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2nd play
(4)
しおりを挟むあれから一週間が経った。
相変わらず学業、バイト、ゲームのルーティンで変わらぬ日々を過ごしているが、ミザリとの距離は徐々に縮まっていった。
「航大くんおっかえりー!」
「ただいま」
昨晩は奮発してお茶と幕の内弁当を買ってやったからか、今日は一段と元気そうだった。親愛メーターももうすぐ一定の数値に到達しそうだ。
今日も半額の弁当を食べながら、ミザリと他愛のない話をくり広げる。
「航大くんは好きなテレビ番組とかある?」
「俺ん家テレビ無いんだよね」
「えぇ~!? 信じらんない!」
「パソコンとスマホがあるからいいんだよ」
「まあ電気代の節約にはなるよね。でもニュースくらいはちゃんと見なくちゃダメだぞ~?」
「はいはい」
「もー! また適当な返事ばっかしてー!」
毎日こんなくだらないやり取りばかりしているが、いつの間にかこの時間が航大の癒やしになりつつあった。
気付けば時刻は零時前を示していた。
最近は時間を忘れるくらい話しこんでしまう。
「明日も朝早いし、そろそろ寝ようかな」
「うん。分かった。今日もありがとう」
別れの時、ミザリはいつも寂しそうに笑う。それが例え組み込まれたプログラムだとしてもやはり胸が痛む。
「明日も来るよ」
「うん」
「だからそんな顔しないで」
「……うん」
「おやすみ。ミザリ」
「おやすみなさい」
「じゃあね」
PCの電源に手を伸ばす。
「待って!」
すると、珍しくミザリが声を上げた。
こんなことは初めてだった。航大は驚きながらミザリの顔を覗き込む。
「ミザリ?」
「あの……えっと」
「どうした?」
ミザリは航大の目を真っ直ぐに見つめて言った。
「いつも私に会いに来てくれてありがとう」
ミザリは本当に感謝しているようだった。改めて言われると照れるものがあるが悪い気分はしない。それに、今では自分の意思でミザリに会いに来ているようなものだ。
「俺が好きでミザリに会いに来てるんだよ」
それは自然と口から出た言葉だった。
数日前の自分なら思っていても絶対に口に出せない、そんな言葉がすんなりと喉を通り抜けた。ミザリは一瞬驚いたような顔をした後、ぽっと頬を赤らめた。
「……ありがと、航大くん」
ミザリの反応で我に返った航大は、それじゃあと早口で告げると急いでPCの電源を消した。
「はぁ~、何言ってんだ俺は……」
赤い顔でこちらを見つめるミザリを思い出し、心臓が一気にバクバクと大きな音を立てる。初めての感情に頭を抱えた航大はそのままデスクに突っ伏した。
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