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1st play
(2)
しおりを挟む半額のシールが貼られたプラスチック容器の蓋を足元のゴミ箱に入れる。だいぶ時間が経ったであろうハンバーグは固くなっており、箸の通りも悪かった。
「航大くんの今日のご飯は何?」
「ハンバーグ弁当。半額だけど」
「わ~いいなあ~!」
「そう? ミザリは何食べたの?」
「ミザリは朝から何も食べてなくてもうお腹ペコペコだよ~」
もう夜だぞ?
そう思いながら冷え切ったハンバーグを咀嚼していると、ポコンという音と共にメニュー画面が表示された。
「アイテムショップ?」
クリックしてみると、そこにはミザリにあげるであろう食べものが何品か表示されていた。ミネラルウォーター150円、お茶250円、おにぎり350円……
「幕の内弁当850円…… いやめっちゃ割高!」
足元のゴミ箱から見える半額シールに350円の表記。自分の飯は半額弁当でゲームの中の女には850円の弁当……? あまりにも馬鹿馬鹿し過ぎる。
「ねーねー航大くん。ミザリお腹空いたなあ」
甘えるような上目遣いでこちらをじっと見つめるミザリ。可愛い……が、今からプリペイドカードを買いにコンビニに行き、課金するのは非常に面倒臭い。そもそも頼まれてプレイしているゲームになぜ実費で課金をしなくてはならないのか。
「ごめん、今手持ちがなくて……」
なんとなく申し訳なく感じ、謝るとミザリはしゅんと肩を落とした。
「そっかあ」
すると、また画面上でピッと音が鳴る。右下に表示されているメーターの目盛りが一つ減ったのだ。おそらくこれは自分とミザリの親愛メーターだろう。
親愛メーターは半分からのスタートだったようで、先ほど一メモリ減り、満タンゲージより少し遠ざかってしまった。これでは早期クリアの道もさらに遠ざかってしまう。
「あ、明日なんか買ってあげるから」
落ち込むミザリを見て、思わず口が勝手に開く。
「ほんと!? 明日も会いにきてくれるの!?」
目をキラキラと輝かせるミザリ。
「でも明日はバイトがあるから多分夜の十一時くらいになると思う」
「うん! ミザリ待ってる! ずっと待ってるから!」
ミザリの子犬ような仕草に、航大は思わず小さな笑みをこぼす。
ふとパソコンに表示された時計を見ると、時刻は零時前を指していた。そろそろ風呂に入って明日の準備をしなくては。
「じゃあまた明日」
「えっ、もうバイバイするの……?」
ミザリはそう言うと、寂しそうな顔で航大を見上げた。不安そうな顔に少し違和感を感じたが、航大はなるべくミザリの機嫌を損ねないように優しく言った。
「明日も来るよ」
するとミザリは安心したように小さく息を吐き出した。
「分かった。明日も頑張ってね」
「うん。ありがとう。おやすみ」
「おやすみなさい、航大くん」
航大は右上に表示された『close』ボタンを押す。画面の暗転と同時に、ミザリの姿は消えた。
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