だった。



長考の末、選んだのは高い塔だった。
地図の縮尺がわからない以上、町までどのくらいの距離かわからない。それなら安全な道を通る方がいい。というのが理由だった。

目的地が決まり、地図をクルクル巻きながらもう一つ課題に考えを巡らす。。縮尺がわからない問題に寄与するが、向かう道中で空腹なり寝不足なりが発生する問題だ。
寝不足に関しては、最悪無防備にその場で寝ればいいが、空腹はどうしようもない。

パッと思いついた策としては、宿屋の女の人に弁当的なのを頼むことだ。あとで夕食を持ってきた時に聞いてみればいい。

もう一つの策として、薬草的なやつを試すことだ。
結局、なんなのかわからない得体の知れないものだが、試す価値はある、と考えた。


思いついたが吉日と、早速腰の小袋から薬草チックなものを取り出す。
もともと持っていた5枚と壺に入っていた2枚。

まず1枚、親指と人差し指でつまみ取る。鼻までもっていって匂いを嗅ぐ。…無臭だ。
少し舐めてみる、味もしない。
意を決する。目を閉じて、口に放り込んだ。
噛んでもかんでも味が広がるということはなく、無味が続いた。
飲む。目を閉じたまま、細かい体の変化も逃さないようにする。
…何も起きない。
目を開ける、念のため皮膚に変化がないか、体中を隈なくチェックするが、異常は見つからない。

ホッとしたような、残念なような。結局、ただの葉っぱだったということだろうか。

コンコン
頭をひねっていると、宿屋の女が食事を持って部屋に入ってくる。
この前と同じ唐揚げ定食。
床に直に置いて、扉の前で足を揃えて両手を体の前で重ねて丁寧に、しかし無機質に待つ姿に声をかける。
「すいません」
女は反応しない。
「すいません、お弁当って作ってもらえますか」
顔色を伺うも、無反応が板について離れない。
肯定も否定もされてないことを不可能である、と断定するのはおかしな話な気がするが、女の、少なくとも女を司っている何かは不可能であることを告げてくる。無言で。

諦めて、食事と向かい合う。この前と同じ唐揚げにキャベツとトマトが添えられて、白米と味噌汁が付いている。オーソドックスな唐揚げ定食だ。

さぁ食べようと箸を持ったところで、ようやく自分の変化に気づく。
食欲がない。
食欲がない、では語弊があるか、なんというかお腹に心地よい充足感があって何も口に入れたくないのだ。腹持ちが足りる、とでも言うべきか。

体の変化といえば、原因はアレしかない。
あの薬草チックな、薬草的な、薬草もどきの、効果。


もう一度、薬草を取り出して、しげしげと眺める。重量的にも、このペラペラな1枚が充足感を与えたとは思えない、しかし原因はこれしか考えられない。

小袋に丁寧に薬草みたいなのを戻す。
これは手を合わせて拝むべきか?とかおちゃらけて考える。


夕食はいつのまにかなくなっており、女もいなくなっていた。食料問題が解決し、気を緩めてベッドに体を落とす。

明日、出発しよう
頭でぼんやり考える。




これは夢。
少年がテレビゲームをしている。
すでにゲームをクリアした後のようで、スタッフロールがずらずらとテレビ画面に映し出される。
少年はコントローラーを置いて、充実感に身を任せるも、ちょっとした疑問に首をひねりゲームのパッケージを見る。
クリアしたけど不完全燃焼。
少年はまた最初からはじめる。



窓から射し込む朝日が眩しくて目を覚ます。
もちろん夢の内容なんて覚えていない。
しおりを挟む

処理中です...