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9. 勇者
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ユーリは隣の部屋で泊まることになった。
どうやって泊めてもらえるようになったか教えたら、特に問題なく部屋をもらえたようだ。
ちなみに、勇者様の御一行様ならお代はいりません。と言われたらしい。
すでにパーティとして組まれているようだ。
ユーリはその報告と、明日また返事を聞きたい、という言葉を残し、部屋に戻っていった。
先ほどまで言葉で溢れていた部屋に静けさが戻る。
耳鳴りがするくらいの静かさの変化はユーリの存在感をそのまま表しているようだった。
ベッドに寝そべり、天井を見る。
城の周りをウロウロし、家を訪ねては情報がなくカラブリに終わっていた頃なら、ゴールへの道筋ができた現状に喜んでいただろう。
子どもと同じだ。無知は危険を飛び越えられる。
安全な道を知ってしまうからこそ大人は成長できないのだ。
目を閉じれば、スライムが真っ二つになった情景が目の裏に浮かぶ。恐怖もまだ鮮明に思い出せる。
生けるものの命を消しているのだから殺人と変わらない。それを自分の手で、直接やってしまったことが恐ろしい。
そして、それを続けて慣れてしまうことも恐ろしい。
そんな恐怖には勝てない。
明日、やっぱり申し出は断ろう。
気持ちは変わることなく、目を閉じる。
これは夢。
しかし、明確な夢。声が脳に染み付く夢。
魔王を倒さなくてはいけない。
お前とユーリは帰ってこなくてはならない。
帰ってこなくてはならない。
魔王を倒せ、そして帰ってこい。
起きると激しい頭痛に襲われた。
頭に物理的に刷り込まれたように、魔王を倒して帰ってこい、の声がこだまする。
その声は知っている声だった。知っている誰かの声。
恐怖が蔓延していた頭に無理矢理魔王を倒さなくてはならない、という使命が入り込み、感情で行動をコントロールできなくなる。
怖いけど魔王を倒さなくては。
足は無意識に、機械的に動き、手がユーリの部屋のドアをノックする。誰かに操られているような感覚だ。はい、と返事がきて扉を開ける。
ユーリはベッドに腰掛けて、じっとこちらを見ている。ちょうど昨日とは逆の構図だ。
「塔に行こう」
短く要件を伝える。声まで機械的になった気がする。
「へ?あ、え?」
ユーリの顔がわかりやすく混乱する。つんのめりながら立ち上がって、近くに来る。
ユーリが顔を覗く。無機質で表情の無い顔から何かを読み取ろうとする。
「なぜですか?」
ユーリは曖昧な質問をする。
「なぜって?」
反射的に返す。質問の意図がわからないから聞くまでだ。察することはない。
「え…、えっと、なんで…、なんで行こうと思ったんですか?」
ユーリは焦りながら、手をパタパタと動かしながら質問を整理する。そんなユーリをかわいいなぁ、と思いながら、返答する。
「当然、進まないと意味がないからだ。魔王を倒さなくてはいけない。」
スラスラと声が出る。考える必要がないのは楽だ。
「それはそうですけど…」
ユーリが言葉を詰まらせる。静寂が生まれる。
しょうがないから、静寂を切り裂く。
「そうだろう?さぁ出発しよう」
後ろを向いてドアから出ようとする。もはやユーリが来ようが来まいが、行かなきゃいけないことに変わりはないのだから。
「あ、あのちょっと待って下さい。」
ユーリがTシャツの袖をつかむ。
「もう恐怖はないのですか?」
なぜか恐怖を目に携えたユーリが聞いてくる。なぜ、引き止めようとするのだろう?と思いながら答える。
「怖いけど、行かなきゃ」
簡単な答えだ。
ユーリの顔は恐怖やら焦燥やらでめちゃくちゃになっていた。
簡単なロジックなはずなのにユーリに通じていないことが不思議だった。
塔に向かって歩く、円筒状に伸びている塔は雲を突き抜けておりその全長は計り知れない。均等な大きさ、形の石がきっちりと隙間なく積み重ねられて作られている。
結局ついてきたユーリは後ろを歩いている。
昨日の様に快活に話すことなく、トボトボと静かについてくる。
塔に近づくにつれ、雲は厚くなり太陽を隠し世界を暗くする。雷の音が小さく鳴り響き、時に塔を照らす。
勇者は進む、魔女を携えて。
どうやって泊めてもらえるようになったか教えたら、特に問題なく部屋をもらえたようだ。
ちなみに、勇者様の御一行様ならお代はいりません。と言われたらしい。
すでにパーティとして組まれているようだ。
ユーリはその報告と、明日また返事を聞きたい、という言葉を残し、部屋に戻っていった。
先ほどまで言葉で溢れていた部屋に静けさが戻る。
耳鳴りがするくらいの静かさの変化はユーリの存在感をそのまま表しているようだった。
ベッドに寝そべり、天井を見る。
城の周りをウロウロし、家を訪ねては情報がなくカラブリに終わっていた頃なら、ゴールへの道筋ができた現状に喜んでいただろう。
子どもと同じだ。無知は危険を飛び越えられる。
安全な道を知ってしまうからこそ大人は成長できないのだ。
目を閉じれば、スライムが真っ二つになった情景が目の裏に浮かぶ。恐怖もまだ鮮明に思い出せる。
生けるものの命を消しているのだから殺人と変わらない。それを自分の手で、直接やってしまったことが恐ろしい。
そして、それを続けて慣れてしまうことも恐ろしい。
そんな恐怖には勝てない。
明日、やっぱり申し出は断ろう。
気持ちは変わることなく、目を閉じる。
これは夢。
しかし、明確な夢。声が脳に染み付く夢。
魔王を倒さなくてはいけない。
お前とユーリは帰ってこなくてはならない。
帰ってこなくてはならない。
魔王を倒せ、そして帰ってこい。
起きると激しい頭痛に襲われた。
頭に物理的に刷り込まれたように、魔王を倒して帰ってこい、の声がこだまする。
その声は知っている声だった。知っている誰かの声。
恐怖が蔓延していた頭に無理矢理魔王を倒さなくてはならない、という使命が入り込み、感情で行動をコントロールできなくなる。
怖いけど魔王を倒さなくては。
足は無意識に、機械的に動き、手がユーリの部屋のドアをノックする。誰かに操られているような感覚だ。はい、と返事がきて扉を開ける。
ユーリはベッドに腰掛けて、じっとこちらを見ている。ちょうど昨日とは逆の構図だ。
「塔に行こう」
短く要件を伝える。声まで機械的になった気がする。
「へ?あ、え?」
ユーリの顔がわかりやすく混乱する。つんのめりながら立ち上がって、近くに来る。
ユーリが顔を覗く。無機質で表情の無い顔から何かを読み取ろうとする。
「なぜですか?」
ユーリは曖昧な質問をする。
「なぜって?」
反射的に返す。質問の意図がわからないから聞くまでだ。察することはない。
「え…、えっと、なんで…、なんで行こうと思ったんですか?」
ユーリは焦りながら、手をパタパタと動かしながら質問を整理する。そんなユーリをかわいいなぁ、と思いながら、返答する。
「当然、進まないと意味がないからだ。魔王を倒さなくてはいけない。」
スラスラと声が出る。考える必要がないのは楽だ。
「それはそうですけど…」
ユーリが言葉を詰まらせる。静寂が生まれる。
しょうがないから、静寂を切り裂く。
「そうだろう?さぁ出発しよう」
後ろを向いてドアから出ようとする。もはやユーリが来ようが来まいが、行かなきゃいけないことに変わりはないのだから。
「あ、あのちょっと待って下さい。」
ユーリがTシャツの袖をつかむ。
「もう恐怖はないのですか?」
なぜか恐怖を目に携えたユーリが聞いてくる。なぜ、引き止めようとするのだろう?と思いながら答える。
「怖いけど、行かなきゃ」
簡単な答えだ。
ユーリの顔は恐怖やら焦燥やらでめちゃくちゃになっていた。
簡単なロジックなはずなのにユーリに通じていないことが不思議だった。
塔に向かって歩く、円筒状に伸びている塔は雲を突き抜けておりその全長は計り知れない。均等な大きさ、形の石がきっちりと隙間なく積み重ねられて作られている。
結局ついてきたユーリは後ろを歩いている。
昨日の様に快活に話すことなく、トボトボと静かについてくる。
塔に近づくにつれ、雲は厚くなり太陽を隠し世界を暗くする。雷の音が小さく鳴り響き、時に塔を照らす。
勇者は進む、魔女を携えて。
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